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スポットライト 世紀のスクープ

スポットライト 世紀のスクープ(2015 アメリカ)

スポットライト 世紀のスクープ原題   SPOTLIGHT
監督   トム・マッカーシー
脚本   ジョシュ・シンガー トム・マッカーシー
撮影   マサノブ・タカヤナギ
編集   トム・マカードル
音楽   ハワード・ショア
出演   マーク・ラファロ マイケル・キートン レイチェル・マクアダムス
      リーヴ・シュレイバー ジョン・スラッテリー ブライアン・ダーシー・ジェームズ
      ビリー・クラダップ スタンリー・トゥッチ ジェイミー・シェリダン
      モーリーン・キーラー ポール・ギルフォイル レン・キャリオー
      ニール・ハフ マイケル・シリル・クレイトン ローリー・ハイネマン ティム・プロゴシュ

第88回(2015年)アカデミー賞作品、脚本賞受賞。監督、助演男優(マーク・ラファロ)、助演女優(レイチェル・マクアダムス)、編集賞ノミネート。第82回(2015年) NY批評家協会賞男優賞(マイケル・キートン)

神様に"いたずら"され、pray(祈り)がprey(餌食)になってしまった。
2002年1月、アメリカの地方新聞「ボストン・グローブ」紙に掲載された記事は全米を騒然とさせた。ボストン地区の神父数十人が長年にわたって児童虐待を続けており、カトリック教会はその実態を把握しながらも組織ぐるみで隠ぺいを続けていたという内容だ。この報道をきっかけに世界中のカトリック教会で同様のことが起きていることが発覚。次々と訴訟が起こり、2010年3月28日、ロンドンで教皇ベネディクト16世の退位を要求する抗議デモが行われるまでとなった。ボストン・グローブ紙の報道は2003年にピューリッツァー賞(公益報道部門)を受賞している。そのボストン・グローブ紙の調査担当班「スポットライト」チームの根気強い取材の様子を描いた映画が『スポットライト 世紀のスクープ』。作品は高い評価を受け、第88回アカデミー賞で作品賞に輝いた。

映画で使われていない曲が後半流れているのが気になる...。


物語
2001年,夏。アメリカの地方紙「ボストン・グローブ」紙に新任の編集局長マーティ・バロン(リーヴ・シュレイバー)が着任する。彼はゲーガン事件(ボストン司教区の神父ジョン・ゲーガンが,30年間で80人の児童に性的虐待を繰り返していた)を目にして、"半年でたった2本のコラムですませる内容ではない"と憤慨。マイアミからやってきたユダヤ人のバロンは、地元のしがらみなど全く気に変えず、グローブ紙の特集記事欄"スポットライト"で取り上げるべく、追跡調査をするように命じる。教会を相手とする調査に疑問を感じつつ、デスクのウォルター“ロビー”ロビンソン(マイケル・キートン)を筆頭にマイク・レゼンデス(マーク・ラファロ)、サーシャ・ファイファー(レイチェル・マクアダムス)、ベン・ブラッドリー・ジュニア(ジョン・スラッテリー)らは独自の調査をすすめる。被害者はもちろん、虐待者の弁護士ギャラベディアン(スタンリー・トゥッチ)、元神父の心理療法士サイプ(リチャード・ジェンキンス クレジットなし、声のみ)、被害者側の弁護士だが教会と内通しているマクリーシュ弁護士(ビリー・クラダップ)、教会側の弁護士サリヴァン(ジェイミー・シェリダン)、聖職者による虐待被害者ネットワーク (SNAP)のフィル・サヴィアーノ(ニール・ハフ)らに接触して取材を重ね、9.11で中断を余技されながらも、教会が長年にわたって組織ぐるみで虐待を隠ぺいしていたことをつきとめていく。

いきなり話それます。
小学校のころ、副担任の若い新人男性教師がいた。
大人しい感じの人で、ほとんど話したことがなかった。
だが、その彼が"事件"をおこした。
酔っぱらって、見ず知らずの人の家の庭にあがりこむ、いわゆる"不法侵入"で逮捕されたのだ。
それが生徒に直接伝えられることはなかったが、地方紙の3面記事にデカデカとのってしまったので
誰でも知っていた。新聞記事によると"不法侵入"以上のことはやっていないようだったが、実際はどうだか...。
その先生は当然のごとく姿が見えなくなり、数カ月後、××先生、転任という小さな告知がなされていた。
この映画の、児童虐待事件を起こした神父は病気休養や休職扱いとなり、しばらくすると転任扱いという描写をみて、ふと昔のことを思い出した。

そういえば、中学か高校かどちらか忘れたけど、同じく新人男性教師が家の近くの賃貸マンションに住んでいて...よく夜、全裸でベランダに佇んでいた。ベランダの真向かいに道路があるので、フリ×ン丸見え...。教師とか神父とか"品行方正"が当然とみなされる職業の人は、ストレスが変な方向に向かうことが往々にあるんですね。そういうことがあったので"神父の児童虐待"なんてニュースを聞いてもあまり驚かない。驚いて大騒ぎするべきなんでしょうけど。

この映画で心理療法士から、全神父の約6%が性的虐待をしているというデータがあると言われ、ボストンの神父人数から計算すると約90人と推定、実際のデータから"病気療養"などの理由で長期休暇をとり、そのあと転勤した神父の数をわりだすと87人!ほぼ統計どおりの結果が出た、という内容に驚き。こういうのってやっぱり一定の割合があるんだな、と。この報道後、世界中のカトリックで同様のことが起こっていることが発覚したことをみても...。

早く映画の話に入れ!って?すいませんね、個人サイトだから時にはこういうことも書いたほうがいいのかな、と。

大人になるとなかなか教会にいかなくなるが、子供、特に田舎町の子供にとっては神父とは神様そのもの。
その神様に"イタズラ"されたら...。
どの児童も万遍なく狙われたわけではなく、"狙われやすい子供"のタイプがあった。
いじめと通ずる構造にぞっとする。
児童は男でも女でもいい。虐待は同性愛的感情がもたらすとは限らない。
子供を育てるものは子供を虐待もする。

児童虐待、レイプ、セクハラ、パワハラ、この手の虐待全般にいえることだが、被害者が声をなかなかあげないため、実態がわかりにくい。よって、ますますエスカレートするという悪循環がはびこる。

こんなことが長年にわたって続き、組織ぐるみでそれを隠ぺい。
外部の人間もそれを感づいていながら、立ち向かう困難を考えると、対応を後回し→結局素通りに近くなる。

ボストン・グローブ紙購読者の52%がカトリック信者。
ビジネス面でもリスクは莫大だ。

カトリック教会を敵にまわすとどうなるか...
宗教に疎い日本人の感覚では想像できないが、
何せ個人ひとりひとりの心の拠り所となっている"神"にはむかうようなもの。

同性愛者の神父を描いた『司祭』(1994)は全米公開の際、公開中止を求めてデモ行進、テレビCFまで流されすさまじい妨害を受けている。
本映画は既に幅広く報道されている内容であるせいか、バチカンが神父を集めて上映会を行うなど理解を示している。

『スポットライト 世紀のスクープ』の優れた点は骨太ジャーナリズムを称えるだけでなく、この問題を小さなベタ記事だけですまして長年素通りしてきたマスコミへも批判が向けられている。マイケル・キートン演じるデスクも赴任当時、それを素通りしていた事実をつげることで物語にただの英雄伝以上の深みをもたらしている。

ビリー・クラダップ演じるイケメン悪徳弁護士マクリーシュは、教会と被害者の"仲介"をして金儲けをしている。
だが、彼だって最初から悪徳だったわけではない。
マクリーシュは、マイケル・キートン演じるウォルターから「2つの物語を用意しているんだ。堕落した聖職者の話と児童虐待で私腹を太らせている弁護士の話。どっちの物語を書いてほしい?」と脅されたとき、「最初、ボストン・グローブに20人の(児童虐待をしている)神父リストを送っただろ。あれはどうしたんだ!」と問い詰める。

また、9.11後、SNAP代表のフィルは女性記者サーシャから「私たちは記事にすることを諦めたわけではない。ただ、少し遅れるだけ」と説明を受け、「(マスコミは)いつもそうじゃないか!」と憤慨して席をたつ。
この手の問題がなかなか明るみに出ないのは被害者側の"マスコミ不信"も原因のひとつであることをにおわせる。

そういえば、この『スポットライト 世紀のスクープ』はアカデミー作品賞を受賞したにもかかわらず、ほとんど空気。地味な作品だからではなく、"ジャーナリズムのあるべき姿と問題点"がきっちり描写された本作にスポットライトがあたるのはメディア的に都合が悪いからだろう。今のマスコミは強きを助け、弱きを挫く。権力や大組織と持ちず持たれずぶら下がり状態だからね。
「激しい言葉」と「鋭い質問」は違う 舛添疑惑の過熱報道に残る違和感

枢機卿が問題を把握していながら黙殺していた証拠をつかんだマイク・レゼンデスは「大スクープだ。すぐ報道しないと他社から出し抜かれる。今、このときにも児童が虐待されているんだぞ」と発表は時期早々と判断するウォルターにくってかかる。ウォルターは「それだとこの1件だけの問題で片づけられてしまう。組織ぐるみで隠ぺいしていたという証拠をつかんだうえで報道しないと再発は防げない」とつっぱねる。
ジャーナリストにとってスクープは何よりも欲しい。他社にスクープを出し抜かれることは絶対に避けたい。
そんな状況下でウォルターのように目先の利益にとらわれず、"事の本質"を見据えた冷静な判断がくだせる人が今どれだけいるのだろうか。
政治家の汚職問題などで往々にみられる、トカゲの尻尾切りをしても意味はない。ただのゴシップとして消費され、状況は何も変わらないからだ。

記事が掲載されたあと、鳴りやまない電話をみて、マイケル・キートン演じるウォルターは口をあんぐりさせて立ちすくむ。自分たちの仕事が被害者たちに声をあげさせた満足感、そして過去、見てみぬふりをしてしまった罪悪感が入り混じっていることを見事に表現した場面。

 事件のその後の顛末はこちら
カトリック教会の性的虐待事件

 モデルとなった実在の人物と演じた俳優の写真をならべたサイト。似ている人と似ていない人がいますね。
それにしてもスタンリー・トゥッチ。あまりの様変わりぶりに彼だと気づかなかった!
SPOTLIGHT (2015)- history vs hollywood.com

real spotlight team! ウォルターさん、なぜか放心状態?


「スポットライト」チームは今どきのハイテク捜査などに目もくれず、昔ながらの調査法で事件を解明していく。足で稼ぎ、新聞記事のスクラップを分析、非効率的にすら見える検証をひたすら繰り返す。『大統領の陰謀』(1976)をほうふつさせるけれど、あっちよりもバタ臭く見える。2001年の話なのに!ボストンとワシントンの土地柄の違い?

映画もボストン・グローブ紙「スポットライト」チームの精神をひきつぐかのように、きわめてオーソドックスなつくり。練り上げられた、無駄のない脚本。実力派俳優による抜群のアンサンブル演技。主要登場人物全員がアカデミー賞に値するクオリティだ。最高の素材を最高の布陣で見事にまとめあげている。『扉をたたく人』のトム・マッカーシー監督作ゆえ、アカデミー賞の有無に関係なく、観に行くことを早くから決めていたが、期待以上の見事な仕上がりでいちゃもんをつける箇所が見つからない(笑)。リアルタイムで観たアカデミー作品賞受賞作でもトップクラスの出来。



『スポットライト 世紀のスクープ』は内容も映画のつくりも誠実さとバランス感覚にあふれ、ジャーナリストを描いた映画として完璧に近い。
こんな映画に"スポットライト"があたるようになれば、世の中も少しはよくなる?
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2016.04.16 Saturday | 01:19 | 映画 | comments(2) | trackbacks(8) |

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2017.07.23 Sunday | 01:19 | - | - | - |

コメント

movoiepadさん、こんにちは。
TBをいただき、ありがとうございました。

貴ブログ、拝読いたしました。カトリック教会での性的虐待について「同性愛的感情がもたらすとは限らない」と喝破しておられる点、まったく同感です。同性愛と性的虐待は全く異なるものですから、そうした点で本作でも、LGBTへの言及があってもよかったのではと思います。

一方において権威の不正を暴きながら、他方で新たな差別を生むようなことがあってはいけませんから。
2016/06/09 9:40 AM by ayame
ayameさん、こんばんわ
コメントありがとうございます。

>同性愛的感情がもたらすとは限らない

この箇所に着目していただいてうれしいです。
映画ではさらっと触れているだけでしたが
神父による児童虐待問題の根源は"神父の何%かに同性愛者、幼児愛者がいる"ということではない。
抑圧された環境がもたらす心の歪みというか...。
ここをあまり突っ込んで書くと、陳腐な言い回しになりそうなのでやめときましたが(^^:

>そうした点で本作でも、LGBTへの言及があってもよかったのではと思います。

この映画の主題は"神父の幼児虐待"を暴き立てることではなく
あくまで"巨大な敵に立ち向かうジャーナリスト"の姿を描くことだと思います。

ゆえにカトリック側の描写もほとんどない。
観客に退屈させないようにと、記者たちの個人的事情(家庭問題、恋愛など)を盛り込んだりもしていない。
よって、退屈と感じる人もいるでしょうが、
テーマをジャーナリストの姿勢に徹頭徹尾絞り、武勇伝だけでなくその問題点をも描き出した。
これが本作の最大の長所であり、アカデミー賞を受賞した理由だと思います。
2016/06/09 8:24 PM by moviepad

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