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「ミュンヘン」〜スピルバーグの苦悩と成熟〜 その2

「ミュンヘン」の話です。やっと本題に入ります。

前章はこちら⇒ 「ミュンヘン」〜スピルバーグの苦悩と成熟〜 その1

今までのスピルバーグ作品に馴染んできた人達にとってはこの作品は、彼らしくない"観客に不親切な作品"に映るだろう。”これが答えだ"と言わんばかりに大演説でテーマを説明してくれない。わかりやすい回想シーンを最後に導入して感傷に浸らせてもくれない。ただ、その作風に違和感を感じてきた僕には、この「ミュンヘン」はとても新鮮であった。饒舌さを排することで、スピルバーグ作品の圧倒的な映像力がより引き立っているからだ。

ミュンヘン・オリンピック開催中の1972年9月5日。"黒い9月"と呼ばれるパレスチナゲリラによるイスラエル選手団襲撃事件が起こる。選手は人質にとられた。「最悪の恐怖が今日現実のものになってしまいました」というアナウンスの元に選手全員の死亡が伝えられる。これに激怒したイスラエルの諜報機関"モサド"は"神の怒り作戦"と評して報復を試みる。その計画のリーダーに任命されたアヴナーの物語だ。今回も実話に基づいた作品である。報復が何をもたらすのか、というメッセージを突きつけた作品と言えなくもない。ただ、この作品でそれを声高に主張することはない。


後味の悪い余韻を残しまくる作品である。最初から最後まで不気味な緊張感にあふれている。どんよりとした曇り空がずっと続いているような印象だ。背景となっているパレスチナ問題はこの作品の時代設定から30年以上経た現在もなお解決の道が見られない。当然の演出かもしれない。
アヴナーが、報復実行部隊の仲間たちに自慢の手料理をふるまう。(アブナーのモデルに実際に会った主演のエリック・バナによるとこれは彼が実際にやっていたことらしい)本来なら、緊張感を和らげる効果を持つはずの食事シーンも、赤ワインの色が不気味に光って見える。"黒い9月"による誘拐、そして殺害シーンのフラッシュバックが作品中度々挿入される。銀残しと呼ばれる技術を用いて撮影された映像は、ざらついており、緊迫感を高める効果をもたらしている。パレスチナ側はアラブ人、イスラエル側はイスラエル人の俳優を起用しているため撮影現場も異様な緊張感がみなぎっていたという。

殺害実行のため、標的の家の電話に爆弾をしかける。殺すのはあくまでも標的だけであり、巻き添えを出すことは許されない。彼が部屋でひとりになったのを見計らって、実行犯のひとりが標的の家に電話をかける。彼が受話器をとった瞬間、電話機が爆発するという仕組みだ。いよいよ実行。彼の家に電話をかける。机で仕事中の標的がゆっくりと立ち上がり電話をとろうとする。そこに出かけたはずの娘が忘れ物をとりに戻ってきて...。この場面のサスペンス性はさすが娯楽映画の巨匠スピルバーグ、実に手馴れたものである。

スピルバーグの作品には常に「家に帰ろう」というメッセージが込められていると、よく言われる。この作品でも、主人公のアブナーも最後には家に帰っている。町に買い物に出かけても、常に車の人影に気を配る。いつどこで誰が自分の命を狙っているかわからないからだ。家族の命も狙われているかもしれない。愛する家族を養うため、引き受けた高収入の仕事だったはずだ。終わりの見えない報復合戦。一度でも足を踏み入れたら、精神的には2度と家には帰れない。この作品での「家」は祖国のことであろう。「家」を求めて戦い続ける人々。報復を繰り返す人々。そこから何が得られるのか。家に帰ることができるのか。「家に帰ろう」といい続けたスピルバーグが「家に帰れない人々」を描いた。そういう意味でも画期的な作品である。

「『ミュンヘン』はスタジオのために撮った作品ではない。自分のためだ」スピルバーグは語る。自身でもスタジオを持ち、スタジオに世界で一番利益を与え続けたスピルバーグの言葉だけに確かな説得力をもつ。ニューズウイーク紙のインタビューに応じたスピルバーグ。最近ハリウッドで政治的な映画が増えていることについて「言うべきことではないかもしれないが」と前置きした後,「ブッシュの第二期政権になってから、映画作家がより積極的に主張するようになった気がする。気持ちを代弁してくれる人がいないから、映画作家は自ら発信するようになったんだ」とコメントしているという。

こんなことを思うのはもしかしたら僕だけかも知れないが、まぎれもなく「ミュンヘン」はスピルバーグの最高傑作。スクリーン上に「A Steven Spielberg Film」の文字が浮かぶと拍手したくなりました(笑)卓越した映像力を武器に、ドラマ作家としても見事に成熟した。若き天才と言われた彼も現在58歳。今まで十分過ぎるほどスタジオに利益をもたらしている。もっともっと自分のために作品を取り続けてほしい。そうすれば、新たな最高傑作がきっとまた生まれる。そんな大きな期待を抱かせてくれた作品。お楽しみはこれからです(笑)

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2006.02.08 Wednesday | 02:46 | 映画 | comments(4) | trackbacks(6) |

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2019.09.05 Thursday | 02:46 | - | - | - |

コメント

こんにちわ。jesterと申します。
私も昨日、ミュンヘンを見てきました。こちらの素晴らしい感想をよまさせていただきました。ありがとうございました。
重いテーマでしたが、いろいろ考えさせられる映画でしたね。私も感想を書いたので、TBさせていただきました。
2006/02/08 12:43 PM by jester
jesterさん、はじめまして。
TBありがとうございました。
まだblogをはじめて日が浅いため、とてもうれしいです。でも、この映画について書くのはとても難しいですね。jesterさんの文も読ませていただきましたが、とても素直に書けていてうらやましいです。僕はひねくれまくり(笑)
2006/02/08 8:05 PM by moviepad
達也です。
クリントの硫黄島2部作に
関連する流れで、つい最近『ミュンヘン』を観ました。
この映画は撮影、編集から音響に至るまで、
超一流のプロの仕事です。
でも、何かが足りないと感じます。
その理由は、観た後のカタルシスの無さかもしれません。
クリントとの硫黄島の共同作業を経て、
スピルバーグが更に進化することを
期待しています。

@_@ トラバさせてくださいね。

2006/12/15 12:59 AM by TATSUYA
達也さん。コメントありがとうございます!

硫黄島2部作については、スピルバーグは「自分にはどうしても映画化できなかったから」クリントに監督を依頼したそうですね

この作品はむしろ"カタルシスの無さ"がポイントだと思います。延々と続く復讐の連鎖を表現するためにはラスト、ばっちり決めたら逆効果でしょう。
これまでのスピルバーグの強引なカタルシス攻撃にうんざりしきっていた僕にはとても新鮮でした。記事に書いたとおり個人的にはスピルバーグの最高傑作だと思います。
2006/12/15 1:30 AM by moviepad

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