映画のメモ帳+α

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恋人たち (2015)

恋人たち(2015 日本)

恋人たち(2015)監督   橋口亮輔
脚本   橋口亮輔
撮影   上野彰吾
音楽   明星/Akeboshi
出演   篠原篤 成嶋瞳子 池田良
      安藤玉恵 黒田大輔 山中崇 内田慈 山中聡
      リリー・フランキー 木野花 光石研

第89回(2014年)キネマ旬報ベストテン第1位

日本映画界において、名前で観客が一番呼べる監督はひょっとすると橋口亮輔かもしれない。理由は単純明快。同性愛をカミングアウトした上での監督デビューという、日本では珍しいパターンというのもあるが、過去の長編4作はすべて監督本人が自分の経験を反映させたオリジナル脚本で、いずれも彼でないと撮れない題材、つまり替えのきかない人なのだ。観客は人気俳優の××が出ているからではなく橋口亮輔監督の作品だから映画館に足を運んでいる。そんな"one and only”橋口亮輔監督の7年ぶりの長編映画、それが『恋人たち』である。




物語は妻を通り魔に殺されたアツシ(篠原篤)がを中心に、夫は自分に関心をもってくれず義母ともうまくいっていない瞳子(成嶋瞳子)、エリート弁護士で同性愛者の四ノ宮(池田良)を軸に物語は進んでいく。

アツシは通り魔を訴えるべく、弁護士を探すがどれも対応がひどく訴えることすらできない。
このあたりの描写は橋口監督の実体験をもとにしている。シアター芸術概論綱要 Vol.03 “映画監督 橋口亮輔” Produced by theatre tokyo
出口の見えない状況に苦しむアツシや瞳子、その対極のような四ノ宮は高慢ちきな男だが"愛する人"に対してだけは別の顔をみせる。この3組、アツシと四ノ宮が一瞬からむ以外、3つの物語は最後まで交わらない。ここが普通の群像劇とはやや違うところだ。

橋口亮輔監督作品を見続けていた人はやや戸惑うかもしれない。
今までの橋口作品に垣間見られた、ある種のパターンが全然出てこないのだ。
やさしすぎるがやや優柔不断な男も、訳ありの過去をもつ、既成の価値観にとらわれない女も
自分の周りに対しても世の中に対してもどこか醒めた目で見ている男も登場しない。
偶然にも家族(あるいは主要な登場人物)が一同に会し、価値観の違いが露わになる場面もない。

過去の作品より全体的にトーンが重く、特に最初の1時間はやりきれない描写が続く。
『ハッシュ!』と『ぐるりのこと』のように微妙なテーマをできるだけ多くの人に伝わるよう、脚本が実に巧妙に練られていた。
本作ではそういうものがない。
主要キャスト3人が、橋口監督のワークショップ出身の新人だからかもしれないが
洗練された語り口は影を潜め、むき出しの感情表現が続く。
(変な例えだが)ラーメンの麺の硬さでいうなら、"普通"でも"カタ"でも"バリカタ"でも"ハガネ"でもない
生麺がざるといっしょにほおりだされているようだ。
冒頭のアツシの告白場面をはじめ説明台詞が多いのが気になるが、おそらくこれは意図的なものだろう。
作品内容に合わせ、"洗練された描写"よりも"泥臭さ"、むきだしの生麺的表現をあえて選んだ。

では、これまでの橋口作品とは全く異なるかというとそんなことはない。
本作のテーマは「生きてるだけでたいしたもの」。
前作『ぐるりのこと。』で出てきた台詞と全く同じなのだ。

"生きていればそのうちいいことがある"という安直な慰めではない。
"生きているだけでたいしたもの"なのだ。
この映画では、主要人物3人の登場人物の客観的生活状況は全く好転しないまま終わる。
何かカタルシスを得たというわけでもない。

窮境を突破する出口を見いだせず、やりきれない思いを抱え込んで生きていくしかない人たち。
それでもアツシの会社の同僚のように、かなり控えめながらも彼の置かれた状況を理解してくれる人がいる。
彼らは大声で主張したりしない。
声高に叫ぶのは、"世間一般の常識とやらを自分の意見であると勘違いしている者"ばかりだ。

自分の周りの"あえて主張しない声"を密かに拾い集め、ささやかな養分としていけば
出口への道は遠くても
人間は生きていけるのかもしれない。

ラスト、沈みきれない思いで低空蛇行しているように思える。
主人公アツシの職業を橋梁点検にしたのがこの映画のみそ。
ハンマーでノックしてしただけで破損場所を探し当てる。
でも、ちょっと叩けばどこが壊れているかわかるのなら
沈まなければ、死ななければ、
誰が何と言いかがりをつけようが、
傍目にわかる"良いこと"は起きなくても
いつか自分の人生を肯定できる日が訪れる。
この映画を観て、ふとそんなことを考えた。

橋口亮輔監督作品、長編ではこれが5作目。デビューが1993年だからかなりの寡作。作風から鑑みて『二十才の微熱』(1993)と『渚のシンドバッド』(1995)が第1期、『ハッシュ!』(2001)と『ぐるりのこと。』(2008)が第2期とするなら、この『恋人たち』は第3期にあたると感じる。彼はあと10年後、20年後どんな作品を撮るのだろう。楽しみでもあり恐ろしくもある。昨今の日本映画、起承転結がやたらはっきりしているTVドラマもどきの作品だらけなので、橋口監督のような作風はますます生きにくくなるかもしれないが、ずっと映画を、一本でも多く撮り続けてほしい人だ。
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2015.12.10 Thursday | 00:07 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0) |

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2017.04.26 Wednesday | 00:07 | - | - | - |

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