映画のメモ帳+α

音楽映画、アカデミー賞関連の記事に力を入れています。
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セッション

セッション(2014 アメリカ)

セッション(2014)原題   WHIPLASH
監督   デイミアン・チャゼル
脚本   デイミアン・チャゼル
撮影   シャロン・メール
編集   トム・クロス
音楽   ジャスティン・ハーウィッツ
音楽監修 アンディ・ロス
出演   マイルズ・テラー J・K・シモンズ ポール・ライザー
      メリッサ・ブノワ オースティン・ストウェル ネイト・ラング
      クリス・マルケイ デイモン・ガプトン スアンヌ・スポーク マックス・カッシュ
      チャーリー・イアン ジェイソン・ブレア カヴィタ・パティル
      

第87回(2014年)アカデミー賞助演男優(J・K・シモンズ)、編集、音響効果賞受賞。作品、脚色賞ノミネート

うーむ、この映画をどう語ればよいのだろう。アカデミー賞作品賞ノミネート、3部門受賞らしい『セッション』である。ジャズドラマーを目指して有名音楽学校に入った19歳の青年が鬼教師にしごかれて、という物語。ドラマーが主役なので音楽はたっぷり聞けるが、Jazz映画はおろか音楽映画ともいいがたい。脚本もアカデミー賞にノミネートされるなど評価は高いようであるが、よ〜く考えると突っ込みどころ満載で説得力にかける描写が多い。じゃあ、この映画はダメダメかというと...無茶苦茶面白い。だから困っているのだ。



 以下の記事はネタバレしています。未見の方はご注意ください。

この映画は最初から最後まで違和感だらけ。
まず、最初。地下室のような場所でひとりドラムの練習をする青年アンドリュー(マイルズ・テラー)。
そこに鬼教師フレッチャー(J・K・シモンズ)がやってきて「バンドが楽団員を募集しているの知ってるだろ」とそそのかす。映画のラストからつながっていると容易に想像できる凡庸なファーストシーン。何〜だ、この2人がバトルのあげく、どっちかが死ぬとか殺すとかないのか?つまんねえな、ラストの楽しみがひとつ減ったわ(笑)。

そして、何よりも名ジャズドラマーを目指して有名音楽学校に通うという設定。
しかも、演奏形態はビッグバンド!!!

このアンドリュー君、根っからの音楽好きではなく、自分の立身出世のためにジャズドラマーとやらを志しているようにしか見えない。有名になりたいとか、金もうけしたいとか、女にもてたいとかそーいう動機をもつものはまずジャズには走らない。ジャズは"少数派のための音楽"だからね。あのクリント・イーストウッド御大もそういっておりました。

「才能のない奴はロックをやれ」という張り紙が映し出される。
そうか、アンドリュー君も有名になりたいとかじゃなくて、プライドを満たすものを求めているのか?
例え、そうだとしてもビッグバンドって?

ビッグバンドはスウィング全盛期、1930年代あたりに隆盛を誇っていた。このころ、ジャズは小難しい音楽ではなく大衆音楽だった。だが、戦争が終わってスウィングは一気に衰退し、その後ジャズはビ・バップだのフリージャズだの大衆音楽とはかけ離れた方向に進んでいく。

ビ・バップ以降のジャズはおそらくリスナーよりも演奏者のほうが楽しんでいる音楽である。
リスナーに向かって「皆さん!ぜひ聞いてください!」と呼びかけるよりは「こっちは勝手に楽しんでいるから、聞きたければ聞けば?」と吐き捨てているような雰囲気すらある。

すっかり衰退したジャズのビッグバンド。大衆音楽とはとても呼べなくなったジャズ。
そんなところに立身出世をもくろみ野望を抱いて有名音楽学校に入学するって...はぁ?

筆者、現代アメリカの音楽教育事情に明るくないので、こんなことありえない!とは断言できないが、個人的に説得力を全く感じない設定であった。しかも、そのレッスンの内容は...これってジャズというよりクラシック・オーケストラで観られるような場面じゃないの?譜面どおりにキッチリやろうとしているように見える。

それにジャズにおいてドラムがあんなに悪目立ちするのは、即興演奏時のソロ・パートくらいじゃないの?それですら"意味がない、うざい"と苦言を称する評論家センセもいらっしゃいます。少なくてもビッグバンド形式の場合、害悪でしかないような。その害悪をあおる指揮者...うーむ。そもそも鬼指揮者とアンドリュー君の"セッション"は何のジャズテイストも醸しださない。そもそもこの"セッション"、クリエイティブな香りが全くしないのだ。衝動をたきつけるような、けたたましい音が鳴り響くだけ。まあ、映画としてはそれが"長所"にもなっているのだが、少なくもこの作品、音楽映画とは呼べない。最低限の取り決めをして、あとは好き勝手に暴れているかのようだ。そんな映画全体のつくりがジャズっぽいと言えなくもないが。ちょっとこじつけすぎる?

この映画の脚本は、監督のデイミアン・チャゼルが、高校時代競争の激しいジャズバンドに所属し、怖い思いをした実体験をもとに執筆したそうだ。有名とはいえないバディ・リッチや、有名曲とはいえない"WHIPLASH"をとりあげるなど通っぽいところを見せるが、この監督、今はあまりジャズ好きじゃなんじゃないかな。ホラー映画のネタにしているんだから。(笑)

この映画に影響されて、Not quite my tempoだのNOT MY F××KING TEMPO!だの辛辣なコメントがたくさん寄せられているかわいそうな動画です(笑)。


"Caravan"はデューク・エリントンの曲で、エラ・フィッツジェラルドの歌で個人的にも聞いたことがある。ジャズ・スタンダード曲だ。でも、こんな曲だっけ...ドラムのけたたましさしか印象に残らない。アンドリュー君が崇拝するバディ・リッチの"Caravan"はこちら→Caravan by Buddy Rich

動画でもどーぞ。


さて、ドラマ要素に話をうつします。上のグダグダが長くなったので手短に(本来、こっちをメインに書くべきなんですけどね...)

鬼教師の洗礼を受けたばかりなのに女の子をデートに誘うようなやつが、音楽で頭が一杯になり彼女をふる...はぁ?
フレッチャーのかつての教え子ショーン・ケイシーに関するエピソードも、ラスト、フレッチャーとアンドリューの狸とキツネの化かし合いのようなやりとりも物語をすすめるネタ以上のものを感じない。結局、楽譜はどうして無くなったのさ?単なるご都合主義かよ。そして、何よりフレッチャーがなぜ常軌を逸した指導をするのか?その理由に説得力がない。チャーリー・パーカーのエピソードを引き合いに出すが、うーむ、何だかな。今の時代なら超絶パワハラで訴えられること確実な暴挙。ここで案の定...となるところもつまらない。舞台設定から物語まですべてが違和感だらけ。安っぽい物語だぜ。

でも...映画全体としては面白かったんだな、これが。鬼教師フレッチャーはまぎれもなくキ○ガイである。そしてアンドリュー青年もそのキ○ガイに必要以上に感化され、同レベルのキ○ガイになってしまう。最高の芸術表現をめざすという崇高な理想は吹き飛ばされ、何かに突き動かされたような衝動だけが映画全体を支配している。それに圧倒されたまま、気が付いたら映画は終わる。その衝動は映画の欠点をすべて覆い隠してしまうくらい強く、激しい。何かくやしい。突っ込みどころだらけの内容でキ○ガイ同士がケンカしているだけなのに、無茶苦茶面白かったと言わされるなんて(笑)。超絶フェイクにしてやられた感じ。鬼教師を演じたJ・K・シモンズは2014年の映画賞において助演男優賞をほぼ独占したが、評論家のみなさん、アカデミー会員のみなさんはこの鬼教師フレッチャーにキ○ガイ以上の何か深遠なものを見出したのだろうか。そうなると主演のマイルズ・テラーが無視されているのが不可解。同じキ○ガイだしこっちのほうが役としては難しい。

たぶんパロディ動画とかいっぱい作られているだろーなと思い、youtubeをのぞいてみました。
あんまり面白いのなかったな。かわいいからこれを!
snoopy版WHIPLASH!シュローダー負けるな(笑)



まあ、実在しそうな場面設定でありながら、ここまでリアリティを感じない作品も珍しい。何とも荒っぽい力業の映画である。弱冠30歳で本作をモノにしたデイミアン・チャゼル監督に対して、「末恐ろしい才能が出てきた」もどきのテンプレ絶賛がたくさんある。でもね、個人的にはこの監督、一発屋のニオイがぷんぷんするんですけど...。こんな力業はそう何度もできるものではない。

映画『セッション』はアカデミー賞3部門受賞の由緒正しい映画ではない。音楽映画としてもドラマとしてもだめだけど、単に"映画"として観れば抜群に面白い。立派な立派な立派なカルト映画!人目を忍んでこっそり観賞し、キ○ガイ同士のバトルに"AH〜"とか"Oh〜"とか言ってればそれでよい。ちょっとした論争になっているようですが、jazz映画という枠組みでこの映画を語ることに何の意味もない。ディテールにはすべて目をつぶり、勢いを楽しむのが一番です。本当に糞面白い映画!最高に面白いという意味ではない。字面どおり、糞なんだけど面白いのだ。少なくても"good job"レベルじゃないよね。ちなみに原題の"WHIPLASH"とは曲のタイトルでもあるんですが、"鞭でうつ、痛みつける、悪影響を及ぼす"という意味です。この映画にどんぴしゃり!
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 本サイトでは便宜上Jazz映画カテゴリに分類していますが、本文を読んでいただければおわかりの通り、本作はjazz映画はおろか音楽映画であるとも思っていません。

2015.04.19 Sunday | 01:00 | Jazz映画 | comments(0) | trackbacks(8) |

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