映画のメモ帳+α

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フレンジー

フレンジー(1972 イギリス・アメリカ)

フレンジー原題   FRENZY
監督   アルフレッド・ヒッチコック
原作   アーサー・ラバーン
脚色   アンソニー・シェイファー
撮影   ギル・テイラー
音楽   ロン・グッドウィン
出演   ジョン・フィンチ バリー・フォスター ビリー・ホワイトロー
      バーナード・クリビンス ジーン・マーシュ アンナ・マッセイ
      アレック・マッコーエン バーバラ・リー=ハント マイケル・ベイツ
      ヴィヴィエン・マーチャント クライヴ・スウィフト エルシー・ランドルフ

サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督も、晩年『マーニー』、『引き裂かれたカーテン』、『トパーズ』と3作不評が続き、"さすがのヒッチコックも年には勝てずモーロクしたか"、"ヒッチコックは終わった"とささやかれていた。批評、興行ともに惨敗した『トパーズ』から3年をへて発表されたのが『フレンジー』。女性ばかりを狙ったネクタイ絞殺魔を描き、猟奇性とユーモアが奇妙に同居している。1972年カンヌ国際映画祭特別招待作品としてお披露目された際、拍手喝さいで迎えられ、ヒッチコックの復活作として位置づけられている作品です。ちなみにfrenzyとは"逆上、精神混乱"という意味です。


 冒頭、水に浮かんだヒッチコックが登場しますが、当初は本編のカメオ出演でこれをやる予定だったそうです。


 以下の記事はネタバレしています。未見の方はご注意ください。

物語
ネクタイを使って女性を絞殺する連続殺人事件がロンドンをにぎわせていた。その頃、ブラニー(ジョン・フィンチ)は勤め先のパブをクビになり途方にくれてきた。そんな彼を、友人のラスク(バリー・フォスター)は激励する。その後、ブラニーは2年前に離婚したブレンダ(バーバラ・リー・ハント)の経営する結婚相談所を訪れ、愚痴をいう。翌日、その結婚相談所にロビンソンと名乗る男が現れ、ブランダをネクタイで絞殺した。そのロビンソンという男の正体はラスクだった。ラスクが現場を離れた後、ブラニーが結婚相談所を訪れ、鍵がかかっていたため引き返すが、その姿をブレンダの秘書(ジーン・マーシュ)が目撃、ブラニーは連続殺人犯として指名手配されてしまう。

まず、カメラはテムズ川にだんだん寄って行き、政治家の演説、そして女性の全裸水死体。このカメラワークは『サイコ』の冒頭シーンをイメージさせる。"不調のときは、調子がよかった時期までさかのぼってみる"ヒッチコック、冒頭以外にもにマザコンの殺人犯など『サイコ』っぽい設定がいくつかある。またロンドンで撮影するのも原点回帰か!ヒッチコック映画には曇り空がよく似会います。
フレンジー テムズ川

音楽は当初ヘンリー・マッシーニに依頼していた。ヒッチコックとヘンリー・マッシーニーといえば、『引き裂かれたカーテン』の際、映画会社はマッシーニを起用するようヒッチコックに圧力をかけてきたことで知られている。『引き裂かれた〜』はジュリー・アンドリュースが出演するので、ヒット曲を作りたかったんですね。ヒッチはそれを無視しバーナード・ハーマンを起用したが、結局方向性の違いで決裂。(ポップな曲を求めていたヒッチに対し、ハーマンはいつものように重苦しい曲を提出したためといわれている)そして今回、満を持して?マッシーニに依頼したが、ヒッチコックがその出来に満足せず「バーナード・ハーマンみたいな音楽が欲しかったら彼を雇うよ」と言い放ってマッシーニをクビにしたという。ハーマンぽい音楽をつけてきたんでしょうね。何とも皮肉なエピソード。結局、採用されたロン・グッドウィンのスコアも今ひとつ。特に冒頭、ブラニーがパブをクビになった後、あんなクラシック風の曲をつけられても...。

 とりあえず冒頭シーンを聴き比べてみましょう。
ヘンリー・マッシーニ版Henry Mancini - "Frenzy" Opening Theme (Rejected)
ロン・グッドウィン版Sobre el Thames: introducción de Frenzy (Frenesí)

ラスクがブラニーの元妻を殺害する場面。ねちねちとじっくり撮られます。"人が簡単に殺されるのはおかしい"という『引き裂かれたカーテン』でも用いられた考え方によるものでしょうか?首が締められたときのシワまでみせる。ラスト、女は舌をぺろり。くどすぎて辟易しましたが、女を痛みつけながら"Lovely、Lovely、Lovely"と憎々しげに叫ぶのは笑った。この男、S趣味というより単に女嫌いなんでしょう。元妻が殺されたときの、眼球クローズアップ。ここでは『サイコ』の反省をいかしています。『サイコ』のシャワー場面でジャネット・リーが殺された場面で、眼科医が"瞳孔が閉じている、死者の眼ではない"とクレームをつけ、"瞳孔拡散剤を一滴たらせばよい"とアドバイスしてくれている。『フレンジー』ではそのアドバイスに従っている。
フレンジー lovely

この連続殺人鬼ラスク役、当初はマイケル・ケインにオファーがいっていましたが、断ってしまった。のちにケインがヒッチコックとあるホテルで出くわした際、ヒッチから完全無視されたそうな。マイケル・ケインと言えば仕事を選ばないことで有名。『ハンナとその姉妹』(1986)でアカデミー助演男優賞を受賞した際、『ジョーズ4』の撮影で授賞式を欠席したことは伝説となっています。そのケインにして..."Lovely”はやりたくなかったんですね(爆)。ラスク役を得たバリー・フォスターは、ヒッチコックから脚本といっしょに元軍人の殺人鬼ネヴィル・ヒースについての本も渡された。Neville Heath(Wikipedia)

ヒッチコック映画定番の"間違えられた男"パターンもうれしいところです。相変わらず薄い根拠で犯人にしたてられる。あれだけ触られたら、元妻にはラスクの指紋がベタベタついとるだろうと突っ込みたくなりましたが、「指紋は?」「来客が多くて無理です」...のけぞりました。結婚相談所の客というのはみんあ所長にお触りするんかい!?(爆)。ヒッチコック映画では観客へ早めに情報を与えるのはお約束事ですが、『フレンジー』では犯人明かしがちょっと早すぎる!元妻が殺されたあと、ブラニーが結婚相談所を訪れ、いかにも疑われそうな行動をとる。演出意図が露骨すぎてシラけた。

あと、殺人犯ラスクがブラニーの彼女バブス(アンナ・マッセイ)を自分の部屋に連れ込む場面。「君は好みのタイプだ」という台詞がこれから行われることを暗示します。ここでカメラが、犯人の逃走経路をそのままたどるように引き下がっていく。叫び声もなく靴音や車の音だけが響く。想像力をかきたてる上手い演出です。Hitchcock - Frenzy - Camera leaving the scene

さて、『フレンジー』には定番でないパターンもある。明らかに当時隆盛をほこっていた"アメリカン・ニューシネマ"を意識したゆえのことでしょう。まず主人公のキャラクターです。癇癪もちで観客の共感が得にくいキャラクター。そもそもヒッチコック映画はサスペンスなので登場人物のキャラ描写には重点を置いていないのですが、『フレンジー』ではそのあたり少し意識している。それに女性が美人でない。(笑)ヌードもある。(ヒッチコック映画ではっきり女性ヌードが出てきたのははじめて)。ヌード以外はサスペンス気分を妨げる要素ばかりなんですが、天下のヒッチコックといえども時代の流れに逆らうのは賢明ではないと判断した?そういえば殺人鬼ラスクが「殺されて当然の女もいる」と吐き捨てる場面がある。だから今回の犠牲者たちは...(以下省略)。ちなみにラストで殺されるのは原作ではブレンダの秘書ですが、映画では名もなき女性。既出の登場人物ばかりだと、犯罪に性癖以外の意味があるように感じられてしまうので、後者のほうがいいですね。

一番違和感があるのが、オックスフォード刑事に関する描写。有罪となった犯罪に疑問を抱く警察官という意味では『ダイヤルMを廻せ!』をほうふつさせますが、あれほどご立派な感じがしない。何せ彼が目立つのは捜査より食事シーンなんです。

まず、警察署内で「普通の食事がしたいんだ!」と文句をいいながらガツガツする場面。
フレンジー meal1

なんでこんなに強調するのかと思いきや...
オックスフォード刑事、自宅では奥様からこんなにおいしそうな?料理を作ってもらっているんですね。

スープ・ド・ポワソン
神秘の味の正体は、ワカサギ、タラ、アナゴ、マトウダイ、イワシ、アンコウだそうです。
フレンジー meal2

鳥のロースト
カイール・オ・レザン
ウズラのぶどう添え
フレンジー meal4

ピエ・ドゥ・ポーク・ア・ラ・モード・ド・コン
モツ料理のソースで煮込んだ豚足
フレンジー meal3

マルガリータ
とびきり辛口のテキーラにレモンジュース
グラスのふちに塩をまぶして飲むそうです。
フレンジー drink

オックスフォード刑事、本当はステーキとポテトが食べたいのにそれを承知で創作料理に走る妻。
ハリーの災難』をほうふつさせる飄々としたユーモアがあります。単なるコメディ・リリーフというシンプルな解釈もできますが、ちゃんと事件について話をしているし無意味なシーンではない。とはいってもこの食事シーン、作品全体から浮き上がっています。それでもあえてこの場面を創ったのはヒッチコックなりに何か意図があると考えることもできる。まあ、ヒッチコック映画ってあんまり深読みしないほうが楽しめるんですが、個人的に2パターン考えました。

1.台頭するヌーベルバーク、アメリカン・ニューシネマに対するヒッチコックなりの皮肉
ヒッチコックがヌーベルバークやニューシネマに好意的だったとはとても思えない。

"普通のステーキやポテト"→従来の美男・美女が登場する、やや浮世離れしたハリウッド娯楽映画
"スープ・ド・ポワソン"→ヌーベルバーク、ニューシネマ

外見的イメージで考えると逆じゃないかと思う人も多いでしょうが、たぶんこうです。ヒッチコックはグルメで有名ですが、前者です(笑)。そう、普通のステーキやポテト(=従来の娯楽映画)が食べたいのに、ヌーベルバークやらニューシネマを食べさせられて、わかったふりをしてみるが、不味くて結局"戻して"しまう。そんなことが言いたかったんじゃないかな。

2.食欲を強調することで、本作の主人公である性欲、つまり本能にもとずく人間の欲望をクローズアップする
『フレンジー』は異常性欲者を描いた作品であり、性欲と並ぶ本能である食欲をもじっくり描くことで、人間の本能のグロさを表現する。ちょっと強引な解釈と思わなくもないですが、ヒッチコックが食事シーンに何らかの意図を込めていることは過去の作品群から明白。

ヒッチコック カメオ出演場面「フレンジー」でのヒッチコック・カメオ出演場面!

1. テームズ川の近くでスピーチを聞く。2. "死体に噂する人たちの中に混ざる。
フレンジー ヒッチコック カメオ1フレンジー ヒッチコック カメオ2

『フレンジー』、アカデミー賞には例によってひっかかりませんでしたが、ゴールデン・グローブ賞には作品、監督、脚本、音楽(???)の4部門にノミネート。受賞はなりませんでしたが、外国人記者クラブの投票で決まるゴールデン・グローブ賞での高評価はメディアがヒッチコック復活を歓迎していたことがよくわかります。これまでのヒッチコックパターンを随所にちりばめながら、新しい要素も織り交ぜてみる。そのブレンド具合が絶妙...一歩手前(笑)のため、ヒッチコック映画の中でも独自の世界を築いている。そのアンバランスさが魅力です。傑作とはいいかねる出来だけど、面白い。これはヒッチコック映画の大部分にあてはまる特徴。あ、『フレンジー』がヒッチコックの復活作と呼ばれるのはそういう意味だったんですね(笑)。
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1000 Frames of Frenzy (1972)

2014.08.20 Wednesday | 04:50 | A・ヒッチコック | comments(0) | trackbacks(0) |

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2017.08.15 Tuesday | 04:50 | - | - | - |

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