映画のメモ帳+α

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トパーズ

トパーズ(1969 アメリカ)

トパーズ原題   TOPAZ
監督   アルフレッド・ヒッチコック
原作   レオン・ユリス
脚色   サミュエル・テイラー
撮影   ジャック・ヒルデヤード
美術   ヘンリー・バムステッド
衣装デザイン イーディス・ヘッド
編集   ウィリアム・H・ジーグラー
音楽   モーリス・ジャール
出演   フレデリック・スタフォード ダニー・ロバン カリン・ドール
      ジョン・ヴァーノン ミシェル・ピッコリ フィリップ・ノワレ
      ジョン・フォーサイス クロード・ジャド ロスコー・リー・ブラウン

サスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督は『サイコ』(1960)の大ヒットでキャリアの絶頂期を迎え、続く『』(1963)も大反響を巻き起こし、ヒッチコックの底力を存分に示した。ところがその後、今までの絶好調が幻であったかのように『マーニー』(1964)、『引き裂かれたカーテン』(1966)と不発が続く。『引き裂かれた〜』では"ヒッチコックはもう終わった"とまで言われた。続く新作はレオン・ユリスのベストセラー小説の映画化『トパーズ』。キューバ危機を題材にしたスパイ物で勝負に出たが、興行的には失敗。批評も前作以上の酷評を浴び、"ヒッチコック最低の作品のひとつ"という評価が定着してしまっている。

予告編だけみると面白そうなんだけど...。



 以下の記事はネタバレしています。未見の方はご注意ください。

物語
東西冷戦が緊迫していく中、ソ連の高官クセノフ(ペール=アレックス・アロセニウス)がCIAのノルドストロム(ジョン・フォーサイス)の協力をへてアメリカに亡命した。クセノフの情報によりソ連がキューバに補給している軍需品の覚書を、国連のキューバ主席代表パラ(ジョン・ヴァーノン)が持っているという内容。パラの秘書ルイス(ドナルド・ランドルフ)はアメリカ人嫌いだが金で動く人物だという。ノルドストロムはフランス情報部のアンドレ(フレデリック・スタフォード)にキューバに潜入してルイスに接触して覚書の内容を把握するよう依頼した。接触はかろうじて成功。やがてアンドレはキューバに出向き、彼の愛人かつ地下運動の指導者ファニタ(カリン・ドール)に会い、情報収集を依頼する。情報は集まってきたが、地下運動の協力者のひとりが逮捕され、ファニタもパラによって銃殺されてしまう。アンドレは帰国後、クセノフから、ソ連のためにスパイ活動をしているフランス人組織「トパーズ」の存在を聞かされる。その組織の長は暗号名コランバインという謎の人物で、副首領はアンリ(フィリップ・ノワレ)だった。不安を覚えたアンドレは親友のジャック(ミシェル・ピコリ) に頼み、昼食会という形で仲間を集め相談に乗ってもらう。その中にはアンリもいて...

良いお知らせと悪いお知らせがある。
よく耳にする言い回しですが、失敗作の誉れ高い『トパーズ』にも見どころはもちろんあります。
でも悪口のアクが強いので、良いほうを先に書きましょうね。
この映画の最大の見どころはこれです。



そう、オープニング!これさえ見れば後はいりません(笑)。
こういう映像を見ると、もしヒッチコックが『意志の勝利』のような映画を作ったら?という恐ろしい妄想がわいてきます。

ヒッチコックは例の本でトリュフォーにこう語っている。
「サイレント映画を作る以上に有効な映画づくりの学び方はない。トーキーは、単に映画の中に演劇を導くだけで終わっていることが多い。若い人の中にはセットデザインも編集方法も知らずに監督になれると思い込んでいる人が多い」

ヒッチコックの"サイレント的表現"のこだわりは相当なもので、映画の冒頭は大体台詞ぬきの状況説明だ。本作でも冒頭、ソ連の高官が亡命する場面、主人公が部下に依頼し、キューバに配置した軍需品の覚書を読ませようとする場面の2箇所に使われている。

ヒッチコック トパーズ1
街全体の普通の光景と対比するように見せる。やっぱりうまい。

登場人物が遠巻きに会話する。ヒッチコック映画ではおなじみの場面。
ヒッチコック トパーズ2
それにしてもヒッチコックは花が好きですね。

上からのカメラショットでひろがるスカートを見せる。
ヒッチコックの美意識が感じられます。Tpz - BShot
ヒッチコック トパーズ スカート

さて。
良いお知らせはそこそこにすませ、悪いお知らせに入ります。

まず、何でしょうね、この話は。原作はレオン・ユリスのベストセラー小説。トリュフォーいわく"ドゴール首相の側近に共産主義者のスパイがいたという実話をもとにしているのが売りのベストセラー小説"で、"原作者が映画の脚本まで書く"というおまけつきで押しつけられた企画だそうです。まあ、ヒッチコックの映画を観賞するにあたって、参考にした実話や原作の内容をひもといてみる作業は全く無意味なのでここは流します。



さて、原作者レオン・ユリスが書いてきた脚本は、ヒッチコックいわく全く使い物にならない代物だった。具体的にいうと"ユーモアが全くなく、ヒッチコックの映画の特徴を全く考量していない"、"ヒッチコックは悪役にも人間味を持たせてほしいと要請していたが、レオンはそれを完全に無視。悪役を生硬な怪物のように描いた"ということらしい。ヒッチコックはレオンを解雇し、サミュエル・テイラーを新たに雇った。だが、撮影スケジュールに間に合わず。サミュエルは撮影中に脚本を書いているような状態で、書きあげたばかりの脚本が数時間後に撮影されることもあったようだ。こんな調子じゃ上手くいくはずがない。

ディテールに凝るヒッチコックにしては意味のない設定も多々見受けられる。
例えば、この人形が割れる場面。これ必要? Topaz - Lovers Torn Asunder
あと、似顔絵が得意なジャーナリストも、ストーリーを進めていくうえでのコマにすぎず、もう少し上手い使い方ないのかな?と思ったりした。

原作未読ゆえ断定できないのが、正直いうとこの物語、誰が手掛けても失敗した気がする。映画向きの話じゃないのだ。まず、登場人物が多すぎるし、かつスーツ姿のさえないオッサンだらけなので誰が誰なのかよくわからない。物語進行最優先で登場人物の心理など何ひとつ描いていないのに、途中で"妙な愛人関係"を2〜3はさみ話をダレさせる。恋愛をテキトーにはさみこんでおけば馬鹿な観客は喜ぶと思ったか?サスペンスなのに主人公はまるで傍観者のような立ち位置、危険な目にあうのはいつも他人というのも致命的。おかげさまで、"キューバ危機"を背景にした話なのに全然ハラハラドキドキしない。核戦争の危機なんてヒトカケラも感じない。まさに"映画の中に演劇を導いたようなつくり"なのだ。

また、ミステリーとしても最悪。
最後のほうでアンリとかいう訳のわからんオッサンが出てきたあげく...。
トパーズ アンリ1トパーズ アンリ2

そのあと、ジャックとかいうもっと訳のわからんオッサンが出てきて...。
物語終盤で、突如"犯人役"が新たに登場する3流推理小説を読み終えたような気分。
ラストは他に2パターン用意してあったらしいですが、いずれも試写で不評。
よって今のバージョンになったようですが...。結局、何をやってもダメな物語だったといーことです。
トリューフォーとの対談本に『トパーズ』の項目がないため、ヒッチコック本人による撮影裏話などはあまり伝わってこないのですが、ヒッチ本人、相当ヤケッパチだったのではないでしょうか?モーリス・ジャールの音楽に関しても、"自分は音楽を聴く耳がない”という理由で完成版をロクに聴きもせず、そのまま映画に流し込んだとか!こんなこと以前のヒッチコックにはまず考えられない。

ヒッチコック カメオ出演場面「トパーズ」でのヒッチコック・カメオ出演場面!

0:33 空港にて車いすを押されて登場し、立ち上がって男と握手をしたのち、歩いて立ち去る。



『トパーズ』は"ヒッチコック晩年の失敗作"、"老化による才能の枯渇"だけで片づけられない要素もある。トリュフォーいわく"ヒッチコックだけでなく、ハリウッドそのものが不調だった。ほとんどのアメリカ映画が赤字となり、パラマウントとユニバーサルは併合、ワーナーとコロンビアは合体、MGMは製作をストップした。ハリウッド自体が病んでおり、そんな状況下ではヒッチコックも気乗りしない企画を引き受けざるを得ない状況だった。” 当時、ヌーベルバークの当事者であったトリュフォーの言い分は多少割り引いて聞く必要はあるが、ヒッチコックにとって厳しい状況であることは確かだ。

ヒッチコックお気に入りのグレース・ケリーはモナコ王妃となって引退、ヴェラ・マイルズやティッピ・ヘドレンを"第2のグレース・ケリー"に仕立てあげようとしたが上手くいかず、ケイリー・グラント、ジェームズ・ステュアートらの看板スターも年をとった。ヒッチコック映画にふさわしいスターが不在の状態だった。『トパーズ』のアンドレ役、ヒッチコックはショーン・コネリーを希望していたという。『マーニー』で失敗しているのに...。ヒッチコックがいかにスターを欲しがっていたかがよくわかる。

ハリウッドも明らかに変革を迫られていた。クラーク・ゲーブル、ゲイリー・クーパー、マリリン・モンローといったハリウッド全盛期を象徴するスターが相次いで他界。『ウェストサイド物語』などのミュージカル映画、007シリーズの人気、70ミリ映画等、ワイドスクリーン映画の発展など明るい話題もあったが、英国発のビートルズが世界的人気を誇り、イタリアではフェリーニ、ヴィンコンティ、アントニオーニが大活躍、フランスではトリュフォー、ゴダール、アラン・レネなどのヌーヴェルヴァーグの波が押し寄せており、ヨーロッパの勢いにハリウッドが圧されていた。決定的なのはアメリカ国内の変化だった。1965年にベトナム戦争がはじまり泥沼化していくにつれ、若者は反体制化しモラルが崩壊、そんな世情を反映させるかのように、アメリカ映画界でも『俺たちに明日はない』の大ヒットをきっかけに"ニュー・シネマ"という言葉が使われ始めた。要するにヒッチコックのような"スターをはべらせて、非現実的な物語をつくりあげる"昔ながらのハリウッド映画作法が過去の遺物となりはじめていたのだ。

『トパーズ』についてあの双葉十三郎氏は以下のように述べている。(『ヒッチコックを読む―やっぱりサスペンスの神様! 』(フィルムアート社)より引用)
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今までのヒッチコック映画のように膝を乗り出し手に汗をにぎる面白さがなく、アメリカの批評で72歳でやはりモーロクしたかと書かれても仕方ないかもしれないが筆者注 『トパーズ』公開当時、ヒッチコックは70歳では?)、ぼくの解釈はちがう。ヒッチコックはわざと計画的にいままでの作品ならあのテこのテを盛りこんで見せる場面を省略しているのだと思う。つまり、いままでとちがう作品をつくろうと試みたのではないかと考えたいのである。(中略)ヒッチ先生はお客に肩スカシをくわせてよろこぶいつもの道楽を、場面ではなく作品全体でやっているのある。(スクリーン 70年7月号)
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こーいうのを贔屓の引き倒しっていうんでしょうか?『トパーズ』が公開当時、いかに映画ファンに失望を与えたか行間からにじみ出ています。撮影時に脚本すら完成していなかった状況を鑑みても、とても"計画的な試み"とは思えない。だが、『トパーズ』でヒッチコックの迷いが感じられるのは確かだ。撮影時に脚本が完成していない、音楽をロクに聴かないまま流し込むなど自暴自棄と思われる点もあるが、ヒッチコックは自分の映画作法は時代にマッチしなくなっていることは十分に自覚していた。『トパーズ』にも部分的にヨーロッパ映画っぽい場面もあるし、主役がフランス人である。ヒッチコックにだって長年にわたって培ってきた自分のスタイルに自信と誇りを持っていただろう。でもそれが時流にそぐわなくなった。どーしたらいいの?『トパーズ』の崩壊ぶりから、そんなヒッチコックの心の叫びが聞こえてくるようだ。続く『フレンジー』では評価をやや持ち直し、転んでもただでは起きないヒッチコックの底力を示している。

『トパーズ』は明らかに失敗作であり、ヒッチコック映画をあまり観たことがない人にはとてもおすすめできる代物ではない。"サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコック"の腕がこんなものだと思われたら困る。だが、ヒッチコック映画ファンとして限定的に考えれば、ニュー・シネマ台頭に戸惑うヒッチコックの姿が垣間見える、ある意味興味深い作品といえましょう。
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1000 Frames of Topaz (1969)

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2017.08.15 Tuesday | 00:15 | - | - | - |

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