映画のメモ帳+α

音楽映画、アカデミー賞関連の記事に力を入れています。
ゾンビ、スタートレック、ヒッチコック監督作、ドキュメンタリー映画のカテゴリーもあり。
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(1963 アメリカ)

鳥 ヒッチコック原題   THE BIRDS
監督   アルフレッド・ヒッチコック
原作   ダフネ・デュ・モーリア
脚色   エヴァン・ハンター
撮影   ロバート・バークス
出演   ティッピー・ヘドレン ロッド・テイラー
      スザンヌ・プレシェット ジェシカ・タンディ
      ヴェロニカ・カートライト ドリーン・ラング
      エリザベス・ウィルソン エセル・グリフィス
      チャールズ・マックグロー ロニー・チャップマン
      ジョー・マンテル マルコム・アターベリイ

第36回(1963年)アカデミー賞特殊効果賞ノミネート

1958年からの数年間、アルフレッド・ヒッチコック監督はまさにキャリアの絶頂期だった。『めまい』(1958)は公開当時こそ興行・批評ともに今ひとつだったが、年々評価が高まり今では"もっとも批評家に愛されるヒッチコック映画"にまで上り詰めた。続く『北北西に進路を取れ』(1959)、『サイコ』(1960)は興行・批評ともに大成功、3作連続で代表作をかっとばしていたヒッチコックの"最後の傑作"と言われているのが『』である。鳥の大群が何の理由もなく人間を襲うというシチュエーションは当時、観客の度肝を抜いた。



物語
メラニー(ティッピ・ヘドレン)はサンフランシスコの小鳥屋で出会ったミッチ(ロッド・テイラー)の妹につがいのラブバードを届けるため、彼の自宅カリフォルニア州ボデガ湾にやってきた。モーターボートで彼の家に出向き、ラブバードと手紙をこっそり置いて引き返していた矢先、カモメが彼女の額をついた。これをきっかけとして鳥の大群が住民を襲う現象が次々起こり、町はパニックに陥っていく

 以下の記事はネタバレしています。未見の方はご注意ください。

ヒッチコック全作品中、ショッカー(怖がらせることに徹した映画)は『サイコ』だけと言われているが、もしかするとその説は間違いかもしれない。ショッカーとはいえ、『サイコ』はストーリー展開も重要な要素だった。しかし、この『鳥』は違う。前半、セレブ風の女メラニー、弁護士のミッチとその母親リディア(ジェシカ・タンディ)、ミッチの元彼女アニー(スザンヌ・プレシェット)など得体のしれない人物が次々と登場する。ミッチはメラニーに対して"裁判所で会ったことがある"と訳ありっぽいことをほのめかすがその後のストーリーに全く関係なし。そう、『鳥』は"鳥の大群が訳もなく人間を襲う恐怖"のみを描いた映画で、主役は鳥。人間は不気味な雰囲気を盛りたてるためのお膳立てにすぎない。鳥の大群が人間を襲うだけの、恐怖イメージビデオ"なので、極端にいえば他の内容はどーてもいいのだ。そう考えると『鳥」は『サイコ』以上にショッカーな映画かもしれない。ただし恐怖の性質は微妙に異なる。『サイコ』は比較的シンプルな怖さなのに対し、『鳥』の場合は不気味でカフカの小説のごとき不条理感が漂う。『サイコ』がホラー映画なら『鳥』は幻想怪奇文学といったところか。
例えば、この場面。
鳥 ヒッチコック 壊れたカップ
鳥に殺された男の家に、壊れたカップが5つ並んでかけられている。
ありえない、なんて一蹴してはいけません。得体のしれないイメージが大切なんです(笑)。

原作は『レベッカ』同様ダフネ・デュ・モーリア。当初、脚色は『サイコ』同様ジョセフ・ステファノに依頼していたが、彼はこのストーリーに関心を示さず、脚色は87分署シリーズなどで知られる人気作家エヴァン・ハンター(エド・マクベイン)が手掛けた。



原作とは別にこの映画には参照している実在の事件のイメージがある。
wikipediaによるとそれは以下のとおり。
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1961年8月18日、カリフォルニア州キャピトラの町の住民は屋根の上でハイイロミズナギドリが騒がしいことで目が覚め、道路は鳥の死骸でいっぱいになっていた。ドウモイ酸中毒(記憶喪失性貝毒)が原因ではないかと報じられた。地元紙の『サンタ・クルス・センティネル』によると、アルフレッド・ヒッチコックは1961年の記事のコピーを「最新スリラーのための研究資料」のために要請した。 “Alfred Hitchcock Using Sentinel's Seabird Story”. Santa Cruz Sentinel.
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ヒッチコックは例によって原作を大胆に改ざん、"鳥が人間を襲う"設定だけを残し人物から舞台まで原作とは全く違うものになっています。原作には鳥が人間を襲う理由を"厳寒によるエサの激減"としてあるようですが、映画では全く説明なし。ここがこの映画の幹です。

さて、本題に入ります。
映画の主役は鳥なので、人間は基本的に無視することにします。
まずはこれ。メラニーが車でボデガ湾に向かいときの場面。
車のゆれとともに、2羽の"愛の鳥"も揺れる。こういうお遊びは好きだな〜。
鳥 ヒッチコック 愛の鳥1鳥 ヒッチコック 愛の鳥2

ボデガ湾に着き、ボートをこぐ時の曇り空が観客に不安をあおる。美術を手掛けたロバート・ボイルいわくボデガ湾は気候条件がイギリスによく似ているという。"天気が変わりやすく、晴れていたと思えば急に霧が出て雨が降ったり..."。確かにこの曇り空はロンドンをイメージさせてくれます。こういうちょっと不気味な雰囲気の場所はヒッチコック映画ではおなじみ。ただし、ロケ撮影はほんのわずかで大半はセットのようです。

ところで、本作に登場する"鳥"は、本物、つくりもの、本物で撮影済みの鳥映像と人物を合成など、場面によって使い分けています。

"愛の鳥"をミッチの家に置き、ボートで引き返す。彼にみつかった途端、かもめに襲われ...Seagull Attack
鳥 ヒッチコック かもめ1 ヒッチコック かもめ2 ヒッチコック かもめ3 ヒッチコック かもめ4
この場面でのカモメはつくりものです。

何の理由もなく鳥が人間を襲うケースが続々。
ミッチの11歳の妹キャシー(年、離れすぎじゃね)の誕生パーティで...Children's Birthday Surprise
この場面でキャシーの頭にぶつかったカモメは本物!彼女がケガをしないようにクチバシと爪はくくっておいたらしいですが、くくられたまま逃げてしまったとか!(しばらくして戻ってきたそうですが)

鳥は家にも侵入してきます。Birds Invade the House
ヒッチコック 鳥 キャシー 誕生パーティ
この場面は合成。

この場面、鳥の大部分は偽物だが、何匹か本物を混ぜている。
本物が混ざっていることにより全部が本物だと信じてしまう、ある種の視覚トリック。
ヒッチコック 鳥 公園

アニーが教師として勤務しキャシーが通う小学校を鳥が襲う。Crows Attack the Students
鳥 ヒッチコック 小学校
この場面も合成。

町のレストランで鬱陶しい議論がなされている。
あるオバハンにメラニーは「あなたがここにきてからおかしくなったのよ」と魔女扱いされる。
通常ならここからさらにドラマがややこしくなるのだが発展なし。
そう、この映画は人間ドラマじゃないんです。
終末論をうれしそうに語る男もいる。これはラストの映像イメージと結びつく。
進展のしようがない議論が交わされている間にもカモメが町を襲う。Gas Station Explosion
鳥 ヒッチコック  カモメ1

公衆電話ボックスの中にいるメラニーめがけてカモメが突進する。Trapped in a Phone Booth
ヒッチコック 鳥 公衆電話ボックス
これはつくりもののカモメ。

ミッチは鳥が入ってこないように家の窓を木板でうちつける。
ラジオのニュースは異常事態を伝えている。
でも...
鳥 ティッピ・ヘドレン

ティッピー・ヘドレンが部屋に閉じ込められ、鳥に襲われる場面は5日間かけて撮影された。 Attacked in the Attic
ヘドレンは当初"機械じかけの鳥を使う"と聞いていたため楽に構えていたが、撮影当日になって"機械の鳥が使えなくなった"と言われ、目の前には本物のカラスとカモメが入った大きなカゴが3つ...。ヘドレンは"5日間私は鳥と戦った。人生最悪の1週間"と語っている。(実際、鳥は人間を襲ったりはしなかったそうですが)スタジオに遊びに来たケーリー・グラントから「君は世界一勇敢な女性だ」と褒められた。撮影後彼女は気を失ってしまい、入院。ラスト場面の撮影が残っていたが代役が演じ、顔だけを彼女にすげかえたという。(1週間後、現場復帰したという記述も見かけたが、おそらくこっちのほうが正しいだろう)。この場面は『サイコ』のシャワー場面と並ぶヒッチコック映画の2大ショッキングシーン!それにしても...ここで本物を使っていたとは恐ろしや。今、こんな映像が作られてもCGとしか思わないので、あんまりドキドキしない。古き良き時代というべきか、単なる無茶か。どちらにしろもう2度とこんな場面が本物の鳥を起用して作られることはないでしょう。

ホラー映画ファンの中には、ヒッチコックの『鳥』が最初のスプラッター映画と主張する人も多い。けど、これ血は控えめです。よってスプラッター映画というよりは...そう完璧にゾンビ映画モード。後半は"鳥の群れ"を"ゾンビ"に置き換えればそのままゾンビ映画定番パターンの出来上がり!この映画が作られたのが1963年。実質的なゾンビ映画のはじまりはジョージ・A・ロメロ監督『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968)だが、『ナイト〜』には『サイコ』のシャワー場面をほとんどパクったような刺殺シーンが出てくる。物語の輪郭は『鳥』を参考にしていたとしか思えない。うーん、そう考えるとゾンビ映画の生みの親はロメロではなくヒッチコック!?ただ、ロメロはヒッチコックと違って"社会性"という不純物を持ち込みましたが、それはもしかするとヒッチコックのパクリと言われないための防御策だったのかも。

ラスト、鳥の鳴き声だけでひたすら怖がらせる。ゾンビのうめき声のようです(笑)。鳥の泣き声や雑音には電子音が使われている。
ヒッチコック 鳥 ラスト1

この何ともいえぬ終末観。ここを命からがら抜け出すのもゾンビ映画っぽい。
ヒッチコック 鳥 ラスト2

鳥の鳴き声がだんだん甲高くなっていくところで終わり、"THE END"タイトルが使われていない。ヒッチコックいわく、まだ恐怖が続くことを観客に印象づけたかったから、という。そういえば、11歳のキャシーちゃん、"愛の鳥"を手放さないままでしたね...。Unending Terror

ヒッチコック カメオ出演場面「鳥」でのヒッチコック・カメオ出演場面!

0:02 ティッピ・ヘドレンがペット・ショップに入る際、2匹のシーリハム・テリアを連れて店を出るオッサン。
この2匹はヒッチコックの愛犬です。
鳥 ヒッチコック カメオ

前述のとおり、『鳥』はヒッチコック最後の傑作と言われている作品です。『めまい』、『北北西に進路を取れ』、『サイコ』、そして『鳥』...このあたりでヒッチコックはやりたいことをやりつくしてしまったのではないでしょうか?『鳥』以降に制作された5作品がいずれも精彩を欠くのもわかる気がします。ヒッチコック本人が鳥に精気を吸いつくされてしまった...そんなことを思い浮かべるくらいヒッチ入魂の作品です。『鳥』は『サイコ』とともに、のちのホラー映画に大きな影響を与えていることは言うまでもありません。当時に比べ技術的には格段の進歩をとげている今なお、『鳥』を超えるホラー映画はなかなか見当たらない。『鳥』は派手な音楽によるごまかしもなく、よっぽど見せ方に自信がないと撮れない。

ヒッチコックの映画の中で『鳥』だけは今でもはっきり覚えているという人も少なくないと思います。それぐらい強烈なインパクトのあるす。ヒッチコックは常々"台詞がなくても、映像だけで全部わからせないとだめだ"と語っています。まさに『鳥』はその言葉を忠実に実践した、もっともヒッチコックらしい映画!文句なしの傑作、そしてサスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコックの堂々たる代表作です。
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1000 Frames of The Birds (1963)

2014.08.16 Saturday | 08:46 | A・ヒッチコック | comments(2) | trackbacks(0) |

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2017.12.12 Tuesday | 08:46 | - | - | - |

コメント

ヒッチコックのベスト3は『バルカン超特急』、『疑惑の影』、『サイコ』なんですね。
3作品とも好きな作品ですが、『バルカン超特急』が入っていてうれしいです。
私は『レベッカ』を入れたいのですが、『疑惑の影』をもう一回観てから考えます。


この『鳥』は完璧なホラー映画だと思います。1963年の作品なんですね。一つ一つのシーンが目に浮かびます。
完璧!なので、ヒッチコックベストとは別枠で好きな作品に入れます。
ベスト3に『サイコ』と『鳥』を両方入れたら、アブナイ人だと思われそうなので(笑)。それに『ハリーの災難』なら完璧アブナイ?
2014/08/21 9:01 PM by パール
今回見直してもベスト3は変化なしでした。(順位なし)
ただ、自分にとっては「めまい」が別枠。あまりにもヒッチコックっぽくない映画なので
ヒッチコックのベストは?と聞かれた場合、躊躇いを感じるからです。

第2グループとしては
「鳥」、「レベッカ」、「見知らぬ乗客」、「汚名」、「ロープ」、「三十九夜」あたりかなあ。
初期の作品でも「下宿人」や「暗殺者の家」はかなり好きです。

ただ、ヒッチコック映画って作品全体としてはイマイチでも部分的にかなり好きな描写があったりするから選ぶのに困る。
例えば「知りすぎていた男」。作品の出来はそれほど良いと思わないのですが、ラストの"ケ・セラ・セラ"の使い方がモーレツに好き(笑)。
2014/08/21 10:02 PM by moviepad

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