映画のメモ帳+α

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北北西に進路を取れ

北北西に進路を取れ(1959 アメリカ)

北北西に進路を取れ原題   NORTH BY NORTHWEST
監督   アルフレッド・ヒッチコック
脚本   アーネスト・レーマン
撮影   ロバート・バークス
音楽   バーナード・ハーマン
出演   ケイリー・グラント エヴァ・マリー・セイント
      ジェームズ・メイソン ジェシー・ロイス・ランディス
      マーティン・ランドー レオ・G・キャロル
      エドワード・ビンズ ロバート・エレンスタイン

第32回(1959年)アカデミー賞脚本、編集、美術監督・装置賞(カラー)ノミネート

「ヒッチコックの代表作は?」「ヒッチコックの最高傑作は?」
この手のアンケートは意外と票が割れる。だが、強いて言うなら『サイコ』、『めまい』、『裏窓』がトップ3を争い、そのあと『』、『北北西に進路を取れ』が続く印象がある。その中で、個人的に唯一違和感を感じるのが『北北西に進路を取れ』。この作品をはじめて見たのはもう20年ぐらい前の話だが、正直言うとケイリー・グラントが飛行機に追いかけられる場面しか覚えていない。面白かったことは確かだが、代表作とか最高傑作と言われるとやや首をかしげるものがあった。もう一度見直してみたら印象も変わるかと思ったが....同じだった。

『北北西に進路を取れ』の脚本を手掛けたアーネスト・レーマンは、当作を"ヒッチコック作品の決定版にしたい"と意気込んでいた。決定版とはヒッチコックいわく"ウィットに富み、洗練され、豊かな魅力にあふれ(glamor)、アクションがあり、舞台が変化する作品"。かねてから『三十九夜』のアメリカ版を作りたいとヒッチコックは考えていた。『北北西に進路を取れ』は犯人と間違えられた男が逃亡し場所を転々とする、という『逃走迷路』、『見知らぬ乗客』などにみられる、ヒッチコック映画の王道パターン物語だ。

ヒッチコックの観光ガイド風予告編。"今時 殺人付きのツアーはお得"、"あらゆる悩みから解放される最高のエンターティメント、私も救われました。"だそうですW。


物語
広告マン、ロジャー・ソーンヒル(ケーリー・グラント)はキャプランという男と間違われ2人の男に連れ去られる。タウンゼントと称する男(ジェームズ・メイスン)からある仕事への協力を要請されるがソーンヒルは意味がわからず断ってしまう。するとソーンヒルは泥酔させられたあげく、車に乗せられそのまま海に突き落とされそうになる。なんとか逃げ出したものの、今度は酔っ払い運転で捕まってしまう。ロジャーは罰金刑をくらった後、キャプランという男の正体をつかむため、国連総会に出席中と聞いていたタウンゼントに会いに行く。だが、目の前に現れた彼は昨夜あった男とは別人だった。話を聞こうとした途端、タウンゼントの背中に短剣がささっていた。ソーンヒルは殺人犯と疑われたため逃亡。身の潔白を証明するためキャプランを探しだそうとする。実のところキャプランはFBIが調査対象の目を欺くためでっちあげた架空スパイの名前にすぎず、実在しない人物だった。そんなこともつゆしらずソーンヒルはキャプランを探すため列車に乗り込む。そこでイーブ・ケンドルと名乗るブロンド美女(エヴァ・マリー・セイント)に出会う。彼女は指名手配中の犯人と疑われている彼の窮地を救い、そのまま恋に落ちるが...

 以下の記事はネタバレしています。未見の方はご注意ください。

個人的に『北北西に進路を取れ』が苦手なわけは、前半のストーリー展開が急ピッチすぎて荒唐無稽にしか見えないから。撮影途中でケイリー・グラントが「何てひどいシナリオだ。もう最初の1/3が撮影済みなのに、何が何だかさっぱりわからない」とヒッチコックに言い寄ったというエピソードもうなづける。物語が荒唐無稽気味なのは、ヒッチコック映画の"間違えられた男”パターンには共通する傾向であるが、他の作品に比べ一段とひどく感じる理由は大きくわけて2つ。

1.前半部分のユーモアがひたすら痛い。
2.カラー映画であること

ヒッチコックが作品の中にユーモアを盛り込むことを大事にしているのは周知のとおり。だがそのユーモア感覚が生きるのは『ハリーの災難』のような、どこかヒッチコック本人をほうふつあせる、すっとぼけた持ち味を醸し出せたとき。『北北西に進路を取れ』の前半部にみられるドタバタはヒッチコック映画にはそぐわない。ヒッチコック唯一のスクリューボールコメディ『スミス夫婦』が失敗に終わったことがそれを証明している。

ケイリー・グラントが酔っ払い運転をする場面は演技はオーヴァー・アクト、時間も無駄に長く、観客の注意力をそぐ効果しかもたらせていない。物語が多少支離滅裂であっても、美しいモノクロ映像で撮影されていれば、なんとなく雰囲気で見れてしまうものだが、カラーだと想像力で補う要素が少ない分ごまかしがきかない。前作『めまい』で見せたような抜群の色彩感覚も本作にはやや欠けているように思える。

こういうオカルトっぽい見せ方は健在ですし....。
北北西に進路を取れ  ジェームズ・メイソン

ソーンヒルがホテルのロビーに現れる、つまり2人組につかまる寸前に演奏されている曲は"It's a Most Unusual Day"(もっとも普通じゃない、特別な日)。こういうヒッチコックらしいディテールのこだわりも感じられるのですが『北北西に進路を取れ』、作品全体としてはかなりアバウトというか、大雑把な作りです。

まず、"変化する舞台"ですが、ことごとく魅力に乏しい。glamorじゃありません(笑)。
オークション場面もケーリー・グラントが鬱陶しいだけ。North By Northwest - The Auction
かつ、本作の最大の売りであるラッシュモア山でのアクション場面。ラッシュモアはジョージ・ワシントン, トーマス・ジェファーソン, セオドア・ルーズベルト, エイブラハム・リンカーンの歴代4人の大統領の顔が刻み込まれています。
ラッシュモア山 北北西に進路を取れ
全然、ハラハラドキドキしないんですけど...。Mount Rushmore Chase Action Scene

以前からヒッチコックはラッシュモアにある大統領の顔のうえでチェイス場面を撮りたいと考えており、そのアイデアを基に『北北西に進路を取れ』は作られた。だが、撮影許可がおりず、かつ"大統領の顔の上で殺人事件をとるなんて!"と世論から非難殺到。そのため、セットを作って、かつ顔の上は避けて撮影された。一矢報いたいヒッチは宣伝用広告スチールに自分の顔を付け加えました。出たがりヒッチ本領発揮!
北北西に進路を取れ   poster
自分の顔は全面に出しておいて、リンカーンの顔はケーリー・グラントで隠してある(笑)。当初のタイトル候補に"The Man on Lincoln’s Nose(リンカーンの鼻の上の男)"という案があったことから、リンカーンの鼻のうえでバトルさせる予定だったと思われます。いっそのこと、映画セットにも自分の顔を組み込んでそのうえで格闘場面を撮影すればよかったのに!リンカーンはよくても、自分の顔はいやだったのね。

なんか文句ばっかりいっていますが、それでも本作が面白いと言えるのはこのトウモロコシ畑の場面があるから。
約8分間、何も起こらないのに怖い。
この場面こそ『北北西に進路を取れ』の真骨頂である。

ヒッチコックいわく"男がある場所に誘い出されて殺されそうになるというシチュエーションはありきたりだ。でもそれをありきたりに撮影したらつまらない。例えば暗い夜の十字路、走り抜ける黒猫のクローズアップ、窓からカーテンをそっとひいたところに人影が映り、黒い車がおもむろに近付いてきて、音楽が高まってくる...みたいな。私はそれと正反対なアプローチができないかと考えた。夜の闇も街灯もない。黒猫も窓際の怪しい人影もない、音楽もない。何もない広大な平野に太陽の光がふりそそいでいる"。

まさにそのとおり。何もないのに怖い。バスから降りたら彼はひとりきり。広大な平野でひとりたたずむ男。車は通り過ぎるだけ。誰もやってこない。やがて謎の男がやってきて、ケイリー・グラントと向き合う。さあ対決かと思いきや、彼はバスに乗って立ち去っていない。何もない畑に農薬をまき散らかす飛行機...。『海外特派員』の風車場面をイメージさせる不気味さだが、よりじっくりねっとり描き出す。
北北西に進路を取れ  トウモロコシ畑1北北西に進路を取れ  トウモロコシ畑2北北西に進路を取れ  トウモロコシ畑3

飛行機が突然、ひとりの男をめがけて突進してくる。
北北西に進路を取れ  トウモロコシ畑4北北西に進路を取れ  トウモロコシ畑5北北西に進路を取れ  トウモロコシ畑6

トウモロコシ畑に逃げ込むが、さらに飛行機は追いかけてくる。
 北北西に進路を取れ トウモロコシ畑

通りがかりのトラックに助けを求めるがひかれそうになり、トラックと飛行機が爆発。
北北西に進路を取れ 小型飛行機衝突1北北西に進路を取れ 小型飛行機衝突2北北西に進路を取れ 小型飛行機衝突3北北西に進路を取れ 小型飛行機衝突4

こんなことってありうる?...はい、ありえません。(笑)トリュフォーいわく"この場面の魅力は、その完璧な無償性にあるのではないか?あらゆる<らしさ>、あらゆる意味づけを欠いた、まったくありえないような荒唐無稽な場面"、"見事に計算されたデタラメ、不条理にもとづく荒唐無稽な遊び"と称しています。ヒッチ大先生の作品だからそれでも褒め称えられるのですが、これが無名監督の作品だったらバカバカしいの一言で片づけられるでしょう。

たとえ意味などなくても緊迫感にあふれ、映像表現としては完璧!と言いたいところですが...
脚本家のアーネスト・レーマンはDVDコメンタリーの中で次のように語っている。

「この場面の目的は事故に見せかけて彼を殺すことだが、銃弾している。撮影を見ながらおかしいと思ったが、あえて口にしなかった。」
「小型機は揺れているので、あれなら車はうまくかわせそうに見える。衝突する必然性がないように感じた。」

確かに小型飛行機のよたよたぶり、ちょっと気になりました。というか、この場面すべてにおいて変!
名作映画の名場面というより、カルトチックな見せどころです。
でも、この場面こそ『北北西に進路を取れ』の真骨頂ってさっき書いたよな...。

ちょっとひと休み。

ヒッチコック カメオ出演場面「北北西に進路を取れ」でのヒッチコック・カメオ出演場面!

気付かなかった人はいないでしょう。冒頭のコレ!


北北西に進路を取れ ヒッチコック 女装?Jesslyn Faxまた、ヒッチコックが女装して列車の乗客に紛れ込んでいるという説もあるようです。このオバハンね。
でも、これは女優のジェスリン・ファクス (Jesslyn Fax) 。ヒッチコックの顔はもっと丸い!
Did Alfred Hitchcock make a secret cameo appearance in drag? 

残念ながらヒッチコックは女装していないようですが、この映画、ややどぎつい性的要素もまぶされています。まず、列車内の食堂の場面、エヴァ・マリー・セイントが “I never discuss love on an empty stomach” と言っている。だがよ〜く唇の動きをみると “I never make love on an empty stomach” 。当時、過激なセリフとみなされ、声だけを差し替えた。普通撮り直すものですが...ヒッチコックのお遊びか、ただの怠慢か。この映画ってやっぱりアバウトでしょう?

そして、マーティン・ランドー(若い!)演じるレナードが「できすぎた女は信用できない」。
このせりふ、どきっとしませんでした?脚本家いわく、"レナードの同性愛的趣向"を示している。なるほど...
レナードはジェームズ・メイスン扮するバンダムを愛していて、自分の代わりに女を連れて北北西の方向に飛び立とうとするのが気に入らなかったのでしょう。『北北西に進路を取れ』という映画のタイトルはここからきている?

さて、このタイトルの由来ですが、シェークスピアのハムレットの中の"“I am but mad north-north-west” (私は北北西の風のときには理性を失ってしまう)から来ていると評されていますが、ヒッチコックは"たいした意味はない。このタイトルは気にいらなかったが他にいいものがなかった"と否定。さらに"そもそも“north by northwest”なんて方向は存在しない。この映画はファンタジーだからそれを象徴するように使った"と述べている。確かにコンパスの方向表示は"North-Northwest"はあっても "North by Northwest"はない。Points of the compass

そしてラスト、ヒッチコックいわく"これまでわたしが撮った映画のなかでもいちばんわいせつなショット"だそうだ。

やっとのこさ、救いだしたと思いきや
北北西に進路を取れ  ラスト1

即、ねんごろになり
北北西に進路を取れ  ラスト2

列車はトンネルへ...。結構、唐突な終わり方です。
北北西に進路を取れ 列車 男根

"列車は男根のシンボル"だそうです。なるほど...
言われてみればそう見えなくもないですが、予備知識なしで即座にそれを連想するお方は余程のスキモノでしょう(笑)。

ヒッチコックの映画は、細部まで計算されつくされたディテールを思い浮かべますが、それと同時にかなり大味な部分もある。荒唐無稽なストーリー展開は数知れず。映像的にみても(ヒッチコックはロケ撮影があまり好きではなかったからか)車の走行シーンなどは、素人からみても明らかに合成だとわかる代物です。また背景映像は"どうみても絵じゃね?"と思われる場面がたくさんあります。ヒッチコックの中で優先順位がはっきりしていて、こだわるべきところには徹底的にこだわるがそうでないところには...100%完璧主義というわけではないように思える。

『北北西に進路を取れ』がヒッチコックの代表作のひとつであることは確かです。でも、その立ち位置は『サイコ』、『めまい』、『裏窓』とは微妙に異なる。前述のとおり、『北北西に進路を取れ』はとってもアバウトで大味。ヒッチコック映画中、もっともハリウッド的な作品です。ヒッチコックお得意の"間違えられた男が逃走する"パターンの総決算ではありますが、国連ビル、トウモロコシ畑、ラッシュモア...場面の移り変わりばかりに気をとられ、肝心のストーリーが全く印象に残らない。ヒッチコックのもつ"大味さ"が凝縮された作品です。一番の見どころであるトウモロコシ畑の場面ですら、リアリティのかけらもなくどこか変。でも妙に面白い。そう、『北北西に進路を取れ』は名作ではありません。カルト映画だったのです。本作が名作とされているのはスケール感があること、興行的成功、本当の名作『めまい』と『サイコ』の間に公開された運のよさが要因でしょう。長年のもやもやがこれですっきり!ラストのタイトルロゴを見てください!カルト映画の風格を十分に醸し出しています。
北北西に進路を取れ THE END

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1000 Frames of North by Northwest (1959)

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2017.03.12 Sunday | 00:49 | - | - | - |

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