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アクト・オブ・キリング

アクト・オブ・キリング(2012 デンマーク・インドネシア・ノルウェー・イギリス)

アクト・オブ・キリング原題   THE ACT OF KILLING
監督   ジョシュア・オッペンハイマー
製作   シーネ・ビルゲ・ソーレンセン
製作総指揮   エロール・モリス ヴェルナー・ヘルツォーク

第86回(2013年)アカデミー賞長篇ドキュメンタリー賞ノミネート

山形国際ドキュメンタリー映画祭2013上映時タイトル:殺人という行為

“It is forbidden to kill; therefore all murderers are punished unless they kill in large numbers and to the sound of trumpets.”
(人を殺すことは禁じられている。よって殺人を犯したものは罰せられる。トランペットの音色にあわせて大量の人間を殺した場合を除いて)

映画冒頭で紹介されるヴォルテール(Voltaire)の言葉だ。そう、映画『アクト・オブ・キリング』は、その"除かれた"人たちの話である。1965年〜1966年のインドネシアで、9.30事件と呼ばれるクーデター未遂がおこる。スカルノ大統領が失脚したのに伴い、実権を握ったスハルトがクーデターに関与したとして共産主義者、中国系の市民など約50万〜100万人を虐殺したと言われていが真相は不明。虐殺実行者たちは罪に問われるどころが英雄として平穏な日々を送っている。米国出身の監督ジョシュア・オッペンハイマーは当初、被害者への接触をこころみたが、インドネシア政府からの妨害にあったため、撮影対象を加害者に変更。「当時の虐殺を再現してみませんか?」と彼らに話をもちかける。自分たちが主役の映画が作られると知った加害者たちは嬉々としてその殺害手口を克明に語った。『アクト・オブ・キリング』はその異様な姿をとらえた作品である。



映画『ピアノ・レッスン』(1993)で口のきけない主人公のモノローグ「世の中に聞くべき言葉は少ない」と語っているのを思い出した。はっきりいって、この映画に極端な話、字幕がなくても問題なし。聞くべき言葉が全くないのだから。ある程度予想はしていたものの、これほど中身のない映画とは思わなかった。作品を批判しているのではない。この題材では中身を施しようがないのだ。内容からしてジャーナリズムの視点で語られることが多い本作だが、はっきりいって左脳で語るべき映画ではない。作品は軍の要請に基づいて虐殺を実行したものたちの"殺人という行為"の再現を映し出しただけで、当時の政治的背景が語られるわけでもない。映画が醸しだすのは人間の負の感情の蔓延のみ。右脳100%でそれを受け止めるしか術はない。

映画がはじまってしばらくは映画撮影の風景がえんえんと流れる。殺し方をうれしそうに語る男たち。正直言って眠くなる。だが、後半から映画は活気を帯びてくる。大虐殺の場面の撮影にはいったからだ。再現がリアルすぎて、視察にきていた大臣があせり「共産党員は抹殺しなければならないが、演技は紳士的にやれ」と訳のわからぬことを言う。たとえ演技だとわかっていても、怖さのあまり女、子供が泣き出す。大虐殺という行為にかりたてた人間の暗黒心理が露骨にあぶり出されてしまった。さすがに「これを公開するのはやばいのでは?」という空気が出始める。

虐殺の中心人物アンワル・コンゴが英雄扱いでTV出演する映像が映し出される。それを観ながら、TV局スタッフが「あの男何人殺したの?頭おかしいよね」とつぶやく。そう、人間、ある一線を超えてしまうと正気ではいられなくなるのだ。そもそも虐殺の実行者にして、この映画の撮影に喜んで応じる時点で頭がおかしい。これこそ彼らが少しも反省していない何よりの証。ラスト、自分が被害者を演じた後、「被害者の気持ちがわかった」と語り嗚咽をくりかえす場面が流れる。映画の撮影が進むにつれて彼らの心が変化していったと言いたげだが、どう観ても演技だ。最近TVではカメラを向けられると一生懸命泣こうとする女の子をよく見かけるが、根本的にそれと同じ。カメラが回っているから一生懸命吐こうとしているのだ。つばは何度も吐くがゲロは全く出ていない。まあ、観たくもないけど。映画のタイトルは「ACT OF THE KILLING」。ACTには行為という意味のほか、見せかけとか演技をするという意味もあります。本人ががんばって演技したのか?製作スタッフがそう仕向けたのか?

ジョシュア・オッペンハイマー監督は、「アンワルは"軍からウイスキーを飲まされ、感覚が鈍った状態で人を殺した"と語っていた他の人たちと違って、好きな映画をイメージしながら人を殺していた。彼は演じることで殺人と距離を取っていた。」と語っている。もともと「あなたが行った大虐殺を再現してみませんか?」と持ちかけて実現した企画であるし、人間なんてみんな演じているんだよ、と考えれば目くじらをたてることではないのかもしれぬ。本作の紹介文に"彼は演じていくうちにある変化がおこった"という記述をよく見かけたが、自分の目には最後まですべて演技であり、アンワルが内面的に変化しているように見えなかった。アンワルが反省しないままで終わったら一般公開映画としてはまずいので、製作サイドが力業で変化が起こるように仕向けたか?とにかく"自然な流れによる変化"には見えず、作品として形づけるため無理矢理まとめた感あり。"中身がない"と感じたのはこれが理由。猿芝居を2時間えんえんと見せられてもね...。

この映画を最後までみるとあることに気づく。
そう、クレジットがanonymous(匿名)だらけなのだ。

これはあくまでその一部。他にもanonymousがいっぱい。
アクト・オブ・キリング anonymous

anonymousと表記されているのは現地インドネシアのスタッフ。この映画に関わったことが公になるとかなりの危険が予想される。インドネシア人スタッフは国際人権団体などにも相談した。この作品が大虐殺の加害者と現在の支配層の関係を暴いていることもあり、人権団体側は名前を出せば命の危険もあると警告した。そこで共同監督以下、60人を超えるスタッフの名をクレジットには入れないことにした。人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンドレアス・ハルソノ氏によると「政府にも地方自治体のトップに当時の加害者の息子や親戚が山ほどいる。インドネシアは殺人者の子孫が支配する国と言ってもいい」という。参照 映画本編よりも、最後のanonymous羅列のほうが現在のインドネシア社会の状況がより伝わってくる皮肉。

さて、この映画には中身がない、と書いたがこの映画が作られた意味はおおいにある。
『アクト・オブ・キリング』は多くの映画賞でドキュメンタリー賞を獲得。アカデミー賞長篇ドキュメンタリー賞にもノミネートされた。本作がアカデミー賞にノミネートされたことで、これまで一貫して政府の関与を否定し続けてきたインドネシア政府が一度だけ"あれは虐殺であり和解が必要"とのべたという。新聞やメディアでも虐殺について議論ができるようになってきた。"匿名"の共同監督は「(匿名なので)映画賞を受け取れなくても、この作品がきっかけでインドネシアの人たちが暗い過去を語りはじめてくれたことのほうがずっとうれしい。それが私にとっての名誉だ」と語っている。"映画に世の中を変える力などない"とうそぶきたがる映画人や映画ファンは少し考え直したほうがいいかもしれぬ。

映画内でボビー・マクファーリンの"Don't worry,Be happy"が流れる置物が登場する。グラミー賞最優秀レコード受賞曲であり、トム・クルーズ主演『カクテル』でも使われ大ヒット。そういえば『ダーウィンの悪夢』でもこの曲が...."Don't worry,Be happy"は負の巣窟のような場所で好んで聞かれる曲なのか!?ちなみに筆者もこの曲が入っているボビーのCD持っているんですけど...処分したほうがいいのかな?

映画『アクト・オブ・キリング』は特異な残虐性が、心の中に一度芽生えてしまったら、そう簡単には消えないことを教えてくれる作品。これまで語られることのなかったインドネシア虐殺に光をあてた功績は大きい。一度は観ておきたい怪作である。
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2017.12.10 Sunday | 19:07 | - | - | - |

コメント

お久しぶりです。
moviepad様の文章が大好きなので、新しい記事がアップされるのはとてもうれしいです。

ですが、最近、体力気力の低下が著しく(歳を取るってこういうことだと自覚できるほど)、この映画を観るのは難しそうです。

辛い重い作品はダメとか、お気楽作品は気が進まないとか、地方では観たい映画が上映されていないと言い訳して、昨年は劇場に足を運びませんでした。
今年は体力つけて、映画を観たいと思います。

こちらでは桜が満開です。
moviepad様の所は、初夏の気配が訪れているのでしょうか?
2014/04/16 12:10 PM by パール
パールさん、お久しぶりです♪

>この映画を観るのは難しそうです。

精神衛生上、極めてよろしくない映画です。無理にみなくても...

絶対に映画館で見るべき!作品が最近すごく少ないので
無理されなくてもよろしいかと思います。
たがが、映画。

>辛い重い作品はダメとか、お気楽作品は気が進まないとか、
この条件を満たす作品を探すのはなかなか難しいですね(笑)

今年の夏ごろ、当サイトで「たかが映画だよ」が口癖だった?ヒッチコックの映画全作レビューを予定しています。(既出「サイコ」のぞく)
既に8割程度書きあげてますが、あきれはてるくらいお気楽な記事です(爆)
ご興味があれば、チェックしてやってください。

自分のところでは桜は散ってますが、初夏はまだまだ...。
2014/04/16 8:04 PM by moviepad
多分、最初に名前を知った(意識した)映画監督の名前がヒッチコックだったと思います。

ヒッチコックの映画全作レビュー! 楽しみです。
毎日チェックしながら待ちます!
できれば、小出しにしてください。楽しみを長く味わいたいので(笑)。
2014/04/16 8:13 PM by パール
興味をもっていただけてよかった♪
もちろん小出しです。
2014/04/16 9:13 PM by moviepad

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