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フルートベール駅で

フルートベール駅で(2013 アメリカ)

フルートベール駅で原題   FRUITVALE STATION
監督   ライアン・クーグラー
脚本   ライアン・クーグラー
撮影   レイチェル・モリソン
編集   クローディア・S・カステロ マイケル・P・ショーヴァー
音楽   ルートヴィッヒ・ヨーランソン
出演   マイケル・B・ジョーダン メロニー・ディアス
      オクタヴィア・スペンサー ケヴィン・デュランド
      チャド・マイケル・マーレイ アナ・オライリー

2013年(第29回)サンダンス映画祭作品賞、観客賞受賞。 第66回(2013年)カンヌ国際映画祭「ある視点部門」フューチャーアワード賞受賞

2009年1月1日。カリフォルニア州オークランドの地下鉄フルートベール駅。22歳の黒人青年オスカー・グラントが白人警官ジョハネス・マーサリーによって射殺された事件は全米を大きく揺るがした。地下鉄利用者の数人が事件の一部始終を動画撮影していた。その動画からオスカーが非武装で無抵抗な状態だったことが明らかになると、怒った黒人たちが幾度も暴動を起こした。BART Police shooting of Oscar Grant。『フルートベール駅で』はそのオスカー・グラントの"人生最後の一日"を描いた映画である。弱冠27歳の黒人監督ライアン・クーグラーの長篇デビュー作であり、製作にフォレスト・ウィテカー、母親役にオクタヴィア・スペンサーとアカデミー賞受賞者も名を連ねた。第29回サンダンス映画祭で作品、観客賞のW受賞をはたしたのを皮切りに世界中の映画祭をにぎわし、スパイク・リー、デンゼル・ワシントン、サミュエル・L・ジャクソン、エレン・デジェネレス、オプラ・ウィンフリー、ジェイミー・フォックスなど多くの映画人から絶賛の声があがっている話題かつ問題作である。



映画冒頭、いきなり実際の事件映像が出てくる。
ライアン・クーグラー監督によると"アメリカではよく知られた事件でも他国の人は知らないかもしれない。今から語るオスカー・グラント物語が事実に基づくことを観客に印象づけるため"だという。Court releases dramatic video of BART shooting

この映像を観るたびに心底ぞっとする。全く無抵抗だった青年を警察が取り押さえて射殺している。
これはaggressor(正当な理由もなく攻撃を加えるもの)によるmanslaughter(故殺罪)。
間違って殺したのではない。人間の残虐性のみが動機である"殺人罪"なのだ。

オスカーと同世代だったライアン・クーグラーは、"彼の代わりに自分が犠牲者になることもありえた。この手の事件は何度も起こるので、早く映画化しなければならない"と思い、オスカーの遺族に協力を要請した。だが遺族の信用を勝ち得るのは困難を極め、"この話を煽情的に扱わない"と約束し、やっと遺族の承諾をえた。その約束どおり、映画はまるでドキュメンタリーのように淡々と進む。ライアン・クーグラーいわく、"劇映画といえども、脚色と呼べるのは犬をみとる場面くらい"だそうだ。その犬が弾き殺される場面はオスカーのその後を暗示している。

オスカーには恋人と4歳になる娘がいた。少し前に遅刻が原因で精肉店の仕事をクビになったばかり。薬の売人などをして逮捕歴もあったが娘のために、きちんと仕事につこうと悪戦苦闘中であった。母親の誕生日を祝い、友人たちと新年を過ごすため、地下鉄に乗っていた途中、トラブルに巻き込まれフルートベール駅で途中下車したあとの悲劇。オスカーを演じたマイケル・B・ジョーダンはこの日、オスカーが感じていたであろう、おぼろげな不安をよく表現している。回想場面での刑務所内のオスカー、そして2008年12月31日のオスカー、表情がまったく違う。刑務所で母親と面会中の彼は、若者らしく尖った顔つきをしている。だが、更生を決意した彼は、自分の前に立ちはだかる困難が想像以上に大きいことを悟り、やや途方にくれている。2週間前に仕事をクビになったことを恋人に言えず、妹からの金の前借依頼にも応じてしまう。たまりかねたオスカーは薬の売人に復帰しそうになるが、思いとどまる。オスカー・グラントは根本的に優しい青年であったことがよくわかる。

この映画で一番ほっこりするのは、大みそかの夜、オスカーが、閉店していたお店に交渉し、恋人のためにトイレを借りてやる場面。そこである白人男性と短い会話をかわす。白人男性はオスカーのおぼろげな表情から過去の自分と同じものを感じて声をかけてきた。彼も仕事もなく苦しんでいたが、webデザイナーとして起業し成功。恋人と無事結婚できたと語る。もしこのエピソードが事実なら、オスカーは彼から小さな勇気をもらったはずだ。

ほっこりしたのもつかの間、観客である我々は彼の結末を既に知っている。夜、列車がとおり過ぎるワンショットは不吉な予感を醸しだす。地下鉄に乗り込む場面になるとそれだけでどきどきする。オスカーは弱い面もあるが愛すべきキャラクターであることを知ってしまったからなおさらだ。そして、ついにその場面がくる。それまでの淡々とした描写から一転、臨場感あふれる映像。オスカーが病院に運ばれ、生死をさまよう。たまらなくやるせない。ここで母親役のオクタヴィア・スペンサーがコミカルな持ち味を封印し、見事な存在感を見せる。オクタヴィアは「今までのキャリアの中で一番大きな仕事だった」と語っている。その演技はアカデミー賞助演女優賞を受賞した『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』よりはるかに良い。オクタヴィアもプロデューサーのひとりとして名を連ねており、資金難に苦しむ製作サイドのため、『ヘルプ〜』の原作者キャスリン・ストケットから出資を得ることに成功した。映画では、キャスリンに"Special Thanks"が添えられている。

オスカーを射殺した白人警官ジョハネス・マーサリーはその後、辞職。彼はテーザー銃(Taser)と間違えて、通常のhandgunを使ってしまったと主張しているが、テーザー銃の重さはhandgunの約半分。マーサリーはテーザー銃を右、hanndgunを左側につけており、通常、銃を扱うものが間違えるとは思えない。だが、その主張が認められたのか、彼は"黒人がいない"陪審をへて、過失致死罪で懲役2年、しかも"既に刑務所ですごした時間を考慮して"さらに減刑された。どうみても"過失"には見えなかったが...。この事件においてオスカーが白人で警官が黒人だったら絶対にこんな軽い判決にはならなかっただろう。



こんな状況に黒人グループが黙っているはずはなく、事件後、幾度となく暴動や抗議運動がおきている。you tubeで"oscar grant riot"と検索すればその模様はいくつも観ることができる。oscar grant riot(you tube) 

警官の前で「無抵抗ポーズ」で横たわる抗議者たち
We Area All Oscar Grant

抗議活動は事件から5年たった今でも収まることはない。
Oscar Grant 5yr Anniversary
Oscar Grant Foundation

サミュエル・L・ジャクソンは"奴隷を解放してやったぜ!といいたげな映画より、今でも黒人が無意味に殺される事実をつきつけた『フルートベール駅で』のほうがはるかに勇気がある作品"とほめたたえている。参考

ラストに登場。映画公開を喜ぶオスカーのひとり娘タチアナ

『フルートベール駅で』が絶賛されたにもかかわらず、アカデミー賞から無視され、他の映画賞でもそれほど目立たなかったのは、多くの白人がこの映画が提示した事実を記録に残したくないと感じたからであろう。白人中心のハリウッドやメディアはこの映画をなかったことにしたがるかもしれない。『フルートベール駅で』は映画としても、抑制された演出、後半の臨場感にいたるまで新人監督が手掛けたとは思えない力強い作品である。だが、傑作だとか名作だとかそんな言葉でお茶を濁して終わりにすべきではない。極端な話、映画としての評価なんてどーでもいいのだ。『フルートベール駅で』で描かれた衝撃の事実を決して忘れないこと。これがこの映画を観た者に課せられた使命だと思う。とにかく観て欲しい。『フルートベール駅で』はその一言につきる映画である。伝えたいことがあって作った映画だから、やっぱり面白いけどね。
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2014.03.22 Saturday | 20:07 | 映画 | comments(0) | trackbacks(5) |

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フルートベール駅で/FRUITVALE STATION
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