映画のメモ帳+α

音楽映画、アカデミー賞関連の記事に力を入れています。
ゾンビ、スタートレック、ヒッチコック監督作、ドキュメンタリー映画のカテゴリーもあり。
映画300字レビュー、はじめました。
※TB、コメントともに承認制とさせていただいております

<< 知りすぎていた男 | TOP | めまい >>

間違えられた男

間違えられた男(1956 アメリカ)

間違えられた男原題   THE WRONG MAN
監督   アルフレッド・ヒッチコック
原作   マックスウェル・アンダーソン
脚本   マックスウェル・アンダーソン アンガス・マクファイル
撮影   ロバート・バークス
音楽   バーナード・ハーマン
出演   ヘンリー・フォンダ ヴェラ・マイルズ
      アンソニー・クエイル ハロルド・J・ストーン
      チャールズ・クーパー チューズデイ・ウェルド
      エスター・ミンチオッティ

アルフレッド・ヒッチコック監督は感情的な演技をする俳優をあまり使わなかったと言われています。その代表格のようなヘンリー・フォンダを主演に迎え、実際にあった誤認逮捕事件を事実に忠実に作り上げたのが『間違えられた男』です。犯人と間違えられた男というシチュエーションはヒッチコックの十八番で、実際の事件を参考につくりあげた映画は他にもありますが、"事実に忠実に"描いたのはこの作品のみ。他の作品群とは一線を画す、独特の重みにあふれており、ヒッチコック唯一の社会派映画となっています。

 以下の記事はネタバレしており、結末まで記載しております。未見の方はご注意ください。

物語
ニューヨークのクラブでバスを弾いているマニー・バレストレロ(ヘンリイ・フォンダ)は妻のローズ(ヴェラ・マイルズ)の歯の治療代300ドルを捻出するため、ローズの保険証書で金を借りるため保険会社事務所を訪れる。だがマニーがその保険会社に2度強盗に入った男にそっくりだったため、マニーは警察に連行されてしまう。全く身に覚えがないことだったが、犯人と筆跡まで酷似しており、マニーは犯人とみなされてしまう。留置所に入れられたが、マニーの姉が奔走し保釈金7500ドルを工面してくれたため一時帰宅を許される。ローズは弁護士のオコンナー(アンソニー・クェイル)に依頼し、マニーが無実であるアリバイを証明するための証人探しをはじめる。だが、見つかった証人は2人とも死亡していた。ローズは絶望のあまり精神に異常をきたし、病院に入院した。やがて、初公判が開かれた。オコンナーは保険会社の女性社員の記憶のあいまいさを追求するが、陪審員から「そんなこと聞く必要あるんですか?」という声があがったため、陪審員がこんな調子では絶対に勝てないと思ったオコンナーは審理無効にして陪審員を選び直し、裁判のやりなおしをはかる。その夜、食料品店を襲ったダニエルという男が捕まえられ、調べがすすむうちに彼が真犯人だとわかる。


ヒッチコック カメオ出演場面「間違えられた男」でのヒッチコック・カメオ出演場面!

いきなりこれからスタート!?その理由は単純明快。冒頭から本人が堂々と登場するからです。

"This is Alfred Hitchcock speaking. In the past, I have given you many kinds of suspense pictures. But this time, I would like you to see a different one. The difference lies in the fact that this is a true story, every word of it. And yet it contains elements that are stranger than all the fiction that has gone into many of the thrillers that I've made before."

「私はアルフレッド・ヒッチコックです。今まで多くのサスペンス映画をお送りしてきた。だが今回は少し違うものをお見せします。これは台詞にいたるまで実際にあった物語。私が今までに作ったどのスリラー映画より奇妙な内容があります。」

↓この予告編冒頭にその映像が出てきます。


ヒッチコックが自作映画のどこかに登場するお遊びはすっかり有名になり、観客の中には映画そっちのけでヒッチをひたすら探している人もいることから、今回は"映画に集中してもらうため"冒頭に登場することにしたようです。

ヒッチコックは原作あるいは実話をベースにした題材であっても、設定だけを借り、あとは自由に脚色してしまう人なので、この『間違えられた男』についてもどこまで本当なのかという疑問がわいてきます。個人的には妻が発狂したくだりは創作だろうと思っていました。トリュフォーがその質問をヒッチコックにぶつけたところ"実際に事件に関わった人に協力してもらって、すべてを緻密に忠実に再現した"とのこと。妻のくだりも事実で、むしろヒッチコックは"妻の錯乱を描かざるをえなかったため、夫の物語が中断されてしまいドラマティンクな盛り上がりを欠いてしまった。もとの話に忠実にやろうとしすぎた"と語っている。うー、事実は映画より怖し。フィクション映画ならあの場面は描かなかったということですね。

ヒッチ先生のいうとおり、これは実話に忠実のようです。ヒッチコックタッチは映像表現に垣間見れるのみ。まず、マニーが妻ローズと話している最中子供が不協和音を鳴らし、不吉な予感を暗示する。また、マニーが刑務所に入れられると部屋の隅々とマニーの顔を交互にうつし、彼が不当に狭い独房に入れられたことを映像でじっくり示します。そして、彼が絞首刑で苦しんでいるかのように、映像がぐるぐる回転します。影を首を締める縄のようにみせる演出は『恐喝(ゆすり)』でもありましたね。
間違えられた男 刑務所

言うまでもなくラストです。
まず、主人公が見つめる宗教画が真犯人の影が...
間違えられた男 宗教画

そして町を歩く主人公がしだいに...
間違えられた男 ラスト1
間違えられた男 ラスト2

あのジャン=リュック・ゴダールがこの場面について
「映画とその分身」と称して長ったらしい論文を書いているようです。
読んでません、ゴダール苦手(^^:。

この映画で描かれた内容で特に不快だった点は3つ。

・警察のあまりにずさんな調査。ヒッチコックの映画でこの手の描写は定番だが、フィクションとして見た場合、他の作品とは全く違って見える。過去、冤罪ものの映画はいくつも観たが、この『知りすぎた男』の前半部分ほど腹立たしく、息苦しかったものはない。ヒッチコックの映像マジックで社会派映画をとられるとこんなにヘビーなのか!ヒッチコックが社会派じゃなくてよかった(爆)。それにしても被害にあった店を通り抜けさせて顔を確認させるなんてこんなこと本当にやってたの?この映画を観ながら、警察は犯人を適当にでっちあげて保釈金でもうけているんじゃないか、と真剣に疑ったりしました。

・陪審員のひとりが「今さらそんなことを問いただす必要がありますか?」と言ったこと。これも事実に基づいている。公平な目で判断しなければならない陪審員が、被告を最初から有罪と決めつけている。オコンナー弁護士が"こんな陪審員がいたんでは絶対に勝てない"と審理無効にしたのは英断。はじめ、これを観たとき、被告をさらに追い詰めるため(もう一度裁判をやり直すことになり、経済的負担も増える)の物語上の演出と思ったのですが、まさか事実とは。厄介で面倒臭いことは誰かに罪を追わせてチャチャっと解決してしまえばいい。この手の集団心理の恐ろしさは『間違えられた男』のテーマのひとつでしょう。敵は警察だけじゃなかった。今でも、いや今のほうがより頻繁に見受けられる現象です。

・ラスト、真犯人がつかまり、警察署内で保険会社の女性社員2人がマニーとすれ違う。自分たちの誤証言がマニーの人生を狂わせ、妻は精神に異常をきたしてしまったのだ。彼女たちはマニーに謝るどころが、にらみつけるようにして黙って彼の前を立ち去る。心底ぞっとした。他人の人生を狂わせたことなんてこれっぽちも反省していない。顧客の名誉を著しく傷つけ、多大なる損害を与えた...当然、解雇相当だが実際どうだったのだろうか?

最後に、この実話に関してメモ書き程度に簡単に記しておく。

この映画は『LIfe』誌1953年6月29日号に掲載された "A Case of Identity"という記事がきっかけとなっている。

・主人公の職場であるストーク・クラブはかなり有名な場所。Stork Club(wikipedia) ケネディ一家やヘミングウェイ、チャップリン、マリリン・モンロー、フランク・シナトラなど多くのセレブ常連がいました。黒人女性の入店を断るなど人種差別がはげしく、1951年それに怒ったグレース・ケリーが自分が主催のパーティだったにもかかわらず、見知らぬ黒人女性(なんと彼女はジョセフィン・ベーカーだった!)の手をひいて退場したエピソードが有名です。

Frank D. OConnor・アンソニー・クェイル演じるオコンナー弁護士(Frank D. O'Connor)は1953年に行われたこの裁判で有名人になった。その前後、1949〜1952年、1954年にはニューヨーク州上院議員もつとめている。落選期間中に名を売ったんですね。 O'Connor, Frank D.



Christopher Emmanuel Manny Balestrero・この映画のマニーごと、Christopher Emmanuel Balestreroは映画で描かれているとおり、妻の回復後、フロリダに移住。妻ローズは1982年、72歳でマニーはノースカロライナ州で1996年、88歳で亡くなっている。



『間違えられた男』は社会派映画なので、ヒッチコック映画っぽくないレビューになってしまいました。ただ、映像的にも見ごたえ十分です。モノトーンの映像はクール。あのマーティン・スコセッシが『タクシー・ドライバー』を撮るとき、この映画のカメラワークを参考にしたという話も十分うなづけます。また、バーナード・ハーマンの音楽も控えめながら、時折金切り声のような音が不気味さを醸しだしています。『間違えられた男』はヒッチコックの才能の底知れぬ深さをまざまざと見せつけられた作品です。
人気blogランキングこの記事が参考になりましたら左のバナーにクリックお願いします!

1000 Frames of The Wrong Man (1956)



2014.08.13 Wednesday | 00:19 | A・ヒッチコック | comments(0) | trackbacks(0) |

スポンサーサイト


2017.11.21 Tuesday | 00:19 | - | - | - |

コメント

コメントする









この記事のトラックバックURL

http://moviepad.jugem.jp/trackback/634

トラックバック

▲top