映画のメモ帳+α

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ダイヤルMを廻せ!

ダイヤルMを廻せ!(1954 アメリカ)

原題   DIAL M FOR MURDER
監督   アルフレッド・ヒッチコック
原作   フレデリック・ノット
脚本   フレデリック・ノット
撮影   ロバート・バークス
音楽   ディミトリ・ティオムキン
出演   レイ・ミランド グレース・ケリー
      ロバート・カミングス アンソニー・ドーソン
      ジョン・ウィリアムズ パトリック・アレン
      

アルフレッド・ヒッチコック監督『ダイヤルMを廻せ!』はフレデリック・ノットのヒット戯曲の映画化。ヒッチコックは当初、他の企画を進めていましたが行き詰ったため、"ネタに尽きたらヒットした劇を映画化しろ"という考えのもと、こちらに変更されました。ヒッチコックは物語を広げず映画色を抑えて撮影。「物語を広げて映画的にするのはもってのほかだ。劇を撮る時点ですでに物語は完成している。ヒットの要素であるその構成を変えてはすべてが台無しだ。ただ撮ればいい」と言ったそうですが、ヒッチコックの"ただ撮ればいい"は他の監督とは意味が違います。3D映画として公開されたことも話題。そして..."究極のヒッチコック女優"といわれるグレース・ケリーの、ヒッチ映画初出演作でもあります。




物語
金持ちの妻マーゴ(グレース・ケリー)が不倫していることを知ったトニー(レイ・ミランド)は、妻を殺して遺産をせしめようとした。自分が妻の不倫相手である推理小説家マーク(ロバート・カミングス)とパーティに出かけているあいだに、旧知のスワン(アンソニー・ドーソン)に妻を殺させるという計画だ。だが失敗に終わっただけでなく、逆に妻がスワンをハサミで刺し殺してしまった。トニーは急遽、マーゴが不倫をネタにスワンから脅迫されていたため、彼を殺したという筋書きに変更して逃げきろうとする。マーゴは裁判で死刑を宣告されるがハバード警視(ジョン・ウィリアムズ)は不審に思い、秘かに調査をすすめていた

ヒッチコックの映画はいつもファースト場面が魅力的です。
登場人物の状況を映像だけで鮮やかに語ってくれます。
『ダイヤルMを廻せ!』ではコレです。

ダンナとkissしたと思えば
ダイヤルMを廻せ!kiss1

すぐさま、違う男とぶちゅ。
しかも女のほうが積極的。
ダイヤルMを廻せ!kiss2

わずか数分のあいだに、ヒロインが浮気をしていることがわかります。

何で会話ばかりの映画なのに、3Dで撮影したんだろう?(日本では通常版のみ)当時、TVに対抗するため、シネマスコープと並んで3D映画が作られていた。でもブームは既に去っていた頃だというが...まあ、『ロボット・モンスター』(1953)のように飛び出さない3D映画として有名になった作品もありますが(笑)。ヒッチコックも「鍵の場面とはさみくらいしか効果がなかった」と語り、あまりこの作品については語りたくない様子。

ダイヤルMを廻せ!ハサミ  ダイヤルMを廻せ! key

でも批評は好評で、当時の3D映画としては数少ない成功作とみなされている。あのマーティン・スコセッシが「大きな影響を受けた」と語っており、"MARTIN SCORSESE'S FILM SCHOOL: THE 85 FILMS YOU NEED TO SEE TO KNOW ANYTHING ABOUT FILM"(映画について知りたければこの85本を観ろ)の中の一本に選ばれています。

WarnerBrosOnlineの動画。3Dじゃありませんけどね。



 以下の記事はネタバレしています。未見の方はご注意ください。

当初、妻マーゴが「完全犯罪なんてあるの?」と推理小説家マークに聞く。
マークは「小説ではありうるが、現実にはそううまくいかない」と語り、夫トニーをどきりとさせる。

時計の故障で犯行予定時刻がずれこみ、かつ電話がなかなかあかない。
このあたりの描写はヒッチコックっぽいですね。
なお、受話器に指が伸びる場面、わざわざ大きな受話器と指をつくって撮影したとか。
ダイヤルMを廻せ!電話1

その証拠?のようなスチール写真です。

ダイヤルMを廻せ!電話2
これじゃなくて....

ダイヤルMを廻せ!電話3
こっち。

それにしても台詞で説明されるのでストーリーがわかりにくいですな。
要は、鍵の行方がチェックポイントで、要はこういうことです。ダイヤルMを廻せ!あらすじ(wikipedia.)より引用。

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事件の前夜、トニーはスワンに、部屋に入る際は階段に隠しておいたマーゴの鍵でドアの錠を開け、部屋を出る際に階段に戻しておくように指示した。だからトニーは、部屋を出ることなく死んだスワンのポケットにはマーゴの鍵が残っているものと思い込んでいた。ところが事件当夜にスワンがとった行動は違っていた。スワンは階段から鍵を取り出してドアの錠を開けると、部屋に入る前に鍵を階段に戻していた。スワンの死体のポケットにあった鍵はスワン自身のアパートの鍵だった。トニーはスワンの鍵をマーゴの鍵と勘違いしてマーゴのハンドバッグに入れたのだった。
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鍵をとる場面を見返してみたら、当然鍵を戻す場面はなし。グレース・ケリーがベッドから起き上がる場面のときにスワンは鍵を元の場所に戻したということですね。なお、前述のマーティン・スコセッシは2007年にスペインのカバワインの広告用として、ヒッチコック映画の名作をモチーフにした短編映画を撮っており、この『ダイヤルMを廻せ!』もネタ元に含まれています。題名は"The Key to Reserva"。




さて、グレース・ケリーです。最高のヒッチコック女優と呼ばれ、当作後、『裏窓』、『泥棒成金』と3作連続で起用。グレースにとってはヒッチコック作品が代表作であり、ヒッチコックにとっても『裏窓』が代表作となった。後日ヒッチコックは(女優の好みがまったく同じと言われる『モガンボ』の)ジョン・フォードからグレース・ケリーを奪ってやったと自慢していたといわれていますが、一本目の『ダイヤルMを廻せ!』の頃、グレースはまだ新人であり、ヒッチコックは『モガンボ』すら観ておらず、使ってみたら良かったというパターンのようです。ヒッチコックいわく"雪をかぶった噴火山"だそうで、外面はクール、内面は情熱的というヒッチコックの好みにどんぴしゃり。それは役柄だけではなかったようで...グレース・ケリーはモナコ王妃になるまで共演者の男優とことごとく浮名を流し、この映画の撮影中レイ・ミランドとも不倫していた。グレースは虚弱体質のため、元オリンピック選手の金メダリストである父親から冷たくされ、その反動でかなり年上の男性ばかりとつきあっていた。ゲイリー・クーパーなど噂になった男優は数しれず"お堅いのは顔だけ"、"淫乱、売春婦"とさんざん陰口をたたかれていたとか。ただし、仕事に対しては真面目で現場でも明るくふるまっていたため、共演者からの評判は悪くなかったらしい、です。個人的には顔は好みだけど、声がね...もうちょっとクールな感じだったらよかったのに!と思います。

『ダイヤルMを廻せ!』に限ったことではないですが、この映画のヒロインも状況にあわせて服装の色が変わる。ダンナと一緒のときは白、愛人と一緒のときは赤、そして裁判のときは青,,,、

ダイヤルMを廻せ! 裁判場面
ワタシの裁判、何秒で終わったのかしら....。

ところで、レイ・ミランドってアカデミー主演男優賞をとった『失われた週末』(1945)しか知らないけど、こんなオッサンだったっけ。当時47歳くらい。まあ、年相応か。『失われた週末』のときは、レイ・ミランドみたいな大根役者でもアル中の役をやればオスカーとれるなんて言われていましたが、この映画ではストでもうろたえず、スマートに切り替えすなど"洗練された悪人"を上手く演じている。『ダイヤルMを廻せ!』は『失われた週末』と並んでレイ・ミランドの代表作。オスカーもとって、代表作はビリー・ワイルダーとヒッチコック映画。たとえ他が全部だめでも(観ていないからわかりません)この2本で映画史に残る。一方、ロバート・カミングスは『逃走迷路』に続く2本目のヒッチ作品。前半はよかったけど、後半はちょっとうざい。悪くはないんだけど顔立ちがサスペンス向きじゃない。(サスペンス向きの顔ってどんな顔?)この役はもうちょっとクールな雰囲気の人のほうがよかった。あと、ハバード警視役のジョン・ウィリアムズがなかなかいい味を出しています。彼は『パラダイン夫人の恋』、『泥棒成金』、あとTVシリーズ"ヒッチコック劇場"に8回も出演しており、ヒッチコックお気に入りの俳優のひとりです。ヒッチコックの映画で警官が活躍するのは珍しいパターン。トリュフォーから"あなたの映画で警官はいつも事件のあとで現れ、事件の鍵を何もつかめず、主人公に先をこされてしまう。あなたは警官が嫌いなんですか?"と問い詰められるほど。それに対しヒッチは「嫌いなんじゃない。こわいだけだ」と語っている。個人的には警官がどーのこーのというより、"この程度の証拠で(主人公を)逮捕しないだろー"といつも思ってますが(笑)。ヒッチコックが警官をこわがる理由としては"5歳のとき、父から田舎町の警察署長にメモを持っていくように頼まれた。署長はそのメモをみると私を留置場に閉じ込めて鍵をかけてしまった。5分で出してくれたが署長は"悪さをするとこうなるんだ"と自分を脅した"というエピソードをよく語っている。また、この時の恐怖が忘れられず、サスペンス映画をとるようになったという。

ヒッチコック カメオ出演場面「ダイヤルMを廻せ!」でのヒッチコック・カメオ出演場面!

0:13 クラス会の写真の左手前にいるオッサン。

ダイヤルMを廻せ!  ヒッチコック カメオ

舞台の映画化というと、外の場面を映して映画ならではの特色を見せるというやり方が多いですが、ヒッチコックは小物とかそういう細かいディテールでさりげなく見せている。だから会話主体でもぐいぐい引き込まれる。『ダイヤルMを廻せ!』は、ヒッチコック映画中、数多い舞台劇の映画化のなかでも成功作といえる作品です。
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1000 Frames of Dial M for Murder (1954)

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2024.03.25 Monday | 00:21 | - | - | - |

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