映画のメモ帳+α

音楽映画、アカデミー賞関連の記事に力を入れています。
ゾンビ、スタートレック、ヒッチコック監督作、ドキュメンタリー映画のカテゴリーもあり。
映画300字レビュー、はじめました。
※TB、コメントともに承認制とさせていただいております

<< 逃走迷路 | TOP | 救命艇 >>

疑惑の影

疑惑の影(1943 アメリカ)

疑惑の影原題   SHADOW OF A DOUBT
監督   アルフレッド・ヒッチコック
原作   ゴードン・マクドネル
脚本   ソーントン・ワイルダー アルマ・レヴィル サリー・ベンソン
撮影   ジョセフ・ヴァレンタイン
音楽   ディミトリ・ティオムキン チャールズ・プレヴィン
出演   テレサ・ライト ジョセフ・コットン
      マクドナルド・ケリー パトリシア・コリンジ
      ヘンリー・トラヴァース ウォーレス・フォード
      ヒューム・クローニン

第16回(1943年)アカデミー賞脚本賞<原案>ノミネート

疑惑の影』はアルフレッド・ヒッチコック監督が「私の一番好きな作品」とたびたび語っている作品。その理由は"(スリラーではそこまで手が回らないことが多いが)登場人物の性格や心理を上手く掘り下げることができたから"。また、『疑惑の影』は日本において戦後はじめて公開されたヒッチコック映画。ヒッチコックの名が日本の映画ファンにひろく知られるようになったのはこの作品からだといわれている。



物語
カリフォルニア州のサンタ・ローザで平凡に暮らすニュートン家の長女のチャーリー(テレサ・ライト)。冷え切った家庭と退屈な田舎暮らしに飽き飽きしたいたチャーリーは、同じ名前の叔父チャーリー(ジョセフ・コットン)に会いたいと思っていた。偶然にも、叔父が来訪する。叔父は長女に高価な指輪をプレゼント。だが、その指輪には見知らぬ人のイニシャルが刻まれていた。ニュートン家を政府の調査員と称する2人の男が訪れる。男たちは刑事であり、叔父が未亡人殺しの容疑者であることをチャーリーに告げ、協力を求める。チャーリーはその旨を家族に告げず、ひとりで叔父に対する疑惑を抱えこむが...

はるか昔、ヒッチコック映画をまとめて観たとき、ベストは『疑惑の影』と密かに思っていた。その後ヒッチコック本人が同じことを言っていると知り、ちょっと嬉しくなった。ただ『定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』を読んだ人は、えっ?と思ったかもしれない。トリュフォーからの質問に対し、「私は『疑惑の影』がいちばん好きだなんて言った覚えはない」と語っているのだ。だが、それ以外の機会では度あるごとにヒッチは『疑惑の影』が一番好きと語っているし、娘のパトリシアでさえも「父が一番好きだったのは『疑惑の影』」と明言している。じゃあ、なぜヒッチコックはトリュフォーとの対談であんなことを言ったのか?トリュフォーの質問の仕方が悪いからです。「もし『疑惑の影』以外のあなたの作品が全部なくなってしまったら、<ヒッチコックタッチ>の良さはほとんど知ることができないと思います」とジャブをうっているのだ。それに反応してヒッチコックは「(映画)らしさとか首尾一貫性とかにこだわる輩のお気に入りの映画を私がつくってしまったということだ」と皮肉な回答をしている。批評でも『疑惑の影』がベストと称した声は多々あったようだ。もっとも、ヒッチコックはその後、「"らしさ"なんて気にしない、なんてそぶりを見せながらも、やっぱり気にしていたりする。私だって人間だからね」と付け加えている。ヒッチコックの発言をたくさん読むと、"らしさ"をひたすらこだわっているようにしか見せませんが。トリュフォーの挑発的な発言につい乗せられてしまったが、すぐ我に返った。やっぱり『疑惑の影』がヒッチコックお気に入りの作品という事実に"疑惑"をもつ必要はなさそうです。

『泥棒成金』のDVD特典映像にヒッチコックの孫娘のエピソードが紹介されている。彼女が受講していた映画クラスで「ヒッチコックが好む映画」という課題が出された。彼女は早速祖父(=本人ヒッチコック)に手伝ってもらった。答えは『疑惑の影』。その後、"推敲がたりない"とC判定がかえってきて、ヒッチコックが「一生懸命やったのにね」となぐさめたというオチがあるのですが。

ただトリュフォーがいうように、『疑惑の影』はヒッチコック作品の中では異色の出来であることは確かです。主人公は最後まで悪人のままだし、主人公が何の犯罪を犯したかは映画の半分ごろまでわからない。映画の中で死人は出てこない。派手なサスペンス場面も奇抜なストーリー展開もなく、ほぼ観客の予想どおりに物語は進んでいく。例えばイニシャル入りの指輪をもらった時点で"ああ、これが後でからんでくるな"と容易に予想できるし、未亡人殺しの件も、フランツ・レハールの"Merry Widow Waltz"(陽気な未亡人)という曲の使い方などで検討がつく。調査員として刑事がくるであろうことも....。なのになぜ怖いのか?やっぱり、ヒッチコックいわく"らしさ"に溢れているから。他の作品のように"わかりやすい見せ場"がないだけで、見せ方がやっぱりうまい。いつもながらカメラアングルを登場人物の視点に極限まで近づけている。だから、先が読める話でもいやおうなしに引き込まれていく。

冒頭、叔父がサンタ・ローザ駅に到着するときは、黒煙がもくもく。不吉な予感を示しています。
疑惑の影1

叔父を尾行する刑事たち。この微妙な距離感が上手い!
疑惑の影2

階段から様子をうかがう叔父。
疑惑の影3
ヒッチコック映画において、階段は必需品。階段がらみの絶妙なカットは他にもいっぱいありました。

いわゆる"ヒッチコックシャドウ"ももちろん健在。
疑惑の影4
昼間の場面なのに、影の使い方ひとつでこんなに怖くなる!

最後の最後に、ようやく派手な見せ場が...。
疑惑の影5

この映画の巧い点は、犯人があまり賢くない設定にしてあること。
盗品です、と言わんばかりのものを家族にプレゼントしたり。
高額の金を銀行に預金して足跡をつけたり。
新聞紙をわざとらしく破ってみたり。
思わせぶりなイヤミをたびたび言ってみたり。

私は怪しい人ですよ。疑ってください!といわんばかりの行動、言動を"つい"してしまう。"すべて用意周到、完璧な犯罪者"なんてそうそういないわけで、"ああ、そんなことしたらバレちゃうよ"と観客をはらはらさせる。これも一種のサスペンス

また、同じチャーリーという名前でお互い特別なものを感じていながら、性根がまるで違う2人。また、叔父とその姉、妻と夫、幼い子2人の性格...対照的な個性の"カップル"を周りに配置することにより、ヒロインと叔父の性格の違いをより浮かびあがさせていく。こうした描写の積み重ねにより、予想どおりの展開であっても最後までサスペンスは続く。"いつ正体がバレるのか?"という緊張感が映画の最後まで貫きとおされている。

ヒッチコック カメオ出演場面「疑惑の影」でのヒッチコック・カメオ出演場面!

0:17 列車内でトランプしているオッサン。カードの並びに注目してくれってことらしいですが、まあ、どうでもいいですね。
疑惑の影 ヒッチコック カメオ

『疑惑の影』は良質なサスペンス小説を読み終えた余韻を残し、ヒッチコック映画の中で、最も文学的な味わいをもつ作品である。ストーリーの意外性などに頼らなくてもこれだけ見せ方によってこれだけ怖い!ヒッチコックの巧さが存分に堪能できる傑作だ。
人気blogランキングこの記事が参考になりましたら左のバナーにクリックお願いします!

1000 Frames of Shadow of a Doubt (1943)

スポンサーサイト


2017.11.21 Tuesday | 00:32 | - | - | - |

コメント

コメントする









この記事のトラックバックURL

http://moviepad.jugem.jp/trackback/619

トラックバック

▲top