映画のメモ帳+α

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バルカン超特急

バルカン超特急(1938 イギリス)

バルカン超特急原題   THE LADY VANISHES
監督   アルフレッド・ヒッチコック
原作   エセル・リナ・ホワイト
脚本   シドニー・ギリアット
撮影   ジャック・コックス
音楽   ルイス・レヴィ
出演   マーガレット・ロックウッド マイケル・レッドグレーヴ
      ポール・ルーカス グーギー・ウィザース
      リンデン・トラヴァース メイ・ウィッティ

第4回(1938年)NY批評家協会賞監督賞受賞

はるか昔、NHKBSでアルフレッド・ヒッチコック映画の特集が行われていて、大部分の作品を観ることができた。どれも興味深く観たが、あえて好きな作品を3本あげるなら、『サイコ』、『疑惑の影』、そしてこの『バルカン超特急』だ。『サイコ』はショッキングな題材、『疑惑の影』はサスペンス映画としての完成度がその理由だが、『バルカン超特急』は...単に面白かったから。公開当時イギリスでは当時の興行記録を塗り替えるメガヒットを記録、アメリカでもヒットし、ヒッチコック英国時代の最高傑作として誉れの高い作品です。

自分は、好きな映画を繰り返し観るタイプではない。むしろ、なるべく観ないようにしている。その理由は単純。当初の良いイメージを崩したくないからです。そう、"思い出はきれいなままで"的発想(笑)。2度観てしまった作品も多々あります。評価が下がったことはありませんが、やっぱり鮮度は落ちる。この『バルカン超特急』も×年前に一度観たきりでした。列車の中でなんかドタバタやっていたレベル程度の記憶のみで内容はほとんど忘却の彼方。ただ、当時映画を観はじめて日が浅かったこともあって、映画ってこんなに面白かったんだ!と強烈なインパクトが残った。それ以来、『バルカン超特急』の名前を聞くと妙に楽しい気分になる不思議。こんな作品はそうそうなく、今回再見するのが正直怖かった。初恋の人に会いたくない!そんな感覚。でも無駄な心配。やっぱり楽しかった!

物語
ヨーロッパのバンドリカ(架空の国です)への旅行を終えたアイリス(マーガレット・ロックウッド)は、結婚相手の待つロンドンに戻るため、列車に乗る直前、上から落ちてきた植木鉢が頭にあたり気を失う。気がつくと目の前にはフロイ(メイ・ウィッティ)という老人女性が座っていた。だが、ひと眠り後、フロイはいなかった。アイリスはフロイを探しまわるが、車に乗り合わせていた神経科医ハーツ(ポール・ルーカス)は、アイリスは幻覚をみているだけだといい、他の乗客は"そんな人は最初からいなかった"というばかり。不審に思ったアイリスにたいし、出発前の宿泊先でアイリスといざこざがあったギルバート(マイケル・レッドグレイヴ)という青年が協力を申し出る。



雪崩のためロンドン行き列車が不通になったため、街で唯一あるホテルがごったがえすというシチュエーションからスタートする。まあ、登場人物の紹介というわけですが、そこで目立つのがクリケットが好きなチャーターズ(ベイジル・ラドフォード)とカルディコット(ノーントン・ウェイン)の2人組。一見、彼らが主役ではないかと思ったほどです。ところが、たいして重要な役ではなく、何なんだろう、これはと思っていたら、この2人、当時の人気コメディアンで、コンビを組み、他の映画などにもよく出ていたとか。まあ、人気者を最初に出して、つかみはOK!って感じなんでしょうね。面白かった場面をひとつ。ホテルにメイド用の部屋しか空きがなかったので、この男2人がそこに泊る。そこに、メイドが戻ってくると2人は一緒にベッドで寝ている。ひとりはパジャマ、ひとりは裸。怪しげな雰囲気です。パジャマが一人分しかないので半分ずつ着ていたというオチなんですが、こういうお遊びは好きだな。

ベイジル・ラドフォードとノーントン・ウェイン 1ベイジル・ラドフォードとノーントン・ウェイン 2

ちなみに、この映画、最初と最後以外、ほとんど音楽が使われていない。
なぜなら物語上、音楽が重要な意味をなすから。余計なものはいれないってことですね。
ひとつはアイリスとギルバートの出会いのきっかけ。
そしてもうひとつはこれ。映画の核となる重要な場面。

前半、ホテルの外で歌をうたっていた男。
フロイは窓辺に座り、それをうっとり聞いている。
だが男は後ろから首を絞められ、殺される。
バルカン超特急 暗号を歌う
これを放置したまま物語は進むので観ている最中気になって仕方ないが、後半謎がとける。
彼女は優雅に歌を聞いていたわけではないのだ。
でも、本当にあんなことできるの?
三十九夜』のミスター・メモリーと同じくらい怪しげな手法。
でも、ミステリーってこういう反則すれすれのことをしないと、"月並み"からは脱出不可能ですね。

植木鉢がぶつかって頭がもうろうとしているのを表すための透かし映像。
ヒッチコックお得意の手法ですが、昔ほど過剰には使われていない。
バルカン超特急 透かし1バルカン超特急 透かし2

フロイがアイリスに自分の名前を伝えようとするけど、騒音がうるさくて聞こえない。
仕方なく、フロイは窓に名前を書く。これがのち、彼女が"実在した"証拠になるんですが、この撮り方!
トンネルの中とかじゃなく、あえて窓の風景をバックに見せる。
ある程度時間がたてば、消えてるだろうに...というツッコミはなし(笑)。
バルカン超特急 フロイ

アイリスが眠りについた後、列車走行場面が必要以上に長く映し出される
時間の経過を表しているだけでなく、その後何かが起こるという予感を観客にあたえる。
そして、婦人が消える...うまいなあ。
列車内の物語なので、列車走行ショットはエピソード切り替え時など頻繁に出てきますが、それがどれもキレイ。
毎回、アングルを変えてきます。今、観るとありふれたアングルじゃないか!と感じる人もいるでしょうが、たぶん後世の映画作家たちは、『バルカン超特急』を観て勉強したんじゃないかなあ。トリュフォーも、"今回は列車場面に着目して観てみよう"といって、もう何度も観ていたこの作品をまた観に行ったことがあるらしいし。
バルカン超特急 列車1バルカン超特急 列車2バルカン超特急 列車3

いつもながら、こまかいディテールも楽しい。
ギルバートがイタリア人の奇術師と格闘。それを箱にいれられていたウサギがこっそり観ている。
横でみていたアイリスに対して、「役立たずめ!手伝え」となじる。
ウサギはすぐ顔をひっこめてしまう。かわいい。
バルカン超特急 うさぎ

役立たずといわれたアイリスは、かみます。
牙をむく女(笑)。
バルカン超特急 かむ

ヒッチコックファンなら「ヒッチコックを読む やっぱりサスペンスの神様」という本を読んだことがある人も多いと思います。ここでヒッチコック研究家でも知られるエリック・ロメールドナルド・スポットの評がよく紹介されています。何でこの人たちはヒッチコック映画を眉間にシワをよせて大真面目にみるんだろう、全ての映画を同じフィルターで観るのはナンセンス、と感じることが多々あります。彼らの評は、ほとんどギャグとして読んでいるのですが(怒られそう...)、一部引用してみます。

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・当時の世界の状勢の展開に対する当てつけは辛らつで、乗客の一人である虫の好かない中立主義者が白いハンカチを振っても、それが無駄に終わるシーンはミュンヘン会議のことを呼びおこさせないわけがない。(ロメール)

・ほとんど道徳的あいまいさのないこの映画はヒッチコックのカタログのなかでも珍しい作品だ。(スポット)
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ああ、だからNY批評家協会賞監督賞とか獲っちゃったんですね。
ヒッチコックが映画賞を受賞したのはこれがはじめて、のはずです。
アカデミー賞にはひっかかりもしませんでした。

ヒッチコックいわく「この脚本はアナだらけ」
トリュフォーいわく「何もかもばかばかしくて、すばらしい」

こうこなくっちゃ(爆)。ヒッチコックの映画というのは、大真面目にストーリーを追ったら...なところをヒッチコックが映像マジックで見ごたえのあるレベルまで押し上げていく。その醍醐味をを楽しむものです、はい。傑作のほまれ高い『バルカン超特急』かて、例外ではありませんよ!

少し話がそれますが、この映画で個人的にツボった台詞があります。
ハーツ医師「学説は正しい。事実に問題があるだけだ。」

ヒッチコック カメオ出演場面「バルカン超特急」でのヒッチコック・カメオ出演場面!
バルカン超特急 ヒッチコック カメオ

ラスト、ヴィクトリア駅に降り立ったとき、黒いコートを着て煙草をくわえて横切るオッサンです。

トリュフォーは"すっかり暗記してしまっている"と豪語するほどこの映画がいたくお気に入りのようです。あのオーソン・ウェルズもこの映画を11回観たらしい。この映画で勉強して『市民ケーン』(1941)を作った?そんなことを思いながら『市民ケーン』を見直すと影の使い方、モンタージュ、台詞ではなく説明を省略し映像の積み重ねで見せる手法...ウェルズがヒッチコックから存分に"吸収"したことがよくわかる。それに『市民ケーン』の音楽はあのバーナード・ハーマン!何か不思議な縁を感じます。

 とはいうものの、ウェルズが一番参考にしたといわれているのは『駅馬車』(1939)をはじめとするジョン・フォード監督作と言われている。ウェルズは『オーソン・ウェルズ その半生を語る』でのインタビューで「ヒッチコックは自分を映画を作る気にさせる点では一番手の監督だと言いましたね」との問いかけに「それは彼の英国時代、『暗殺者の家』『バルカン超特急』『三十九夜』を作ったころの話。特に『三十九夜』」「ヒッチコックの作品は計算が見えすぎていて、あまり乗れない。彼は自分でも俳優が好きじゃないと言っているが、俳優だけでなく人間そのものが好きではなさそうだと思われる時がある」と語っている。

『バルカン超特急』やっぱり楽しくて、ヒッチコックの全てがつまっているといっても過言じゃない作品です。
観ている最中はそうでもないのですが、観終わったあと、「面白い映画を観た」という満足感がじわ〜とひろがり、楽しいだけの余韻が長く続きます。こんな不思議な感覚をもたらしてくれる映画はそうそうありません。映画から心が離れそうになったときこの作品を見返すと、映画を観ることの楽しさを再認識させてくれる。『バルカン超特急』はそんな最上の映画です!
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1000 Frames of The Lady Vanishes (1938)

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2017.03.28 Tuesday | 00:18 | - | - | - |

コメント

やっと!観たことのある作品登場です(笑)。ヒロインはキュートだし、謎(ちょっと強引ですが)を引っ張りながら、銃撃戦もあるし…三回は観たはず…。ヒロインの相手役がヴァネッサ・レッドグレイヴのお父様でした?

2014/07/22 7:50 PM by パール
<やっと!観たことのある作品登場です(笑)

あらあら、そうでしたか。「巌窟の野獣」で英国時代のヒッチコックは終わり。あとはヒッチコックがハリウッドに渡ったあとの作品ですので、観たことのある作品、聞き覚えのある作品が増えてくると思います。英国時代のヒッチコック、この『バルカン超特急』と『三十九夜』は観ておいて損はないと思います。

マイケル・レッドグレーヴはおっしゃるとおり、ヴァネッサパパです。
2014/07/23 7:04 PM by moviepad

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