映画のメモ帳+α

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麦の穂をゆらす風 〜I’m not going to sell out〜

麦の穂をゆらす風 (2006 イギリス・アイルランド・ドイツ・イタリア・スペイン)

「麦の穂をゆらす風」原題   THE WIND THAT SHAKES THE BARLEY     
監督   ケン・ローチ       
脚本   ポール・ラヴァーティ  
撮影   バリー・アクロイド     
音楽   ジョージ・フェントン    
出演   キリアン・マーフィ ポードリック・ディレーニー  
      リーアム・カニンガム
      弟59回カンヌ国際映画祭 パルム・ドール受賞作品

理想まであと一歩足りない。
そこでいったん妥協して、次の段階に進む機会をじっくり待つか?とにかく100%理想を追求するか?
不安定な状況に置かれると、ほんの小さな心の葛藤がその後を大きく左右する。

イギリスの巨匠ケン・ローチ監督の最新作である。1920年代のアイルランド独立戦争から内戦へいたるまでの市井の人々の戦いを描いた作品だ。

英国軍の残虐行為を徹底的に描写したことから、「反英国映画」「イギリス人をサディスト、アイルランド人を理想に燃える兵士として描いている」「ケン・ローチはなぜ自分の国を嫌うのか」と一部イギリスマスコミの批判をあびた。イギリスのみならず、アイルランド、オーストラリアでも賛否両論を巻き起こした話題作だ。

〜 ストーリー 〜
アイルランド独立のため戦うことを決意した若者たちがいた。
主人公のデミアンの兄テディ(ポードリック・ディレーニー)はその中心人物だ。
「英国軍相手に何ができるの?」
主人公のデミアン(キリアン・マーフィ)は医者になるためロンドンに発つ寸前だった。
英国軍から尋問された際、与えられた英語名ではなくアイルランド名を名乗ったため、友人が殺されるのを目の当たりにしても決意は変わらなかった。ロンドンに出発するために向かった駅のホーム。駅員、運転手、車掌らがイギリス軍から暴行を受けている。どんなに殴られてもイギリス兵の乗車を拒否し続け、ついにあきらめさせたその姿を見て、ダミアンは医者の道を捨て、アイルランド独立運動に身を投じる決意をする。



アイルランドの人たちは激しいゲリラ戦は繰り広げたため、ついにイギリスは停戦を申し入れてきた。英国軍は撤退し、イギリスとアイルランドは講和条約を結んだ。
だが、この条約から生まれたのは、英連邦の自治領としてのアイルランド自由国であり、
 ・アイルランド自由国議会は英国国王への忠誠を誓わなければならない
 ・北アイルランド6州は、自由国に含まれずイギリス統治下に残される。
など完全独立からはほど遠い内容だった。
「最終的に自由ではないが、それを実現する可能性が与えられた」
「条約を認めてはイギリスからの独立は永久に訪れない」
条約容認派、反対派に国内は分裂し、とうとう内戦に突入。デミアンは反対派、兄のテディは容認派となり、兄弟の絆は引き裂かれることとなる…。

「今やろうとしていることは、それだけの価値があるのかな?」
裏切りの罪で、幼なじみを銃殺する前のデミアンのセリフだ。
敵の脅しに屈した弱き者にすぎなくても、裏切り者であることには変わりない。
行為を終えた後、デミアンはその幼なじみの遺書を彼の母に届けに行く。
母は叫ぶ。「2度と顔を見せないで」
同じやりとりは形を変えて、もう一度繰り返される。

戦争とは”妥協なきもの”同士の戦いである。
だが、少なくてもどちらかが妥協しなければ、戦争は終わらない。

ひたすら信念を貫くゆえの不幸と、妥協して得る平穏な日々 - いったいどちらを選ぶべきか?
「理想と現実」という言葉のもと妥協するかしないかという二者択一を迫られる場面は、我々の人生にも、そしてささやかな生活の一場面にでも頻繁に訪れる。
戦場とは、そんな二者択一を迫られる究極の場所かもしれない。
信念を貫き通すためなら自分の命すら投げ出さなければならないからだ。

戦争時の、ありとあらゆる心の動きを見事に描ききった作品である。
また、自然の光が効果的に使われている映像はとても美しい。部屋に差し込む日差しはその影をいっそう引き立たせる。人々の心模様をそのまま彩ったような美しくも悲しい白黒のコンストラストだ。

この作品は第59回カンヌ国際映画祭(ウォン・カーウァイ審査委員長)にて、下馬評の高かった『VOLVER』(ペドロ・アルモドヴァル監督)や『BABEL』(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督)らを差し置き、満場一致でパルムドール(最高賞)に選ばれた。その栄誉にふさわしい大傑作。個人的にも2006年ぶっち切りのNo.1作品。必見です!
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2006.11.26 Sunday | 00:55 | 映画 | comments(6) | - |

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2024.03.19 Tuesday | 00:55 | - | - | - |

コメント

お久しぶりです。
大阪での上映最終日にみてきました。
たしかに、映像の美しさは、絶品でしたね。そよふく風の様子も、良い感じで撮られていたと思いました。
英国人の監督が、英国の暗部をも描く、こうした作品をつくることじたいが凄いことだと思います。
2006/12/15 10:15 PM by syunpo
syunpoさん、お久しぶりです!

英国を批判するというよりは、当時の英国軍を今のアメリカになぞって見てほしかったのではないか、と個人的には思います。

映像は本当にきれいだったですね。
それゆえ残虐さがより一層引き立つという恐ろしい映画です(笑)
2006/12/15 11:29 PM by moviepad
こんばんは。やっとこの作品を見ることができました。
妥協と理念のぶつかり合い。それが兄弟を永遠に分かつ・・・
でも、あの停戦時、疲労した人々が心から欲していたのは、不平等な条約でもいいから「平和」ではなかったか・・・などと考えました。
TBさせていただきました〜
2007/01/16 1:17 AM by カオリ
カオリさん、こんばんわ。
今年もよろしくお願いします!

<不平等な条約でもいいから「平和」ではなかったか・・・などと考えました。

「マイケル・コリンズ」という映画に(ここで条約を締結せず)「あと70年待てというのか」というせりふがありました。不平等であっても前進には変わりない、たぶんこれは大多数の大人の考えでしょう。ただその年月の分、いろいろな思いが積み重なってきているため簡単に妥協するわけにはいかないと考える人がいるのも当然だと思います。

どちらかが正しい!と自信をもっていえる人は誰もいないでしょう。究極の選択ともいえる状況を見事に描ききってますね。一度見たら絶対に忘れられない。近年まれにみる名作だと思います!
2007/01/16 2:09 AM by moviepad
こんにちは!
以前から観たかったのですが、やっと鑑賞出来ました〜wowowで。
いや〜〜〜重い映画でした。
呆然としてしまって涙も出ませんでした。
劇中で起きている事がとても虚しくて、観ていて辛かったです。
『戦争時の、ありとあらゆる心の動きを見事に描ききった作品』―そうでしたね〜
どうしてこんな事に!!(内戦など特に)と思いましたが、『戦争時』だったのですよね。
悩む事も戻る事もできす、ただ信じた道を進むしかなかった人たちの生き様に胸が締めつけられました。
2007/10/10 2:53 PM by 由香
由香さん、こんばんわ!

戦争中の残虐行為を描いた作品は多々あれど
戦争という状況の中での心理状態をここまで描いた作品はそうそうないでしょうね。
『ボルベール』や『バベル』を押しのけてのカンヌパルムドール受賞は大納得です。
でも、とても厳しい作品なので、もう一度観るのはつらいかな(^^;
2007/10/10 7:41 PM by moviepad

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