下宿人
下宿人(1927 イギリス)
原題 THE LODGER
監督 アルフレッド・ヒッチコック
原作 マリー・ベロック=ローンズ
脚色 エリオット・スタナード アルフレッド・ヒッチコック
撮影 バロン・ヴェンティミリア
出演 アイヴァー・ノヴェロ マリー・オールト マルコム・キーン
アーサー・チェスニー ヘレナ・ピック ジューン
(日本劇場未公開)
『下宿人』はアルフレッド・ヒッチコック監督の長篇第3作目。前2作がメロドラマだったのに対し、当作はあの"切り裂きジャック"をモチーフにした王道サスペンス。ヒッチ自身が"実質的な私のデビュー作"と語っているとおり、サイレント映画ながらも、ヒッチコックらしいさにあふれた作品だ。

監督 アルフレッド・ヒッチコック
原作 マリー・ベロック=ローンズ
脚色 エリオット・スタナード アルフレッド・ヒッチコック
撮影 バロン・ヴェンティミリア
出演 アイヴァー・ノヴェロ マリー・オールト マルコム・キーン
アーサー・チェスニー ヘレナ・ピック ジューン
(日本劇場未公開)
『下宿人』はアルフレッド・ヒッチコック監督の長篇第3作目。前2作がメロドラマだったのに対し、当作はあの"切り裂きジャック"をモチーフにした王道サスペンス。ヒッチ自身が"実質的な私のデビュー作"と語っているとおり、サイレント映画ながらも、ヒッチコックらしいさにあふれた作品だ。
〜物語〜
19世紀末ののロンドン。ブロンド女性だけを狙った猟奇殺人が火曜日の夜に連続して起きるようになった。犯人はthe avenger(復讐鬼)と呼ばれ、街中が震えあがっていた。そんな最中、ある下宿屋にひとりの男(アイヴァー・ノヴェロ)がやってくる。男は下宿屋の娘デイジー(ジューン)と仲良くなる。デイジーの恋人はロンドン警視庁の刑事ジョー(マルコム・キーン)だ。男はたびたび、殺人鬼をほうふつさせる不審な行動をとるため、デイジーの両親やジョーは男に対する疑惑を深めていくが...〜
ヒッチコックの映画でたびたび登場する"間違えられた男"パターンの物語ですね。
ヒッチコックは、原作の舞台化を観て映画化を決意。舞台よりもっと単純化しよう、下宿人の女主人の視点のみで描いてみようと試みた。これがヒッチコックのエッセンス。登場人物を無駄に増やしたり、キャラづけしたりせず、演出だけで勝負。だからヒッチコックの映画は一気に観ることができる。
冒頭、ブロンド女性ばかりが殺されるという状況を映像だけで示してくれます。
ヒッチコックはこの設定が気に入ったんでしょう。(笑)

シャンデリアが揺れ、下宿人が2階で床を歩き回る姿が1階から素通しでみえる演出は特に評判を呼んだ。
(床にガラスをつかって撮影したという)

また、ヒッチコックの映画にたびたび登場する"階段"。階段を下りる際、手だけが映し出されるのも怖さを醸しだす。下宿人の部屋の不気味さやデイジーが風呂に入っている場面は、後の『サイコ』(1960)をほうふつさせる。『サイコ』同様、『下宿人』でも実在の殺人鬼をモチーフにしているが、あくまでネタとして少し借りた程度。ヒッチコックに実話物を語る趣味はない。
それにしてもアイヴァー・ノヴェロは上手い。男の不気味さ、繊細さを見事に体現。顔がドアップとなり、デイジーに迫るラスト場面は色気とスリルを同時に醸しだしている。ラストはもう少しあいまいでもよかった気がする。ヒッチコックも下宿人の正体がわからないままで終わらせたかったらしいが、当時の大スター、アイヴァー・ノヴェロを悪役で終わらせるわけにはいかないという事情ゆえ、ああいうふうになったという。今なら悪役のままで終わりもありかな、と思い、2009年の当作リメイクを観てみましたが...設定を借りただけでほとんど別物でした。
この『下宿人』からヒッチコック本人がカメオ出演するというパターンが出現。お金がないから自分でもエキストラを演じただけで、他に意味はないとのこと。この映画では2回にわたって登場している。ヒッチコックがたびたび、”無実の罪をきせられた男"というシチュエーションを好んで使うのは、それが観客に"危機感と感情移入"をもたらすからだという。長篇第3作めの『下宿人』に関するインタビューひとつとっても、ヒッチコックは"観客の目線"を相当意識していることがよくわかる。そんなの当たり前じゃないか!と思う人も多いだろう。だが、その"当たり前"のことがきちんとできている人は本当に少ない。

0:03 編集室にて机に座っている男
1:32 逮捕劇に群がる野次馬のひとり。
最初と最後ですね。


ラスト近く、主人公は手錠をかけられてしまう。手錠はヒッチコックの映画に頻繁に登場する小道具である。まあ、ミステリーなら当たり前だが、犯人としてつかまるというよりは"行動の自由がきかなくなる"小道具としての使い方。手錠をかけられたまま逃げ出したりしますからね。
サイレント映画といえば、だいたいメロドラマかコメディ。サイレントでのサスペンス映画でこの映画を超えるものはそうそうないのではないか?フリッツ・ラングの『M』などと並んでサイレント・サスペンスの最高峰のひとつ。映像に集中せざるをえない分、ヒッチコックのエッセンスがまさに凝縮されている。ヒッチコックといえば、どうしてもトーキー以降、かつハリウッドに渡ったあとの作品群ばかりが語られるが、『下宿人』はサスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコックを語るうえで絶対に外せない傑作である。

1000 Frames of The Lodger (1927)