映画のメモ帳+α

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バックコーラスの歌姫たち

バックコーラスの歌姫たち (2013 アメリカ)

バックコーラスの歌姫たち原題   20 FEET FROM STARDOM
監督   モーガン・ネヴィル
撮影   ニコラ・B・マーシュ グレアム・ウィロビー
編集   ジェイソン・ゼルデス ケヴィン・クローバー
出演   ダーレン・ラヴ メリー・クレイトン リサ・フィッシャー
      タタ・ヴェガ クラウディア・リニア ジュディス・ヒル
      ブルース・スプリングスティーン ミック・ジャガー スティング
      スティーヴィー・ワンダー シェリル・クロウ ベット・ミドラー
      パティ・オースティン クリス・ボッティ

第86回(2013年)アカデミー賞長篇ドキュメンタリー賞受賞

「なんで、このワタシがこんな下手っぴいな奴の後ろで歌わなきゃいけないの?」TVの歌番組で、バックコーラスの人が映るたびに内心こんなこと思っているんだろうな、という妄想にとらわれる。最近は、生で歌えず口パクonlyの"歌手"も多いらしいし。コーラスはおろかユニゾンすらまともにできないアイドルグループとかね。何のために人がいっぱいいるの?今からご紹介する映画の登場人物はたぶんこんなことは思っていないでしょう。彼らは超一流歌手のバックコーラスを務めた人ばかりです。その映画とは『バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち』。ブルース・スプリングスティーン、スティング、ミック・ジャガーといった大物のバックコーラスをつとめた女性たちにスポットをあてたドキュメンタリー。2013年のサンダンス映画祭で公開されるや評判を呼び、各映画賞のドキュメンタリー部門でも多数ノミネートを受けている話題作です。



「バックコーラスからメインの位置までの距離は20フィート(約6m)。だけどそこにたどりつくのが難しい。もどかしいよね」

冒頭、ブルース・スプリングスティーンがこう語る。映画の原題"20 FEET FROM STARDOM"のネタ元となっている言葉だ。あまり好感がもてる話し方ではなく、わああ、超上から目線!ブルースって嫌な奴だわ....。と思ったが、映画を観るにつれて彼が何を言わんとしているか読みとれていく。字面だけを追って過剰反応してはいけませんよ(笑)

ダーレン・ラヴ、メリー・クレイトン、リサ・フィッシャー、タタ・ヴェガ、クラウディア・リニア、ジュディス・ヒルなどのバックコーラスシンガー、そして彼女らを使う側であるブルース・スプリングスティーン、ミック・ジャガースティングスティーヴィー・ワンダー、ベット・ミドラーパティ・オースティンらの大物アーティストのインタビューを織り交ぜる形で映画は構成される。バックコーラスシンガーの現在の境遇はさまざま、チャンスをつかみかけている人、ソロデビューはしてみたものの成功しなかった人、引退してしまった人、失望し、一度音楽業界を離れたが再び舞い戻ってきた人、さまざまだ。トップアーティストのインタビューを織り交ぜることで、彼らとバックコーラスシンガーとは何が違うのかを考えさせるつくりとなっている。

「私たちを下にみなし、裸同然の衣装を着せた人もいた。」
あるバックコーラスシンガーはこう語る。それが誰とは言わなかったが、映画ではそのシンガーが誰と一緒に仕事をしたかわかるようになっているので概ね見当がつく。あの娘この娘だろうな、とか...。この映画に登場する大物アーティストたちは"比較的理解のある人"だと考えていいだろう。

印象的だったのが、ルーサー・ヴァンドロス。もちろん彼へのインタビューなどあるわけがなく、アーカイブ映像なのだが、何とも暖かい雰囲気で彼女たちに接していた。その理由は明白。ヴァンドロス自身、バックコーラスシンガーとして長い下積み時代を経てデビューした経歴があるからだ。映画ではそのあたりはさらっとふれる程度。映画を観るにつれてルーサー・ヴァンドロスのような成功例は超レア・ケースであることに気づく。映画に登場するバックコーラス・シンガーはその世界では有名で、成功者の部類に入る人たちだが、誰もルーサー・ヴァンドロスにはなれていない。製作者たちは、"もし彼が生きていれば、映画のテーマをもっと深く掘り下げられたのに"とうらめしく思ったに違いない。

登場人物中、一番の大物はダーレン・ラヴローリング・ストーン誌の選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第84位にランクイン。2011年には、ロックの殿堂入りもはたしている。でも、彼女の名前を知る人は業界人以外は少ない。クリスタルズの全米No.1"He's A Rebel)"など、実際はダーレン・ラヴを含む3人の女性グループ、ブロッサムズが歌っていた。彼女たちはクレジットされることはない。今度も自分たちの名前で...と期待をかけてレコーディングしてがまたしてもクリスタルズ名義...。その無念が映画で語られている。ダーレンにもチャンスは訪れるが、クリスタルズをプロデュースしていたフィル・スペクターの妨害により、ダーレンはあくまで"バックコーラスシンガー"の枠内に閉じ込められてしまう。失意の彼女は音楽業界を去ったが、ラジオで"私の曲"が流れているのを聞いたことをきっかけに業界に復帰した。「ホームアローン2」の主題歌"All Alone On Christmas"の主題歌を歌っている。



クラウディア・リニアはアイク&ティナ・ターナーのバック・コーラス(兼アクロバック・ダンサー?)アイケッツのメンバーだった。映画『TINA ティナ』をちょっと観ただけでも彼女たちがどういう扱いを受けていたか容易に想像できますね。クラウディアはミック・ジャガーやデヴィッド・ボウイらと浮名を流した。ストーンズのヒット曲"ブラウン・シュガー"は彼女に捧げられた曲と言われている。ジョージ・ハリソンジョー・コッカー(いい人っぽい)とも仕事をするなどそうそうたるキャリアだ。プレイボーイ誌でヌードを披露したことを聞かれると苦笑い。才能はありながらも時の流れに翻弄されてしまった女性という印象。現在は音楽業界から足を洗い、スペイン語教師として生計をたてている。

メリー・クレイトンはこの映画の登場人物で一番鼻っ柱の強そうな人だ。キャロル・キングの大アルバム「つづれおり」(私も持っています)に参加、レイ・チャールズのレイレッツでの活動(ステージの途中でメロディを忘れてしまい、レイに教えてまらったエピソードを語ってました)やストーンズの"ギミー・シェルター"に参加したことで知られる。1970年にソロアルバムを発表し、"ギミー・シェルター"のソロ・バージョンを発表。ビルボード最高73位まであがった。(歌は歌えたが)「他人を楽しませようとする気持ちがなかった。人に合わせるのも苦手だった」と彼女は回想する。ソロ活動、女優活動などをへて、今でもクラブで歌っているという。



タタ・ヴェガは映画での登場場面はそれほど多くないが、ミュージカル女優からゴスペルシンガーへ転身、そうそうたるメンバーのバックコーラスとして参加。映画『カラーパープル』にもゴスペルシンガーとして出演している。ソロとしても「フル・スピード・アヘッド」(76)など数枚リリースしている。

バックコーラスシンガーとしてスタートし、今でもソロ活動を続けているのがリサ・フィッシャー。。1991年にリリースしたソロアルバム『So Intense』がR&B部門のチャート1位を獲得、翌年には"How Can I Ease the Pain"にてグラミー賞R&B女性ボーカル賞を受賞。(パティ・ラベルと2人受賞)この時、ノミネートされていたのが、アレサ・フランクリン、グラディス・ナイト、ヴァネッサ・ウイリアムス...いかに彼女の実力が認められていたかを示している。だが、アルバムリリースは1枚にとどまり、その後ソロとして成功したとは言い難く、今もバックコーラスの仕事も続けている。映画では「彼女はソロとして活動していくには、性格が優しすぎる」と評されている。確かにそれほど自己顕示力が強くなさそうな女性だ。



そして、今、まさにバックコーラスガールからソロ歌手への転換期をむかえているのがジュディス・ヒル。この名前に聞き覚えのある人は多いかもしれない。そう、映画「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」でマイケルとのデュエット相手に大抜擢された彼女ですよ! マイケルの急死でチャンスを棒にふったかのように見えたが、10億人が観たといわれるマイケル・ジャクソン追悼式典で"ヒール・ザ・ワールド"を歌いあげて注目を集めました。「ずっと泣いていて歌える状態じゃなかったんだけど、いざステージにあがると何とかなった」と語る彼女。このチャンスを生かすため、彼女はその後、バックコーラスの仕事を断ってきましたが、そう事は簡単でない。バックコーラスは"副業"と割り切り、今もこっそり続けている模様。映画ではカイリー・ミノーグのバックで歌う彼女の姿が映し出されます。ウィッグをかぶるなど変装したにもかかわらず、めざといファンに見つけられ、ツイッターで"マイケルと一緒に歌った人が、バックコーラスをしているなんて!"と苦情が寄せられたという。彼女はあえて言い訳はせず、"あら、ばれちゃった?”で応答した。




さて、この映画のテーマである"メインの歌手とバックコーラス・シンガーとは一体何が違うのか"である。
スティングは「歌がうまいからといって売れるとは限らない。うーん、やっぱり運だろうね」と言いにくそうに話す。また、誰がいったか忘れたが"前に出ていこうという気合が足りない"という日本の会社にはびこる説教オヤジみたいなコメントもあった。また、パティ・オースティンも直接的表現はしていないものの、そう言いたげな表情をしていた。映画の中ではその答えは導いてくれない。

個人的にはあることを思った。
バックコーラス・シンガーというのは根本的にソロ歌手へのステップではない、と。
そもそもソロ歌手になる人とバックコーラスシンガーになる人とでは最初の"動機"が違うのだ。
ソロ歌手になりたい人は大部分が"スターになりたい人”だ。あるいは"自分で曲も書き、アーティストとして活動したい人"。ゆえに彼等はバックコーラスからキャリアをスタートしようとは最初から考えない。
一方、バックコーラスからはじめる人は"純粋に歌うことが好きな人"。牧歌隊出身の人が多いというのがまさにそれを裏付ける。彼女たちはスターになりたい、有名になりたいというよりは好きなことを仕事にできれば...そういう認識なのだ。映画の中で、バックコーラスシンガーでソロ転向願望のある人が意外と少ないと語られているがそれも納得。「他の人と一緒に奏でることに意味がある。」と語る人もいた。負け惜しみのように聞こえなくもないが、おそらく本心だろう。生き方、考え方の違いであり、説教オヤジに怒られる性質のものではない。(笑)

よくできた楽曲には力強いバックコーラスがつきものだ。
だが、最近、そういう曲を聞く機会が減っている。
映画でも"最近仕事が少なくなっている。コスト削減と称して、コーラスまで自分たちでやってしまう"という嘆きが聞かれる。最近の洋楽事情に疎いのでよくわからないが、日本でもしかり。その結果...(以下省略)。

最後、皆が映画のために集まり、"lean on me(私を頼って)”を歌う場面は圧巻!人間の声こそ最高の楽器であることを知らしめてくれる。「バックコーラスの歌姫たち」は単なる音楽物ではない。彼女たちの姿を通して人がキャリアを構築していく上でブチ当たる壁が見事に描き出されている。この作品はもしかすると、万人の心に響く映画ではないかもしれない。提示されるのは想像以上に厳しい現実。"泣ける"とか感動とかを期待すると肩透かしを食う。しかし、"キャリアの壁"にぶつかったことのある人なら、何かしら心あたりのある"感覚"に出会えるはず。一見の価値は十分にある佳作です!
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2017.03.26 Sunday | 02:47 | - | - | - |

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