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キャプテン・フィリップス

キャプテン・フィリップス(2013 アメリカ)

キャプテン・フィリップス原題   CAPTAIN PHILLIPS
監督   ポール・グリーングラス
原作   リチャード・フィリップス 『キャプテンの責務』
脚色   ビリー・レイ
撮影   バリー・アクロイド
編集   クリストファー・ラウズ
音楽   ヘンリー・ジャックマン
出演   トム・ハンクス バーカッド・アブディ バーカッド・アブディラマン マハト・M・アリ
      マハト・M・アリ マイケル・チャーナス マイケル・チャーナス コーリイ・ジョンソン
      マックス・マーティーニ クリス・マルケイ ユル・ヴァスケス
      デヴィッド・ウォーショフスキー キャサリン・キーナー

第86回(2013年)アカデミー賞作品、助演男優(バーカッド・アブディ)、脚色、編集、録音、音響効果賞ノミネート   

映画は作品内から読みとれる情報のみで判断すべき、個人的にはそう思っている。だが、どうしても例外はある。時事的テーマを扱った場合だ。公開時期によって映画の印象も評価も大きく左右されてしまう。ポール・グリーングラス監督『ユナイテッド93』(2006)を観た直後、まさにそれを感じた。『ユナイテッド93』はリアリティあふれる傑作だ。でも9.11からわずか4年でこれを撮るって...案の定、ブッシュ前大統領は『ユナイテッド93』を大絶賛。グリーングラスはイラク戦争正当化に片棒をかつぎたかったのか!と憤慨した。そのグリーングラスがまたしても事実を題材にした映画『キャプテン・フィリップス』をつくった。2009年、コンテナ船「マーク・アラバマ号」がソマリア海賊に乗っ取られ、乗組員の解放と引き換えに、船長自ら人質になった実話がベース。またしても4年前かよ!(笑)まあ、今回、グリーングラスは"雇われ監督"のようだし、前評判が高いのでイヤイヤ観に行きました。それにしてもグリーングラス、英国人なのにアメリカの何とかが好きですね〜。



まず、船に"ご出勤"する前、船長のリチャード・フィリップス(トム・ハンクス)が妻アンドレア(キャサリン・キーナー)に向かって、「自分たちの頃は真面目にやっていれば、船長ぐらいなれたものだ。でも今は違う。サバイバル競争が激しく、何でも"早い、安い"が優先。おまけに就職難ときている」と語る。一見、何てことない無駄話のように思えるが、ここで語られる"世の中が複雑化し、不条理なことが増える"状況はこの映画全体にとめどなく漂っている。

ポール・グリーングラスらしく、ドキュメンタリータッチで描かれる。短いカット割りを思わせぶりに重ねたり、アートぶって長回しを多用したりしない。また、個々の登場人物のキャラクターや背景を大げさに強調したりもしない。それゆえ、観客は気をそらされることなく、物語に集中することができる。特に秀逸なのは音楽。この手の作品は仰々しい音楽がつきやすいが、ヘンリー・ジャックマンのスコアは激しくも、うまく映像に溶け込んでいる。マーク・アラバマ号が海賊に乗っ取られる場面でのスコアは圧巻だ。

ソマリア海賊は政治的な意図があるわけではない。単に生活のためにやっているのだ。若い彼等はアメリカの船を襲うという難題を押し付けられる。成功しても"収穫物"はほとんどボスに搾取される。失敗すれば、助けになどは来てもらえず、最悪の場合、命を落とす。リチャード・フィリップス船長でも助かったのは(映画をみる限りでは)運がよかっただけのように見える。あのケースであれば死ぬ可能性は高い。船長は無事救出され、女性救命員に事務的な質問をたたみかける。返り血をあび、ほんのわずか前まで死と背中合わせだった男が饒舌に応えられるわけがない。ここでうめき続けるトム・ハンクスの演技はキャリア最高といってよい。俳優としての業の深さを見せつけてくれた。

無事救出されたにもかかわらず、ハッピーエンドの香りが全くしない。問題が解決したわけではなく、同じようなことが今後も続くことが容易に想像できるからだ。シンプルな感動を求めてこの映画を観ると少し肩透かしを食う。池上彰氏の著書によると、日本と違い、世界ではテロリストとは一切交渉しないという考え方が基本。テロを広げないためにはテロを成功させてはいけない。一気に叩き潰せということだそうです。このソマリアでの事件、内容的には"テロ"ではなく"強盗"。他国からの"強盗"行為に対し、アメリカ海軍が"人命優先"の考え方をとっていたのかどうか映画からはよくわからなかった。

ソマリアの若者たちは死に、ひとりは33年の形を課せられた。彼等を取り仕切っている"ボス"はのうのうとしているのに、若き青年が人生を棒にふらされた。"速い、安い"がモットーのご時世、ひとの命も安くなり、早く切り捨てられる。自ら人質になり、船員の命を救ったフィリップス船長の男気すら"時代遅れの感覚"になってしまうのかもしれない。ちなみにフィリップス船長は「忠告を無視して海域に入り、自分たちの命を危険にさらした」として船員から訴えられている。

映画『キャプテン・フィリップス』のモデルとなった船長、「実際はもっとひどかった」

映画『キャプテン・フィリップス』は、アメリカからの一方的な視点でないことで作品にバランスがとれ、単なる"感動ドラマ"に陥っていない。この作品では泣けないが、それは長所である。船長が人質にとられ、海軍が出陣してからは場面ごとの密度が濃いため、134分の上映時間が5時間くらいに感じられる。それでいて退屈している暇はない、極太のサスペンス映画だ。ポール・グリーングラス監督、トム・ハンクスともにキャリア最高の一本!絶対に観て損はない傑作。密度の濃い時間がすごせます。
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2013.12.01 Sunday | 19:13 | 映画 | comments(0) | trackbacks(7) |

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