映画のメモ帳+α

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嘆きのピエタ

嘆きのピエタ(2012 韓国)

嘆きのピエタ原題   피에타
英題   PIETA
監督   キム・ギドク
脚本   キム・ギドク
撮影   チョ・ヨンジク
音楽   パク・イニョン
出演   チョ・ミンス イ・ジョンジン
      ウ・ギホン カン・ウンジン
      クォン・セイン チョ・ジェリョン

第69回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞

最近、いわゆる"スター映画"を受け付けない。大部分のスター俳優はどの役を演じても本人にしか見えないので、有名俳優が大量に出演している作品はそれだけでパスしたくなる。俳優は作品の中で役に見えればそれでいいのだ。逆に言うと、俳優の力に頼らない映画づくりをしている監督の映画なら観たいな、と思う。韓国の鬼才キム・ギドク監督はその数少ないひとり。ギドクは脚本さえしっかりしていればいいという考えの持ち主で、撮影はいわば早撮りで有名。俳優に"考える暇を与えてくれない"を不満をこばされることもあるという。第69回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した、キム・ギドクの新作『嘆きのピエタ』はチョ・ミンスイ・ジョンジンという有名俳優を起用しているが、撮影期間はたったの11日。脚本さえしっかりしていれば、11日間でヴェネチアを制覇できるのだ。



物語
生まれてすぐ親に捨てられ、孤独に生きてきたイ・ガンド(イ・ジョンジン)は、法外な利息のついた借金を払えない債務者に重傷を負わせ、それによる保険金で借金を返済させる取り立て屋をしている。そんなガンドの前に、母親と名乗るミソンという女(チョ・ミンス)が現れた。彼女を信じず、邪険に扱っていたガンドだが、女から注がれる無償の愛に心を開くようになった。だが、突然、女は姿を消し...

映画「嘆きのピエタ」について、2つの側面から述べていく。
ひとつは映画の内容そのもの、もうひとつは映画の外の出来事から語っていく。

ピエタ (ミケランジェロ)タイトルの「ピエタ」は(Pietà 哀れみ・慈悲)とは、聖母マリアがイエスの亡骸を抱く彫刻や絵のこと。ギドクは、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂にある、ミケランジェロのピエタ像を観て、この映画の着想を得たという。ギドクは海兵隊を除隊した後、障害者保護施設で働きながら神学校に通っていた時期があり、その頃から「いつか贖罪を表現したい」という思いがあったという。だが、この映画のテーマは贖罪というよりは作品中、母親と称する女が語る次の台詞に集約されている。

金,...復讐。すべてのはじまりでありすべての終わりでもある

金で動くものは金で身を滅ぼす。復讐にいそしむものはいつか返り討ちにあう。人間の欲望は全て自分の身に還ってくる。残虐な暴力行為を繰り返していたイ・ガンドは母親が現れ、守りたい人ができた途端、過去、自分が痛い目にあわせた者からの復讐、つまり母親に危害を加えることにおびえるようになる。自分が他人に痛みを与えているばかりのときは気付かない。自分に同じ痛みがふりかかってきてはじめて、自分の行為の意味を知る。復讐をしても結局は何も満たされない。むなしさと哀しみが増えるだけ。それでも"復讐"せずにはいられない。人間の性、怨念。そうして負の連鎖はひろがっていく。「あいつもかわいそうなの」女は叫ぶ。慈悲と復讐-2つの感情がせめぎあう。自分の罪をどうすれば償うことができるのか?”贖罪の正しい表現方法"を人は誰も知らない。だから神に祈る。自分の身体を自ら痛めつけ、他人から観てわかる形で"贖罪"を示そうとする者もいる。そんな"贖罪表現"が正しいかどうか、答えは誰もわからない。表面だけのパフォーマンスにすぎず、心は変わっていないかもしれない。自分が愛し、自分を愛してくれていると思い込んでいた人が、実は自分を憎んでいた。それを知ったときに芽生えるものは"相手に思いをはせる”贖罪”か?それとも"自分のことだけを考えた故の"絶望か?ラストはどちらにも解釈できるだろう。因果応報にどう対処すべきか?人間の生き方の永遠のテーマである。

話をもうひとつの側面にうつす。
前作「アリラン」でギドクは自らの山籠り生活をドキュメンタリーで撮影した。
この映画の真の製作目的は商業主義ばかりがはびこる、今の映画製作環境への反発を身をもって示すことではないか。
拙記事に書いたが、「嘆きのピエタ」の韓国劇場公開において、まさにその思いを体現した行動をとっている。
世界的な名声を誇るキム・ギドクは「韓国内で私は有名だが、私の映画は有名ではない」と語っている。
韓国では過激な作風に酷評の嵐、まるで、ゴ○ブリのように言われることも多いため、ギドクは韓国メディアの取材はほとんど拒否している、と言われている。そんな韓国映画界でもヴェネチア国際映画祭金獅子賞の栄誉は無視できなかったようだ。韓国でも観客動員数60万人を突破するヒットとなった。そんな大ヒットの最中、自らの意思で4週間で興行を打ち切ったのだ。

ギドクは商業大作が韓国の映画館を独占している状況をなげき

"僕は、映画館独占に対する問題を提起した当事者として、9月6日に公開された「嘆きのピエタ」の上映終了を配給会社と話し合い、公開第4週の28日目を最後に、10月3日すべての劇場からきれいさっぱり撤退します。そして、チャンスに恵まれない小さな映画に上映の機会が与えられることを心より希望しています。"

と声明を発表した。ギドク声明の全文はこちら

日本でも昨今、ミニ・シアターの閉鎖も続出、インディペント系映画の苦境が伝えられているが、韓国のそれは日本とは比較にならないほど酷いらしい。ギドクは日本の状況について「環境は良いのに、小説や漫画原作ばかりでオリジナル作品が少ない。韓国の方が状況は厳しくとも創意工夫にあふれた作品が多い」と苦言を称しています。くやしいけど、その通りです。今のままだと日本の映画市場も終わっちゃうよ。日本の音楽業界は"良いものが売れる”という公式が完全に崩壊し、既に終わっているけど、映画はまだそこまで墜ちていないはず。日本においてオリジナリティあふれる映画作家がひとりでもふたりでも出てきて、(質的に)映画を盛り上げてほしいものです。

また、「嘆きのピエタ」で"母の愛"というテーマを選んだことが、ある商業映画への当てつけを感じるのだ。
そう、ポン・ジュノ監督の「母なる証明」である。母の子への愛を超えた狂気を描いた作品として、批評家にも好評で日本でもキネマ旬報賞外国語映画部門で2位に選ばれている。個人的には”これって、思わせぶりなテーマをまぶしてあるけど、中身はただの娯楽映画じゃん。狂気なんて全然描けていない。過大評価すぎる”と訝しく思っていたが、たぶんギドクも同じことを思ったんでしょう(笑)。

かつてギドクは韓国で大ヒットして、文字どおりスクリーンを独占していたポン・ジュノ監督「グエムル-漢江の怪物-」に対し、「このレベルの映画がヒットするということは、韓国の観客も同じレベルだということだ」と発言し、物議を醸した。そのポン・ジュノ監督「母なる証明」と似たテーマで勝負することで、"人間の感情なんてあんな単純なものじゃないよ"と言いたかったのかもしれない。もっとも、ギドクはそれを匂わす発言は全くしていない。当時、相当バッシングされ、「私の作品は皆ゴミだ」「韓国映画界から身を引くことも考えている」と言わされる騒ぎに発展しましたからね。もちろん、ポン・ジュノへの個人攻撃ではなく、彼レベルの監督を持ち上げる韓国映画業界への皮肉でしょうけど。
(ちなみに、筆者は名作の誉れ高い「殺人の追憶」も過大評価すぎると思ってます。ポン・ジュノファンの皆さん、ごめんなさいね。そう、別にジュノが嫌いという訳ではないんです。持ち上げられすぎ、と思っているだけで...)

「嘆きのピエタ」は、ソフト路線が続いていたキム・ギドクが久しぶりにエンジン全開で毒をまき散らした作品。映画館を見渡すとヴェネチア国際映画祭金獅子賞の話題につられて、ギドクの映画なんか観たことなさそーな、ご年配の方が結構いましたが...。まあ、どきつい描写は多いですが、ギドクの作品の中ではわかりやすい部類に入るのでOK?「嘆きのピエタ」、見ごたえはたっぷりですが、覚悟を決めて観に行ってください!(何の?)
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2013.07.01 Monday | 23:04 | キム・ギドク | comments(0) | trackbacks(3) |

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2017.08.15 Tuesday | 23:04 | - | - | - |

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「嘆きのピエタ」
今の所、この作品が、私の今年のNo.1。キム・ギドク作品には好き嫌いがあるので、これを私のNo.1と言うのには勇気がいるが、大変面白かったんだから仕方がない。打ちのめされた、という気持ちが主流だが。 私が母性を過剰評価しているとか、母性に幻想があると
(ここなつ映画レビュー 2013/10/07 12:40 PM)
嘆きのピエタ
PIETA 2012年 韓国 104分 ドラマ R15+ 劇場公開(2013/06/15) 監督: キム・ギドク 『うつせみ』 脚本: キム・ギドク 出演: チョ・ミンス:チャン・ミソン イ・ジョンジン:イ・ガンド ウ・ギホン:フンチョル カン・ウンジン:ミョンジャ クォン・セ
(銀幕大帝α 2014/01/11 3:11 PM)
「嘆きのピエタ」
彼の映画は、あまり見ていないけど、さすがはギドクというべきか、「ぎぃ〜毒!」とばかりに、ふさわしい名前。
(或る日の出来事 2014/12/23 9:33 AM)

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