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ワールド・トレード・センター

ワールド・トレード・センター(2006 アメリカ)

ワールド・トレード・センター原題   WORLD TRADE CENTER 
監督   オリヴァー・ストーン
脚本   アンドレア・バーロフ
撮影   シーマス・マッガーヴェイ
音楽   クレイグ・アームストロング 
出演   ニコラス・ケイジ マイケル・ペーニャ マギー・ギレンホール

ジョージ・W・ブッシュが当選すれば、アメリカで大規模なテロが起きる」2001年の大統領選のときの、オリバー・ストーンの発言だ。その言葉は現実となってしまった。起きてしまった事実の後を追うという形で彼が9.11の映画を撮るのは何とも皮肉な話だ。オリバー・ストーンといえばアカデミー監督賞を2度受賞している、いわば”名匠監督”。政治的な題材を得意とし、良くも悪くも押しつげがましいのを作風としている。押しつけがましさでは最近マイケル・ムーアに負けてるようですが。

2001年9月11日、ワールド・トレード・センターが崩壊。被災者の救出に向かった2人の警官がビルの崩壊によって瓦礫の下に生き埋めになり、救出されるまでを描いた作品。港湾警察署員<PAPD>のウィル・ヒメノ氏と巡査部長ジョン・マクローリン氏の実話を基にした映画化である。このツインタワーの崩壊は2,749人もの犠牲者を出す大惨事となった。救出された生存者はわずか20名。彼ら2人は18番目と19番目だった。生死をさまよう状況の中、お互い励ましあうことによって精神的に支えあい、奇跡的に生き延びた2人の物語である。

9.11事件を背景としながら映画自体には政治色はほとんどない。オリバー・ストーンぽくない映画だ。
それもそのはず、どうもこの作品、オリバー・ストーン独自の企画ではなく(彼は脚本に携わっていない)脚本が仕上がった段階で監督を依頼された、いわば”雇われ監督”だったようだ。
これほどのすばらしい真実の物語をあえて政治的な視点で描く必要はないと思った
オリバー・ストーン監督は語る。”よくある救出劇で、テレビ的題材だ”と指摘されたりもしたそうだが、それを映画としてよい作品に仕上げることに挑戦したという。オリバー・ストーンが映像作家として卓越した手腕の持ち主であることは冒頭のニューヨークの街の風景描写だけでもよくわかる。ニューヨークの朝、めまぐるしい一日の始まりが臨場感あふれて描かれている。何気ない描写であるが、生粋のニューヨーカー、オリバー・ストーンでなければ撮れなかった映像であろう。ニューヨークの街の空気を感じられる。この場面だけでも見る価値のある作品だ。

「人々が、人間性に対して信頼を失いかけた日に、彼らは信じる気持ちを取り戻す助けとなったんです。家族愛を描いたヒューマンドラマでもある。あの日のもっとも素晴らしい記録として、この作品を見てほしい」アメリカでは8月9日に公開され、興行収入7000万ドルを超えるヒット。評価もまずまずで来年のアカデミー賞でも有力候補作品のひとつとされている。一方、日本では「政治的メッセージのある映画とは一線を画したかったし、ニュースの一部といった一過性の話として見てほしくなかった」という理由で10月7日に公開された。ヨーロッパの批評家たちは、「オリバー・ストーンは国家主義者に転向した」と批判している。

今なお謎のままの9.11事故、そしてそれを発端にしたイラク戦争は混迷を極めている。
こんな状況下では、作品の中で直接触れなくても現実の9.11の影は色濃く横たわる。
「生存者やその家族を傷つけることは一切したくなかった」ストーンはこう語る。
また、この映画のモデルのひとり、ウィル・ヒメノ氏はインタビューで、”マイケル・ムーアの「華氏911」は見なかった。とてもネガティブな映画で、観るだけ時間の無駄だと思ったので。なぜお金と時間を費やし、腹を立てなければいけないのでしょうか?それよりも、私はこの映画のように希望を感じられる作品を観たいと思います」と語っている。だが、救出されなかった2,749名の犠牲者のご遺族の方々が、この映画を見て”希望”を感じることができるのだろうか?この救出劇を見終わった後、一体何が残るのか?犠牲者のうち、約1,100人の方々は骨さえ発見されていない。救出してもらえなかったご遺族の方々が共有できる感情はカフカの小説のような”不条理”と、”喪失感”だけだと思う。

9.11の際、救出活動にあたった消防士が”ヒーロー”とされた。
アメリカでは有事において”ヒーロー”を祭りあげ、光を見出そうとする傾向がある。現在公開中のクリント・イーストウッド監督「父親たちの星条旗」を見てもそれはよくわかるだろう。
光を見出そうとすることと、現実から目をそらすこととは意味が違う。現実という暗闇と、とことん向き合ってはじめてたどり着ける光もあるはずだ。だが9.11という暗闇にはまだ全く光は差し込んでいない。
この作品中の瓦礫の山の映像に、救出されなかった人たちや、何故こういうことが起こったのか?アメリカはその後、どのような行為に及んだのか?そしてイラクでの戦場の光景まで観客が想像の翼を拡げることができるのならば、この作品は ”今 ”語られる意味はあるのだろうが…。救出劇や人間ドラマが撮りたいのならばわざわざ9.11を背景にする必要はない。

米紙ウォールストリート・ジャーナルはこの作品について「5年後の今でも同時テロは商品にするには難しい」と疑問を呈している。同じ9.11を題材とした映画に『ユナイテッド93』がある。何故この題材を今、映画化しなければならないのか、その必然性がさっぱりわからない作品だった。今、あの日の映像を再現することは、テロの恐ろしさを再認識させる効果を持っており、ブッシュ政権のイラク戦争正当化のプロパガンダとして使われる危険性を多分にはらんでいる。案の定、ブッシュ大統領は『ユナイテッド93』に”感動した”そうだ。核心部分を避けた状態で現在9.11を映画化する行為は、映像作家の、小さな感傷と大きな思い上がりに他ならない。どんなにハリウッドの最先端の撮影技術を用いても、あの日の現実の映像にはとうてい太刀打ちできないだろう。

「9・11の問題は、きちっとした形で真実が伝わっていないことだ」「米国のメディアはブッシュ政権に取り込まれている。米国内でイラク戦争に反対するデモなどが活発なのに報じない。ささいなニュースを大きく扱い、重要なニュースを取り上げないから、大切なことが忘れ去られていく」
ストーンは語る。実際にベトナム戦争に従事経験のあるストーン。この救出劇で人々が癒されることがないことくらい本当は理解しているはずだ。営業上問題があるからこの作品のパブリシティではあえて語らないだけだろう。ストーンは「9・11の疑惑を追及する作品は、次の米大統領選挙がある2008年の公開を目指して作る」予定らしい。今度こそマイケル・ムーアに負けない押し付けがましさで現実に立ち向かってもらいたいものだ。

ラスト、2人の救出のきっかけをつくった海兵隊員が、その後イラクで任務についたことがテロップで流される。「人助け」をした彼は、一体イラクに何をしにいったのだろう?
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ユナイテッド93 〜時期尚早だった9.11の映画化〜



2006.11.03 Friday | 21:56 | 映画 | comments(8) | trackbacks(9) |

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2019.10.20 Sunday | 21:56 | - | - | - |

コメント

初めまして、moviepadさん。 長文失礼します。
この「WTC」は賛否が大きいとも聞きますが、考えさせられる物があるようですね。
俯瞰の視点からこの作品の位置付けを分かりやすく書かれていて参考になりました。
ストーン監督が「9・11の疑惑」を扱うには年を取り過ぎたとの評もありますね…。
「重要」な生還者のロドリゲス氏が先月来日してました。(LINK先に来日音声も)
http://harmonicslife.net/Blog/2006/JimmyWalterTVAds/comm_william.wmv

アメリカでは「9.11テロの様々の疑惑」が報道番組でも議論されていますが、
弱冠22歳のディラン・エイブリー監督の作品がタブーな問題に火を放ち、世界中で
「9/11 Truthムーブメント」現象が注目されています。この有志・検証自主映画の
「LOOSE CHANGE = ルース・チェインジ」が話題なのをご存知でしょうか?
日本版DVDは12月に登場の模様で「無料ネット配信」の予定もあるとの事です。

新世紀には新時代の若い監督の活躍を期待した方が良いのかもしれません。
ネット初の超ブレイク現象を受け、来年に3弾の「ファイナル・カット」が公開予定です。
最新NYタイムズで28%の人が、911公式報告は「ほとんどウソ」と感じています…。
ネット新世代が作った日本語版・検索語「LOOSEチェンジ」のTVメディア紹介など
下記BBSの「9月21日」を。NHKも報じない今年の9月11日のNYデモの4分動画。
http://www.911podcasts.com/files/video/TalkingAboutaRevolution.wmv

何らかの参考になればと。 尚、送信内容やリンク先とは利害関係はありません。
http://rose.eek.jp/911/
http://www.mypress.jp/v2_writers/hirosan/idx/?mycategory_id=31024
http://8136.teacup.com/empire/bbs
2006/11/06 10:52 AM by White・Rabbit
white rabitさん、はじめまして!コメント&情報ありがとうございます。
俯瞰、というほどエラソーなものではありませんが、今9.11を映画で扱うとなると背景を切り離して、ひとつの作品として独立して見るのはかなり難しいです。作品の中で描かれていない情報を評価の基準にすることは映画の見方としては邪道だと思いますが…。

9.11に関する情報はあまりにも錯綜していて、5年立った今でも疑惑ばかりが横たわっている感があります。そんな状態なので、さすがのオリバー・ストーンも核心部分には手がつけられなかった…というのが実情ではないでしょうか?9.11を映画の中で扱うのはタブー、という風潮に風穴をあけたかったのでしょう。でも9.11を「物語」として語るのは、あまりにも早すぎる。

オリバー・ストーンは著名人なので、様々なしがらみがありすぎたのでしょう。
次回作はここを参照
http://www.eigaseikatu.com/news/16066/27067/

>最新NYタイムズで28%の人が、911公式報告は「ほとんどウソ」と感じています…。
これはむしろ少なすぎるのでは、と思うくらいです。

ボブ・ウッドワードの『State of Denial』がベストセラーになり、アメリカを騒然とさせているようです。http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2006/10/state_of_denial_fab0.html

9.11に関しては大手メディアから一方的に流される情報はほとんど意味をもたないような気がします。
気骨のジャーナリストによる書籍やネット上の記事、そしてしがらみのない若い世代や、決して報道されないであろう、無数の”真相追及の声”の力に期待しています。

11月7日の中間選挙ではまたしても大混乱が予想されています。
http://tanakanews.com/g1103USelection.htm
一体アメリカはどこへ?
2006/11/06 9:33 PM by moviepad
TBありがとうございました。
9.11で助からなかった犠牲者の遺族の不条理が5年という歳月でどう変わるか?という予想で、この映画の受け止め方も違うものですね。
2006/11/07 11:33 PM by rino
rinoさん、コメントありがとうございます!

9.11の謎が多少でも解けていればまた違った感情も出てくると思いますが...。
なぜ犠牲にならなければならなかったか、その理由が全くわからないまま5年が過ぎた、という状況で光を感じるのは難しいのでは?と思います。
2006/11/07 11:54 PM by moviepad
はじめまして。
TBありがとうございました。

本作は感動作としては良くできていると思いますが、
「9.11」を題材とした映画としては、
踏み込み具合に物足りなさを感じますよね。
もっとストーンならではの持ち味を活かした作品を
見たかったように私も思います。
2006/11/08 12:27 AM by トミー
トミーさん、コメントありがとうございます!

>もっとストーンならではの持ち味を活かした作品を見たかった

9.11については情報ばかりが錯綜して真相が全く見えない状況なので、さすがのストーンも今の段階では核心まで手がつけられなかったんでしょうね。今回の作品はご遺族への配慮と、今後のため、まずは9.11を題材にして映画を作ること自体が目的だったような気がします。
作品としては「ユナイテッド93」よりはこちらのほうに僕は好感を持っています。どうもかなりの少数派のようですが...。
2006/11/08 12:50 AM by moviepad
こんにちは。TB失礼します。

>アメリカでは有事において”ヒーロー”を祭りあげ、光を見出そうとする傾向がある。

この意見、凄くよくわかります。この作品は光ばかりを追いすぎた感がしてなりません。光をおうなら闇も映して欲しかったです。
2007/02/27 11:45 AM by ももも
もももさん、こんばんわ

>光をおうなら闇も映して欲しかったです。

この映画の舞台はいったん闇を描こうものならまさに真っ暗闇ですからね。
光を描こうとするのは構わないのですが、まだ現実問題として、解決の糸口が見えていない闇を舞台にして、光を描くのは順番が違うような気がします。
2007/02/27 7:37 PM by moviepad

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