映画のメモ帳+α

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シュガーマン 奇跡に愛された男

シュガーマン 奇跡に愛された男(2012 スウェーデン・イギリス)

シュガーマン 奇跡に愛された男原題   SEARCHING FOR SUGAR MAN
監督・撮影・編集   マリク・ベンジェルール
製作   サイモン・チン マリク・ベンジェルール
製作総指揮   ジョン・バトセック      

第85回(2012年)アカデミー賞長篇ドキュメンタリー賞受賞

良い知らせと悪い知らせがある。アメリカ映画を観ているとこういう言い回しがよく出てくる。2012年のドキュメンタリー映画賞を独占した「シュガーマン 奇跡に愛された男」はこういう紹介をしたくなる映画です。さて、どっちを先に?悪い知らせのほうを先に出しましょう。いい知らせは完全ネタバレなので、映画未見の方は読まないでください。といっても、悪い知らせだけ読むと、映画見たくなくなるでしょうから、結局、映画未見の人は以下読まないでくださいということになりますね(^^;

概要
1970年代、アメリカで2枚のアルバムを出したフォーク・シンガー、ロドリゲス。「スラム街の詩人」と言われ、音楽的評価は高かったが、全く売れずに消えていった。ところが彼の曲が南アフリカで反アパルトヘイトの象徴のように受けとられてヒット。だが、彼の消息を知る者は誰もおらず、ステージ上で自殺したという都市伝説がひろまっていた。2人のファンが彼の消息を探っていったところ...〜



はい、悪いお知らせからはじめます(笑)。
うーん、鑑賞前に抱いていたイヤな予感が当たってしまったんですね〜。

まず、↑の予告編に「アンヴィル!夢を諦めきれない男たち」を超える衝撃と感動の音楽ドキュメンタリーなんてうたってある。
こういう謳い文句が正しかった試しはない。そもそも、世の中にはびこる音楽ドキュメンタリーの大多数は××と相場が決まっているのに、「アンヴィル〜」を超える音楽ドキュメンタリーなんてちょっとやそっとじゃ出てくるはずがない!(実際、映画の出来は「アンヴィル〜」に遠く及びませんでした)

そして、何より不安だったのは製作が「マン・オン・ワイヤー」(2008)を手掛けたサイモン・チンだということ。監督のマリク・ベンジェルールは「マン〜」を観て、サイモンにプロデュースを頼んだらしい...。「マン・オン・ワイヤー」はアカデミー賞長篇ドキュメンタリー賞受賞作にもかかわらず、近年、もっとも観るのが苦痛だった映画。何が悪いかって関係者のコメントが長すぎること。特に主役がしゃべりすぎてて白けた。コメントには編集でカットできそうな内容がたくさんあったのに、映画として成り立つ長さに引き延ばすため、無駄な内容もしっかり入っている。再現映像とコメントが大部分で実際の映像はほんのわずか。テーマは面白かったが、BBCがからんでいるせいかTVっぽいつくりで、映画としてはダメダメ。ドキュメンタリー映画の評価はテーマがすべて、映画としての出来はそれほど考慮されない。「マン・オン・ワイヤー」は、その悪い見本のような映画だった。

「シュガーマン 奇跡に愛された男」でもまさにそのパターンを踏襲していた。関係者の、うるさいだけで面白くもなんともないコメントがずらりと並び、あいだにロドリゲスの曲がイメージ映像とともに流れる。ああ、つまんねえ。ところどころ寝ちゃいました。映画構成としては最後までそんなパターンで目をひくものはほとんどありません。お世辞にも見せ方が上手いとは言えない。また、テーマ的にも突っ込みが甘いので、”なぜ彼がアメリカで売れなかったか?””南アフリカでなぜ受けたのか?大人気を博したのだから一握りのファンに頼らず、もう少し取材すれば何かしら見えてきたのではないか?”、"南アフリカで儲けた金はどこに行ったのか(「売れたといっても海賊版。誰かが儲けただけ」というコメントだけでお茶を濁している。彼がどういう形で売れていたのかもう少しリサーチをしてもよかったのではないか?)。"彼の子供たちは出てくるか、妻は?”、"南アフリカ公演後もロドリゲスが本格復帰しなかったのは何故か?”もやもやがたくさん残った。

アメリカで売れなかったのは歌が政治的すぎてラジオで流してもらえなかったため、南アフリカで受けたのはスラム街の貧困を歌った歌詞がアパルトヘイトに苦しむ自分たちの心境にオーヴァーラップしたからでしょう。あの反アパルトヘイト活動家、スティーヴ・ビコ(映画「遠い夜明け」でデンゼル・ワシントンが演じました)もロドリゲスのファンだったそうです。映画ではあまり触れられていませんがロドリゲスはオーストラリアやニュージーランドなどでも人気を博し、1979年、1981年にはオーストラリアでツアーを行っています。

自分の曲が南アフリカで受け入れられた理由について、ロドリゲスは次のように語っています。
「当時の南アフリカのことは、世界からボイコットされていること以外、ほとんど何も知らなかった。だけど当時のアメリカでは、若者が徴兵カードを焼き、警察による暴力、政府による抑圧も蔓延していた。自分が曲を作るときは、社会的リアリズムを描くことを心がけているのだけれども、南アフリカの人々は、曲の裏にあるそんなアメリカと南アフリカの共通点に、敏感に反応してくれたのだと思う」引用元



さて、良いお知らせにうつります。
ここまで書いておいて良い知らせなんてあるのか?と首をかしげる方も多いでしょう。
それがあるんですね。ロドリゲスという人があまりにも魅力的なんです。
彼の存在感が映画の百難を隠す!ロドリゲスが登場するまでの退屈さはひたすら我慢してください。

シャイで控えめな性格をほうふつさせる、穏やかな話し方。
娘が「父は地に足がついた人」と評していましたが、まさにそのとおり。
南アフリカ公演で"スーパースター"扱いだったのに、浮かれることのない態度。

映画で描かれているとおり、彼の熱心なファンが作ったwebサイトに彼の娘がコンタクトしてきたことから1998年に南アフリカ公演が実現!この南アフリカ公演の場面が映画のハイライトですね。粗い記録フィルムが希少性を感じさせます。南アフリカ公演の模様は"Dead Men Don't Tour: Rodríguez in South Africa 1998"と題してTV放送されているのだからもっときれいな映像があったのでは?と思わなくもないですが...。

動画みつけました!
Rodriguez - Sugar Man (Live South Africa 1998)


ロドリゲスという歌手は本当に存在するのか?と疑っていたファンも少なからずいたでしょう。観たことのないスーパースターを待ち受ける観客の顔、そして彼が出てきたときの熱狂...。この瞬間のファン、そしてロドリゲス本人がどんな気持ちだったかを想像しただけで不覚にも涙が出てきました。ロドリゲスは2001年、2005年にも南アフリカで公演を行っています。

Tour Diary SA 1998

不満といえば、彼が歌う場面が短かったこと。せめて1曲ぐらいはフルで見せて欲しかった!そんなに長い曲ないのに...。ロドリゲスはその後も元の仕事に戻り地道に暮らしていることになっていましたが、この映画公開後はそうもいかなかったようです。人気TV番組にも多数出演、ツアーも行っています。新しい曲も30曲作ったと報じられています。Rodriguez set to return to studio after 42-year absence

「呼んでもらえるなら日本にも行きたい」とロドリゲスは語っています。
少し話はそれますが、この映画の日本版サントラの帯に「このサウンドトラック売上の印税はロドリゲス氏本人に支払われます」と但し書きがありました。確かに映画を観たらそんな不安がわいてきますよね...。

ご存じのとおり、「シュガーマン 奇跡に愛された男」は第85回アカデミー賞長篇ドキュメンタリー賞を受賞。ロドリゲスは残念ながら授賞式に姿を見せていません。彼は南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリアのツアー中であり、かつ自分が出席することで映画製作者の業績がかすんでしまうことを恐れたためと言われています。こういうところにもロドリゲスの人柄がうかがえますね。世界中で放送されるアカデミー賞授賞式、これ以上の自己宣伝チャンスはないのに!監督のマリク・ベンジェルールは"Thanks to one of the greatest singers ever, Rodriguez."とコメントしています。

Searching for Sugar Man" winning Best Documentary Feature

「シュガーマン 奇跡に愛された男」、映画の出来は今イチ。でも、ロドリゲスという人は知っておいて損はない。つまり観たほうがよい映画です。こういう人がいることを心に留めておくだけでも、今後、人間とか人生に絶望せずにすむような気がするからです。
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2017.05.24 Wednesday | 03:42 | - | - | - |

コメント

はじめまして。今日この映画をDVDで見て、感想を求めてネットをさまよいここにたどり着きました。

私の感じたそのままを書いていらっしゃるので思わずコメントしております。本当にその通り!追及してほしいポイントが外れていて見ていてイライラしまたした。CDのロイヤリティがどこに流れたのか(あの黒人のレーベルオーナーが怪しい!)、妻はどこに居るのか、その後どうしているのか。なんにもこたえてくれてない!

その後の音楽活動については、こちらを拝見して胸のつかえが下りました。やはり地道に続けていらしたのですね!嬉しいです(映画ではかなり年配に見え、もう完全にリタイヤしたように見えたので・・)

ロドリゲスさんの音楽と、同時にそのお人柄が深く心に残りました。良い映画を見られてシアワセです。
2013/10/19 9:42 PM by しろ太
しろ太さん、はじめまして!
コメントありがとうございます。

ドキュメンタリー映画は、(映画の出来が今イチでも)素材が面白ければそれでよし!とされる傾向があります。
「シュガーマン 奇跡に愛された男」もまさにそのケースで、アカデミー賞とったりして評価されているけど
ドキュメンタリー映画としての出来は今ひとつです。そう、知りたいことがことごとくあいまいなまま。
ロドリゲスは生きているのか?という着眼点は秀逸ですが、映画としての演出や構成は決してうまくない。

映画が評価されたのではなく、ロドリゲスという人が評価されたんですね。
個人の評価と映画の評価を混同するのはどうかと...。

でも、ロドリゲスは魅力的すぎる人です。
この映画がなければ、その存在も知り得なかったわけで。
観てよかった!
ということはこれはやっぱり、いい"映画"だったのかな?
2013/10/20 12:29 AM by moviepad

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「シュガーマン 奇跡に愛された男」
こういう人がいるって知ることができるのは「映画」のおかげ。
(或る日の出来事 2014/05/24 10:16 AM)
シュガーマン 奇跡に愛された男 〜 無名の生きざま (20124/9/5)
アカデミー長編ドキュメンタリー賞に輝き話題になった作品です。 なかなか機会に恵まれなかったのですが、やっと京都シネマで見ることが出来ました。 1970年代初頭にアメリカでデビューするもヒットせず、しかしその後、アパルトヘイト下の南アフリカで熱狂的に
(黄昏のシネマハウス 2015/10/24 10:44 AM)

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