映画のメモ帳+α

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愛、アムール

愛、アムール(2012 フランス・ドイツ・オーストリア)

愛、アムール原題   AMOUR
監督   ミヒャエル・ハネケ
脚本   ミヒャエル・ハネケ
撮影   ダリウス・コンジ
編集   モニカ・ヴィッリ ナディン・ミュズ
出演   ジャン=ルイ・トランティニャン エマニュエル・リヴァ
      イザベル・ユペール アレクサンドル・タロー
      ウィリアム・シメル ラモン・アジーレ リタ・ブランコ 
      カロル・フランク ディナーラ・ドルカーロワ ローラン・カペリュート
      ジャン=ミシェル・モンロック スザンヌ・シュミット
      ダミアン・ジュイユロ ワリッド・アフキール

第65回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞、第85回(2012年)アカデミー賞外国語映画賞受賞。作品、監督、主演女優(エマニュエル・リヴァ)、脚本賞ノミネート

ミヒャエル・ハネケという監督について、個人的には微妙な評価をしていた。"好き"と"嫌い"の2者選択を迫られれば、迷うことなく"好き"と答える。だが、大絶賛するほど"好き"かと聞かれると、数秒考えた後、NOと答えてしまうだろう。(関係ないけど、ハネケの話し方、佇まいは妙に好きです)彼の作品は観ている間、ずっと不安、緊張、不快感が押し寄せてくる。前半はそればかり、中盤から後半にかけては物語に引き込まれていくが、ラスト謎が解かれることなく放置されるので途方にくれてしまう。彼の作品を観るたびにそんなパターンを繰り返している。

ミヒャエル・ハネケは21世紀にはいってからカンヌ国際映画祭では"顔"というべき存在になっている。2000年は『コード・アンノウン』で審査員賞、2001年は『ピアニスト』で審査員特別グランプリ。2005年 『隠された記憶』で監督賞、審査員賞、2009年『白いリボン』、そして2012年には、今からご紹介する『愛、アムール』で2回連続パルムドール(最高賞)受賞。ミヒャエル・ハネケが卓越した映画作家であることには異論はないが、個人的にはちょっと買いかぶりすぎじゃない?と思っていた。

ミヒャエル・ハネケの名前を一躍有名にした『ファニー・ゲーム』(1997)。オープニング、クラシックの曲あてごっこという厭らしい遊びをする夫婦を映し出した後、けたたましいヘビメタが流れる。ハネケの作風を象徴しているような始まり方だ。内容はサブカル好きの若者をもろに意識した作り。この映画をやたら持ち上げる人に時々出くわすが、空虚を描いた作品を必要以上に持ち上げて何が生まれるのだろうか?『ピアニスト』(2001)も同様で、演出が抑制されているので気づきにくいが、既存の予定調和を崩すことを"狙いすぎている"きらいがある。言いかえれば"予定調和を崩すという予定調和"を感じたのだ。前作『白いリボン』(2009)も同じ。『ピアニスト』と同様、抑圧がテーマで美しいモノクロの映像はそのテーマを見事に浮かび上がらせているが、観終わるとまた、こんなんか〜って感じ。唯一抵抗なく観ることができたのは『隠された記憶』(2005)。成功者は誰かを犠牲にして成り立っている。そのくせ、その犠牲者を見下す男。実際は俗物根性の塊なのに、自称インテリな男のいやらしさを見事に描いていた。




最近のハネケ作品の絶賛ぶりには、個人的に"予定調和を崩すという(ハネケ映画の)予定調和を絶賛する(信者たちの)予定調和"という屈折した思いを抱いていたので、当サイトではこれまでハネケ作品を取り上げるのをあえて避けてきた。こんな面倒臭いこと書いても誰も喜んじゃくれないだろーし。

そのハネケの最新作が『愛・アムール』。カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したのはまあいいとして、妻が病に倒れ、介護に追われる夫の姿を通して愛、そして老いを描いた物語....何かハネケっぽくない、フツーの物語設定だな。そして批評をいくつかみると...感動の文字が!感動なんて言葉はミヒャエル・ハネケ映画にもっとも縁遠いものじゃない?デヴィッド・リンチ監督が『ストレイト・ストーリー』(傑作!)を撮ったみたいにハネケちゃんもちょっとまともに作ってみましたって感じ?『愛・アムール』期待半分、不安半分で観に行きました。



物語
ジャルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とアンヌ(エマニュエル・リヴァ)は結婚生活50年を超える仲むつまじい夫婦。アンヌが何の病気であるかは明確にされない。手術のリスクは低く、失敗は5%程度と言われたが、彼女はその5%に該当してしまう。彼女は半身不随になるが、アンヌは「私を2度と病院に戻さないで」とジョルジュに懇願。彼はその約束を守り、自宅で介護を続けるがアンヌの病状は日に日に悪化していく。

ミヒャエル・ハネケは自分の伯母が病気で苦しんだときの体験をきっかけとしてこの物語を執筆した。ただし、その体験と映画のストーリーは全くの別物で物語はさまざまなリサーチを反映させたものだという。ジョルジュ役について、ハネケは最初からジャン=ルイ・トランティニャンを想定して脚本を書いた。アンヌ役にはそのトランティニャンと50年連れ添った夫婦に見えること、そしてピアノ教師としての威厳を出せる女優ということでエマニュエル・リヴァが選ばれた。

多くの映画賞で主演女優賞を受賞したエマニュエル・リヴァはもちろんだが、ジャン=ルイ・トランティニャンが何ともいえずいい。
水を飲むことを拒むアンヌに思わずビンタをくらわしてしまい、後悔にさいなまれる表情。
決して押しつけがましさのない優しさが表情やしぐさから自然ににじみ出ている。
エマニュエル・リヴァだけをノミネートして、ジャン=ルイ・トランティニャンを無視した映画賞はこの作品の何を観ていたのだろう?

映画では結局、当事者以外は苦しみをわかちあえない過酷な現実が示される。
・近所の男から「おふたりの姿にみんな感動してますよ」と言われて、微妙な表情を浮かべるジャルジュ
・病気で苦しむ母親(=死を身近に感じている、将来のことなど考えられない)のそばで、不動産投資(=未来への設計)について語る娘エヴァ(イザベル・ユペール)
・メッセージカードとCDを送ったピアニスト、アレクサンドル(アレクサンドル・タロー 、本物のピアニスト!映画には音楽がないのに、映画のサントラがあるのは彼の演奏場面を収録しているから)。だが、そのCDを聞くのを止めてしまう夫婦。コンサートのときは幸せだった。その頃にはもう戻れない。善意で送られたCDがかえって2人の心を蝕んでしまう。



・病人の髪を乱暴にとかした後、鏡を見せる。「ほら、こんなに綺麗になったでしょう」 アンヌは今の自分の顔を観たいと思うのだろうか? その看護師は解雇をつげられると、「私はプロよ」とジョルジュにくってかかる。 ところで彼女は何のプロだったのだろう? 少なくてもメンタルな要素は関係ない分野なのだろう。医療不信もこの映画のテーマのひとつだ。

彼女を車いすから運ぶたびに、2人は抱き合うような形になる。今の状況では、これが2人の愛の形なのだ。

愛する人が苦しんでいるのを何も出来ない。そしてジャルジュが起こした行動は...
布でくるんだ鳩を抱きしめる彼が何とも痛ましい。

ラストはハネケ作品おなじみのパターン。題材はストレートでも作風は変わらない。謎は謎のままで放り出される
ジャルジュはその後、どうなったのか?ジャルジュと娘エヴァの関係は?そしてアンヌは...

ある人物が傍目から見て不可解な行動をとったとする。その理由を丁寧に説明し、登場人物のその後をきちんと説明してくれるのは小説、TVドラマ、ハリウッド映画だけ。そのような作為性を徹底して排除してきたのがミヒャエル・ハネケという監督だ。

現実は、それらのように整理整頓された起承転結はたどらないし、不条理の理由など誰も説明してくれない。
『愛、アムール』のように人生の終わり=結を描いた映画でも、残されたものには結は訪れない。
ハネケ独特の作風がこのテーマでは見事に生きている。

『愛、アムール』という映画を称えるのに、さすがカンヌ国際映画祭パルムドールだとか、まごうことなき傑作とか、映画史に残る名作という言葉を使うもの悪くない。ただ、間違いなく言えるのは、「愛、アムール」は一度観たら、おそらく一生忘れられない作品になるということだ。同様の状況に置かれ、リアルタイムで胸に迫ってくる人もいれば10年、20年後突如、思いだすケースもあるだろう。そこで思い浮かべるのは、この映画の名前でもストーリーでも、言葉にしたためたテーマでもない。この映画の2人の姿の残滓、イメージだ。良い映画とはそういうものである。

過去のハネケ映画は観る人を著しく選ぶ作風だったが、この作品は違う。老いは誰にでも平等に訪れるからだ。
『愛、アムール』はミヒャエル・ハネケの最高傑作。一度は観ておきたい作品である。
劇場で観れば、音楽のないエンドクレジットの際、静まり返った客席で
観客が醸し出す雑音のみがちゃらちゃら聞こえる光景は結構シュールでよいです!
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2013.03.12 Tuesday | 01:35 | 映画 | comments(2) | trackbacks(0) |

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2020.02.22 Saturday | 01:35 | - | - | - |

コメント

最近はmoviepadさん、精力的にレビュー書かれてますね。
たくさん読めて、嬉しいです。自分がそれほどノレなかったレミゼなんかでも、moviepadさんのレビューは不思議と納得出来るからさすがだなあ、なんて。
ハネケは私、意外にどの作品も好きなのかも、と思えてきました…。大嫌いだと思ってたはずなのに、少なくても、ほぼどの作品も2度づつ見てる、という自分に驚いてしまって…。
2013/04/04 2:00 AM by とらねこ
えっ、とらねこさんってハネケばりばり好きな人だとずっと思っていましたが...。

ハネケの映画って
"イヤよイヤよも好きのうち"的な独特の魔力があるんですよね。
そーいうのって自覚症状がないものなんですが、
ハネケファンはそれをちゃんと自覚している。
すごい!(笑)

「愛・アムール」に関しては
北野武が「HANA-BI」でやっちまったように
観客受けを狙って"媚び"が微妙に封入されていたらどうしようと思ってましたが
ハネケにそんな心配をするのは間違っていました。
表面上の"濃さ"が違うだけで、いつもと同じハネケ・ワールド!

強いて言えば、
物語がシンプルだからとか、愛や介護を描いているからではなく
やや鼻についていた"狙いすぎ"の要素がなかった分、
素直に良いと言える作品でした。
2013/04/04 2:55 AM by moviepad

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