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ゼロ・ダーク・サーティ

ゼロ・ダーク・サーティ(2012 アメリカ)

ゼロ・ダーク・サーティ原題   ZERO DARK THIRTY
監督   キャスリン・ビグロー
脚本   マーク・ボール
撮影   グリーグ・フレイザー
編集   ウィリアム・ゴールデンバーグ ディラン・ティチェナー
音楽   アレクサンドル・デプラ
出演   ジェシカ・チャステイン ジェイソン・クラーク
      ジョエル・エドガートン ジェニファー・イーリー
      マーク・ストロング カイル・チャンドラー
      エドガー・ラミレス ジェームズ・ガンドルフィーニ


第85回(2012年)アカデミー賞作品、主演女優(ジェシカ・チャステイン)、脚本、編集、音響編集賞ノミネート

ハート・ロッカー」で第82回(2009年)アカデミー賞作品賞、そしてアカデミー賞初女性の監督賞受賞者となったキャスリン・ビグローには新作の噂が絶えなかった。タリバンに拉致されたジャーナリストの体験に基づいた”Held by Taliban“、またアルゼンチン、ブラジル、パラグアイの国境地帯の麻薬密売を題材にした"Triple Frontier"などである。とくに"Triple Frontier"は、ショーン・ペン、ウィル・スミス、ハビエル・バルデム、クリスチャン・ベールが出演交渉、あのトム・ハンクスが熱心に売り込んでいると報じられていた。だが、キャスリン・ビグローの新作はそのどちらでもなく、10年にわたるオサマ・ビンラディン殺害計画を負った「ゼロ・ダーク・サーティ」だった。"Zero Dark Thirty"は軍事用語でAM12:30のこと。ビンラディンの潜伏先にアメリカ海軍特殊部隊Navy SEALs(ネイビーシールズ)が突入した時刻でもある。もともとは2006年よりキャスリン・ビグローとマーク・ボールはトラボラで失敗したビンラディン捕獲作戦についての映画を準備していた。だが、2011年5月1日ビン・ラディン殺害を受けて予定を変更、わずか23日後の2011年5月24日には「ゼロ〜」の製作が報道された。はや!

Kathryn Bigelow's Navy Seal Team 6 Film to Hit Theaters in 2012

キャスリン・ビグローや脚本のマーク・ボールは関係者からの取材を重ね、拷問場面などリアリティにあふれた内容だったため、共和党はオバマバッシングに利用。共和党議員ピーター・T・キングがCIAと米国防総省に機密情報漏洩の調査を依頼するというクレージーなことが起こった。CIAと国防総省文書は、情報公開法の要求があったため特例の情報アクセスが映画製作者に付与されたが、機密情報の漏洩はなかったと述べている。

オサマ・ビンラディン殺害はオバマ政権最大の功績と言われているため、共和党、及び反オバマ派からこの映画への執拗な嫌がらせが続いた。

まず、「ゼロ・ダーク・サーティ」はもともと2012年10月12日公開予定だった。アメリカ大統領選が11月6日に控えており、共和党から「オバマ陣営のキャンペーンになる」と批判が続出、公開は12月に延期を余儀なくされた。第85回アカデミー賞において「ゼロ・ダーク・サーティ」は作品賞など5部門にノミネートされているが、受賞有力候補と言われていたキャスリン・ビグローが監督賞まさかのノミネート漏れ!アカデミー賞会員に共和党が圧力をかけたのでは?という見方もある。ベン・アフレックの落選ばかりがニュースになっているがキャスリン・ビグロー落選のほうが(女性監督ということもあり)問題の根が深く、性質が悪い。メディアはニュースの大小をもっと的確に判断して報道してほしいものだ。といっても、ベンアフは出馬が噂されるほど熱心な民主党支持者。2人の落選はひょっとして同じ理由かも...。

さて、ゴシップ関連はこのくらいにしてそろそろ映画本編の話に入ります。



冒頭、ブラックスクリーンに「9.11」直後の人々の声、声、声...。
あえて映像を見せない。こういうのって逆に想像力をかきたてられますね。
誰ですか?単に予算節約のためだろう、なんて思った人は(笑)。

その後、いきなりダン(ジェイソン・クラーク)による、アルカイダの拘束者(レダ・カテブ)への拷問場面に変わる。

おまえは俺の所有物だ

あれ、この台詞どこかで聞いたことがあるぞ。そう、ココです。→「グアンタナモ、僕達が見た真実
これって拷問の定番セリフだったのね。

水でぬらしたタオルで顔を覆い、さらにその上から水をかける、いわゆる「ウオーター・ボーディング(Waterboarding)」と呼ばれる拷問方法が用いられている。これをやられると溺死する錯覚に陥いるため短期間に自白を強要できると言われている。

アメリカ政府は「我々は拷問はしない」という見解を出している。だが、2008年2月5日CIAのマイケル・へイデン長官は上院情報特別委員会で証言し、「水責め」の事実があったことを認めている。あれ?

CIA長官、アルカイダ容疑者への「水責め」認める

ただし、水責めをしたのは、この映画にも名前が登場するアルカイダのハリド・シェイク・モハメド(Khalid Sheikh Mohammed)、アブ・ズベイダ(Abu Zubaydah)そしてAbd al-Rahim al-Nashiriの3名。ハリド・シェイク・モハメドには183回、アブ・ズベイダには83回もの"水責め"が行われたと言う。

米CIAの尋問、アルカイダ被告に水責め183回

この拷問場面に対しても「拷問を正当化している」という批判がなされている。
俳優のデヴィッド・クレノンは「『ゼロ・ダーク・サーティ』は、アメリカの対テロ戦争において、拷問という犯罪行為を合法的手段として容認する考えを普及させる作品だ。良心に基づき、わたしはアカデミー賞において『ゼロ・ダーク・サーティ』には、どカテゴリーにも投票しない」という声明を発表。

マーク・ボールもキャサリン・ビグローも「論争を起こすのが目的ではなく、実際にあった出来事をありのままに伝えることに勤めた。そのためには拷問場面は入れざるをえなかった」というスタンスのコメントを出している。

拷問を描くことと、拷問を正当化することは全くの別問題。
映画にはさまざまな解釈があり、受け止め方による違いにすぎない。

極端な話、殺人犯を描いた映画があって、その後同情すべき動機が明かされたとする。
じゃあ、その映画は殺人を正当化した映画なのか?違うでしょう。
「拷問を正当化する」というのは極めて的外れな指摘だと思う。

また、ゴシップに走ってしまった(^^;
再び映画の話に戻ります。

相変わらずサスペンス演出は巧みである。そのため、上映時間2時間半の長さを感じさせない。
2005年のロンドン同時爆破事件、2008年のイスラマバード・マリオット・ホテル爆破テロ事件、2009年のチャップマン基地自爆テロ事件などをしっかり盛り込んである。とくにチャップマン〜描写ではチャップマンを待ち受けるマヤの同僚ジェシカ(ジェニファー・イーリー)が妙にはしゃいだような作り笑いをする。そこで観客は何かが起こるを察知、笑顔と悲劇のコンストラストが奏でられる。

一番感心したのはビンラディンの隠れ家にネイビーシールズが出陣するときのヘリコプター(Stealth helicopter)の音!
心臓に響くような重低音。隊員たちの緊張をうまく音で表現している。
重厚なヘリコプター音にアレクサンドル・デプラの音楽が控えめに絶妙なバランスで寄り添っている。
この場面だけでも劇場で体感する価値はある!




その後の事実関係についてはこちらを参照してください。→ウサーマ・ビン・ラーディンの殺害

ビンラディンの隠れ家に突入する場面は少し長尺だが、洗練されたサスペンス描写よりもリアリティを優先したためだろう。
実際の潜入は40分間かかってますからね。この広さだし↓

ビンラディン潜伏敷地内 見取り図

ジェシカ・チャステイン演じる主人公マヤは実在するCIA分析官"JEN”をモデルにしていると言われる。(特定のモデルは存在せず、複数のキャラクターをひとりに集結したという説もある)キャスリン・ビグローもジェシカ・チャステインもインタビューで「彼女に会ったか?」と聞かれて「それは言えない」とお茶を濁している。(要するに会ったということですね)ちなみにジェシカが役作りで参考にした本はローレンス・ライトの『倒壊する巨塔―アルカイダと「9・11」への道』やミハエル・シュアーの『OSAMA BIN LADIN』だそうです。



官僚特有の形式的なものの考え方はここでも提示される。
彼等は口癖のように"リスク"を口にする。
だが、マヤはその度に「ビンラディンを取り逃がすリスクを冒すの?」と問い詰めていく。
この映画の元企画だったトラボラでの失敗のニュアンスがここに反映さえている。
「ビンラディン容疑者取り逃がし、ラムズフェルド氏に責任」 米上院報告書

一度、全てが無駄になりそうなことが起こったが、彼女はそれでも自分の推測にこだわった。
何かに取りつかれたものでないと、何かに取りつかれたものに立ち向かえない。
目先にぶらさがっているニンジンが気になる者ではだめなのか。

ちなみに、マヤのモデルとなった女性はその後、男社会のCIAで嫉妬の的となり、昇進も昇給も見送られ、映画のせいで降格されたという説もある。

「ゼロ・ダーク・サーティ」は一応ハッピーエンドのため、前作「ハート・ロッカー」のような後味の悪い余韻は残さない。
だが、前作同様、なぜこの映画を作ったか、その動機が作品から見えてこない。
「ハート・ロッカー」は見方によっては反戦にも好戦にも受け止められる作品だった。
この「ゼロ・ダーク・サーティ」は...
アメリカ万歳!イラク戦争で失われたアメリカの威信を取り戻すためか?
9.11への犠牲者への弔いなのか?
キャサリン・ビグローがライフワークのように手掛けている"究極の危機に立ち向かう人間"シリーズの一環にすぎなかったのか?
それとも共和党のいうとおり、オバマ再選へのプロパガンダだったのか
オバマは作品に登場せず、映画を観る限りそういう要素はない。ただ、公開タイミングが問題だった。

そういえば、9.11後、4年後に公開された「ユナイテッド93」や「ワールド・トレード・センター」も
何を目的に作ったのかよくわからない作品だった。
9.11を映画にしようとするとそういう作りにせざるをえないのか?
特に「ユナイテッド93」はブッシュが絶賛したこともあり、
テロの恐ろしさを強調することで、イラク戦争を正当化する"効果"が出てしまった。

おそらくキャスリン・ビグローもマーク・ボールも意識的に"製作意図が見えない"作りをしているのだと思う。
映画は世界中で公開される。
映画はあくまできっかけでありひとつの立場、ひとつの視点を提示する役割をもつ必要はない。
そう割り切っているかのようだ。

ラスト、マヤはひとり涙を流す。
彼女は若き日々を"ビンラディン暗殺"に捧げていた。
嬉しさなのか、安堵なのか、それとも終わった後のむなしさか...。
それは観客ひとりひとりが自分なりの答えを探せばいい。

「ゼロ・ダーク・サーティ」が9.11映画の決定版になるのかはわからない。
だが、これほどの傑作をこんなに早く作られてしまっては、同じ題材で勝負するフィルムメーカーは出てこないだろう。
「ゼロ・ダーク・サーティ」、好みはともあれ一度は観ておきたい映画である。
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2013.02.19 Tuesday | 03:27 | 映画 | comments(0) | trackbacks(5) |

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