映画のメモ帳+α

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ミッドナイト・イン・パリ

ミッドナイト・イン・パリ(2011 スペイン・アメリカ)

ミッドナイト・イン・パリ原題   MIDNIGHT IN PARIS
監督   ウディ・アレン
脚本   ウディ・アレン
撮影   ダリウス・コンジ
音楽   ステファン・レンベル
出演   オーウェン・ウィルソン レイチェル・マクアダムス
      マイケル・シーン カーラ・ブルーニ
      キャシー・ベイツ マリオン・コティヤール
      エイドリアン・ブロディ コリー・ストール

第84回(20111年)アカデミー賞脚本賞受賞。作品、監督、美術賞ノミネート。


映画の鑑賞姿勢に正解はない。何を楽しもうと観客の勝手である。だが、個人的に"映画の見かた"を間違わせてくれた、とうらめしく思う人が2名いる。ビリー・ワイルダーとウディ・アレンである。映画を見始めて日が浅いころ、この2人の監督作を片っ端からみた。2人のウィットの利いた台詞をぞんぶんに楽しんだ。だが、映画とは粋な会話を楽しむもの...ではなかった。会話に頼りすぎた映画にロクなものはない。ワイルダーとアレンは"例外中の例外"だったのだ。ビリー・ワイルダーはどちらかというと職人肌の監督。それゆえ映画人の中にもワイルダー好きを公言する人は多い。だが、"話術"はワイルダーに遠く及ばないため、ワイルダー信奉者がつくる映画はつまらない、と相場が決まっている。一方のウディ・アレンは職人というよりは、アーティスト。極めて私的な価値観を皮肉とウィットを織り交ぜ、力技で一本の映画に仕立て上げる。独自のワールドを気づきあげているため、誰も真似ができない。ゆえにアレンを崇拝している人は多いが彼を真似しようとする人はあまりいない。そのウディ・アレンの新作が「ミッドナイト・イン・パリ」である。

自分の中でウディ・アレンは長期安定低空飛行、「世界中がアイ・ラヴ・ユー 」(1996)以降、完全に"終わった人"。「マッチポイント」 (2005)や「それでも恋するバルセロナ」(2008)など一般的にそこそこの評価を得た作品もあるが、個人的にはどちらも今ひとつ。それゆえアカデミー賞作品、監督賞にノミネートされ、脚本賞を25年ぶりに受賞していようが、興行的成功を収めていようが、過剰な期待は一切しないことにしていた。だが、美しいパリの風景とウディ・アレンしか描けない独特の物語が見事に融合。15年ぶりに心地よい満足感をえた。





〜ストーリー〜
ハリウッドで脚本家として活躍中のギル(オーウェン・ウィルソン)。婚約者イネス (レイチェル・マクアダムス) やその両親といっしょに旅に出たパリで、真夜中、道に迷いさまよっていたところ、ヘミングウェイやF・スコット・フィッツジェラルド: 、ピカソ、ダリ、マン・レイなどが集う1920年代のパリにタイムスリップして彷徨いこむことになる


この映画が成功しているのは2つの要因がある。

1.最も得意とする分野を描き、無理をしていないこと。

アレンの本質はコメディ。笑いを極力排した作品で成功しているのは「インテリア」 (1978)のみ。とくにミステリーを大真面目につくると肝心なところでもたつく。「マッチポイント」ラストのうだうだ...。そして「ウディ・アレンの 夢と犯罪 」(2007)では「太陽がいっぱい」をやりたかったのかな、と思いきやラスト、これ以上考えられないほど凡庸なオチ...。アレン自身も彼を評価している人もみな、"インテリぶりっこ"である。インテリ(もしくはアーティスト)ぶりっこが(自分と同じ)エセインテリを嫌うところから話がはじまる、というのはアレン映画の常套手法。マイケル・シーン演じた"間違いだらけの知識人"。こんな人もこんな人にだまされる女もいそうですね。「ミッドナイト・イン・パリ」、ユーモアは以前より鈍くなっているが会話の切れは復活。登場する偉人たちを詳しく知っていればより楽しめるだろう。エイドリアン・ブロディのダリはどうよ?ピカソはヒットラーに見えました...。

2.オーウェン・ウィルソンとパリの風景がアレン映画独特の"臭い"をうすめていること

かなり前からオーウェンはアレン映画にぴったりだと思っていた。だが、アレンはそう考えていなかったらしい。「ミッド〜」の主役がなかなか決まらず、キャスティングのジュリエット・テイラーがオーウェン・ウィルソンの名前を出したところ、アレンは「イメージが違いすぎる」と当惑したという。アレンにとってオーウェンのイメージは「西海岸のブロンドサーファー」。主人公ギルは"東海岸のインテリ"という設定だたため、全くのミスキャストと映ったようだ。その後、オーウェンのことをより調べたところ、"彼はテキサス州ダラスで生まれ、ハワイに住んでいる。カウボーイじゃないか!理想と正反対だ"( アレンはこういう言い方をよくする。マドンナのことを「知能指数よりバストサイズのほうが大きいと思っていたけど、そうじゃなかった」とか)

だが、説得されアレンは主人公をカリフォルニア出身に変えるなどオーウェンに合うように脚本を書き直した。アレンはオーウェンについて「イメージと全く違っていた。才能にあふれ面白く聡明だ。カウボーイじゃなかったよ」「自然な演技ができる役者。演技をしているというより、人間がそこにいて話をしている、という感じだ」と絶賛している。

オーウェンの童顔と滑舌の悪いくぐもった話し方は主人公のイヤミを和らげるのに成功している。彼が演じたギルは、30年前ならアレン本人が演じたであろう役。アレン映画では、脚本上でキャラクターがきっちり書かれているので、俳優自身が役の幅を拡げる要素はほとんどない。アレン本人が演じるはずの役を演じた俳優は、大体アレンのコピーみたいな演技をせざるをえない。「セレブリティ」(1998)のケネス・ブラナーはまさにそうだった。オーウェンの演技も"コピーもどき"が全くなかったとは言えないがアレンにはない"童顔とテンポの悪い話し方"で乗り切った感がある。(概して、インテリブリッコは早口。頭の回転が速いように見せたいのだろう)

あとはパリの風景。オープニングは、シドニー・ベシェ(Sidney Bechet)の "Si tu vois ma mere"。ビブラートかかりすぎ?泣きのサックスに乗せて、パリの街並みがえんえんと映し出されます。これ、映画の演出上の判断というより、パリの観光局がどっかから頼まれてやったんだと思いますよ(笑)。最近はアレン、資金提供を受けているため、(ニューヨークではなく)ヨーロッパで撮影しているようだし。それにしても、パリで雨にぬれて歩くことをよしとする主人公、ああ、いやらしい(爆)

 ノスタルジアにひたるのは悪いこと?

脚本家ギルがガートルード・スタイン(キャシー・ベイツ)に自作の小説を読み聞かせる場面がある。これがなかなかいい。

"'Out Of The Past' was the name of the store, and its products consisted of memories: what was prosaic and even vulgar to one generation have been transmuted by the mere passing of years to a status at once magical and also camp."

下手に翻訳すると、逆に興をそぎそうなのでしません。ちなみに小生、大昔に日本語翻訳されたウディ・アレンの小説を読んだことがありますが、マニアックな描写が多く、何が何だかさっぱりわかりませんでした(爆)

現在に背を向け、ノスタルジアに浸ることはいいことか?が映画のテーマでしょう。

ノスタルジアにひたるのも2パターンある。

1.自分の若かりし頃を懐かしみ、美化する
よく、TVや雑誌で60年代特集とか70年代特集とか80年代がブームです!とか書かれていることがあるけれど
あれは単に、その世代に青春時代をすごした人がメディアで責任のある地位についているため
単なる自分のノスタルジアを"ブーム"に仕立て上げて、遊んでいるだけです。
そのうち、90年代ブームもきますよ(爆)

2.自分の生まれていない時代に思いをはせ、まるでユートピア(理想郷)のように崇拝すること。
「ミッドナイト〜」の主人公ギルはこちら。
1920年代のパリ。映画は2010年という設定だから90年近くさかのぼっているわけです。

最近の若い人のあいだでは(ああ、イヤだ、こんな言い方)昭和の歌謡曲が好きという人が結構多い。
親の影響とか、youtubeなどの動画などでいつでも手軽にみられることも要因でしょうが...。

ただ、昭和なら、つい?ひと昔。そのころのスターは今でも現役ばりばりの人がたくさんいる。
その頃に思いをはせても、週刊誌、ネット...情報の氾濫によって、夢はかんたんに打ち砕かれます(笑)。

ところが、90年も昔となると...当時、活躍した人もこの世にいない。
ほとんど"夢を壊される"ことがないわけです。
だから安心して"理想"にできる。

ウディ・アレンは最近のインタビューで「自分のアイドルに会いたいと思ったことがない。グルーチョ・マルクスにだけは、会ったことがあるけど、会ってしまうと、それまで彼に抱いていたマジカルな要素が消えてしまったんだ。ルイ・アームストロングに会えるチャンスもあったけど会わなかった。彼らが僕らと同じ普通の人間だとわかってしまうのがイヤなんだ」

"会いにいけるアイドル"に夢中の皆さん、この感覚はおわかりですか?(笑)

大部分の人は"現在"を嫌う。よほどノーテンキな人か、大成功している人以外は。
"現在"を嫌うなら、希望の矛先は"未来"に向かうはずである。
だが、絶望しかみえてこない未来...結局、過去に夢を求める。
あと、50年後には2012年はよかった、と語る世代が出てくるかもしれません。

ウディ・アレンが脚本賞をとった今年のアカデミー賞で作品賞を争った「アーティスト」と「ヒューゴの不思議な冒険」ともにノスタルジックな映画である。この「ミッドナイト〜」だけでない。ノスタルジアは今や映画業界のトレンドなのだ。あのクエンティン・タランティーノが2011年映画No.1に選んだのがこの「ミッドナイト・イン・パリ」。タランティーノがウディ・アレン映画を1位にする...違和感ありありでしたが映画を観終わって納得。過去のB級映画をネタ元にすることが多いタラちゃん、いろいろ思うことがあったのでしょう。

ノスタルジアを"単なる懐古趣味"と切り捨てられるか?
人間、年をとるごとにこの問題に直面します。

社会全体にまで話を及ばせるとかなり面倒臭くなるので、ここでは"映画"にしぼって話をしてみます。

クラシック映画に詳しかったあの淀川長治氏はこう言っていた。
「やっぱり、今の映画が一番面白い。現代が見えてくるから」

自分もそうだ、とずっと思おうとしていた。
でも...最近限界がきてます。TVドラマや漫画原作、安直な続編やリメイク、何かの焼き直しのような企画ばかり。
映画だけじゃなく音楽とかもそう。"新しすぎてついていけない"ならまだいい。どっかで観たこと、聞いたことあるようなものばっかりなので、十分ついていけます。ただ、ネットの影響か、映画や音楽などのアートまで、"迅速な情報処理"モード、昔の題材が超薄味に味付けされています。内容は二の次、三の次、いかに話題になるかだけが勝負...。

確かに「今が一番面白い」と言い切ったほうがカッコイイです。でも...カッコ悪くてもいいからノスタルジアにひたりたい。そう、"決して裏切らない時代"...さすがに1920年代まではさかのぼりませんが、ちょっと昔の映画にひたりたい。最近、個人的にこういうモードなので、この映画はそこそこツボでした。ただねえ...収入的に申し分ない脚本家が金ではなく"知のステイタス"を求めて小説家に...という設定は、切羽詰まった現代とまったくシンクロせず。いまどきこんな"知性ブランド主義"をかませる余裕がある人がどれだけいる?まあ、ウディ・アレンは現代性なんて低俗なものは気にしないんでしょうね。(爆)

「ミッドナイト・イン・パリ」は人間、誰でもいつかは直面する"過去に癒しを求める思い"を描いた作品です。そもそもウディ・アレンが傑作を作ったこと自体、久しぶりでノスタルジック!この作品を作るためにそれまで凡作を量産し続けた...わけないか(笑)
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2012.06.02 Saturday | 01:02 | 映画 | comments(4) | trackbacks(4) |

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2017.11.23 Thursday | 01:02 | - | - | - |

コメント

うーん、さすがです。90年代からずっと70年代に憧れ続けている私が来ましたよ。
ノスタルジーと憧れについて・・、これに関してすごく思うところがありながらも、自分もこの映画のマリオン・コティヤールにあっさり自分の憧れに埋没するのを良しとしてしまうタイプかもしれませんw
ラストの関しては、現代に作品を残すことについて
アートに本気でガッチリ携わる作家主義の人であれば、必ずここへ到着するんだろうなあ〜
ぐらいの簡単な感想で終えてしまいました^^;; ホホホ
2012/08/20 10:48 AM by とらねこ
>90年代からずっと70年代に憧れ続けている私が来ましたよ。

仕立て上げられたブームにだまされたんですね(爆)

ウディ・アレン自身は完全に過去に埋没している人です。何が悪いんじゃ〜!が本音だと思うんですが、そういう結末はカッコ悪過ぎて採用できなかったんでしょう。
2012/08/23 9:54 PM by moviepad
「ハンナとその姉妹」「アニーホール」に感動してずっとアレン映画を見てきましたが、正直私も21世紀に入ってからはマンネリ感を感じていました。

しかしこの作品は不思議なことに最近の映画にない暖かさとロマコメとしての要素が見事に調和して逆に新鮮な感じさえしました。

※次作「To Rome With Love」に期待して、お盆にアメリカに行ったついでに見てきましたが、面白いところとつまらないところの差が歴然としていました。

せっかくペネロペ・クルスやロベルト・ベニーニが出ていたのに…もうアレンは過去の人になったしまったのでしょうか?
2012/08/24 11:44 PM by 1192
1192さん、はじめまして。
コメントありがとうございます♪

「To Rome With Love」評判が今イチなことは知っていましたが...やっぱりそうでしたか。
最近のアレン映画ってキャスティングが豪華になればなるほど作品の質が落ちている気がします。

あと、「マッチポイント」の記事に書いたんですが、アレンって典型的な公私混同タイプ。
自分の女(ダイアン・キートン、ミア・ファロー)にいい作品を書いてやろう!という衝動がなくなってから
作品の質が落ちました。

ウディ・アレンはほぼ毎年新作を発表し続けているし、そういう側面でみると現役バリバリなんですが
作品のクオリティ的にはとっくの昔に過去の人...という認識です、私は。

「ミッドナイト・イン・パリ」は
アレンが本当に久しぶりに傑作を作ってくれてうれしかったです。
リアルタイムでアレンの傑作を見れることはもう2度とないだろう、と思ってましたから。
2012/08/25 3:11 AM by moviepad

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ミッドナイト・イン・パリ/Midnight in Paris
語り部ウディ・アレンが第84回アカデミー賞脚本賞受賞したファンタジー・コメディ。1920年代のパリを黄金期と信じて疑わない主人公がタイムスリップし、過去の著名な芸術家たちと不思議な交流す姿を描いている。主演はオーウェン・ウィルソン。共演にレイチェル・
(LOVE Cinemas 調布 2012/06/02 1:49 AM)
34★ミッドナイト・イン・パリ
’11年、スペイン、アメリカ 原題:Midnight in Paris 監督・脚本: ウディ・アレン 製作総指揮: ハビエル・メンデス キャスト:オーウェン・ウィルソン、レイチェル・マクアダムス、マリオン・コティヤール、キャシー・ベイツ、マイケル・シーン、エイドリアン・ブロ
(レザボアCATs 2012/08/20 10:40 AM)
ミッドナイト・イン・パリ (Midnight in Paris)
監督 ウディ・アレン 主演 オーウェン・ウィルソン 2011年 スペイン/アメリカ映画 94分 コメディ 採点★★★★ 「まぁ!?なんて後ろ向きな人!」と言われようが何であろうが、自分の過ごしてきたある一時期に対する思い入れが強い私。自分の楽しんでいる娯楽の
(Subterranean サブタレイニアン 2012/12/03 1:06 PM)
開き直りの4回目(これが最後、多分)
蠍座での『ミッドナイト・イン・パリ』最後の上映の回に行ってきました。・・・映画館で観るのはこれで4回目です。 (ちなみに un&nbsp;deux&nbsp;trois)・・・いくらウチ的2012年No.1映画とはいえDVDで何回観てるんだか。映画館で観ることはもう無いだろうと思
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