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ル・アーヴルの靴みがき

ル・アーヴルの靴みがき(2011 フィンランド・フランス・ドイツ)

ル・アーヴルの靴みがき原題   LE HAVRE
監督   アキ・カウリスマキ
脚本   アキ・カウリスマキ
撮影   ティモ・サルミネン
出演   アンドレ・ウィルム カティ・オウティネン
      ジャン=ピエール・ダルッサン ブロンダン・ミゲル
      ジャン=ピエール・レオ

第64回カンヌ国際映画祭FIPRESCI(国際映画批評家連盟)賞、パルム・ドッグ賞審査員特別賞(Laika)受賞


フィンランドの単なる酔っぱらい巨匠、アキ・カウリスマキ監督作品の魅力はまず登場人物の"顔"だ。決して美男、美女は登場しない。しかもオジサン、オバサンばっか。伊丹十三監督が、かつて「映画はクローズ・アップが多いから、主役は顔だけで人生がにじみ出る人でないと起用できない」と語ったが、カウリスマキ作品の登場人物は"ミューズ"カティ・オウティネンをはじめ、そんな人だらけである。どこか人生に疲れたような、かといって人生に失望しきっているわけでもない。感情を荒げることもなく飄々としている。独特の間合いとすっとぼけたようなユーモア、叙情的な音楽、押しつけがましさのない、無愛想な優しさ...最新作『ル・アーヴルの靴みがき』は、そんなカウリスマキの世界がびっしりつまった傑作だ。

〜物語〜
フランスの港町ル・アーヴルで靴磨きをしているマルセル(アンドレ・ウィルム)。妻アルレッティ(カティ・オウティネン)と2人つつましい生活をしていた。だが、妻が病気に倒れ入院。医者から余命いくばくないと宣告されるが、彼女は夫にそれを隠しとおす。そんな最中、マルセルはひょんなことからアフリカからの密航者で現在、警察から追われている黒人少年イドリッサ(ブロンダン・ミゲル)をかくまうことになる。母が住むロンドンにイドリッサを送り出すため、マルセルは街の仲間たちといっしょに逃亡資金を工面するが...




ハリウッドチックなファースト場面にはいささか驚いた。
ご心配なく、物語はこのノリではすすみません。
かつて、イラク戦争を理由にアカデミー賞授賞式の出席を拒否したことがあるカウリスマキ。
この場面は彼なりのハリウッドへの皮肉じゃないか。こんなものは撮りませんよってことで。
ただの酔っぱらいじゃありません。作品はシラフです。

物語枠組だけをピックアップすると、ややご都合主義である。
ある種のお伽噺なのだが、それでも浮世離れした気はしない。
ヨーロッパ映画ならではの不法移民問題がバックグラウンドにあるためかもしれない。

特に気の利いた台詞があるわけでもない。
凝ったカメラワークがあるわけでもない。
ただ、語り口はやっぱりうまい。
よもや...と観客をさりげなく(ここがポイント)不安にさせておいて、その後ほっとさせてくれる。
例えば、ある目的のためにチャリティ・コンサートを開く場面がある。
チャリティだから客がたくさん入らないと、お金が集めらず、目的を達しえないのだが...
ステージで歌うオッサン歌手をカメラはひたすら映し出すだけ。
時折、後ろに人影は見えるがコンサートは盛り上がっているのか?
観客はたくさん来ているのか?
なかなか教えてくれない。
しばらくして、コンサートが盛況だったことがやっとわかる。
しかし、警察の気配を感じ、マルセルは集めたお金をもって逃げだす...。持ち逃げ?
小さな不安と小さな安心の積み重ね...ささやかなもったいつけの連なりがお伽噺を作り出している。

周りが皆、バカがつくほどお人よし。それでも嘘っぽくない。
登場人物の背景について、説明はほとんどないが、自分自身が難民だったり
ひとりひとり、単なる優しさ以上の、何らかの思いがあることが容易に想像できる。
説明もないのに、想像できる理由は登場人物の顔だったり、独特の間合いだったり...
要はアキ・カウリスマキ・ワールドがみなぎっているからである。

ちなみに、『ル・アーヴルの靴みがき』はアキ・カウリスマキにとって『ラヴィ・ド・ボエーム』(1991)に次ぐ2本目のフランス語映画となる。
主役の名前がマルセルで妻の名がアルレッティ...はい、ぴんとくる人はたくさんいるでしょう!
そう、マルセル・カルネ監督の『天井桟敷の人々』。
物語設定は全然違うが、カウリスマキなりの「天井桟敷の人々」へのかなり形を変えたオマージュなのかもしれない。

カウリスマキの前作『街のあかり』はカウリスマキらしさを残しながらも、テーマ的にかなり厳しく、鑑賞後どんよりとした気分になったことを今でもよく覚えている。その反動なのだろうか?この『ル・アーヴルの靴みがき』はカウリスマキ作品の中では、(おそらく)最もとっつきやすい映画かもしれない。ラスト場面の何ともいえない穏やかな色彩は特筆もの。鑑賞後、いやな気分になる人はいないと思う。カウリスマキ作品を過去ひとつでも観ていて、それを気に入ったのであればこの映画も間違いなく好きになれるはずだ。

『ル・アーヴルの靴みがき』は東京、渋谷にあるミニ・シアター「ユーロスペース」(昔、よく行ったなあ...)の30周年記念作品。ミニ・シアター好きでアキ・カウリスマキ監督作品のファンは日本でもかなり多いと思う。

『ル・アーヴルの靴みがき』はお伽噺に近い、善人だらけの物語を、まさに"アキ・カウリスマキの魔法"とも呼ぶべき語り口で説得力をもたせた傑作。絶対にカウリスマキ以外撮れない作品。かつてミニ・シアターで多く上映されていた"作家性の強い映画"は最近、観客から敬遠される傾向があるというが、アキ・カウリスマキという"映画作家"の世界を堪能するのは乙なものですよ!
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2012.04.28 Saturday | 21:06 | 映画 | comments(2) | trackbacks(4) |

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2020.04.05 Sunday | 21:06 | - | - | - |

コメント

おはようございます。moviepadさん。もう年末ですねえ。
今はお忙しいですか?今年のベストを選ぶ時期がやってきました。
moviepadさんのベストを楽しみに待ってますね。

さて、この作品について
本当に素敵なお伽話のようなお話でした。
見ている間あまりに幸せで、かつ現実との乖離の大きさに絶望して、涙が止まらなくなりました。
『天井桟敷の人々』まだ見ていなかったので、今度早速見てみます。
2012/12/27 5:23 AM by とらねこ
とらねこさん、こんばんわ♪

神業みたいな映画ですね。
こんなにお伽噺なのに、自然とすっと受け入れられる世界。
カウリスマキ映画の無愛想な優しさに満ちています。

「天井桟敷の人々」一度は見た方がいいと思います。
古めかしさは否めませんが、何といってもラストが圧巻
これがフランス映画のエッセンスなんだな、
名作と言われるゆえんなんだな、
と○年前に観たときうなりました。

ただ、「ル・アーヴルの靴みがき」に関しては「天井桟敷の人々」との共通点はほとんど感じられない。
ただの言葉遊び、という気がします。
前作の「街のあかり」だって、どこがチャップリンへのオマージャなのかさっぱりわからなかったし(笑)

年間ベスト10に関しては、劇場鑑賞本数激減のため
昨年から発表をやめております。

今年は...
1「別離」2「ミッドナイト・イン・パリ」3「ドライヴ」4「ル・アーヴルの靴みがき」
5位は「アリラン」or「アーティスト」
無理矢理選べばこんな感じです。
1位だけは、未見の何百本観ても変わらないでしょう。
完成度高すぎ!
2012/12/28 2:08 AM by moviepad

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ル・アーヴルの靴みがき
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