映画のメモ帳+α

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別離

別離(2011 イラン)

映画 別離原題    جدایی نادر از سیمین (Jodaeiye Nader az Simin)
英題   A SEPARATION
監督   アスガー・ファルハディ
脚本   アスガー・ファルハディ
撮影   マームード・カラリ
音楽   サッタール・オラキ
出演   レイラ・ハタミ ペイマン・モアディ
      シャハブ・ホセイニ サリナ・ファルハディ
      ババク・カリミ メリッラ・ザレイ


第84回(2011年)アカデミー賞外国語映画賞受賞。脚本賞ノミネート。第61回ベルリン国際映画祭 金熊賞、銀熊賞(男優賞、女優賞)受賞

2011年に劇場公開された映画の中で、最高の賛辞を獲得した作品は何でしょう?アカデミー作品賞を獲得した『アーティスト』?non,non,non!それはイラン映画『別離』なのです。映画批評サイトRotten Tomatoesでは批評家の99%、観客94%の支持を獲得、映画データーベースimdbの一般投票でも平均8.4点の高得点で名作250位中、早くも69位にランクイン(2012年4月21日現在、タイトルは原題のJodaeiye Nader az Simin まあ、このチャート1位が「ショーシャンクの空で」12位が「ファイト・クラブ」とか...あてにしていいのかしら?)そしてベルリン国際映画祭では金熊賞(作品賞)、銀熊賞(俳優のアンサンブル演技に対して男優賞、女優賞がそれぞれ贈られた)と史上初の主要3部門制覇、他キリスト教会賞とベルリナー・モルゲンポスト読者賞をも受賞し、5冠達成という偉業を成し遂げた。(まあ、この映画ならカンヌなど他の映画祭でも同様の結果になるでしょう)アカデミー賞外国語映画賞他、数えきれぬほどの映画賞を受賞している。

多くの映画人もこの作品を絶賛している。
ウディ・アレンは「アカデミー賞授賞式には出たくないけれど、(アスガー・ファルハディ監督とは)話がしてみたい」、スティーヴン・スピルバーグは「圧倒的大差で2011年のベストフィルム」と語った。メリル・ストリープとアンジェリーナ・ジョリーはこの映画を観た後、ファルハディ監督作品への出演を熱望、フランシス・フォード・コッポラ、アレクサンダー・ペイン、ブラッド・ピット、デビッド・フィンチャー、ボブ・ディランらも作品を絶賛しているという。

多彩なジャンルの人がみな絶賛するには訳がある。

イランの厳しい生活環境をにじませるシビアなドラマだ。物語はミステリー仕立てで謎が次から次へと出てくる展開。脚本が緻密に練られているので、ミステリー、つまり娯楽映画としても十分楽しめる。ドラマとしてもミステリーとしても第一級品。だから、幅広い支持を得ることができる。

「途中からみても意味がわかるのがTVドラマ。一瞬でも見逃すとついていけなくなるのが映画」とある日本のプロデューサーが語っていたが、その定義を採用するなら『別離』はまさに映画そのものだ。前半、無駄にみえる場面や消化不良のまま進んでしまう箇所は後ほど物語の伏線としてからんでくる。

物語を前もって知っていても十分楽しめる映画だが、ミステリーの要素も強いためネタバレはやめておきます。(まあ、予告編である程度わかっちゃいますけどね...↓未見の人は見ないか、もしくは一度だけ見て内容は忘れてしまいましょう)




物語は多くの謎が含まれている。

・妻はなぜ外国にいきたがったのか?
・離婚を切り出し、家を飛び出したときなぜ夫はとめなかったのか?
・なぜ家政婦は妊娠中であることを隠していたのか?
・夫は彼女が妊娠中であることに本当に気付かなかったのか?
・家政婦は父をしばりつけてどこに言っていたのか?
・夫が"ある提案"を受け入れれば、妻は本当に家に戻るつもりだったのか?

表向きの謎は物語がすすむにつれて徐々に判明するが、"人の心理は永遠に謎"といわんばかりに精神的な意味での謎は残ったままだ。

彼女が妊娠中であることを最初に告白し、かつ夫にも働くことを告げていれば...。
人生につきものの"If もしも"(あのとき、こうしていればこういうことにはならなかったのに...)も多分に含まれている。

映画はドキュメンタリータッチで進む。音楽はラストクレジットで静かに流れるだけ。
緊迫感に包まれており、登場人物の、経済的、かつ精神的な余裕のなさがひしひしと伝わってくる。

わずかなボタンの掛け違い、小さな嘘が積み重なることにより物事がどんどん悪い方向に向かっていく。多かれ少なかれ、誰もが経験する日常生活の1パターンだ。物語が進むにつれ、こういう展開になったらイヤだな、という何度か思ったが、そういう"物語をまとめるための通俗的なオチ"はことごとく採用されていなかった。個人の一時的な感情だけで物語が進んでいくこともない。つまり、この映画にいわゆる"悪役"はいない。登場人物はみな、どこにでもいる普通の人だ。彼らが嘘をつくには相当な理由がある。かなり切実な理由だ。だから皆、嘘をつくことに対する罪悪感が薄い。だが、"神"に嘘をつけなかった人もいる。彼らの中に嘘をつきとおした人がいるかどうかは最後までわからない。

真実は人を幸せにしないこともある。だからといって嘘が人を幸せにするとも限らない。
幸せは真実と嘘のあいだに横たわる。誰もがそのブレンド具合を探りながら生きている。
真実と嘘との匙加減を誤ると...。映画を見終えた後、ふとそんなことが頭をよぎった。

映画『別離』は緻密な脚本が練りだす、見事な心理劇である。
リアルタイムでこれほどの作品に出会ったのはどれくらい前だろうか?
非のうちどころがない、まさに完璧な仕上がり。10年に一本の傑作だ。
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2012.04.21 Saturday | 21:13 | 映画 | comments(0) | trackbacks(3) |

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2017.10.23 Monday | 21:13 | - | - | - |

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別離/Jodaeiye Nader az Simin
『彼女が消えた浜辺』でベルリン国際映画祭の監督賞を獲ったイランのアスガー・ファルハディ監督作品。ベルリン国際映画祭で金熊賞を含む3冠を獲得、第84回アカデミー賞では外国語映画賞を授賞した。前作同様に現代イランの社会事情やそこに絡む宗教的な問題といった
(LOVE Cinemas 調布 2012/04/21 9:44 PM)
ひとは何故、かくも悲しい生き物なのだろう〜『別離』
 JODAEIYE NADER AZ SIMIN  NADER AND SIMIN, A SEPARATION  「娘の教育のために」 海外移住を主張する妻・シミン(レイラ・ハタミ)と、ア ルツハイマーを発症した父を置いては行け...
(真紅のthinkingdays 2012/04/27 8:48 AM)
35★別離
’11年、イラン 原題:Jodaeiye Nader az Simin 監督・脚本・製作: アスガー・ファルハディ 撮影: マームード・カラリ キャスト:レイラ・ハタミ、ペイマン・モアディ、シャハブ・ホセイニ、サレー・バヤト、サリナ・ファルハディ   あまりの出来の良さに舌を巻
(レザボアCATs 2012/08/20 10:17 AM)

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