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ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人

ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人(2008 アメリカ)

ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人原題   HERB & DOROTHY
監督   佐々木芽生
撮影   アクセル・ボーマン
音楽   デヴィッド・マズリン
出演   ハーバート・ヴォーゲル ドロシー・ヴォーゲル
      クリスト&ジャン=クロード リチャード・タトル
      チャック・クロース  ローレンス・ウィナー
      ロバート・バリー  リンダ・ベングリス
      パット・ステア ジェームス・シエナ
      ロバート・マンゴールド シルヴィア・マンゴールド
      ウィル・バーネット ルチオ・ポッツィ


「ものを集めることはどこか子供じみた行為」日本のある女流作家はこう語った。でもその"子供じみた行為"を極めると...『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』は現代アートのコレクションを極めてしまったハーバート・ヴォーゲル、ドロシー・ヴォーゲル夫婦の軌跡をたどったドキュメンタリー映画。美術愛好家にとってほどんどお伽噺に近い"理想のコレクター"の姿がここにある。



ハーバート・ヴォーゲル(以降、ハーブと記す)は1922年、ドロシーは1935年、ともにニューヨーク州生まれ。2人は1962年に結婚し、ハーブは郵便局員としてドロシーは図書館司書として働く。ハーブは独学で美術を学ぶなどアートに関心が高く、ドロシーは彼をサポートしていくうちにアートに関心を持ち始めた。

毎日、展覧会に出かけてアーティストと交流をはかっては作品を買いあさる日々。
ドロシーの給料を生活費に、そしてハーブの給料をアート購入費用にあてるという生活を40年近く続けている。

ただし、購入基準があり
1.自分たちの収入で買えるものだけを買う
2.1LDKのアパートに収められるものだけを買う

よって、彼らが買うアートのジャンルはコンセプチュアル・アートミニマル・アートといったコンパクトなサイズのものに限られていく。この2人のコレクションが重要なものとなった理由のひとつはジャンルを絞ったことが大きいでしょう。

やがて、彼らのコレクションは4000点以上に膨れ上がり、アパートは足の踏み場もない状態に。
そしてそのコレクションには現代アート史に名をきざむ画家の作品も数多く含まれていたため、美術館からは寄贈依頼が次々と寄せられたが「何か気に入らない」(ハーブ)と断り続けていた。

ついに1992年、アメリカ国立美術館ナショナルギャラリーへ全コレクションを寄贈することを決意した。
ナショナルギャラリーに決めた理由は"売却しない"、つまり永久保存が要件になっていたためだという。コレクションは大型トラック5台分にのぼった。あのアパートのどこにそれだけの量が?

ハーブ&ドロシーのエピソードが心をうつのはそのぶれない姿勢である。
メディアに取り上げられようが、買った作家が成長しようがぶれない。
コレクションの数点を売って生活のたしにしようなどとは露ほども考えない。
このぶれない姿勢がアートそのものだ。

決して裕福な暮らしとはいえない彼ら。TVのインタビューで「売ろうと考えたことはないか?」と聞かれたときハーヴは「お金よりもコレクションが大事」ときっぱり答えている。彼らにとってアートコレクション自体が生活そのもの。彼らの生活を心配したナショナルギャラリーがいくばくかの謝礼金を払ったところそのお金でまたアートを買ったらしいし(爆)

また「なぜあの絵を飾らないの?」とよく聞かれるらしい。それに対するハーヴの答えは
持っているだけでうれしい
これぞコレクター魂!わかる人にはわかるし、わからない人には一生わからない感覚だろう。

ペットショップで猫をながめているハーヴの姿が面白い。
まるでアートを眺めているように猫を見ているのだ。
それはラスト、PCを買っているドロシーをよそめに熱帯魚を眺めているときも同様。
もう生活全体が"アート・ウォッチャー"目線になっている。

彼ら2人を描いた絵が登場する。
前かがみになるハーブ。(一歩引くように)後ろでしっかり立っているドロシー
この対比、すごくうまい。さすがアーティストはよく見ている!
この絵のハーブの姿勢って獲物を狙うときの猫みたい。

アーティストにとって彼らほどありがたい顧客はないだろう。売れないときの生活を支えてくれ
売値ははたかれたかもしれないが、作品を観る目は確か!結果として作品はナショナル・ギャラリーに永久保存してもらえることになったのだ。

「誰でも彼らの真似はできるはずなのに、誰もできない。念密に下調べをして、理解できなくても理解しようとする」

あるアーティストはこのように2人を絶賛する。
これって芸術を理解する基本姿勢だと思うんですけどね...。

話は少しそれるが今の日本の映画業界、若者のミニシアター離れが深刻だという。
「今の若者は映画をイベントとして楽しむのは好きだが、アート的にとらえるのは苦手」
「泣けるとか笑えるとか単純で強い言葉しか届かない」
「内容がよくわからないものには手を出さない(だからTVドラマの映画化がヒットするんですね)」
という状況らしいです。もうハーブ&ドロシーの爪の垢をばらまきたくなりますね(爆)
この映画でも述べられているようにどんな芸術分野でも彼らのような存在は必要だと思う。
今の日本映画界に必要なのはハーブ&ドロシーのような鑑賞姿勢をもつ観客なのかもしれない。

話を戻します。

ナショナル・ギャラリーで収納できるのは1000点が限界とされたため、残りのコレクションは『ハーバート&ドロシー・ヴォーゲル・コレクション 50 × 50』として全米50州の美術館に50点ずつ、合計2500点寄贈されている。

有名人になっても生活スタイルを全く変えず、ひたすらアートコレクションに励むハーブ&ドロシー。
まさにアート愛好者の鑑というべき姿で、彼らのアート魂はコレクションを美術館に寄贈し多くの人の目に触れさせることで「もっているだけでうれしい」は別の次元で満足感を与えていることだろう。彼らの"子供じみた行為"は美術史に名を刻む規模に膨れ上がった。そもそも芸術とはどこか子供じみた要素を含むものである。

ハーブ&ドロシーはいわゆる評論家のような小難しいボキャブラリーを持たない。作品を気に入った理由は「美しいから」芸術は感覚で理解するものであり、能書きを垂れ流さなければ良さが伝わらないようなものではないはずだ。彼らは芸術鑑賞の基本姿勢を静かに再認識させてくれる。また小柄な2人は妙に可愛らしい。決して裕福でなくても実に幸せそうだ。映画『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』はそんな本当に豊かな生活とはどういうものなのか、と静かに語りかけてくれる良作だ。
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2017.06.24 Saturday | 00:17 | - | - | - |

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