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パリ20区、僕たちのクラス

パリ20区、僕たちのクラス(2008 フランス)

パリ20区、僕たちのクラス原題   ENTRE LES MURS
監督   ローラン・カンテ
原作   フランソワ・ベゴドー 『教室へ』
脚色   ローラン・カンテ フランソワ・ベゴドー
      ロバン・カンピ
撮影   ピエール・ミロン
出演   フランソワ・ベゴドー

第61回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞、第81回(2008年)アカデミー賞外国語映画賞ノミネート

パリ20区、僕たちのクラス』はフランソワ・ベゴドーが自らの体験を元に綴った『教室へ』を原作とした劇映画。パリの中で最も移民や労働者階級が多いと言われる20区の中学校を舞台としてフランスの教育現場、子供たちが抱える諸問題を描いた当作は第61回カンヌ国際映画祭において、審査員長のショーン・ペンから「演技、脚本、内容すべてが魔法だ」と手放しの賛辞を受け、最高賞(パルムドール)を受賞した。ドキュメンタリーと見まごうつくりで、登場人物ひとりひとりの心の葛藤を臨場感たっぷりに描き出した大傑作。名優ショーン・ペンは映画を観る眼も確かだ。



まず原作者のフランソワ・ベゴドーが自分の役を自分で演じるというのが驚き。劇映画において、原作者が自分の役を演じるなんて前代未聞じゃないか?監督のローラン・カンテは本作を"再現されたドキュメンタリー"と言ってもよい、と語っているが,その言葉に偽りはない。予備知識なしで観たならば100%ドキュメンタリー映画だと思っただろう。"再現されたドキュメンタリー"にするためには国語教師のフランソワ役はベゴドー本人が演じるのは必然だったのだろう。一方、生徒役の24人は1週間に1回、1日6時間、7カ月にわたって行われたワークショップから選ばれた。彼等は自分の役を演じているのではない。例えば、問題児スレイマンを演じた少年は実際はおとなしい子なのだという。彼等は皆、演じているのだ。全くもって驚くしかない。

さて、ベゴドー先生の授業は教師VS生徒 といった感じの上から目線はなく、生徒と対等に会話しているという印象。ベゴドーは、生徒たちの、若者らしい揚げ足とりのような質問にも丁寧にこたえる

だが、"限界"は訪れる。

同僚教師のひとりが、「もうやってられない」とブチ切れる。
それを冷ややかに見つめる教師たち。彼等は皆、同じ想いを抱いたことが少なからずあるだろう。
「人のふりみて我が身を直せ」というが他人がキレている姿は、日ごろキレやすい人ですら冷静に見ているという。やがて、教師のひとりが黙って彼を部屋から連れ出す。教師の多くは「自分だけじゃないんだ」とむしろ心の奥底で安心していたかもしれない。このとき、ベゴドーは"冷ややかに見つめている教師"のひとりだったが...。

"沈黙より軽い言葉は発するな"というタトゥーを左腕に入れているクラス一の問題児、スレイマンは"能力の限界"という言葉に傷つき(故意ではないが)クラスメイトにケガをさせたあげく、教室を飛び出してしまう。

スレイマンは懲罰会議にかけられることになった。だが、厄介な問題がついてまわった。スレイマンの問題が起こった時、ベゴドーはある女子生徒を売春婦扱いの言葉でなじってしまったのだ。それが校内にひろがるとベゴドーは途端に保身に走りだす。

他の学校で問題を起こし、転校してきたカルル。
他の生徒と仲良くしている雰囲気はなく、スレイマンとも折り合いは悪そうだ。
だが、カルルは「生徒を追い出す学校なんて最低だ」とベゴドーを責める。

過去、退学処分にならなかったものが一人もいない懲罰会議。
「これでは会議をする意味がない」とある教師が指摘すると
皆、同感するがそれでも結果は変わらない。

スレイマン問題での対応において教師側も"能力の限界"を露呈してしまった
教師側の限界なのか、学校運営上のシステムの限界なのか...。

スレイマンは母親とともに会議に出席。だが、母親は言葉がわからない。スレイマンは"通訳"をしているのだが、さて母親に本当の内容が伝わっているのか?母親の主張はきちんと教師に伝えられているのか?映画では母親のセリフに字幕がついていないため、観客にもその答えはわからない。現場の戸惑いを観客にそのまま実感させる秀逸な演出だ。

これがハリウッド産の学園映画なら別の結果を出しただろう。
『パリ20区、僕たちのクラス』は"再現されたドキュメンタリー"なのだ。
観客の望む結末は出してくれない。

また、中国人のウェイはクラスメイトとなじめず、いつもチーフェイという(同じ中国人?)の女の子といっしょにいる。フランス語は苦手なようだが、授業態度はまじめでいつも微笑みを絶やさないため、教師たちのお気に入りだ。だが、ウェイの母親が不法滞在で逮捕されたため、ウェイの立場も危うくなる。教師たちはウェイのために弁護士費用をカンパするが...。ラスト、スポーツを楽しむクラスメイトから離れて笑顔のウェイがさりげなく映し出されるが彼が結局どうなったかはわからないままだ。通常の劇場映画ならこのエピソードを放置することなどありえないだろう。

学期の終わり、ベゴドーはアンリエットという黒人の女の子から「授業が全然わからなかった。この1年間何も学んでいない。でも就職はしたくないの」と告げられ、途方にくれる...。教室の中、生徒は皆、雄弁で言いたいことをいっているように見えたがそうでない子もいた。教育というテーマは、物語として完結してはいけないのだ。

ローラン・カンテ監督は「普段、ハリウッド映画しか観ないフランスのティーンエイジャーの多くがこの映画を観にきてくれたことがとても嬉しかった」という。そして「社会と人間との関わり方を感受性を込めて描くドキュメンタリーはじつは昔から作られていた。ただ劇場公開がむずかしかった。社会のあり方が昔よりきつくなり先のことが見えなくなってきている現在、映画を通してそうしたことを考えたいと思っている観客も増えているんじゃかいかな」(キネマ旬報インタビューより引用)

その通りだと思うが、日本の映画配給会社はそうは考えなかったらしい。この作品、カンヌ最高賞受賞にもかかわらず日本では買い手がつかず、関係者がはるばる東京までやってきて試写をして売り込んだという。そして受賞から2年後に公開...。カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作がこんな扱いを受けるなんて自分の記憶する限りでは前代未聞である。

教育をテーマにした映画と聞いただけで敬遠したくなる人も多いだろう。だが『パリ20区、僕たちのクラス』はは登場人物ひとりひとりに息吹がしっかり与えられている良質な作品。生身の人間がきちんと感じられるため、地味なテーマにもかかわらず観ている最中、全く退屈しなかった。実験的すぎる、という批判もあったらしいが、個人的にはここまで嘘くささが排除された劇映画を初めて観た!まさに奇跡の映画。文句なしの傑作である。
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2010.11.02 Tuesday | 00:00 | 映画 | comments(4) | trackbacks(1) |

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2018.11.21 Wednesday | 00:00 | - | - | - |

コメント

この映画はいろいろな見方が可能ですが、「教師側も"能力の限界"を露呈してしまった」ことをキチンと描いている点などもリアリティを与えている一つの要素と思いました。
日本の観客はこの手の学園モノだと何故か「スーパー教師」像を追い求めてしまうようで(実際、この映画の教師の指導ぶりが評価できないという理由で作品を酷評しているプロの物書きらしき人の文章がネット上に出ていました。アホか)、そういう嘘くさい学園モノのドラマの影響が未だに根強いのは逆に驚きです。

この作品にかぎらず、最近は地味な洋画の秀作の日本公開にタイムロスが生じるようになってきたのには、ちょっと心配しておりますが、まぁ日本で見られるだけでもありがたい、と思っております。
2010/11/04 7:35 PM by syunpo
この映画ってTVドラマやハリウッド映画が(絵にならないから)絶対に描かない学校像を劇映画で見せたことがポイントだと思うんですけどね。

>この映画の教師の指導ぶりが評価できないという理由で作品を酷評している

...。これは映画に対する物の捉え方ではないですね。教師の指導の個人的評価とやらと作品の善し悪しは全く別物のはず。教師だけをテーマにした映画でもないですし。ああ、淀川さんならこんなアホなこと絶対言わない。

>まぁ日本で見られるだけでもありがたい、と思っております。

そう思うべきなんでしょうね。作品評価が高く世界中で公開されている映画が日本でだけ劇場公開されない、なんてケースが続出する日がそのうち来るかもしれません。今はまだ、そこまではいってないと思いますが。昔は、逆によくこの映画を公開してくれた。さすが日本だ!と思うことがよくあったんですが...。こんな日本に誰がした(爆)
2010/11/05 12:08 AM by moviepad
moviepad様
教育映画ということからもタイトルからも、観賞予定はなかったのですが、 moviepad 様の「今年のNo1」というお勧めで、今日観てきました。

生きている映画 だと感じました。
子供たちが素晴らしく、難しいお年頃の理屈っぽい憎たらしさ、気持ちの揺れ、瞳の輝き、背中に背負っているものの重さ…そうした空気が伝わってきました。
ドキュメンタリーではないと知りながらも、子供たち一人一人の未来が明るいものであることを願ってしまいました。

豪華3D映画を観ても眠気を催し、女房に頭の上がらない男性の眉間の縦皺を何度見ても(何本観たんだろう)感情移入できず、トムの白い歯と、リーのスニーカーに逃げ込んでおりました(とほほ)。
また、記事をアップしていただけたら、うれしいです。
2010/11/05 4:07 PM by パール
パールさん、こんばんわ
>今日観てきました。

こういうの、すごくうれしいです♪
確かにこの映画、内容やタイトルだけをパスしたくなりますね。自分もカンヌ受賞作で、あのショーン・ペンが激賞していたことがなければ、観に行かなかったと思います。いわゆる学校ものは苦手で、これまで良いと思う映画もありませんでした。(最も嘘くさいジャンルだと思ってました)でも今年はこの映画と『プレシャス』!本来、苦手な分野なのに...不思議な気分です。

相変わらずモチベショーン低めですが、ブログをやめるつもりはありません。
更新が滞っていたらサボっているだけだと思ってください。
11月〜12月はそれぞれ数本記事を書く予定です。例えテンションが上がらなくても(爆)
ちなみにパールさんのご覧になった映画が何かは1本しかわかりませんました(^^;
2010/11/05 11:41 PM by moviepad

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(コラムニスト宣言 2010/11/04 7:37 PM)

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