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キャタピラー

キャタピラー(2010 日本)

キャタピラー英題   CATERPILLAR
監督   若松孝二
脚本   黒沢久子 出口出
撮影   辻智彦 戸田義久
音楽   サリー久保田 岡田ユミ
主題歌  元ちとせ 『死んだ女の子』
出演   寺島しのぶ 大西信満
      吉澤健 粕谷佳五
      増田恵美 河原さぶ 
      石川真希 飯島大介 
      地曵豪 ARATA 篠原勝之

ベルリン国際映画祭2010年銀熊賞(女優賞) 受賞(寺島しのぶ)

監督は『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』で強烈な存在感を示し、徹底した反骨精神、製作から配給まで全て自分で行う"生きざまが日本で一番カッコイイ映画監督" ">若松孝二。主演は日本において女優魂は他の追随を許さない寺島しのぶと『赤目四十八滝心中未遂』で映画デビュー作ながらその寺島と堂々とわたりあった大西信満。このラインナップで製作された映画『キャタピラー』、期待するなというのは無理な話だ。寺島しのぶが日本人女優としては35年ぶりにベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)を受賞したことも話題となった。観終わった後、「戦争は単なる殺しっこ。正義などない」という若松監督のメッセージが静かにじわーと伝わってくる傑作だ。




『キャタピラー』の物語をみて何かに似ている、と思った人は多いはずだ。そう、江戸川乱歩の傑作短編『芋虫』である。戦争に従軍していた夫が四肢をなくした姿で奇跡的に生還した。彼は"軍神さま"と称えられるが、"食べて、寝る"ことしかできない夫の世話に追われる妻の心の中に虐待心が育まれ...という展開まではほぼ一緒。当初、若松孝二監督の新作は江戸川乱歩の『芋虫』を原作として...と伝えられていたように思う。なのにクレジットがどこにもない。なぜだ?若松監督はこの映画を『芋虫』と映画『ジョニーは戦場に行った』にインスパイアされた作品、と説明している。

『芋虫』という小説自体、発表当時反戦的内容と勲章を軽蔑するような表現が物議をかもした小説。乱歩は「物のあはれを表現しただけ」とかわしていたが。また、言語表現的にも、今の"自主規制"時代では絶対に出版できない内容。そのあたりのしがらみで『芋虫』が原作と公に言いにくい諸事情があるのかなと思っていたら、どうもそれ以前の問題だったようだ。実際、当初は『芋虫』の映画化として企画されていた。若松監督が日本文藝家協会にタイトル使用の許可を求めたところ、150万円を請求された。「(小プロダクションゆえ)そんな金は払えない」と監督が断ると、「じゃあ、50万円でいいです」とあっさりダンピング。「バナナの叩き売りか!」と若松監督は激怒。題名を英語のキャタピラーに変え、脚本も『芋虫』に抵触しないように書き換えたという。こういうエピソード、若松監督らしいなと思う。

以下、ストーリーが結末まで記されています。ストーリーをたどるタイプの作品ではありませんが、未見の方は映画鑑賞後にお読みください

国民みなが"個人"を押し殺し、お国のために尽くすことが強要された時代。映画『キャタピラー』はそんな時代の「公」と押し殺すしか術がなかった「私情」を絶妙なタッチで描きだす。
黒川久蔵(大西信満)は戦争で重傷を負い、四肢をなくし顔は焼けただれた状態で奇跡的に生還する。彼は軍神とされ、いくつもの勲章を得る。その姿をみて父親は「こんな姿で生きて帰されたってどうしろっていうんだ」と思わずこぼしてしまう。だが、久蔵の両親や家族は妻シゲ子(寺島しのぶ)に向かって「久蔵は陛下からこんな立派な勲章をもらったんだ」「お国のためにも久蔵の世話をしてくださいね」と言い残し立ち去る。途方にくれるシゲ子。そんなシゲ子に対し国防婦人会の女性たちは「これからは奥さんが帝国軍人の妻の鏡として貞節を尽くして下さいね」と声をかける。シゲ子も「私は軍人の妻として、お国へのご奉公と思って、しっかりお世話いたします」と答える。「公」的に求められる会話に終始。まるで台本でもあるかのように、それ以外を口にすることは決して許されなかった。

久蔵は文字どおり「食べる」ことと「寝る」ことしかできない。最初は彼を称える新聞記事や勲章をながめることも楽しみだったが...。

ある日、シゲ子は久蔵を連れて散歩に出る。村民の前で栄誉をたたえられて以来2度めの外出だ。すれ違う人は皆「これはこれは軍神さま」と手を合わせて通り過ぎる。
少し頭のおかしなクマ(篠原勝之)だけが「お国のため!ははははは」と走り出す。クマは村長から「コラ!戦争のたんびにバカになりやがって」と頭をたたかれる。

だが、帰宅後急に久蔵は不機嫌となる。
軍服を着るのをいやがり、着させようとするシゲ子にツバを吐きかける。
シゲ子はそんな久蔵をいたぶるように「あなたは軍神さまなの」と言い放つ。この時点でこの2人のあいだでは"軍神さま"という言葉には公とは別の皮肉なニュアンスが育まれている。
ある日、久蔵は村民の兵隊へのお見送り出席を拒否。「お見送りもお国のためでしょ。あなたは軍神さまなのよ」とシゲ子はいうが久蔵は放尿で応える。しかたなく久子は勲章をつけてひとりで出席した。その帰り、国防婦人会のメンバーから「軍神さまに食べさせてやってください」と卵を手渡される。

帰宅後、シゲ子は「軍神さまに卵をいただきましたよ」と語るが睨みつける久蔵。彼には"軍神"という言葉が侮蔑の意味にしか聞こえなくなっていた。シゲ子は「何よその眼は。食べなさいよ。軍神さまにもらったんだから食べなさいよ」と叫び、久蔵の顔に次々と卵を押しつける。その後ふと我にかえったシゲ子は「こんな姿で帰されて」と久蔵を抱きしめる。シゲ子も"軍神さまごっこ"に疲れ果てていたのだ。

シゲ子は彼の弟、忠(粕谷佳五)に「ねえ、あの人が手足がなくなったのはお国のためだったのよね」とふとつぶやいてしまう。もちろん、「そうだ」としか答えようがない。

食べて寝ることしかできない久蔵。そんな彼に妻はさりげなく"虐待”を続ける。圧迫された社会において、そのしわ寄せは家庭にくる。かつて久蔵は妻に対し暴行を働き、うまづめとののしった。その仕返しを受けているのか?虐待される立場になって久蔵は過去の自分を冷静に見つめることができるようになる。そして自分がシナ事変のさい、集団レイプの加害者として非道を働いたことに苦しむようになる。

そんな久蔵の気持ちをよそにシゲ子の虐待はますますエスカレートする。
彼女は何かに怒っていた。

"軍神さまの妻"を強いる世間に対してか
無事な姿で帰ってこれなかった夫に対してか
夫をこんな姿にした戦争に対してか
夫がこんな姿になったことに"意義"があったのか

どの思いも決して口に出してはいけないことだった。
彼女の中のさまざまな疑念は充満し、そのストレスのはけ口は"無抵抗な"夫にむけられていった。

「いやじゃないわよね」と久蔵にまたがる。
「もうあなたなんか怖くないわよ。あんたこうやってわたしのこと殴ったのよ。子供が産めないうまずめがって!こうやって」といい久蔵を殴り続ける。
「何が軍神よ!私はどうなるっていうのよ!」久蔵の首を絞めようとするシゲ子。彼が口が聞けないことをいいことに、言ってはいけないことを連発するシゲ子。
ふっと我に返り、「ごめんね、あんたが悪いわけじゃないのに」...じゃあ、何が悪いのか?シゲ子の中で結論は出ていたが口にすることはできなかった。

この1組の夫婦の姿から、戦争は状況により人を加害者にも被害者にもすることを浮き彫りにしている。

ある日、久蔵は突如暴れだし、壁や床に頭をぶつけ続ける。血まみれになりながら泣き続ける久蔵。
その姿をみてシゲ子は狂ったような泣き笑い風情で歌い出す。「いもむしごろごろ、軍神さまごろごろ」

軍神さまごろごろ」この物語を端的に象徴している言葉だが、何とこれは台本になく寺島しのぶのアドリブだという。前述の久蔵の顔にタマゴをぶつける場面も同様。映画のハイライトと呼べる場面で絶妙なアドリブをきかせる。彼女が物語を理解し、役に没入していた証だろう。寺島しのぶ、恐るべし。

「生ける軍神」と祭り上げられたところで、実際は"ごろごろ"と転がるだけの存在でしかない。
戦争は一体国民をどのように取り扱っていたのか?戦争は一体誰のためなのか?

やがて戦争は終結する。久蔵は軍神ですらなくなり、文字どおりただの"ごろごろ"になった。
彼は自力で外出し、池の近くまでくる。そして水面にうつる自分の姿を見て、軽く薄笑いを浮かべた後...。久蔵は何を笑っていたのだろうか?自分の姿にか?それとも"戦争"に対してか?

この物語はどうしてもシゲ子の立場で観てしまいがちだが、むしろ久蔵の心情の変化を追ったほうが"戦争が人の心にもたらすもの"について理解しやすいかもしれない。

そのときシゲ子は畑仕事をしていた。そのときクマがやってきて「戦争が終わったぞ。万歳!万歳!」と叫びだし、シゲ子も一緒に万歳をする。心からの笑顔だ。敗戦直後、戦争が終わってよかったとはまだ言いにくい頃だろう。それでもシゲ子はクマといっしょに万歳をした。「戦争は何をもたらすか」という疑問にはシゲ子のなかではもう答えが出ていたからだ。戦場に出向かないものは自分の身内に何かが起こったとき、はじめて戦争の意味を知る。

このクマのキャラクターは映画の中で実に効果的に使われている。「戦争が起こるたびにバカになる」とののしられていた彼が実は一番物事が見えていたのではないか?台本どおりの会話を強いられていた時代。彼はバカを装うことで社会と対処していたのではないか?若松監督いわく「戦争の気配を感じると本能的にバカになる男」。監督の少年時代に実際、こういう人がいたらしい。その人は戦争が終わると普通に働いていたそうだ。

もし、戦時中まともに戦うとどうなったか?
鶴彬(つるあきら)という反戦川柳作家がいた。

「万歳とあげて行った手を大陸へおいて来た」
「屍のゐないニュース映画で勇ましい」
「手と足をもいだ丸太にしてかへし」

まさに映画『キャタピラー』の世界だ。
鶴彬は治安維持法違反で逮捕され、昭和13年9月14日、獄中で死去。29歳だった。

エンドロールに元ちとせの『死んだ女の子』が流れる。『ワダツミの木』の大ヒットで知られる元ちとせだが、『死んだ女の子』は彼女のオリジナル曲ではなく、いわゆるカバー曲。トルコの社会派詩人ナジム・ヒクメット(Nazim Hikmet)が広島での原爆を題材にした詩をロシア文学者の中本信幸が翻訳し、NHK交響楽団指揮者かつ作曲家の外山雄三が曲をつけ、1957年(昭和32年)に発表されたという経緯をもつ。当時、原水爆禁止運動の集会や歌声喫茶でよく唄われていたという。

高石友也バージョンがよく知られており、元ちとせもデビュー前からこの曲をレパートリーに入れていた。だが、「歌いきれていない」ためレコーディングはしばらく保留。原爆投下から60年後の2005年8月6日、広島の原爆ドームの前で元ちとせ版「死んだ女の子」が披露されることになる。その2005年以降、毎年夏に期間限定で配信されている。



映画『キャタピラー』の視点が第2次世界大戦中の日本だけでなく、戦争全体についてむけられていることはラストのクレジットでわかる。

----------------------------------------

死刑判決を下されたBC級戦犯は984人
東京大空襲による死者 10万人
アジアにおける死者 2000万人
第2次世界大戦による全世界の死者 6000万人といわれている。

----------------------------------------

戦争による"死者"の数が立ち並ぶ。戦争がもたらした死者の束...。

戦争は国民に幸せをもたらすのか?戦争とは一体誰のためなのか?

映画を観た人なら答えはすぐに出るだろう。
『キャタピラー』は戦争場面を描くことなしに、戦争が国民の心をいかに蝕むかを描き切った。
ストーリーがシンプルな分、行間があまりに重い。

若松孝二監督は現在74歳の大ベテラン。巨匠と呼べる実績、存在感だが、なぜかこの人には(いい意味で)そういう肩書が似合わない。どんな若手よりもエネルギッシュで反骨精神にとむ。その若松監督は次のように語る。「平和のための戦争などはない。戦争とは人間が人間に犯され、切り刻まれ、焼かれることだ。人が、人を犯すことだ。人が、人を切り刻むことだ。人が人を焼き殺すことだ
映画『キャタピラー』はまさにこの想いの映像化。文句なしの傑作だ。
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 参考資料 若松孝二 キャタピラー


2010.08.09 Monday | 00:05 | 映画 | comments(8) | trackbacks(6) |

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2020.09.28 Monday | 00:05 | - | - | - |

コメント

こんにちは。
ラストクレジットを読んだときは、ドドーッと涙が溢れ出しましたね。
キャタピラーを全編見終えて心に溜まっていたものが、一気にあふれ出たといった感じです。
主役の寺島さん、大西さん素晴らしかったです。
元ちとせの『死んだ女の子』を入れたことも効果的で一層印象的な作品になりました。
若松監督は次作品にも意欲的な話をされてましたので、どんな作品か、とても楽しみです。
そしてこのお二人の俳優達からも目が離せませんね。反戦映画として心に留めたい映画です。
2010/08/09 8:44 PM by zukka
若松孝二監督の作品は1回観ただけでいつまでも頭の底にこびりつくようなパワーがあります。『実録・連合赤軍〜』に続いてコレ!やられました!

こういう庶民の立場のみから描いた反戦映画ってありそうでないですよね。

監督の次回作はウワサではかなり強烈な題材のようです。主役を演じられる人がいるのだろうか?

寺島さんは全部が見せ場といってよいほどすごかった。銀熊賞は当然!
大西さんは「赤目〜」同様、目ヂカラが非常に印象的でした。舞台挨拶で見かけたご本人は控えめな感じの方でしたけどいざ演技となると...これが役者というものなんでしょうね。
2010/08/10 12:54 AM by moviepad
印象深いシーンのいくつかが寺島しのぶのアドリブだとは知りませなんだ。インディペンデント作品、若松組ならでは、でしょうね。(ハリウッドのメジャー作品なんかの場合、脚本家ギルドがうるさくて、現場のノリでアドリブを入れるのは難しいのではないですか)

それはともかく、篠原勝之氏の存在は、なかなか効いていると私も思いました。いわゆる「トリックスター」的な存在(本人は舞台挨拶で「シリアスな役」と言って会場を沸かせたらしい)ですが、ラストでの寺島しのぶとの「万歳」シーンなど、じつに秀逸でしたね。
2010/08/21 9:36 AM by syunpo
卵の場面、脚本では「卵を手でつぶす」程度の描写で
久蔵の顔にぶつけるとは書かれていなかったようです。

また、"芋虫ごろごろ"は脚本にあっても"軍神さまごろごろ"は
なかったみたいです。

そういうアドリブを生みだすような雰囲気が撮影現場にあったんでしょうね。

クマさんの存在は、映画を観ている最中はそれほど気にとめなかったのですが
観終わってから「この人はわざとバカをやっていたのでは?」と感じました。
パンフレットを読んでみたらそれっぽいことが書いてあった。
こーいう人、実際にいたんだろうなと思います。

この映画、とにかく行間が多い映画です。
戦争を知らない自分にとってはそれを読みとるのは限界がありました。
でも、"戦争継続中に久蔵があのような姿で帰ってきた"のがポイントで、
そのおかげで"戦争が生みだす異様な社会状況"を2人はいち早く察してしまった...
戦場ではなく、市井の生活において!

いろんな要素がところどころ盛り込まれているので
一見散乱した印象を受けなくもないのですが
それはそれで"戦争中の混沌状態"をよく表していると思います。
2010/08/21 11:55 PM by moviepad
通りすがりの映画好きです。
ご意見拝見して、(余計な)コメント入れさせていただきます(汗)


正直、何の先入観も入れずに見ていったのですが、劇中で強調されていたのは「戦争時は誰もが加害者で被害者だ」という事だったのではないかと感じました。
”なりうる”のではなく、”なる”と感じました。


戦闘中に暴行、強姦、殺人、放火・・・。これは加害者と被害者がはっきりしてます。
でも、戦争は”この作品だと”DVとか「お国の為に」思想を強要するという肉体的・精神的暴力により、誰もを加害者にすると感じました。

その点を印象付けた映画だと私が感じている最中、終戦に向けてのくだりで広島、長崎の原爆投下シーンで「支社の数」が表示された時、高まっていた気持ちが音を立てて引いていってしまいました。

日本は被害者側。

それは間違いなく事実ですし真実ですが、物事の片面(被害者)しか見ていないんじゃないかと。この映画では加害者になることを強調したんじゃないのかと。

そこに元ちとせさんの歌です。
歌はすばらしい。歌詞も涙をさそう心の叫びです。世界唯一の戦時被爆国の一人として、この歌は聴くだけで胸が締め付けられます。
でも、原爆とか戦争の被害者の悲しみを訴える映画じゃない、むしろ加害者がそこら中にいた点を強調したと感じた私には、違和感をぬぐいきれませんでした。
ちなみに私は元ちとせさんのファンです(笑)

さらに最後の死者、戦犯の数値の表示。
だから被害者だけの数を最後に羅列するのはよせー!



・・・と、映画館の中で一人心の叫びをあげていた私でした・・・。


まったくもってどうでもいいコメントでした。すみません。

みなさんのコメントを否定したくて書いたのではなくて、皆さんのコメントを見て、映画館での気持ちを思い出したので、書かせていただきました。

お気を悪くされたのであれば、お詫び申し上げます・・・。
2010/08/23 2:01 PM by GOOO!
GOOO!さん、はじめまして。
コメントありがとうございます。
『キャタピラー』は題材的にも物語的にも皆が同じ意見、というのはありえない作品。
"皆さんのコメントを見て、映画館での気持ちを思い出したので"
こういうの、(例え反対意見でも)非常に嬉しいです。

>なりうる”のではなく、”なる”と感じました。
うっ、弱気モードをつかれてしまった(笑)
戦場での兵士に限って言えば、断定してしまってもいいかもしれません。
ただ、物語の主体は久蔵とシゲ子の生活ということもあり、
自分は暴行、強姦などの肉体的加害行為よりもむしろ精神的なもののほうをよりイメージして
この文章は書きました。

そう、はっきり言うとSとかMとかの気質のことです(笑)
戦場ではM気質になったら死を意味するので、ひたすらS気質を膨張させるしかない。
久蔵はそれが膨張しすぎてレイプまがいのことをやってしまった。

一方、シゲ子は久蔵に虐げられてきた。ところが久蔵が戦場から"無抵抗な姿"で帰ってくると
シゲ子は「もうあなたなんか怖くないわよ」と虐待をはじめる。
彼女の中に眠っていたS気質がむくむくと起きあがってしまった。

無抵抗な女性をレイプした...
過去の自分のあわせ鏡のようなシゲ子の行動をみて
久蔵は戦場での自分の精神状態がフツーではなかったことを悟るわけです。
そして彼はM気質に突入してしまう...。

戦争は誰もを"加害者"にするというよりは、誰もを"S気質"にすると言ったほうがいいかもしれません。
『キャタピラー』物語の特徴はそれが"戦争継続中"に起こってしまったこと。
戦争の恐ろしさは戦場に出ている兵士にはわかるでしょう。
しかし、シゲ子のように、戦争に出向かないものは自分の身内に何かが起こってはじめてソレに気づく。本来なら戦争が終わって気づくことを、戦争継続中に気づいてしまった庶民の精神的混乱を描いたと言ってもよいでしょう。

『死んだ女の子』やラストの原爆、死者描写などに違和感を覚えた方も多いようです。
この映画は非常に行間の多い映画で久蔵とシゲ子の夫婦物語を観ながら、
同時にその背後(実際の戦場)で起こっていることを意識していれば
ラストはすんなり受け入れられるのでは?
...なんてエラソーなことを言っている私も観ている最中それができていたとは
お世辞にも言いかねるのですが...(^^;
観終わった後でじわりじわりとそれが滲んできています。

死者の数の描写は「結局、戦争とは死人の山しかもたらさない」というメッセージだと
受け取りましたので、個人的には違和感はありませんでした。
被害者の数、とは受け取りませんでした。死人だけが戦争の被害者ではないはずです。

戦争は誰もを加害者にするとか、被害者の哀しみとかよりも
「戦争は人の神経を蝕む。その結果死人の山しか生み出さない」
自分は『キャタピラー』のメッセージをかなりシンプルに解釈しています。
2010/08/24 12:43 AM by moviepad
こんちは。久々です。
今日、観ました。断片的なんですが、DVみたいだなと思いました。加害者は軍神様になった夫の方。精神的に妻を追い詰めるけど、追い詰めた後の優しさで、つい被害者が加害者を許してしまう。この場合の優しさは弱さだったり眼差しだったりですけど。
懐が深すぎて整理がつかない。
2010/10/24 6:37 PM by ふじき78
この映画の夫婦間の精神的葛藤はあの時代を背景にしないと描けないでしょうね。

この作品、結構賛否両論割れているみたいですけど
観た人は絶対どこか精神的にひっかかるところがあるはず。
そーいう映画はいい映画なんですよ!
2010/10/26 12:29 AM by moviepad

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キャタピラー
(8月14日〜全国公開です) 忘れるな、これが戦争だ・・・・ 第60回ベルリン国際映画祭 銀熊賞(最優秀女優賞)受賞  寺島しのぶ...
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