映画のメモ帳+α

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第9地区

第9地区(2009 アメリカ・ニュージーランド)

第9地区原題   DISTRICT 9
監督   ニール・ブロンカンプ
脚本   ニール・ブロンカンプ テリー・タッチェル
撮影   トレント・オパロック
音楽   クリントン・ショーター
出演   シャールト・コプリー デヴィッド・ジェームズ
      ジェイソン・コープ ヴァネッサ・ハイウッド
      ナタリー・ボルト シルヴァン・ストライク
      ジョン・サムナー  ウィリアム・アレン・ヤング
      レッグ・メルヴィル=スミス ニック・ブレイク
      ケネス・ンコースィ

第82回(2009年)アカデミー賞作品、脚色、編集、視覚効果賞ノミネート

第9地区』は南アフリカ出身のニール・ブロンカンプ監督が2005年に製作した短編映画"Alive in Joburg"を、ピーター・ジャクソンのバックアップを得て自ら長編化した映画である。製作費は3000万ドルとSF映画としては低予算。監督、出演者すべて無名であったにも関わらず、全米で興行収入1億ドルを突破。いわゆる"sleeper hit”となり、第82回アカデミー賞作品賞にもノミネートされた話題作である。

ブロンカンプは自身の短編映画"Alive in Joburg"から外来者恐怖症(xenophobia)と社会的分離(social segregation)を軸として長編化した。第9地区(DISTRICT 9)というタイトルは南アフリカでアパルトヘイトが適用されていた時代、District Six, Cape Townで起こった出来事にインスパイアされてつけた。1966年、南アフリカ政府により、District Six, Cape Townは"白人専用地域"に指定。1982年には約6万人の人々が25km離れたCape Flatsに移動させられた。映画『第9地区』において、宇宙船がやってきたのが1982年という設定になっている。映画はそれから28年後の物語である。

Alive in Joberg by Neill Blomkamp Spyfilms (District 9 director)



〜物語〜
ニューヨークでもワシントンでもなく"南アフリカ・ヨハネスブルグ上空"に謎の巨大宇宙船が現れ、そのまま漂着してしまう。エイリアンたちは別に地球を襲撃にきたわけではない。宇宙船が故障したため、やむなくとどまっていただけなのだ。政府は彼らを追い返すこともできず、仕方なく"難民”として受け入れる。“第9地区”は20数年あまり、地球人とエイリアンとの共同居住地になっていたが住民の不満が高まったため、政府は軍需企業MNU(Multinational United)と手を組み、彼らを別の場所に移住させることにした。そのプロジェクトの責任者に任命されたヴィカス(シャールト・コプリー)は、彼らに立ち退き通達をしてまわるのだが...





この映画で一番目に付くのは、"人間性の描写"である。登場人物の中に"人間味あふれる"ものは誰も出てこない。まずは軍需企業MNUの人たち。ヴィカスは決して優秀だからプロジェクトの責任者に選ばれたわけではないことがわかる。そして、彼が"感染"してしまうと組織は彼の命には関心をもたない。彼の体の中に注ぎ込まれた"異分子"、"敵の武器"をいかにビジネス活用することしか興味がないのだ。また、"第9地区"を牛耳るギャングたちも同様。彼に注ぎ込まれたものを自分のものにすれば大金が入る、もしくは自分が強くなれるとしか思わない。誰もヴィカスの安否など気にしていないのだ。このヴィカスも、傍目から見るとイケ好かない人物である。優等生っぽくふるまい、調子よく世渡りしてきたという感じ。"異分子"を浴びてしまったからは任務を忘れ、自分の体をもとに戻すことしか考えなくなる。(まあ、これは当然か)その一方、エイリアンであるクリストファー・ジョンソンとその息子はやけに"人間的"なのだ。この対比が強烈なアイロニーを生んでいる。

映画『第9地区』は鑑賞後、良質なSF小説を読み終えたような余韻を残す。もし予備知識なしでこの映画を観たら100%、いわゆる"原作もの"だと思うだろう。それくらいよく出来た脚本である。上映時間は111分だが、まるで3時間観ていたかのような錯覚を起こす。もちろんつまらなかったからではない。脚本にムダがなく、各シークエンスが濃密に描かれていており、全く先が読めない展開だからだ。

本来、SFは非常に"知的"なジャンルである。未来という設定のもと、現代社会に警笛を鳴らす。SF小説の名作をひもといてみれば、それがよくわかるだろう。だが、いざ映画となると大部分のSFは、キャラクター造形とコケオドシ映像ばかりに力を入れた、お子様向け娯楽に成り下がっている。『第9地区』はSF本来の魅力にあふれた映画。こういうの、本当に久しぶりだ。"もしこのようなことが実際に起こったらどうなるか?"というシミュレーションを楽しむことがSFの大きな魅力だが、ドキュメンタリータッチで描かれている『第9地区』はその魅力を最大限に引き出している。また、低予算で作られているが、映像も大作映画に全く見劣りしない。『第9地区』はまさに理想的なSF映画。アカデミー賞作品賞ノミネートも納得の傑作だ。
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2010.04.11 Sunday | 00:01 | 映画 | comments(6) | trackbacks(1) |

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2017.10.23 Monday | 00:01 | - | - | - |

コメント

面白かったですねー。
序盤、エイリアンが難民になって、人間との確執が生まれるって発想も面白かったのですが、いやぁ、まさか、あんな展開になるとは!
いろいろな要素が入っているのに、無茶苦茶になってなくて、もう、夢中でしたよ。

自分の記事は、もうちょっと後からアップします。
2010/04/11 2:44 PM by
とにかく先が読めない展開でしたね。
ラストもいわゆるハリウッドにありがちなパターンとは
微妙に違ってて面白かったです。
2010/04/12 12:12 AM by moviepad
こんにちは。
エイリアンが隔離される、それもゴミためのような場所にとは発想が凄いです。
ところどころで、声をあげて笑ってしまうブラックユーモア。
そうでした、「エイリアンであるクリストファー・ジョンソンとその息子」彼らのシーンでジーンとしましたね。人間じゃなくね。
ゆうばり映画祭ではこれまでで一番の入りだったそうです。会場で若者の笑い声が印象的でした。
2010/04/17 6:06 AM by zukka
zukkaさん、こんばんわ。
この映画って本当に意地が悪い作品です。
人間はみんなイヤなヤツ(=非人間的)で、
宇宙人が妙に人間的。

アパルトヘイトに対する怒りを、エンタメモード全開の物語にしてしまう、
ニール・ブロンカンプってただものじゃないですね
2010/04/17 7:12 PM by moviepad
moviepad様
バイオレンス度が高く、突っ込み所がいっぱい、登場するのは身勝手な人たちばかり…「人間なんて滅んでしまえばいい」(環境問題に対する知人のコメント)とは思いませんでしたが、人間の愚かさは見せつけられました。
南アフリカを舞台にした描き方としてどうだったのかなどちょっと疑問がよぎったりもしました。
でも、面白かった!
とはいえ、自分の映画の好みが周囲の人たちと多少異なっているような気がしているこの頃。
moviepad様の切れの良い記事にいつもほっとしています。
2010/05/09 11:04 PM by パール
パールさん、こんばんわ

>登場するのは身勝手な人たちばかり

これは意図的でしょうね。
個人的には久々に"知的な"SF映画に出会えてうれしかった!
最近、"痴的な"ものばかりだったので(笑)

>自分の映画の好みが周囲の人たちと多少異なっているような気がしているこの頃。

ははは、それを言ったらこのブログはどうなります?
先日の『マイレージ、マイライフ』だって一般的には大絶賛ですよ!
過去、幾度となく少数派意見をはきちらかし
最近はすっかり開き直っております。
「ヨソと同じことしか書けないのなら当ブログの存在価値はない!」
というゴーマンモード突入状態(爆)
ただ、奇をてらうために思いもしないことを書いたりは絶対にしませんが。

みんなが同じ意見だったら、逆にこわい。
違っているからこそ面白いんです!
2010/05/10 12:46 AM by moviepad

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第9地区
「シティーホール」中毒化している現在  映画は観にいっていない状態。 この前の「ゆうばり映画祭」で鑑賞済みの「第9地区」、現在公開中...
(気ままに綴りたい。 2010/04/17 9:22 PM)

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