映画のメモ帳+α

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スモーク

スモーク(1995 アメリカ・日本)

スモーク原題   SMOKE
監督   ウェイン・ワン
原作   ポール・オースター
脚色   ポール・オースター
撮影   アダム・ホレンダー
音楽   レイチェル・ポートマン
出演   ハーヴェイ・カイテル ウィリアム・ハート
      ストッカード・チャニング ハロルド・ペリノー・Jr
      フォレスト・ウィッテカー アシュレイ・ジャッド
      ジャレッド・ハリス メアリー・ウォード
      ジャンカルロ・エスポジート ヴィクター・アルゴ
      エリカ・ギンペル


第45回(1995年)ベルリン国際映画祭銀熊賞審査員グランプリ、国際批評家協会賞、観客賞受賞。
 
ウェイン・ワン監督による『スモーク』はタバコ屋に集う男たちのささやかな物語である。アメリカを代表する作家ポール・オースターが自作短編「オーギー・レンのクリスマスストーリー」をもとに自ら脚本を書き下ろしたことが話題となった。

オーギー(ハーヴェイ・カイテル)は毎日同じ時間に、同じ場所(自分の勤める煙草屋)の写真を4000日欠かさず撮り続けている。友人のポール(ウィリアム・ハート)はその写真を見て「全部同じじゃないか?」という。オーギーは「季節や人々の移りかわりがある。一枚一枚違う。ゆっくり見ろ」とポールを諭す。この後アルバムをめくるスピードがスローモーションになる。また、バックに流れるピアノの音色も素人が指1本でひいているのでは?と思うくらいゆったりと音を刻む。この場面の演出は見事だ。そしてポールは写真の中に亡き妻を姿を見つけ、むせび泣く。彼は妻が亡くなってから小説が書けなくなっていた。

物語はこの2人に加え、ラシードと名乗る口達者な黒人少年(ハロルド・ペノリー)を交えて進んでいく。少年はひょんなことからポールのアパートにとめてもらうことになる。少年は12年前蒸発した父親サイラス(フォレスト・ウィテカー)を訪ねる途中である事件に出くわし逃げ回っていたところだった。少年はポールの家を離れたあと名前を偽って父親に会いにいく。父親は義手をしておりその理由を少年に話しはじめる。サイラスは12年前、妻と生後2ヶ月だった少年を捨てて蒸発した。4〜5年後、サイラスは戻ってきて妻に復縁を迫る。一緒に酒を飲んだ後、妻を車で送る途中交通事故にあい、妻は死亡。サイラスは助かったが左腕がつぶれてしまった。その後伯母夫婦が少年を預かっていた。

少年は頭の回転が速く根は善良な子である。孤独感が想像力を豊かにした。だが父親が蒸発し母親が死んだため、自分の長所をよい方向に生かすことができない。嘘をつくときのみ想像力は生かされる。"自分の人生を1からでっちあげて話す"こともへっちゃらだ。

一方、平穏な日々をすごしていたオーギーの前に事件が起こる。昔の恋人ルビー(ストッカード・チャニング)が現れ「あなたには娘がいる」...その娘は妊娠しているという。だが娘がその子を堕ろしてしまったと知ると「娘には娘の人生があるわ」とつき放す。あげくのはてにオーギーから「本当に俺の子か?」と確かめられたとき「実はよくわからないの。フィフティ・フィフティね」とゲンキンにも告白してしまう。ところで、"アメリカの片平なぎさ"ごとアシュレイ・ジャッドはどこに出ているのだろう?と思っていたが、なんとこのイカレ娘フェリシティだったとは!全然気づかなかった。

嘘が慢性化している少年。微妙な嘘をついたルビー。そしてルビーの娘フェリシティは母親と父親(と思われる)オーギーにさんざん悪態をついておっぱらった後、ひとり泣き顔になる。一方、"嘘をつくのが仕事"である小説家ポールが全登場人物中、一番嘘の下手そうな人物として描かれているところが面白い。一般的に"嘘がつけない性格"とは好意的に解釈される。だが、嘘をつかないですむのは幸せもしくは幸せだった人、言い換えればまだ目の前の現実にまだ希望をもっている人なのかもしれない。嘘をつくのがうまい人(もしくは下手だが嘘をつきがちな人)、嘘をつくことができない人、人間は2分される。主人公の煙草屋主人オーギーがそのどちらに属するかわからないキャラクターであるところがポイント。映画を観る限りそのどちらにも見える。このキャラクターこそが映画『スモーク』のテーマを象徴している。

人は正しいことを信じるのではない信じたいものを信じる

少年の父サイラスは(目の前にいるのが本人とは知らず)「ありゃ、いい子だ。百万人にひとりの最高の息子だよ」という。だが目の前にいるのがその当人だとわかったとき、それを信じようとしない。

ルビーはオーギーにむかって「あなたには娘がいる」という。娘が妊娠して動揺していた彼女はオーギーが娘の父親だと決めつける。ルビーは最初からお芝居をしていたのかもしれないし、追い詰められたゆえに本気でオーギーが娘の父親だと思い込んだのかもしれない。またオーギーも自分に娘がいることを疑っているが、結局ルビーにほだされ彼女に会いに行く。その娘がとんでもないハスッパ女だと知った後、マネーロンダリングの意味もかねて(笑)彼女に5000ドルを渡す。その後、「本当に俺の子か?」と尋ねる。オーギーは自分の保身のために"自分には娘がいる"ことを信じたくなかったのか、それともルビーの嘘を見抜いたゆえで"しぶしぶ信じるふり"をしていたのかはわからない。またルビーが"フィフティ・フィフティ"といったこと自体本当かどうかわからない。なぜ彼女はアイパッチをしていたのか....。最後にルビーは言う。「娘があなたの子かどうかはわからない。数字的には5分5分。(娘かどうか)あなたが決めて」この後、金を返せといわないところがいい。オーギーの微笑は何を意味するのだろうか?

ポールは嘘とは無縁で他人の嘘にも敏感な人物のように思える。だが、彼が語るウンチク(ローリー卿が煙草の煙の重さを量ろうとした話やレニングラードでバフチンが煙草を吸うために自分が10年間取り組んできた論文を燃やした話)はどこか嘘っぽい。

やっぱり人は信じたいものを信じるのだ。

圧巻はラストシーンである。ポールにニューヨーク・タイムズからクリスマス・ストーリーの執筆依頼がきた。"書けない作家"のポールは困り果て、オーギーに「いいクリスマス・ストーリーはないか」とたずねる。オーギーは「あるさ、しかも実話だぞ」といい、自分の体験を語り聞かせる。ポールはその話が作り話だと思っていることをほのめかすが、オーギーは"何がいいたいのかわからない"といったそぶり。ポールはそれ以上を口にしなかった。この"大人の距離感"が実に心地よい。このときオーギーの顔のクローズアップ、そしてポールの顔のクローズアップ...名優どうしだからこそできたカメラワークだろう。そしてカメラはどんどんオーギーの顔に近づいていく。DVDなどで観るとそれほどでもないかもしれないが、劇場でこのクローズアップを観たときの迫力は尋常ではなかった。ハーヴェイ・カイテルの顔だけでスクリーンが埋め尽くされているのだ。映画でクローズアップに耐えられる顔というのは、顔の良し悪しではない。微妙な表情ひとつでその人の生き方を醸し出すことができる人だ。今、こんなクローズアップに耐えられる顔をもつ俳優はほとんどいないだろう。ポールはタイプライターでこの物語を打ち始める。タイトルは「オーギー・レンのクリスマス」。そしてトム・ウェイツの“Innocent When You Dream”が流れ、物語がモノクロで再現されて映画は終わる。

さて、「オーギー・レンのクリスマス」は本当の話だったのだろうか?
ポール・オースターはこのように述べている。

信じるものが一人でもいれば、その物語は真実にちがいない。

オーギーは息子のふりをした、おばあさんもオーギーが息子ではないことは(直感的に)わかっている。でも、2人とも"信じたふりをした"ほうが楽しいクリスマスが過ごせるのである。またポールはオーギーの話は嘘だと感じたが、信じたことにしておいた。そのふうが原稿も書けるし、オーギーとの友情も壊れずにすむ。オーギーは最後に言う。「秘密もわかちあえないようじゃ、友達とはいえんだろう?」この秘密とは過去の悪事のことなのか?それとも「嘘もわかちあえないようじゃ...」と読み替えたほうがいいのだろうか?真実は必ずしも人を幸福にするとは限らない。信じる人が一人でもいれば、その物語はその人にとっては(事実ではないかもしれないが)真実なのである。このメッセージを凝縮したラストは素晴らしい。『スモーク』はドラマチックな演出はないが、大人の味わいをもつ非常に粋な映画である。
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2009.09.30 Wednesday | 00:03 | 映画 | comments(4) | trackbacks(0) |

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2017.02.19 Sunday | 00:03 | - | - | - |

コメント

moviepad様
「個人的な真実」をテーマにした作品 は『スモーク』だったんですね。

積み重ねられたいくつものエピソードの中から、あたたかな想いが 静かに流れてくるような作品でした。
嘘も事実も、すべてひっくるめて時は流れ、最後に神が受け入れてくれる…
そんな気持ちになったのは、クリスマスの物語だったからでしょうか。

大人のオジサン達のカッコ良さが記憶に残っているのですが、ルビーにも注目して、もう一度観たいと思います。
2009/10/01 9:52 AM by パール
パールさん、こんばんわ。
やっぱり『スモーク』はご覧になっていたのですね(^^)

>最後に神が受け入れてくれる…

不詳ワタクシメはこーいうことはひとかけらも思いませんでした(^^;
ただ、クリスマスというイベント自体、信じるか信じないかによって楽しみ方が大きく変わってくるものですね!

『スモーク』はいかにも文学者が書きました!って雰囲気で。小説を読んでいるような気分になる映画です。
久しぶりに見直しましたが発見がいっぱいあって面白かった。
ただ、ラストのハーヴェイ・カイテルの顔のドアップ、アレはDVDじゃ物足りないな〜。
2009/10/01 8:22 PM by moviepad
こんにちは。
moviepadさんの記事のUPが暫くなかったので、どうされたかなーなんて思っていました。
一気にたくさんの記事が出てきましたね。
良かったです。

で、「スモーク」ですが。
私の大好きな映画なんです!!
映画好きの人と話をするときは、決まって「スモーク」見た?と思わず聞いてしまいます。
あのタバコ屋とハーヴェイ・カイテルがなんとも言えず味があり。
それぞれの物語が静かな中にも、ジーンとさせるものがあり、ラストの嘘が最高です。
2009/10/02 6:45 AM by zukka
zukkaさん、こんばんわ

『スモーク』は大のお気に入りですか!
何とお目が高い。

この映画は嘘のような本当のようなエピソードの羅列が印象的ですね。
zukkaさんはラスト、やっぱり嘘だと思いました?
確かにできすぎた話ではあります。
オーギーが毎日写真を撮る、冒頭のエピソードともつながるし...。
自分はいまだにこれが嘘か本当か判断がつきません。

すいませんね、更新頻度にムラがあって。
ちなみに今月はあと1件あげた後は月末までまた休暇に入る予定です。(^^;
まあ、突然気が変わる可能性もありますが(笑)。
2009/10/02 9:18 PM by moviepad

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