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四川のうた

四川のうた(2008 中国・日本)

「四川のうた」公式サイトにリンク原題   二十四城記
監督   ジャ・ジャンクー
脚本   ジャ・ジャンクー   
撮影   ユー・リクウァイ ワン・ユー
音楽   半野喜弘 リン・チャン
出演   ジョアン・チェン リュイ・リーピン
      チャオ・タオ チェン・ジェンビン

前作『長江哀歌』により中国を代表する監督のひとりになったジャ・ジャンクー。『世界』、『長江哀歌』に続く3作目の中国劇場公開となった『四川のうた』は中国でもヒット、かつ好評を博しています。前作『長江哀歌』では長江の三峡ダム建設計画により、2000年の歴史に幕を閉じ、水没していく運命にある古都・奉節を描いていますが、今回は中国の基幹工場として国営機関「420工場」が50年の歴史に終わりを告げる姿を描いている。ドキュメンタリーの作りながら、フィクションの登場人物を織り交ぜ、実在の人物と同じように語らせるという異色の構成が目をひく作品。2008年カンヌ国際映画祭で上映が行われた同じ頃に四川大地震が起きてしまったことも話題になった。




何の予備知識もなく、この映画を観たら完全にドキュメンタリーだと思うだろう。
グアンタナモ、僕達がみた真実』のように証言内容を独自に映像化するもの、『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』のようなモキュメンタリーや、『アメリカン・スプレンダー』のように事実を元にした物語に、モデルとなった本人がコメンテイターとして時折顔を出すといったタイプの作品は観たことがある。だがドキュメンタリーの中にフィクションの人物を登場させ、ほかの人と同じように"語り"の演技をさせるというパターンは初めて観た気がする。

実際、ジャ・ジャンクー監督は当初ドキュメンタリー映画を作る予定で1年3か間、420工場で働く約100人の労働者の話を取材をし続けた。ところが、取材を続けるうちに語られなかった彼らの潜在的な思いに対するイメージや想像が膨らんだため劇映画に方向転換した。

創作されたキャラクターは以下の4人である。

昔「職場の花」と謳われた独身女性(ジョアン・チェン)、子供との別れを涙ながらに語る初老の女性(リュイ・リーピン)、16歳のときの初恋の思い出を語る男性(チェン・ジェンビン)、最後に登場する若きキャリアウーマン(チャオ・タオ)の4人はそれぞれプロの俳優が"語り"を演じている。取材した分をすべて盛り込むことができないため、これだと思うエッセンスを凝縮したという。

前作『長江哀歌』では台詞が最小限に絞られ、全てを飲み込んでしまうような長江の大きさと静かに運命を受け入れる人々が印象に残った。だが、今回の主役は"語り"である。フィクション4人を含めて合計8人がひたすら語る姿を映し出す。まさにドキュメンタリーのつくりであり、前作の影を追い求めていた筆者は少々辟易した。また途中で挿入されるイギリス作家イェイツの詩、古都・成都を詠う古典詩、当時の流行歌などもやや説明的でうざったく感じなくもなかった。ちなみに初恋の女性を語る男性のエピソードのとき、山口百恵のテレビドラマ『赤い疑惑』の話が出てくる。『赤い疑惑』は中国でも放送され、人気を博していたという。ジャ・ジャンクー監督いわく「中国で80年代を生きてきた人にとって、山口百恵さんは共通言語です。これまで中国の社会は(中略)あからさまに個人の恋愛の話を語ることが良しとされていませんでした。そのような中で彼女が主演した「赤い疑惑」というテレビドラマを観て、中国の大衆は、個人的なラブストーリーをこうやって語っていいのだなと分かりました。その時の主題歌が「ありがとうあなた」という曲ですが、取材した人の思い出話の中に、この歌が何度も出てきたのです。」参照 OUTSIDE IN TOKYO ジャ・ジャンクー『四川のうた』インタビュー

ドラマ『赤い〜』シリーズは観ていなかったので、百恵ちゃんにこんな昼メロみたいな歌あったかな?と思っていたらシングル『ささやかな欲望』のB面収録曲。驚いたことに『ありがとうあなた』は四川の映像とぴったりマッチしている。中国の土壌にあったメロディなのだろう。



で、自分が違和感を覚えた"語りをメインとした構成"についてジャ・ジャンクー監督は日本の公式サイトに以下のような文章を寄せています。

「現在、映画はよりアクションや動きに頼るようになっています。この映画では、私は人々が語る「言葉」に回帰したいと思いました。ここでは、「語り」はカメラによってとらえられる「動き」の一つとしてとらえています。私は、「語り」によって、話し手たちの内奥の感情と経験にアクセスさせようと意図したのです。 それが最良の時のことであろうと、最悪の時のことであろうと、いかなる個人の経験も無視されるべきではありません。この映画では8人の中国人労働者の声を聞くことができます。この映画を見ると、彼ら自身の人生のこだまが聞こえるのではないでしょうか。」 引用元

「言葉」に回帰したいといっても"言葉の内容"がメインではなく、「語り」を「動き」の一つとしてとらえることで、話し手の感情やその背後にある経験を感じ取らせようというわけですか。おみそれしました。

この"語り"部分と対をなすようにして、登場人物たちのポートレート写真のような映像がたびたび出てくる。人々はカメラに真っ直ぐ目を向けて立っているだけの映像で、写真集を見ているような錯覚を覚える。写真集と違うのは、登場人物が呼吸をし、まばたきなど微妙な動きがあること。そんなの当たり前じゃないか、何を馬鹿なことを言っているんだい?と怒られそうだが、この微妙な動きこそ映画の大スクリーンだから醸し出すことができる"感情の機微"なのである。"語りによる動き"がダイナミックな感情表現とすれば、このポートレートっぽい映像は"静かな、内なる感情の漏洩"といったところだろうか?

映画のラストで、ジャ・ジャンクー作品のミューズ、チャオ・タオ(最初、彼女だと気づかなかった...)が演じるキャリアウーマンが「たくさんお金を稼いで、親にマンションを買ってあげるの」と話す場面が出てくる。これは何と脚本になかったもので、役に没頭したチャオ・タオが思わずアドリブで言ってしまったのだという。ジャ・ジャンクー監督はこれに驚き、かつ興奮した。「今の中国人の気持ちをまさに代弁している。一般の中国人の意識はお金に向かっている。これまで社会システムによって搾取されてきたものを取り返そうとする人がたくさん出てきてもおかしくない」と感じたという。脚本になかった台詞が"現代中国の気分"を象徴してしまったのは面白い。

ジャ・ジャンクー監督は何をみても歴史を連想するのだという。『長江哀歌』でも、そして『四川のうた』でも、歴史的なものを取り壊す姿を描いている。なぜこんなことをするのだろう?と考えたとき、やはりそれは歴史に根付いているのだろうと。中国では古いものは良くないという"否定"がある。5.4運動の時代にも、そして文化大革命時代にも...。"歴史的なものが崩れていく姿"を通して中国を見つめていくパターンは今後のジャ・ジャンクー作品でも観られるかもしれませんね。

語り中心といっても前作『長江哀歌』で観る事ができた詩的映像は今回も満載。工場やそのパネルが崩れ落ちる姿はシュールだし、黙々と作業をする人々からも何かしらの詩情が漂う。中盤とラストに挿入される音楽はcoolで、四川との映像と一見ミスマッチなのだがそれでも"個人に目覚めざるをえなくなった"中国の人たちの心のうねりをよく表現している。



『四川のうた』は前作『長江哀歌』に比べると少し小うるさい印象があるが、それでも鑑賞後に残る独特の余韻は同じである。今でも映画のシーンが次々と思い浮かぶし、体制に従うほか術のなかった人々が新たに自分の力で生きていこうと決意する姿は心を打つ。ジャ・ジャンクーさん、今回も傑作じゃないですか!もうあなたは世界の巨匠ですよ。

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2009.05.25 Monday | 02:30 | 映画 | comments(4) | trackbacks(3) |

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2020.08.03 Monday | 02:30 | - | - | - |

コメント

こんにちは、
数日前に東京へ来て、今日札幌に帰ります。
丁度、札幌では公開していない映画でも・・・と昨日探した映画がこの「四川のうた」でした。
けれど、上映時間が合わず見ないで帰ることになり、こちらの記事を読みかなり残念に思っています。『長江哀歌』は好きな作品ですので、なおさら見たいですが。札幌での上映を期待しています。「赤い疑惑」もついでに気になります(笑)映画についてのコメントではなくてすみません。
2009/05/25 11:06 AM by zukka
こんばんわ。

この映画はドキュメンタリーと思ったほうがいいです。
でも、俳優がドキュメンタリーの当事者役を演じるというパターンは
はじめてのことじゃないかな?
『長江哀歌』路線を期待していた自分は
観ているあいだは(語りばかりなので)少しイラつきを感じましたが
観終わったあとの余韻は『長江哀歌』とまったく同じ。
今でも映画の場面がいろいろと思い浮かびます。
ということは、自分にとっていい映画だったんだな、と納得しました。


公式サイトによると
札幌では9月上映みたいですね(^^;
(シアターキノ 9/12(土)〜25(金))

劇場で観るべきタイプの映画かと言われたら
やや微妙なところですが、ただDVDで観てしまったら
表情や仕草などの細かいニュアンスはあまり感じられないかもしれません。

誰にでもお勧めできるタイプの作品ではありませんが、
『長江哀歌』を気に入った方であれば、OKかもです。
個人的には傑作であるという結論に至りました(笑)。
2009/05/25 7:18 PM by moviepad
こんにちは。
やっと札幌で上映されました。
なんとなく想像はしていましたが、個性的な作品でしたね。観ておいて良かったと思う。
哀愁があります。インタビューのシーンはかなりの集中力が必要で、時折気がつくと、ウトウトしておりました(汗)
音楽が私好み♪そして写真のようなシーンを挟む映像がお気に入りです。
時代はどんどん流れていきますね。

余談ですが、「ハチ公物語」を見るつもりでしたが、TVでたまたま数シーンを見ただけで、涙・涙だったので止めました。犬が主役の映画はやはりダメです(笑)
2009/09/20 11:57 PM by zukka
zukkaさん、こんばんわ。

ドキュメンタリー・タッチといった生易しいものではなく、はてしなくドキュメンタリーに近い劇映画。
こんなタイプの映画はなかなかないです。
ミニ・シアター冬の時代と呼ばれる今、この作品が劇場公開してもらえるのは
ジャ・ジャンクー作品を全面サポートしているオフィス北野のおかげです、ハイ。

台詞のところは僕もつらかったです(^^;
でも音楽や人物のポートレート場面はよかったですね♪
やや古臭い絵に未来をほのかに感じさせる音楽。
このアンバランスさが魅力的でした。

ははは、犬ものに弱い人は多いようですね。
2009/09/21 9:40 PM by moviepad

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四川のうた
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(LOVE Cinemas 調布 2009/05/25 9:04 PM)
四川のうた
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(シネマ大好き 2009/05/29 11:28 PM)
四川のうた ( 二十四城記 )
5月には東京で公開されていたこの映画。 やっと、札幌でも上映となりました。 けれど、たった2週間の上映期間、見逃すわけにはいきませんね...
(気ままに綴りたい。 2009/09/22 7:50 PM)

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