フロスト×ニクソン
フロスト×ニクソン(2008 アメリカ)
原題 FROST/NIXON
監督 ロン・ハワード
原作 ピーター・モーガン
脚色 ピーター・モーガン
撮影 サルヴァトーレ・トチノ
音楽 ハンス・ジマー
出演 フランク・ランジェラ マイケル・シーン
ケヴィン・ベーコン レベッカ・ホール
トビー・ジョーンズ マシュー・マクファディン
オリヴァー・プラット サム・ロックウェル
ケイト・ジェニングス・グラント
アンディ・ミルダー パティ・マコーマック
第81回(2008年)アカデミー賞 作品、監督、主演男優(フランク・ランジェラ)、脚色、編集賞ノミネート
1960年、ニクソンとケネディの激突となったアメリカ大統領選において、初のテレビ討論会が行われた。それまではニクソンやや優勢と思われていたが、テレビ視聴者は見栄えのよいケネディに好感をもち、最終的にはケネディが僅差で勝利した。リチャード・ニクソンはTVがもたらすイメージがいかに怖いかを痛感した最初の米大統領である。そのニクソンがウォーターゲート事件後、政界復活をかけて挑んだのがテレビ・トークショーというのも皮肉な話である。相手はロンドンやオーストラリアで人気を博しているトークショー司会者デビット・フロスト。フロストはアメリカでは番組が打ち切られたばかりだった。彼がアメリカ再進出をかけて自腹でこのトークショーを企画したのだ。ニクソンもフロストも絶対に負けられない戦いだった。その伝説のテレビ討論の模様を描いたのがロン・ハワード監督『フロスト×ニクソン』である。『クイーン』(2006)の脚本家ピーター・モーガンが書き下ろした戯曲の映画化であり、舞台でニクソン役を演じたフランク・ランジェラ、フロスト役のマイケル・シーンは映画版でもそのまま出演している。
原題 FROST/NIXON
監督 ロン・ハワード
原作 ピーター・モーガン
脚色 ピーター・モーガン
撮影 サルヴァトーレ・トチノ
音楽 ハンス・ジマー
出演 フランク・ランジェラ マイケル・シーン
ケヴィン・ベーコン レベッカ・ホール
トビー・ジョーンズ マシュー・マクファディン
オリヴァー・プラット サム・ロックウェル
ケイト・ジェニングス・グラント
アンディ・ミルダー パティ・マコーマック
第81回(2008年)アカデミー賞 作品、監督、主演男優(フランク・ランジェラ)、脚色、編集賞ノミネート
1960年、ニクソンとケネディの激突となったアメリカ大統領選において、初のテレビ討論会が行われた。それまではニクソンやや優勢と思われていたが、テレビ視聴者は見栄えのよいケネディに好感をもち、最終的にはケネディが僅差で勝利した。リチャード・ニクソンはTVがもたらすイメージがいかに怖いかを痛感した最初の米大統領である。そのニクソンがウォーターゲート事件後、政界復活をかけて挑んだのがテレビ・トークショーというのも皮肉な話である。相手はロンドンやオーストラリアで人気を博しているトークショー司会者デビット・フロスト。フロストはアメリカでは番組が打ち切られたばかりだった。彼がアメリカ再進出をかけて自腹でこのトークショーを企画したのだ。ニクソンもフロストも絶対に負けられない戦いだった。その伝説のテレビ討論の模様を描いたのがロン・ハワード監督『フロスト×ニクソン』である。『クイーン』(2006)の脚本家ピーター・モーガンが書き下ろした戯曲の映画化であり、舞台でニクソン役を演じたフランク・ランジェラ、フロスト役のマイケル・シーンは映画版でもそのまま出演している。
★ ニクソンは偉大な大統領になれる素質があった?
ニクソンと言えば、アメリカでは嫌われ者の代名詞である。ここ数年、アメリカで歴代大統領の"不人気"投票をすれば、ジョージ・W・ブッシュと常に1位を争っている有様なのだ。
だが、歴史学者や政治学者によるニクソンの評価はそれほど低くない。
ニクソンが外交面、内政面ともにしっかりとした実績を残しているからだ。
特に外交、環境対策における功績は近年、再評価する声も多い。
ニクソンの主な実績は以下のとおり。
外交面
・泥沼化していたヴェトナム戦争を終結させた。
・中国との国交を回復
・ソ連や東欧諸国とのあいだでデタント(緊張緩和)政策を推進
内政面
・麻薬取締局 (DEA) の設置。
・アメリカ環境保護局 (EPA) の設置。
・オイルショックへの対応策としてガソリン節約の目的で高速道路の最高速度を時速55マイルに制限
そんなニクソンもウォーターゲート事件の発覚後、ニクソン自身も不法行為を働いていた容疑を受け辞任。現職の大統領が任期中に辞任に追い込まれたのは、合衆国史上初めてのことであった。
再選確実といわれていたニクソンが、法を犯してまで入手したかった民主党側の情報とは何なのか?はいまだに諸説がある。ただ、事件の背景にはニクソン個人の性格によるものが大きいと見る人も多い。ニクソンには多くの伝記があるが、共通して述べられているのは、彼が非常に複雑な性格であるということだ。
ウォーターゲート事件のもみ消しを狙うニクソンへの協力を拒み、司法長官を辞任したエリオット・リチャードソンは以下のように語っている。
「ニクソンは偉大な大統領になれる素質があった。だが性格が災いした。」
また、"Richard M.Nixon"の著者エリザベス・ドリューは
「秘密主義的で不器用であると同時に驚くほど内省的だ」
「頭が良く才能もあるが、歴代の大統領のなかで、最も風変わりで何かに取りつかれたような人間」と評している。
"Richard M.Nixon:A Life in Full"の著者コンラッド・ブラックは
「自分が中傷され、仲間たちに裏切られ、不当に嫌がらせを受け、誤解され、過小評価され、仕事の上では試練にさらされる運命になると考えていた。しかし彼は、自分の並外れて強靭な意志と不屈の精神と勤勉さをもって、最終的にはそれらの困難に打ち勝とうとした」と分析。精神分析学の専門家たちは、ニクソンの性格に被害妄想的かつナルシスト的傾向を見出している。映画『フロスト×ニクソン』でニクソン役を演じたフランク・ランジェラは外見的にはニクソンと似ても似つかないが、その性格は見事に体現している。Frost/Nixon (2008) - scene comparisons
「あれほど優秀でありながらあれほど道徳心に欠けている特異な大統領をどう評価すればいいのだろう」(伝記作家ジェームズ・マクレガー)というのが多くの人の本音ではないだろうか?
※ 参照 キネマ旬報 2009年 4/1号 ーリチャード・ニクソン、彼は一体何者だったのかー(萩原順子)
★ 超一流の策士もテレビの魔力には勝てない...
政界再進出を狙うニクソンと、全米進出をかけるTV司会者。どちらも絶対に負けられない戦いである。かつ、この2人がまったく対照的な人物であるところが物語の奥行きを深めている。
実力も才能もあるが、人好きのしない男ニクソン。
"たいした才能もないのに、有名である"男フロスト。
フロストが有名なのは"人好きのする"キャラクターであるからである。
フロストは、この討論にあたって顔なじみのプロデュサー、ジョン・バード(マシュー・マクファディン)の他、2人のジャーナリスト、ボブ・ゼルニック(オリヴァー・プラット)、 ジェームズ・レストン(サム・ロックウェル)をブレーンとして雇う。レストンから「なぜこの企画をやるのか?」と訊かれたフロストはさすがに"全米で有名になるため"とは答えられず、言葉に詰まる。レストンは彼の魂胆を見抜きブチ切れるが、フロストはあえて彼をスタッフとして残す。
初収録の日、レストンは「ニクソンの本を4冊書いているけど、本人にあったことはない」とつぶやいた後、「ニクソンと絶対握手なんかしない」と吐き捨てる。だが、初めて会ったニクソンのオーラに圧倒され、結局すんなりと握手してしまう。いくらジャーナリストとはいえ、嫌いなだけで4冊も本を書くことはできない。「嫌いだからこそ気になる」というか、潜在意識の中でニクソンに何かしらの魅力を感じているのである。複雑で捻じ曲がったファン心理?をサム・ロックウェルは見事に表現している。
これは彼だけではなくアメリカ人全体に言えることではないだろうか?
ニクソンの伝記は無数にあり、今でも映画などで悪役として頻繁に登場する。
彼が才能のある政治家で、複雑な性格の人物であることが(嫌いであっても)興味をそそるのだろう。
ニクソンとジョージ・W・ブッシュの"不人気"は、若干性質が異なるもののように思える。
まして映画ではフランク・ランジェラが実物よりもはるかに魅力的に演じている。
ニクソンに肩入れしたくなって困りました(笑)。
さて収録がはじまるが、"超一流の策士"ニクソンの前にフロストは手も足も出ない。ひとつの質問に対し、23分もの独演会をされる始末である。かつ、収録の前にニクソンはフロストに雑談という形で"圧力"をかけてくるのである。後は最後の収録、肝心の"ウォーターゲート事件"の話題を残すだけとなった。ゼルニックやレストンからも「ニクソンを名大統領に仕立ててしまった」と批判される始末。フロストはあせりまくった。何としても彼から"謝罪の言葉"を引き出さなければ、TV番組は放送局に売れず、キャリアを失うばかりか莫大な借金を抱えてしまうことになる。フロストは最終回の収録ぎりぎりまでリサーチを重ね、一発逆転を狙う。
さて、最終日、いつもはニコヤカに現れるニクソンもサングラスをかけたままで、挨拶もない。いよいよ最後のバトルがはじまった....。フロストはリサーチ結果を読み上げる。見る見るうちに険しくなっていくニクソンの表情。ついにフロストはニクソンから「大統領が行ったことであれば、非合法にはあたらない」"When the President does it, that means it is not illegal."という不遜な言葉と"謝罪もどき"を引き出したのだ!
ニクソンは最後の収録で、あせり、孤独感といった人間の弱さを表情で見せてしまった。
視聴者は話の内容ではなく、一瞬の映像だけで物事を判断する。その結果、"実力も才能もある男"は"たいした才能もないのに有名である男"に負けてしまう。ここにメディアの恐ろしさがある。監督のロン・ハワードは子役からのハリウッド叩き上げ。映像の影響力の計り知れなさはいやというほど知り抜いているはずだ。映画『フロスト×ニクソン』の主題はここにあるだろう。
話はそれるが、ニクソンはなぜ謝罪をしないのだろう?
騒動を静めるため、いとも簡単に"心にもない謝罪"をする政治家を多数見ている日本人からするとやや奇異なことにも思える。本人が悪いと思っていないから、と言ってしまえばそれまでだが、そう単純な事情ではないと思われる。
そこで、ニクソンと同じような立場の人を見てみよう。彼のような大物政治家ではないが、ナチス協力者として咎められたレニ・リーフェンシュタール、"赤狩り"で仲間を売ったとされたエリア・カザンなどが思い浮かぶ。ともに著名な映画監督である。彼らはずっとレッテルに悩まされ続けたが、謝罪することなく生涯を終えた。つまるところニクソンと同じパターンである。
思うところ、彼らに向けられた悪意は謝罪したからといって収まる性質のものではなかったのだ。
謝罪したらしたで、弾劾者たちは"ついに認めた"と大騒ぎするだけ。
彼らに向けられた悪意が和らぐわけではない。その状況を自覚してのことだろう。
ニクソンの場合は、"恩赦"によって何の罪にも問われていない。
恩赦を受け入れるということは罪を認めたに等しいのだが...。
ニクソンが謝罪をしようとするとジャック・ブレナン(ケヴィン・ベーコン)が大慌てで飛び出し、収録を中断させる。「謝罪なんかしたら、どういうことになるかおわかりでしょう?」ブレナンはニクソンを問い詰める。このとき、ニクソンが何を考えていたのか?実に興味深い場面である。
この映画は重いテーマを扱っているにもかかわらず、122分間まったく飽きさせることがない。
ドラマとしても心理サスペンスとしても、有名なインタビューのドキュメンタリーとしても楽しめる。
上記に記したように強烈なメディア-大衆論ともなっている。
映画『フロスト×ニクソン』は多彩な魅力を兼ね備えた第一級の作品である。
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・デビッド・フロスト氏は2013年8月31日クイーン・エリザベス船上で急性心不全により死去。74歳でした。
英TV司会者デービッド・フロスト氏が死去、客船で心臓発作
自分もこの映画を見てきました。
人間は、見た目が80%。
まさに、その結果ですよね。
一瞬の表情、その表情が全てを物語ります。
この二人の対談は、巨人と蟻との戦いだったと思います。
何をやっても、打ち返される。
しかし、最後に・・・
いやぁ、素晴らしい映画でした。