映画のメモ帳+α

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そして、私たちは愛に帰る

そして、私たちは愛に帰る(2007 ドイツ・トルコ・イタリア)

「そして、私たちは愛に帰る」公式サイトにリンク原題   AUF DER ANDEREN SEITE
英題   THE EDGE OF HEAVEN
監督   ファティ・アキン   
脚本   ファティ・アキン      
撮影   ライナー・クラウスマン                  
音楽   シャンテル              
出演   バーキ・ダヴラク トゥンジェル・クルティズ
      ヌルギュル・イェシルチャイ ハンナ・シグラ
      ヌルセル・キョセ パトリシア・ジオクロースカ

トルコのEU加盟は1963年に加盟を前提とした連合協定が締結されているにもかかららず、キプロス問題、司法制度が西欧法治国家の水準に達していないとみなされるなど加盟基準を満たしていないため未だに実現していない。ドイツは国内に多くのトルコ系移民を抱えている。そんなドイツとトルコの間を行き交う3組の親子の対立と絆を描いた映画が『そして、私たちは愛に帰る』。監督は『愛より強く』のファティ・アキン。2007年カンヌ国際映画祭で最優秀脚本賞、全キリスト協会賞受賞作品である。

〜story〜
ドイツ、ブレーメンに住み、男手ひとつで息子ネジャット(バーキ・ダヴラク)を育て上げたアリ(トゥンジェル・クルティズ)は、ひとり暮らしの寂しさを紛らわすため、娼婦イェテル(ヌルセル・キョセ)と一緒に暮らし始める。ハンブルクで大学教授をしているネジャットは父に反発するが、娼婦イェテルが収入の大半をトルコにいる大学生の娘アイテル(ヌルギュル・イェシルチャイ)に仕送りしていることを知ってから彼女に好感を抱き始めた。ある日アリは誤ってイェテルを死なせてしまう。ネジェットはトルコに渡りアイテルを探す。一方アイテルは政治活動によりトルコを追われてしまい、ドイツに不法入国して母の行方を捜していた。母が見つからず途方にくれていたアイテルをドイツ人学生ロッテ(パトリシア・ジオクロースカ)とが自分の家に招き、彼女の面倒を見る。だがアイテルは保守的なロッテの母スザンヌ(ハンナ・シグラ)とことごとく対立する





この映画のすごいところは「イェテルの死」と映画の中でタイトルとして提示してしまっているところだ。登場人物の死は物語にアクセントをつけるものだが、それを登場人物が画面に現れる前に観客に知らせてしまう。この映画はストーリーが重要なのではありませんよ、と釘をさしているかのようだ。ストーリーは入り組んでいるがつなぎ方が鮮やかなため群集劇を見ている気はしない。また観終わった後、ストーリーよりも"愛、赦し、対立、絆"といったテーマがイメージとして浮かび上がってくる。このような作品のつくりはスペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督に近いものを感じる。

荷物が飛行機から積み下ろされる場面が3度出てくる。中身には当事者以外誰も知らないドラマが詰まっている。この場面をリピートすることで、ドイツートルコ間において運命に翻弄される人々が後を絶たないことが暗示される。ファティ・アキン監督によると、スザンヌとロッテはドイツ人としてECを、イェテルとアイテンはトルコを代表していて、彼らに起こることはEUとトルコの関係を表しているそうだ。映画で最も印象的なのは牢獄に入ったアイテルがロッテの母スザンヌと電話越しに話す場面だが、この場面はトルコのEU加盟が実現することを願ってつくられたのであろうか?

秀逸なのは肝心なところの描写がことごとく省略されている点だ。
なぜネジャットは大学教授の職を捨ててまで、アイテルを探しにトルコに渡ったのか?
「人を殺すヤツなんて父じゃない」というせりふもあり、単にイエテルへの罪ほろぼしだけが理由とは考えにくい。殺人犯の息子になってしまったトルコ系移民のネジャットは職を追われてしまったのかもしれない。また、ロッテの母スザンヌは「(今抱えている問題は)トルコがEUに加盟すればすべて解決する」と語るなど保守的に見える。だが、スザンヌがロッテの日記を読み、自分の若い頃を回想する場面が出てくる。母スザンヌは若かりしころに一体何があったのか?そしてラスト、ネジャットは父に会うためにトルコ、トラブゾンの街にいく。海岸に座って父の帰りを待ち続ける。はたして彼は父に会えたのだろうか?親子、そしてドイツ人とトルコ人のあいだでの"愛と赦し、対立、絆"。省略された描写の中にもこのテーマはひっそりと眠っている。ラスト、親子の絆が戻るのかどうかは観客の想像に委ねられている。そしてアイテル(=トルコ)とスザンヌ(=ドイツ)の関係はどうなるのか?

ひとつの死は親子の絆を引き裂き、もうひとつの死はドイツ人とトルコ人を結びつけた。赦すことは憎むことよりはるかに難しい。どんなに絶望的な状況に陥ろうとも、赦す心があれば希望は見えてくる。『そして、私たちは愛に帰る』はそのようなメッセージがじんわりと浮かび上がってくる秀作である。
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そして、私たちは愛に帰る@映画生活


2009.03.17 Tuesday | 01:02 | 映画 | comments(6) | trackbacks(6) |

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2019.09.05 Thursday | 01:02 | - | - | - |

コメント

この映画、知りませんでした。
でも、記事を読んでいるだけで、観たい衝動に駆られています。
なかなか奥が深そうな映画ですね。
秀逸なのは肝心なところの描写がことごとく省略されている点 
この一言に物凄く惹かれる自分がいます。
2009/03/17 8:12 AM by
亮さん、こんばんわ

すいませんねー、この映画2ヶ月近く前に観たのに今頃記事にしました(^^;
もう近所の映画館では上映終わっているでしょうか?

男なら思わずパスしたくなるような邦題ですが(笑)
いい映画です。

内容に甘さは全くないにも関わらず、観終ったあと柔らかい印象があります。
肝心な部分を描かないことでかえって想像をかきたて
余韻が広がってくる映画です。
ドイツだのトルコだの、うだうだ考えなくても十分楽しめますよ。

ぜひ機会をつくって観てください!
2009/03/18 1:14 AM by moviepad
こんにちはー。お久しぶりでっす。

本作は3/20までシアターN渋谷で、14 : 00、18 : 40 の2回上映中ですよ!
16 : 20からは、「愛より強く」もやってます。
みなさま、ぜひぜひ劇場へー!

って、てっきり moviepad さんは、シアターNでご覧になったのかと思っていたんですが、観たのは2ヶ月近く前だったんですねぇ。w
それほどに時間が経ってもなお、鮮烈な印象が残りますよねー。
2009/03/18 9:45 AM by かえる
かえるさん、お久しぶりです。

僕は1年ちょっと前に東京を離れていますのでシアターNには行けないんですよー(泣)
福岡の映画館で1月に見ました。

東京以外でも現在上映中のところ、もしくは上映予定のところもあるようなので、
みなさまぜひ劇場へ!

時間がたつほど余韻がひろがっていくタイプの映画に年に何本か出会いますが、
この映画はまさにそれ。
タイトル見たとき、パスしようかと思ったのですが思いとどまって正解でした(笑)

2009/03/19 1:09 AM by moviepad
こんにちは。
ラストはかなり長く静かに待つシーンでした。
>海岸に座って父の帰りを待ち続ける。はたして彼は父に会えたのだろうか?
ずーと思ってました。あの海の遠くから父の船が見えてくるだろうと・・・けれど・・・
やはりこれは、観客の思いに委ねられているのでしょうね。
スザンヌを演じるハンナ・シグラの演技が特に印象的でした。
又、トルコとドイツ、EUと映画を通して日々勉強になります。
2009/03/20 11:51 PM by zukka
zukkaさん、こんばんわ

ラスト場面は観客の想像に委ねていますね。

座って海を眺めながらじっと待ち続ける。
かなり好きな場面です。
鑑賞後、主人公と一緒にずっと波の音を聞いていたいような
気分になりました。

ハンナ・シグラはこの映画のテーマを凝縮したような役でした!
2009/03/21 1:19 AM by moviepad

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『そして、私たちは愛に帰る』 Auf der Anderen Seite
これこそは愛。 ハンブルクの大学で教鞭をとるトルコ系移民二世のネジャットの老父アリは、ブレーメンで一人暮らしをしていたがある日同郷の娼婦イェテルと暮らし始めた。 そして、ドイツとトルコを舞台に三組の親子の物語が絡み合う。お待ちかねのファティ・アキン
(かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY 2009/03/17 10:37 PM)
そして、私たちは愛に帰る 原題:AUF DER ANDEREN SEITE
 消息のわからない娘に、母のことのことを知らせるために、作ったチラシは、娘に届くのか? 3月13日、京都みなみ会館にて鑑賞。 ドイツーーーートルコ。2000キロの距離を越えて、3組の親子がさすらう再生と希望の旅路 親子の絆は何ものにも変えられないほど
(銅版画制作の日々 2009/03/19 10:05 AM)
そして、私たちは愛に帰る
幸せと不幸せは、背中合わせ。 だから、人生はいつだって やりなおせる。          「そして、私たちは愛に帰る」        ...
(気ままに綴りたい。 2009/03/20 11:53 PM)
「そして、私たちは愛に帰る」あるいは「天国のほとりで」
「そして、私たちは愛に帰る」この題名はよくないと思う。また、宣伝用のあおり文句もよくないと思う。こんな文句だ。「幸せと不幸せは、背中合わせ。だから人生はいつだってやり直せる」「ドイツ・ハンブルグ、トルコ・イスタンブール。2000キロにわたってすれ違う、3
(再出発日記 2009/03/27 12:29 AM)
「そして、私たちは愛に帰る」
人間、究極は愛と包容力なのかもしれない・・と思いました
(心の栄養♪映画と英語のジョーク 2010/01/08 9:27 AM)
『そして、私たちは愛に帰る』
国境を超えてすれ違う運命の悪戯。 死が次なる出会いの糸を紡ぎ、 やがてそこには愛が宿る。神をも超える、赦しの愛が。 『そして、私たちは愛に帰る』 The Edge of Heaven 2007年/ドイツ・トルコ/122min 監督・脚本:ファティ・アキン 出演:バーキ・ダ
(シネマな時間に考察を。 2010/11/10 1:49 PM)

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