ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢
ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢(2008 アメリカ)
原題 Every Little Step
監督 ジェームズ・D・スターン アダム・デル・デオ
音楽 ジェーン・アントニア・コーニッシュ
マービン・ハムリッシュ
出演 ボブ・エイビアン バイオーク・リー
ドナ・マケクニー マービン・ハムリッシュ
ジェシカ・リー・ゴールディン ニッキ・スネルソン
メレディス・パターソン ジェイソン・タム
高良結香 J・エレーン・マルコス
ラシェール・ラック ディードリ・グットウィン
シャーロット・ダンボワーズ ナターシャ・ディアス
ジェフリー・シェクター キース”タイス”ディオリオ
ニョーヨークの街に長い列ができている。16年ぶりに再演が決まった伝説のミュージカル『コーラスライン』のオーディションに挑むダンサーたちだ。その数、約3,000人。選ばれるのはわずか19人。最終選考が行われるのは8ヶ月後。長く苦しい戦いが今、幕を開けようとしている。『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』はこのオーディション風景をおいかけたドキュメンタリー映画である。ブロードウェイの長い歴史の中で、初めてオーディション会場にカメラが入ることが許されたことでも話題になっている作品だ。ドキュメンタリーというよりは舞台版をそのまま映画にした雰囲気さえ漂う、見応えあふれる仕上がりになっている。

監督 ジェームズ・D・スターン アダム・デル・デオ
音楽 ジェーン・アントニア・コーニッシュ
マービン・ハムリッシュ
出演 ボブ・エイビアン バイオーク・リー
ドナ・マケクニー マービン・ハムリッシュ
ジェシカ・リー・ゴールディン ニッキ・スネルソン
メレディス・パターソン ジェイソン・タム
高良結香 J・エレーン・マルコス
ラシェール・ラック ディードリ・グットウィン
シャーロット・ダンボワーズ ナターシャ・ディアス
ジェフリー・シェクター キース”タイス”ディオリオ
ニョーヨークの街に長い列ができている。16年ぶりに再演が決まった伝説のミュージカル『コーラスライン』のオーディションに挑むダンサーたちだ。その数、約3,000人。選ばれるのはわずか19人。最終選考が行われるのは8ヶ月後。長く苦しい戦いが今、幕を開けようとしている。『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』はこのオーディション風景をおいかけたドキュメンタリー映画である。ブロードウェイの長い歴史の中で、初めてオーディション会場にカメラが入ることが許されたことでも話題になっている作品だ。ドキュメンタリーというよりは舞台版をそのまま映画にした雰囲気さえ漂う、見応えあふれる仕上がりになっている。
再演版の演出を担当するのはボブ・エイビアン。オリジナル版『コーラスライン』でマイケル・ベネットの振付助手を務め、ベネットとともに1976年トニー賞のベスト振付家賞を受賞した人だ。バイオーク・リーの顔も見える。オリジナルではコニー役を演じただけでなく、ベネットのアシスタントとしてダンサーたちの目配りをしていた。2人はベネットの両腕的な存在で、ベネットとダンサーたちの衝突を和らげる潤滑油の役割をもはたしていたといわれている。一方、アダム・デル・デオと共同で、映画を監督しているのはジェームズ・D・スターン。数多くの映画製作にかかわるかたわら、ミュージカル『ヘアスプレー』でトニー賞を受賞、「プロデューサーズ」の再演、ダンスショー「stomp」でも製作をつとめているプロデューサーである。今回、カメラが入るのを許可されたのはスターンの信用によるところが大きいのかもしれない。
★ 審査する側、される側
このドキュメンタリーの見所のひとつは、審査風景だ。
コニー役のオーディションで日本の高良結香が審査員室に登場すると早速審査員から質問が飛ぶ。
「いつから米国に?」
「1998年からです」
その後、dancingなどいくつかの英単語を発音させられる。高良は英語の発音に難ありとみなされているようだ。彼女が元気に退室したあと、エイビアンは「英語の発音は鍛えれば何とかなる」と主張。はつらつとした高良に好印象をもっているようだ。一方、バイオーク・リーは「5歳からF席に座っていないとダメね」と渋い顔。バイオーク・リーはニューヨーク・チャイナタウン生まれ、インド人の母と中国人の父をもち、何と5歳のときにブロードウェイデビューしている。『王様と私』でユル・ブリンナーの子役として採用されたのだ。まだ字が読めなかったリーは、母親の手助けでセリフを丸暗記して、オーディションに臨んだという。役をもらえたのは東洋系だったからで歌や踊りがうまかったからではない、と聞かされたリーは8歳で役を降ろされた後、本格的にダンスの勉強をはじめた。リーの身長は147cm。コニー役で自分を演じていたともいえる。オリジナルで自分が演じた役を、渡米して数年の小娘に簡単に渡すものか?とリーが思っていたかどうかは定かではない。ただ、オリジナル・キャストが審査員をつとめるコニー役はとくに厳しくチェックされていたのは間違いないだろう。
審査員の厳しさにダンサーたちは
「好感度が大事なのよね」
「人に好かれる可能性ノー100。イエス 1」
「審査員全員を納得させる。その可能性はゼロよ」
と愚痴をこぼす。
ところが、審査員全員をすんなり納得させてしまったツワモノがいる。
ポール役でオーディションに臨んだジェイソン・タムだ。
ポールは、歌こそないものの、『コーラスライン』の出演者の中でも最も目立つ役どころのひとつである。ラスト近くで、女装してショーに出ること、自分が同性愛者であることを両親に受け入れてもらうまでのいきさつを演出家ザックに話す。ダンスはもちろんだが、繊細さ、誠実さを表現できる演技力が求められている。
ポール役の候補者たちが次々とオーディションにのぞむ。
“ゲイゲイしく演じればいい”といわんばかりの、味気ないパフォーマンスが続き、審査員たちは議論の余地なし、と言わんばかりに履歴書をテーブルの隅にほおりなげる。
“もうあきらめかけていた”ところに救世主のごとく登場したのがジェイソン・タム!
ジェイソンの自然で繊細な演技は審査員たちをたちまち魅了。演技終了後拍手が沸き起こった。
「オーディションで泣くなんて」
彼の退室後、涙をふく審査員たち。
審査員にとってはポールのセリフは耳にタコができるくらい聞いてきたはず。
それほどジェイソンの演技が純粋に審査員の心を捕らえたのだろう。
★ 最終選考...
いよいよ最終選考の日がやってた。
シーラ役でオーディションに挑むラシェール・ラック。
だが彼女の演技を見てエイビアンは戸惑いを隠せない。
「演技が変化している。やたら感傷的になっている」
そしてエイビアンはラシェールに「1次予選の演技に戻せ」と指示し、
彼女に再チャレンジの機会を与える。
「8ヶ月前に戻せといわれても…思い出せない」
ラシェールはおろおろしはじめる。
彼女はダンサー。ダンスと同じように演技も体で覚えてしまっている。
急に8ヶ月前に戻せといわれても戻せないのだ。
おそらく彼女はシーラ役の最有力候補だったのだろうが...。
8ヶ月にわたる長丁場を乗り切るためには一瞬たりとも気を抜けない。
過程はすべて記憶しておかないと勝ち抜くことはできない、過酷な闘いであることがよくわかるエピソードだ。
最終結果は『コーラスライン』のように全員をいっせいに集めて発表したりしない。
合格者に後日、電話で通知するというパターンだ。
見事シーラ役を勝ち得たダンサーは「はじめて仕事が途切れていたの」と安堵のため、泣き崩れていたのが印象的だった。
8ヶ月にわたるオーディション。合格する保証はどこにもない。
報われる可能性がはてしなく低いにもかかわらず、努力を続けるダンサーたちの姿が心をうつ。
落選したものは別のオーディションに向かう。オーディションに合格したものも『コーラスライン』が終わればまた次のオーディションに向かう。『コーラスライン』に出演できたからといってキャリア・アップは約束されていない。現にオリジナル・メンバーは誰ひとりスターになっていないのだ。それでもダンサーたちにためらいはない。好きだから続ける。
♪Kiss today goodbye,
The sweetness and the sorrow.
Wish me luck, the same to you.
But I can't regret♪
(悔やまない 選んだ道がどんなにつらく この日々が報われず過ぎ去ろうと
劇団四季版 日本語訳より)
ラストに流れる“What I Did for Love”(愛した日々に悔いはない)の歌詞そのままの世界だ。
Cast of A Chorus Line performs on 2007 Tony's
★ 『コーラスライン』映画の決定版!
『コーラスライン』は周知のとおり、マイケル・ベネットがダンサーとともにワークショップを行い、そこで聞いた実際のエピソードをもとに積み上げて作っていった物語である。そのワークショップでの録音テープの一部が映画の中で流されている。『コーラスライン』ファンは感涙ものだろう。
『コーラスライン』の映画化企画が持ち上がったとき、演出・振付を担当したマイケル・ベネットにも話はあった。だが、ベネットは”舞台を映画にそのまま移し変えるよりも、映画向けにオーディションを行いその光景を撮りたい”と主張。要求が却下されてしまったため、ベネットは映画企画にかかわらなくなったという。
『コーラスライン』のストーリーはシンプルそのもの。ミュージカルのダンサーオーディションがあり、合格するものもいれば、落ちるものもいる。それだけの話だ。『コーラスライン』物語はブロードウェイの至るところで実際に、幾度となく繰り返されている。ラスト、不合格者も含めて"one"を歌い踊る幻想的な場面がないだけである。
『コーラスライン』はオーデションの物語である。ならば、わざわざ舞台の物語をたどってお芝居をさせなくても、実際のオーディション風景をそのまま映し出したほうが嘘がなく、原作の魂に迫れるという考え方は実にまっとうである。『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』はドキュメンタリーというより、むしろブロードウェイ・ミュージカル『コーラスライン』の最も誠実な映画化というべき作品なのだ。

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・ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢@映画生活
ここには、いい意味での
アメリカン・ドリーム、
サクセスに向って突き進む人々が描かれていました。
そこに生まれる「光と影」。
ドラマ以上にドラマチックでした。