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アキレスと亀

アキレスと亀(2008 日本)

「アキレスと亀」公式サイトにリンク英語題  Achilles and the Tortoise  
監督   北野 武
脚本   北野 武         
撮影   柳島克己                     
音楽   梶浦由記
挿入画  北野 武                 
出演   ビートたけし 樋口可南子
      柳憂怜 麻生久美子
      中尾彬 伊武雅刀
      大杉漣 筒井真理子
      吉岡澪皇 徳永えり 大森南朋

第30回モスクワ国際映画祭で特別功労賞(Life-time Achievement Award)、11月開催予定のギリシャ・テサロニキ映画祭でゴールデン・アレクサンダー賞と、国際映画祭において2008年の間に2度も名誉賞を授与されることになった北野武監督。そんな"世界のキタノ"の最新作が『アキレスと亀』である。題名はアキレスがいくら進んでも前にいる亀には追いつけないというギリシャ時代から伝わる「ゼノンのパラドックス」に由来しており、北野監督いわく「主人公の真知寿が"亀"で、かみさんが"アキレス"なの。2人の関係を描くことで、オレなりにパラドックスを解決してみたんだ。」映画監督・北野武にとってのパラドックスは"映画らしい映画を撮ること"であるようだ。



 セピア、ブルー、黄、グレー

この映画は3つのパートに分けて主人公真知寿の少年期(吉岡澪皇)・青年期(柳憂怜)・中年期(ビートたけし)が描かれている。 ()内は真知寿を演じた俳優名

まずは少年期。絵画を購入することが趣味である父親の影響で、真知寿は授業中だろうがおかまいなし、暇さえあれば絵を描いている。やがて父親の会社が倒産し、両親は自殺。真知寿は身寄りのない子供になってしまう。このパートはやたらと辛気臭い。真知寿が絵を描くためにバスを止めてしまうエピソード、浮浪者の絵描きとの交流の場面で北野武らしさがわずかに垣間見られる程度である。
ポイントはもっともらしい理由をつけてクライアントに絵を売りつけようとする画商とその画家の描写。
映画のテーマに密接にからんでくるからだ。

続いては青年期。住み込みで新聞配達をしながら、真知寿は相変わらず絵を描き続けている。
書き溜めた絵をもって画商に売り込みに行ったところ「学校できちんと学ぶべき」とアドバイスされ、美術の専門学校へ入学する。このあたりからようやく北野作品らしさが顔を出してくる。学生たちの無茶苦茶な"アートぶり"はアホらしくも楽しい。また、将来有望だったはずの画家が美術学校の講師に納まっていたり、画商にダメ出しされた絵がいつのまにか喫茶店で飾られていたり...。
アートの世界の魔可不思議さがそれとなく暗示されている。

最後は中年期。ビートたけしが登場すると映画のカラーが一変する。真知寿は相変わらず売れない絵を描き続けている。絵にはテーマ性が必要だと画商に言われ、交通安全をイメージした絵をタイヤで轢かせようとする、命を張るような熱気が必要だといわれ、風呂の中に長時間もぐりこむ、などコミカルな描写が続く。アフリカの地図の上に黒い靴跡を残した絵に対し「これじゃ黒人がアフリカを踏みにじっていることになる。それにアフリカの人たちは皆裸足だよ」という画商の説明には妙に納得してしまった。真知寿はアートに没頭するあまり不平をもらす娘を相手にせず、妻をアシスタントのように使い続ける。だが、そのツケがまわってきて...。

北野武監督作品と言えば「キタノブルー」と言われる独特の色彩感覚が特徴だ。この3つのパートはそれぞれ色分けはなされていたのだろうか?監督は次のように語っている。

「主人公の少年期はセピア色。回想みたいな感じで始まって…。青年期はブルー主体。そのあたりから色が出だして、中年期はいろいろな色が出てくるけど、後半は黄色。そして最後はグレーに戻る。」

色彩の違いは十分に感じ取れる映像となっている。

 アートの魔力と定義

この映画のテーマは、ずばり"芸術(アート)の魔力と定義"である。

真知寿は、いくつもの"死"にめぐり合う。だが、彼は"人間の死"を体感することもなく、単なるオブジェにすぎないと言わんばかりに死体をスケッチする。まさに"芸術に取り憑かれた者の狂気"である。他のものが一切目に入らなくなり、日常感覚は完全に麻痺してしまう。おまけに自分の才能を冷静に見極める眼も持ち合わせていない。この物語は、芸術という麻薬に手を染めてしまった男の悲喜劇である。自分はアーティストであるという思い込みだけが横たわっている。

ラスト、真知寿は焼け爛れたコーラ缶をフリーマーケットに出品する。
創作者はコーラ缶をアートと称して通りすがりの客に売りつけようとする。
そのマガイモノをアートと信じて購入する客がいる。
たとえ他の98人が単なるガラクタであると切り捨てたとしても、この2人にとってはあくまで"アート"なのである。

"アート"という概念に絶対的な定義は存在しない。
極端な話、これはアートだ!と言い切ってしまうだけで、新しいアートは誕生する。
アートとは個人の思い込みだけで簡単に産み出される概念なのだ

北野武にしては珍しくテーマが明確な作品である。
夫婦は心中することもなくハッピーエンドな雰囲気を醸し出して終わるので、北野作品の中では取っ付きやすい部類に属するかもしれない。
それでもこの映画は北野武印としかいいようがない。
物語の中に「死と狂気」がしっかり内包されているからだ。

ここ数年の北野作品の中で、『アキレスと亀』は一番良い出来だ。
芸術とは何か?と一度でも考えたことがある人なら、絶対に見て損はない映画である。
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アキレスと亀@映画生活

関連作 『監督・ばんざい!

2008.09.21 Sunday | 22:08 | 映画 | comments(0) | trackbacks(10) |

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