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靖国 YASUKUNI

靖国 YASUKUNI(2007 日本・中国)

「靖国 YASUKUNI」公式サイトにリンク監督   李纓(リ・イン)   
撮影   堀田泰寛 李纓              
(ドキュメンタリー映画)  

地味なジャンルであるドキュメンタリー映画において、『靖国 YASUKUNI』ほど話題になった作品は近年ないでしょう。2008年2月、"内容が反日であると噂されている"映画が文化庁所管の日本芸術文化振興会から750万円の助成金を受けていることを問題視し、『伝統と創造の会』(稲田朋美衆議院議員会長)が事前試写を文化庁に要求。これをきっかけに4月12日から公開を予定していた映画館が次々と上映を自粛し、いったん上映中止が決定しました。国会議員が公開直前の映画の内容をチェックしようとした行為に対し"検閲だ”、その結果上映中止という結果を招いたことに対し"表現の自由の危機"という非難が巻き起こり、各新聞が社説でとりあげるほどの騒ぎとなりました。個人的に思うことはいろいろありますが、映画はあくまで観てナンボ。ここでは映画の内容とそれに関連することに絞って話をすすめていくことにします。



戦後しばらくはアジア圏の人たちはほとんど靖国のことを知らなかったといわれています。昭和50年(1975年)三木武夫首相が8月15日に靖国に参拝した際、「内閣総理としてではなく三木個人としての参拝である」と発言したことをきっかけに靖国の存在が国際的に大きくクローズアップされました。昭和53年(1978年)に靖国神社がいわゆるA級戦犯を合祀したことを翌年(1979年)朝日新聞が報道。昭和60年(1985年)に中曽根康弘首相が「戦後政治の総決算」と称して、靖国神社公式参拝をすると派手に宣言したことから"靖国"は国際問題として定着してしまいました。

僕は(記憶する限り)2度ほど靖国神社に行ったことがあります。
一度目は元旦。猿の曲芸なども行なわれており、お正月らしい華やかさにあふれていました。でもやはりどこか違うんですね。他の神社で初詣をすると、「取り合えずお正月だからどっかの神社でお参りでもしておくか」というやや浮ついた雰囲気を感じるんですが、靖国ではそれはありませんでした。参拝客はどこかの神社で初詣、ではなく、あくまで"靖国神社"を選んでお参りにきている。

2度めは平日の昼間。たまたま近くを通りかかったため、平日の靖国神社とはどういう雰囲気なのだろうと立ち寄ってみました。参拝客はお参りするだけでなく、展示物などもじっくりながめている。非常に静かな雰囲気の中にも独特の空気が流れていました。

この映画に出てくる靖国はまったくの別世界でした。
小泉首相(当時)の参拝をめぐる攻防。星条旗をもって「小泉を支持する」というプラカードを掲げる変なアメリカ人、コスプレショーのような軍服姿でのパフォーマンス、戦没者追悼集会で君が代を斉唱しているとき「侵略戦争反対!」と叫び乱入してきた青年。取り押さえられた青年にむかって「お前は中国人か!帰れ」とノンストップで執拗に怒鳴り続ける男。(青年は日本人です)この一部始終をノーカットで収録する必然性はどこに?「中国人は帰れ!」と怒鳴り続ける声だけが強烈に印象に残る。20回くらいは言っているのではないか。この台詞を観客の潜在意識の中に焼き付けたかったんでしょうね。

『ウェディング・バンケット』(1993)に女優としても出演している国会議員・高金素梅は「台湾人は親日だと思われているがそれは間違いだ。」とコメント。家族の合祀に反対する台湾人グループが靖国神社に怒鳴り込む場面へと続きます。間髪入れる隙間もなく怒鳴り続ける。"糞"という表現を使う通訳をはじめて見ました。ここでは通訳が怒鳴る日本語と、字幕との表現の違いが一番の見所でしょう。こういう場面を挿入するなら、日本の遺族会の映像もあってしかるべきだと思うのですが...。

これらのパフォーマンス映像は主に就任直後、小泉首相の靖国参拝がクローズアップされていたころのものでしょうが、何も知らない人がみたら、靖国神社というのは1年中こんなことが起こっていると思うかもしれません。平日、静かにお参りにくる日本人の映像など何一つ出てこないのですから。

さてもうひとつのパートがこの映画のポイント。現在90歳になる刀匠、刈谷直治氏が監督からインタビューを受けながら日本刀鋳造を再現していく場面です。昭和8年から敗戦までの12年間、靖国神社の境内で8100振りの日本刀が作られていたことに起因して撮影されたのでしょう。

李纓監督はキネマ旬報2008/4/15号でのインタビューで次のように語っています。

刀こそが靖国神社のご神体であることを知り、作品の形が見えてきました。靖国の魂とは何なのか?これが私が追及してきたテーマです。その魂が実は一本の刀に宿っているという事実。それが私にとってとても大きな啓示であり、それを知ったとき、これでついに作品にできるのだと確信しました

 靖国神社は”靖国神社の卸神体は「神剣及び神鏡」であるため訂正してほしい”と申し出をしています。

この日本刀鋳造場面の途中で、ある新聞記事が大きく映し出されます。

“百人斬り超記録 向井106-105野田 両少尉さらに延長戦”
(東京日日新聞(現在の毎日新聞)昭和12年12月13日付け)

南京大虐殺の証拠としてよく引用されるいわゆる百人斬り競争の記事です。実行犯とされた向井敏明野田毅両少尉はBC級戦犯裁判で処刑されました。これは、戦意高揚を目的とした捏造記事であり、2人は冤罪であるとの説が濃厚です。向井少尉の娘、向井千恵子氏は今でも父の無罪を訴え続けています。映画ではそんなことにはひとかけらも触れず、ただ新聞記事を映し出すのみ。百人斬り競争は東京日日新聞のほかにはどこも報道していない。なぜでしょうね?



李纓監督はほとんど誘導尋問のように、日本刀と百人斬りのエピソードを結びつけようとします。
本当は、この刀なら100人でも切れますよねと言いたかったのでしょう。

刈谷氏は李纓監督に対して「君は小泉首相の靖国参拝問題をどう思っているの?」と質問したが、李纓監督はその質問に答えず、逆に刈谷氏にその質問を聞き返している。ここで正直に答えてしまっては都合が悪かったのでしょう。答えはこの映画を見れば一目瞭然。日本刀を百人斬りのイメージと結びつけ、日本の軍国主義の象徴として映し出すために日本刀鋳造場面の撮影は行われたのです。前述の監督のコメント「私にとってとても大きな啓示であり、それを知ったとき、これでついに作品にできるのだと確信しました」とはまさにこういうことだったのでしょう。この映画を観て「どこが反日だかわからない」とか「良質なドキュメンタリーである」と評している人もいましたが、この恣意・悪意丸出しの場面をどう考えるのかを聞いてみたいところです。

ラスト、オペラをBGMに昭和天皇の映像と”日本兵の残虐行為”の証拠と言われている写真が交互に映し出されている。 ここでも捏造説が根強い写真(刀片手に生首をもちあげて笑っている日本兵←消し忘れた片腕が残っている)などが平然と映し出されています。この映画が何を伝えたかったかがはっきりわかります。



映画『靖国 yasukuni』は、製作サイドの反日感情を満足させる映像をかき集めただけのプロパガンダ・イメージビデオです。ドキュメンタリー映画はきわめて主観的なものであり、映画作品はドキュメンタリーに限らず多かれ少なかれプロパガンダ性を内包していると個人的には考えています。よって、こんな映画を撮るな、まして上映するな、という気は全くありませんが...。

現在、日本において靖国神社をどう考えるか、については世代によってかなり異なるようです。

・70〜80代の人(戦争を知っている世代) → 当然お参りするところ
・50〜60代の人(戦後教育を受けた団塊世代) → 戦争を伝えることが重要で、特別な場所ではないという声もおこる
・30〜40代の人 → 靖国神社に深い意義を見出す人と、まったく無関心な人との落差がはげしい。
・10〜20代の人 → 周りから情報をえられることがないため、全く知識のない人が大半だが、それゆえ「知りたい」という欲求をもっている人もいる

といった感じのようです。※ 参照 「別冊宝島 ニッポン人なら読んでおきたい靖国神社の本」

この映画は靖国神社についての諸問題を何も提示してくれません。2時間足らずのドキュメンタリーで靖国にまつわる諸問題を包括するのは無理な話。それでも中国・韓国の人たちが一番問題視しているA級戦犯の合祀問題に焦点をしぼるとか、よくいわれる日本人と中国人の死生観の違いに着目するとか、ポイントをしぼれば有益な論点はいくらでもあるはず。なのにそれをまったく行わない。ドキュメンタリー映画と銘打っているにもかかわらず、事実を検証しようともせず反日イメージ映像を羅列することに一体何の意義があるのでしょうか?

派手にニュース報道されたため、靖国神社にほとんど関心のない人であっても、この映画は観てみたいと思うかもしれません。ただ鑑賞前に必ず予習しておいてください。事実の検証すらしようとしない、一方的な反日イメージ映像の洪水に洗脳されてほしくないからです。靖国関係の書物、できれば肯定派、否定派双方に目を通してからご覧になることを強くお勧めします。
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靖国 YASUKUNI@映画生活


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2017.03.28 Tuesday | 23:37 | - | - | - |

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