映画のメモ帳+α

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ブレス

ブレス(2007 韓国)

「ブレス」公式サイトにリンク原題   숨
英語題  BREATH  
監督   キム・ギドク 
脚本   キム・ギドク    
撮影   ソン・ジョンム                  
音楽   キム・ミョンジョン               
出演   チャン・チェン パク・チア
      ハ・ジョンウ カン・イニョン

ブレス』は、2004年にベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭の両方で監督賞を受賞し、3大映画祭制覇にもっとも近い男といわれる韓国の鬼才、キム・ギドク監督14作目の作品です。『ブレス』というタイトルの意味はおそらく、死刑執行が差し迫った主人公の残りの呼吸時間という意味だと思われます。ギドクにしては毒が薄いとか、ミュージカル風の味付けがあるという前評判のもと期待と不安が入り混じっての鑑賞でしたが、なあ〜に、(いい意味で)いつものギドク・ワールド全開の作品でした。




死刑囚チャン・ジンを演じるのは台湾のスター俳優、チャン・チェン。ギドクが韓国人以外の俳優を主演に迎えるのははじめてのことです。まあ、ギドク作品の主人公は”口がきけない設定”になっていることが多いので、母国の俳優を使う必要はないですからね〜。次回作『悲夢(びもん)』はオダギリ・ジョー主演であることは日本のファンの方は当然ご存知でしょう。死刑囚に恋する女ヨンを演じたのは『コースト・ガード』(2001)でイカレ女を演じたパク・チア。『春夏秋冬そして春』(2003)にも出演しています。いっぽうヨンの夫の浮気男を演じるのはハ・ジョンウ。『絶対の愛』(2006)に続いてのギドク作品出演になります。ハ・ジョンウは、ギドク・ワールドで普通の男を演じる役目を担ってしまったのでしょうか?ギドク映画の中では、普通はかえって異常に見えるので損な役割ですな〜(笑)。演技が一番光っていたのは、死刑囚チャン・ジンに思いを寄せる同部屋の若い囚人を演じたカン・イニョン。この映画の中では一番わかりやすい役だからかもしれません。チャン・ジンの顔をなでてみたり、ことあるごとに彼に迫りますが、とことん邪険にされる。かまってもらいたいばかりにチャン・ジンからヨンの写真を取り上げてみたりする。まるで好きな女の子にわざといたずらをするクソガキのようでございます。

世の中には死刑囚マニアという人種がいるらしいです。この人を理解できるのは私だけ、という勝手な思い込みで死刑囚に面会にいき、つかのまの擬似恋愛を楽しむ。『ブレス』はまさに"死刑囚マニア"の話です。人気のない郊外に住む主婦。夫は浮気中。自分の孤独感を投影するかのように死刑囚チャン・ジンにひかれていくヨン。過去の恋人であるといつわり、面会を申し出る。一度は断られるものの、この女を面白く思った?保安課長が面会を許可する。保安課長をこの映画の監督であるキム・ギドクが演じているところがみそ。孤独な魂のふれあいなど他人から見ればのぞき見の対象、映画のネタでしかないよ、というアイロニーにあふれています。映画の本当の主題はもしかすると監視カメラが映し出す映像なのかもしれません。

チャン・ジンに面会したヨンは、愛を語るどころか自分が昔死に損なった話をえんえんとします。要は自分の話に終始している。性懲りもなくヨンは再び面会におどづれる。ここからがフツーでなくなる。いわばキム・ギドクワールドが展開されていきます。ヨンはチャン・ジンに対して、何と四季をプレゼントしようとするのです。春や夏を感じさせる壁紙をはり、季節を感じさせる歌を歌う。このけなげさにチャン・ジンならずとも感動する...はずがない。ただのイカレポンチ女にしかみえません。ストレスたまってカラオケのマイクを離さないオバハンと何ら変わりがない。チャン・ジンは最初戸惑いながらもやがて微笑ましく思うようになる...はずがない。久しぶりにオンナを見て欲望に取り付かれただけなのであります。

ついにチャン・ジンの前で冬が演じられることがないというところがみそ。
チャン・ジンは死刑執行が決まり、長すぎた人生の冬に幕を閉じます。一方ヨンは...。
擬似恋愛を楽しんだだけです。彼女はまた別の死刑囚にも手を出すでしょう。

この映画を愛の物語とか、孤独な魂のふれあいなどと解釈するのはかなり無理があります。前述のとおり監視カメラで映し出される視線がこの映画を象徴しています。テレビで死刑囚が自殺を図った報道をするマスコミも、覗き見を楽しみテレビドラマのようにいいところで時間切れにする保安課長、そして死刑囚に勝手に感情移入して擬似恋愛を楽しむヨン...みな同じ穴のムジナです。他人の不幸を娯楽としてもてあそぶ視点がこの映画のテーマでしょう。この映画では人間など描かれていません。多くのギドク作品同様人間の衝動だけがむき出しで提示されます。これを難しい言葉を当て込み、無理やり"説明できるもの"に解釈するのはナンセンスです。

シチュエーション的には『うつせみ』(2004)や『春夏秋冬そして春』をほうふつさせるのですが、主題はまったく異なります。キム・ギドクがこんな醒めきった作品を撮ったことにやや戸惑いを感じますが、ギドクが新たな方向を模索していることは十分に感じ取れます。『ブレス』は長い目で見ればキム・ギドクのターニング・ポイントと呼ばれる作品になるかもしれません。
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ブレス@映画生活



2008.07.08 Tuesday | 02:22 | キム・ギドク | comments(2) | trackbacks(2) |

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2017.12.10 Sunday | 02:22 | - | - | - |

コメント

こんばんは♪お久しぶりです!
お元気でしらっしゃいますか?

この記事、すごく読み応えがあるものでした。
うん、moviepadさんならではだわw
なんだかこの女性にとっては、まるで自分自身のように思えたのかなって思います。
話しかける言葉も、まさに独り言のようでしたね。
2008/07/19 6:09 PM by とらねこ
とらねこさん、お久しぶりです!

『カポーティ』の記事を書いていたときに、
世の中に死刑囚マニアという人たちがいることを知り驚きました。
「この人をわかってあげられるのは私だけ」と勝手に思い込み
感情移入するんだそうです。
結局は自己愛の裏返しですよね。

途中までは素直に"孤独な魂のふれあい"の物語だと思って見ていたんですが、
独房とは別の場所で歌われる"冬の歌"を聞いて
なんじゃこれは?と...。
不可解な最後のキスシーンとあいまって
これは死刑囚マニアの話に違いないと確信しました。(笑)
2008/07/20 1:53 AM by moviepad

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80●ブレス
キム・ギドクの映画は、そこにしかない魅力と吸引力があって、私にとっては、もはや理屈じゃなくなってしまっている。どこをどう感動したのか、どこに涙腺が緩んだのか、そんな説明は正直あまり意味があるとも思えなくて、「とにかく見れば分かる」としか言いようがない
(レザボアCATs 2008/07/19 6:11 PM)
ブレス 今回のキム・キドクのラブワールドは天国と地獄・・・・・。
二人のブレスが交わったら・・・・・?!   8月23日上映開始になった大好きなキム・キドクの最新作「ブレス」を鑑賞。「闇の子供たち」で、京都シネマは大入り満員。この作品は、そんなに多くないので、ゆったりと鑑賞できて良かった。   キム・キドク
(銅版画制作の日々 2008/08/29 11:41 PM)

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