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受取人不明

受取人不明(2001 韓国)

「受取人不明」ポスター英題   Address Unknown   
監督   キム・ギドク
脚本   キム・ギドク      
撮影   ソ・ジョンミン                  
音楽   パク・ホジュン               
出演   ヤン・ドングン パン・ミンジョン
      キム・ヨンミン チョ・ジェヒョン
      パン・ウンジン ミョン・ゲナム

「この世はどうしたって変わらない。自分が映画を通して描きたいものは社会問題や政治ではなく、心理的な開放感」と語っているキム・ギドク監督。確かにギドク作品には『魚と寝る女』(2000)や『春夏秋冬 そして春』(2003)、『』(2005)など、まるで世俗との関わり方を絶つかのような場面設定も多い。そんなギドクが1970年代、米軍基地と隣接した田舎村を舞台にして、裏韓国現代史ともいえる物語を綴ったのが『受取人不明』。内容は70%事実に基づいているらしいが、皮肉なことにギドク作品中、最も痛ましい仕上がりとなっている。

物語は主として下記の3人を軸に展開していく。

・西洋人相手の娼婦だった母親(パン・ウンジン)と米国黒人兵とのあいだに生まれた混血児チャンググ(ヤン・ドングン)。犬商人(チョ・ジェヒョン)の仕事の手伝いをしながら村の入り口にある真っ赤なバスの中で暮らしている。他人から「混血児」と呼ばれるたび怒りをあらわにし、村人に英語で話しかける母親を足蹴りにする気性の激しい性格。

・幼い時,兄が射ったおもちゃ銃に当たって右目をなくしたウノク(パン・ミンジョン)。いつも右目を髪で隠して歩いている。いつの日か米軍病院で目の治療を受けるため、英語の勉強に励む。

・ウノクに恋をする少年ジフム(キム・ヨンミン)。夜、こっそり彼女の部屋をのぞくことを楽しみにしている。気弱な性格でよくいじめにあるがジフムに助けられることが多い。父親は朝鮮戦争時代の勲章がまだもらえないことに異様なこだわりをしめしている。

タイトルの「受取人不明」とはチャングクの母親が書き続けている手紙に由来している。
彼女は、アメリカに帰ってしまった夫にむけて20年ものあいだ手紙を送り続けている。
いつか夫が自分と息子を迎えに来てくれると信じながら...。
だが、手紙はいつも受取人不明(Unknown Address)という真っ赤なスタンプが押され舞い戻ってくるばかりだった。

チャングクは度々母親に暴力を奮っていたが、ついに母親の胸元にナイフをつきつけた。ギドク映画特有のエキセントリックな描写ではあるが、さすがにこの行動は理解を超えるものがあった。ギドクによると下記のような意味合いらしい。

「朝鮮戦争終結後韓国の女性と恋愛関係になった米軍兵が、その証として女性の身体に名前の刺青を残す習慣がありました。米兵との混血児として生まれた者たちは、自分の母親に残っている刺青を屈辱的に感じることが多々あるのです。本作でのチャングクは、母親の胸に残された米兵名の刺青を見る度に、当時のことを想像してしまう。全く返事の来ない夫を待ち、意味のない時間を費やすことから母親を解放するために、唯一彼にして上げられたのが、自らの手で刺青をけずることだったのです。」
引用元

ただこのタイトル、「受取人不明」の人たちという意味もあると思われる。
ギドクも「主人公の3人が70年代に生まれながら、受け入れてもらえない存在だったこともこめている」と述べている。チャングク、ウノク、ジフムの3人だけでなく、近所づきあいもせず赤いバスの中で暮らすチャングクの母親、そして”眼の手術をさせてやった代償”としてウノクに交際を迫る米軍兵ジェームズ(ミッチー・マローム)も含まれる。希望の持てない将来への不安をそらすようにチャンググはジフムに、ジフムはウノクに共感をこめて優しく接する。どんなに暴力をふるわれても母親はチャンググをかばい、彼をなぐる犬商人をなじる。ウノクはジフムと付き合いたいが、恩のあるジェームズを拒めない。
世の中から受け入れてもらえない者たちははいずれも悲劇的な結末を迎える。最後、ようやく「受取人不明」の印が押されていない手紙が届くという結末はあまりにも苦い。

日本でも沖縄米軍兵による事件があとをたたないが、このような映画がつくられることはまずないだろう。キム・ギドクだからこのテーマを映画にすることができた。ただ彼の映画が韓国では客が入らないため、公開しても影響なし、下手に口を出して話題をつくることもあるまい、と韓国当局が判断したのかもしれないが...。

観客の心に弓を何本も突き刺してくるような映画だ。
赤いバスの色は血で染められたようにさえ見えてくる。
とにかく数あるギドク映画の中でもダントツにきつい作品。
心の問題だけでなく、社会とか政治の要素が加わるとここまで救いがなくなるものなのか?
キム・ギドク監督6作めにあたる、この『受取人不明』に関しては他のギドク映画で十分免疫をつけた後に観るのが懸命であろう。
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受取人不明@映画生活

2008.05.19 Monday | 00:16 | キム・ギドク | comments(0) | trackbacks(1) |

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2017.08.15 Tuesday | 00:16 | - | - | - |

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『受取人不明』
人にはお薦めできない映画をこっそり観る。キム・キドク監督の映画は、映画鑑賞が趣味と公言する女性にお薦めするのはためらうが、実は映画好きだったというマニアックな方にはお薦め。 1970年代、韓国の米軍基地に隣接したとある田舎。 登場人物その1:村のはず
(千の天使がバスケットボールする 2008/11/26 10:06 PM)

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