映画のメモ帳+α

ミュージカル映画などの音楽系、アカデミー賞関連の記事に力を入れています。
ゾンビ、スタートレック、ヒッチコック監督作、ドキュメンタリー映画のカテゴリーもあり。
※TB、コメントともに承認制とさせていただいております

<< 悪い女 〜青い門〜 | TOP | 受取人不明 >>

魚と寝る女

魚と寝る女(2000 韓国)

「魚と寝る女」映画チラシ英題   The Isle   
監督   キム・ギドク   
脚本   キム・ギドク      
撮影   ファン・ソシク                  
音楽   ジョン・サンユン               
出演   キム・ユソク ソ・ジョン
      パク・ソンヒ ソン・ミンソク
      チョ・ジェヒョン チャン・ハンソン

魚と寝る女』はキム・ギドク監督、記念すべき日本初公開作品である。第17回サンダンス国際映画祭 ワールド シネマ部門のオープニング上映作品に選ばれるなど世界15以上の映画祭に招待された。ネットパック賞を受賞した第57回 (2000年) ベネチア国際映画祭では内容の過激さに観客2名が失神したことも話題となった。母国韓国では相変わらずの酷評だったものの、鬼才キム・ギドクの名を世界に轟かせた出世作である。

まるで世の中から隔離されたような雰囲気が漂う『島』という名の釣り場。管理人ヒジン(ソ・ジュン)はもう10年もボートハウスで暮らしている。釣り客を水上に浮かぶ小屋舟にボートで運ぶのが彼女の主な仕事。夜にはコーヒーのほか釣り客に体を売ることもある。生きる意欲を無くしているがごとく全く口を利かない。

体を売った後、その代金を水の中に投げ込まれ、それを拾い上げる。日ごろ待機している小屋に戻って濡れた札に黙ってアイロンをかけるヒジン。ぞくりとする孤独描写だ。

ある日、ヒョンシク(キム・ユソク)という男が釣り場にやってくる。彼は元警官で、浮気した恋人を殺してしまい、自ら死に場所を求めてここにやってきた。だがなかなか思い切ることができず時はすぎていった。ヒジンはそんなヒョンシクに自分と同じものを感じ、彼に接近していく。

ヒョンシクは針金細工をつくるような男だった。ギドク作品には肖像画など必ずといっていいほど美術に関連するものが出てくる。この映画に出てくる自転車の針金細工は実にかわいい。たぶんギドクが作ったものだろう。

ヒョンシクはヒジンの身体を求めるが、ヒジンは拒む。
この場面はロングショットで撮られており、妙に醒めた質感を漂わせているのが印象的だ。
他の客の”要求”にはあっさり応じるのに、なぜヒョンシクだけは拒むのか?
ヒジンがヒョンシクに特別な感情を抱いているからに他ならない。

その腹いせにヒョンシクは娼婦ウンア(パク・ソンヒ)を買う。
ヒョンシクが常駐している”黄色い家”のトイレのふたをあけ、二人のセックスを覗くヒジンの眼は嫉妬に満ち溢れていた。

ある日、ヒョンシクとは別件で手配中の犯人を追って、刑事が小屋舟に訊問にやってきた。ヒョンシクはとうとう覚悟を決め、釣針の束を飲み込み、自殺をはかる。ヒジンは彼を警察から守り、釣針をひとつひとつ抜く。そしてヒジンはヒョンシクの股間にまたがり彼を生き還らせる。

娼婦ウンアはヒョンシクの優しさにほれ、再びボートハウスにやってくる。
ヒジンはウンアを”紫の家”に監禁する。脱出を試みたウンアは水中に転落してしまう。ヒジンはウンアの乗っていたバイクも水中に沈める。戻らないウンアに怒り、売春斡旋をしているマンチ(チョ・ジェヒョン)がヒョンシクのところに殴りこみにきた。ヒジンはマンチも水の中に引きずり落としてしまう。ヒジンのあまりの執着ぶりに恐れをなしたヒョンシクは逃げ出そうとするが、ヒジンが自殺未遂を起こし...。
この”自殺方法”は当時韓国で公開中だった『愛のコリーダ』(1976)と比較されて物議を呼び、フェミニストからは攻撃の対象となった。

金持ちの中年客(ジャン・ハンソン)が高価な時計を落としたため、ダイバーに拾わせることとなる。
バイクが拾い上げられ、死体が浮かび上がるのは時間の問題だ。ヒジンは小屋舟にエンジンを取り付け、ヒョンシクと共にボートハウスを逃げ出すが...。

男を釣りあげる、という表現はこの映画を観たら使えなくなるだろう。
釣針の使われ方が強烈な印象を残す作品である。
邦題の『魚と寝る女』は意味不明。残念ながら?そんな場面は出てきません(笑)。
ただ、この邦題が観客を”釣る”ためのタイトルではなく、"魚と一緒に寝る、としか言い表せぬほど孤独な女"という意味でつけられたのであれば、すごい比喩だと思う。

体半分をそがれて、水に舞い戻っていく魚の場面がある。
この姿にヒョンシクが自分の姿を重ねていく。
まさにヒョンシクはヒジンの囚われの身であり、魂を半分抜き取られている状態。

水面下に漂う魚、女、バイク...。
ヒジンは水面下にもぐりこみ、ヒョンシクのセックスをのぞいたり、目障りな奴を引きづり落とたり...。
水面と水面下の間にはまるでヒジンの孤独な魂のように霧がさまよう。
ヒジンの心はずっとこの水面下のなかを泳いでいるような状態だった。
彼女の心が少し水面上に顔を出しかけたとたん、破滅の運命が待ち受けていた...。
ラスト場面は美しくも痛ましい。絵画のような映像はアレクサンドル・ソクーロフ監督の『マザー、サン』(1997)のワンシーンを思い出させる。

ギドク映画未見の人に一番はじめに鑑賞するのを勧める作品として無難なのは『うつせみ』(2004)だ。もっともマイルドな仕上がりで筆者もこの作品が一番好きである。ただ、気にいったなら全作観たいと考える、マニア体質の人にはこの『魚と寝る女』がお勧めだ。キム・ギドク監督4作目。ギドク・ワールドが濃縮された作品である。『魚と寝る女』はギドク作品が自分の好みに合うかどうかを計るリトマス紙のような映画だ。この作品がだめなら他も厳しいだろう。

愛するがゆえの憎悪、痛みといった作品テーマは『悪い男』(2001)、まるで世間から隔離されたような水の上に浮かんだ住居、というシチュエーションは後の『春夏秋冬 そして春』(2003)、『』(2005)、主人公がほとんどしゃべらないという設定は『悪い男』(2001)、『うつせみ』(2004)、『弓』、娼婦まがいの女性が出てくるという点では『ワイルド・アニマル』、『悪い女 〜青い門〜』(1998)、愛するがゆえの憎悪、痛みなどは『サマリア』(2004)、『リアル・フィクション』(2000)などギドクが映画を通じて描きつづけている主題は当然この『魚と寝る女』でもメイン・テーマとなっている。

肖像画や盗聴は出てこないものの、ギドク映画のエッセンスがぎっしり詰まったこの作品。ギドクの出世作でもあり、代表作のひとつでもある。この映画を観ずしてキム・ギドクを語ることは不可能だろう。
人気blogランキングこの記事が参考になりましたら左のバナーにクリックお願いします!

魚と寝る女@映画生活

2008.05.16 Friday | 23:34 | キム・ギドク | comments(0) | trackbacks(0) |

スポンサーサイト


2014.10.25 Saturday | 23:34 | - | - | - |

コメント

コメントする









この記事のトラックバックURL

http://moviepad.jugem.jp/trackback/203

トラックバック

▲top