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ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(2007 アメリカ)

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」公式サイトにリンク原題   THERE WILL BE BLOOD  
監督   ポール・トーマス・アンダーソン  
原作   アプトン・シンクレア 『石油!』   
脚色   ポール・トーマス・アンダーソン      
撮影   ロバート・エルスウィット                  
音楽   ジョニー・グリーンウッド               
出演   ダニエル・デイ=ルイス ポール・ダノ
      ケヴィン・J・オコナー キアラン・ハインズ

第80回(2007年)アカデミー賞 主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス)、撮影賞受賞。作品、監督、脚色、美術、編集、音響効果賞ノミネート

“I’m just living out the American dream. And I just realized that nothing is what it seems.”
私はアメリカン・ドリームを実現してきた。それでやっと気づいたことがある。アメリカン・ドリームとは見かけとは違うことを – マドンナの『アメリカン・ライフ』という曲の1フレーズである。その"見かけとは違うアメリカン・ドリーム"を物語として綴ったのが映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』である。監督はPTAの愛称で映画ファンから人気の高いポール・トーマス・アンダーソン。20世紀初頭の石油王を通してアメリカン・ドリームが崩れ落ちる姿を描き、全米で公開されるやいなや『市民ケーン』(1941)に匹敵する名作と絶賛を浴びた作品だ。

時は1898年、ダニエル・プレインヴュー(ダニエル・デイ=ルイス)は一攫千金を夢見て石油の採掘を行っていた。やがて彼はカリフォルニアで最も成功した石油屋として名を成し始める。採掘時、作業員のひとりが事故で亡くなってしまう。ダニエルは彼の遺児を引きとり、自分の息子として育てる。遺児はH.Wと名づけられ、将来の仕事上のパートナーにすることを念頭に置いていた。赤い血(血縁)ではなく黒い血(石油)で結ばれた父子関係の誕生である。息子を連れ歩くことにより、周囲に対して同情心をもたせる狙いもあった。

ある日、ダニエルのもとにポール(ポール・ダノ)という青年が現れる。自分の家の近くに石油がある、といって売り込みにきたのだ。ダニエルはH.W(ディロン・フレイジャー)を連れて調査に出かけ、ポールのいうとおりそこに石油が眠っていることを確認する。ダニエルは石油の存在を告げることなく、その家を買い取ろうとするが、ポールの双子の兄弟である牧師イーライはそのことに気づき、"教会の創設費用"と称して1万ドルを要求する。ダニエルは5000ドルを前払いし、残り5000ドルは教会に寄付することを約束させられる。ダニエルは油を掘り当てていくが、彼の油井やぐらに火災事故が起こり、息子の耳が聞こえなくなってしまう。そんなことは露知らず、イーライはダニエルに早く残り5000ドルを寄付しろと要求しに来る。「なら息子の耳を元に戻せ」とダニエルはイーライを殴りつける。この油意やぐらの火災シーンはじっくりと撮られている。燃え上がる炎がこれから起こる出来事の前兆であるかのように。

いうまでもなくアメリカ人はアメリカン・ドリームが大好きである。この夢とは”大金持になること”だ。金のあるところに人は集まる。おこぼれを分けてもらうためだ。ダニエルのところにも当然その手の胡散臭い人物がすりよってくる。“弟”と称するヘンリー(ケヴィン・J・オコナー)だ。
ヘンリーは「何をやっても失敗した。今はもうどうでもいい」と自分の将来を悲観する。
もちろん、今はどうでもいい、の後には”せめて少し金をわけてほしい”という言葉が隠されている。ダニエルはヘンリーに自分が人間嫌いであることを話し、「いっぱい金を稼いで人から遠ざかりたい」と語る。もしこの言葉が本音ならば、その"夢"が実現できるチャンスがあった。
大企業からのオファーをけり、ひたすらマネー・ゲームを突っ走るダニエル。
人からは遠ざかりたくても、金からは遠ざかりたくないのだ。金は彼を裏切らない。
また息子の育て方について口をはさまれ、ダニエルは激怒する。人が嫌いなのは、人に指図されたくないからだ。ダニエルが絶えず相手を威嚇するような大声で話すのも人を遠ざけたいからかもしれない。

時には妥協しなければいけないこともある。ある男に秘密を握られ、彼はイーライが牧師をつとめる宗派のメンバーにさせられる。自分の罪を懺悔させられるダニエル。その懺悔を聞くうちにイーライは興奮し、ダニエルを殴りつける。いつの日かの仕返しとばかりに。ダニエルとイーライは3度対決する。石油屋と牧師。まったく正反対の立場だが、共通点がある。彼らにとって本当の神とは”金”なのだ。それをひた隠しにしているか前面に押し出しているかの違いがあるだけである。結局、イーライは「私は偽預言者です。神とは迷信にすぎない」とダニエルに言わせられることになる。

この映画のタイトルは” There Will Be Blood”だが、Blood=血とは欲望の象徴であろう。アメリカン・ドリームの奥底には、金への欲望という血が流れている。その血もいつか他のものに受け継がれる運命となる。アメリカ人は、アメリカン・ドリームが大好きだが、それが崩れ落ちるのを見るのも同じくらい好きなのだ。それではじめて物語が完結するといわんばかりなのである。

金は目的ではない。夢を実現する手段にすぎない。それを理解している人物もこの映画には登場するが、夢は金に換算され、気がついたときには夢は遠ざかる。

ダニエル・デイ=ルイスは迫真の演技をもってアメリカン・ドリームの盛衰を体現した。
ラストの一言は強烈な余韻を残す。映画史に残る台詞だ。時代設定は1898年から1927年までの30年だが、これを50年後に置き換えても、100年後であっても同じ物語は成立するであろう。
アメリカン・ドリームの物語原型ともいえる見事な作品である。
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ゼア・ウィル・ビー・ブラッド@映画生活

2008.05.04 Sunday | 00:30 | 映画 | comments(4) | trackbacks(10) |

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2019.09.05 Thursday | 00:30 | - | - | - |

コメント

こんにちは。

ラストのセリフは強烈でしたね。

ぼくはこの映画を、石油、パイプラインという点から
アメリカの現代史とダブらせていましたが、
そこに、宗教のファクターを加えると、
もう、これは見事に2008年の今と繋がってきます。この監督、若いのに末恐ろしい。
アルトマンの後継者と言われるのも分かる気がします。
2008/05/04 1:02 PM by えい
えいさん、こんにちわ。
この物語は今のアメリカと完全にシンクロしますね。
ラストの台詞ですが、アメリカン・ドリーム街道を突っ走ってきた人にとってはこの言葉を吐くような心境になるまで立ち止まることはできないのだろうか、ということを考えてしまいました。

この映画はアルトマンに捧げられていました。
「今宵、フィッツジェラルド劇場で」の撮影にPTAがずっと立ち会っていたことは有名ですね。
アルトマン公認の後継者?
でも37歳の若さでこんなすごい作品撮ることができるんですから、そう遠くないうちに師匠を超えてしまいそうです。
2008/05/04 3:39 PM by moviepad
moviepadさん、こんにちは。
ご無沙汰いたしましたー。

>アメリカ人は、アメリカン・ドリームが大好きだが、それが崩れ落ちるのを見るのも同じくらい好きなのだ。

なるほど!そういうことなんですね。

個人的には、ポップでユーモラスなPTA世界が大好きなのですが、本作の完成度、パワーアップにはファンとして嬉しいものがありました。
2008/05/09 10:56 PM by かえる
かえるさん、お久しぶりです!

『市民ケーン』が高い評価を受けているのは
大物が堕ちていく様子がよく描かれているからだと思います。

アメリカ人はアメリカン・ドリームが大好きで、それを実現した人が堕ちていくのを見るのも好き。
その後"復活"が加われば物語としては完璧です。(笑)

少し話はそれますが、マライア・キャリーが"アメリカでのみ"人気が復活しているのは
この条件をすべて兼ね備えているから。

これは他の国の人達でもいえることですが、
アメリカ人は特にその傾向が強いような気がします。

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』は
アメリカン・ドリームが、夢の実現だけでは終われないことが
よ〜く描かれている作品だと思います。
2008/05/10 12:16 AM by moviepad

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映画レビュー「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
◆プチレビュー◆ダニエル・デイ=ルイスがド迫力の怪演。石油という権力を追い怪物になった男を描く暗い力作。 【90点】  石油ブームに沸く20世紀初頭のカリフォルニア。一攫千金を狙うプレインビューは、幼い息子を連れて採掘を行いながら土地を安く買い占めてい
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『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』
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