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ジプシー・キャラバン

ジプシー・キャラバン(2006 アメリカ)

「ジプシー・キャラバン」公式サイトにリンク原題   WHEN THE ROAD BENDS: TALES OF A GYPSY CARAVAN  
監督   ジャスミン・デラル 
撮影   アルバート・メイズルス アラン・ドゥ・アルー             
出演   タラフ・ドゥ・ハイドゥークス エスマ
      ファンファーラ・チョクルリーア マハラジャ
      アントニオ・エル・ピパ・フラメンコ・アンサンブル
      ジョニー・デップ

10世紀ごろ、インドに起源をもつといわれている”国を持たない” 民族ロマ。ジプシーと呼ばれ、差別と迫害を受け続けています。それでも彼らは、音楽や踊りを大切にして力強く生き続けている。そんなロマの人々の姿が実に魅力的に描かれているのが、ドキュメンタリー映画『ジプシー・キャラバン』です。スペイン、ルーマニア、マケドニア、インドという4つの国、5つのバンドが6週間にわたって北米諸都市を巡った“ジプシー・キャラバン・ツアー”の様子を中心に、参加メンバーたちの故郷の映像なども織り交ぜ、ジャズ、クラシックなどあらゆる音楽に根付いているといわれるジプシー音楽のルーツに迫った作品です。

映し出されるツアー会場の盛り上がり、熱気はすごいものがあります。
普通のコンサートでよく見かける"半強制的に盛り上げさせる"という雰囲気ではなく、自然に会場が湧き上がっている。そんな感じなんですね。このツアーの目的は「ロマに対する理解を深め、ロマの間に一体感をもたらす」ことだといいますが、コンサート場面の映像を見ると目的はある程度達せられたように思います。

監督のジェスミン・デラルは1990年初頭にある1冊の本を読んだことをきっかけに『アメリカン・ジプシー』(2000)という映画を撮りました。ロマの一家がアメリカで市民権を獲得するまでの軌跡を描いた作品で、このことを知った主催者のワールド・ミュージック・インスティチュートがデラルに"ジプシー・キャラバン・ツアー"の撮影を依頼しました。デラルは、"初めて聴いたのに、故郷に帰ってきたような懐かしさがある。踊ることも泣くこともできる。さまざまな受け止め方ができる音楽だ"と感じ、ロマの人々が奏でる音楽に没頭していったそうです。



アントニオ・エル・ピパ・フラメンコ・アンサンブル(スペイン)、タラフ・ドゥ・ハイドゥークス(ルーマニア)、ファンファーレ・チォクルリーア(ルーマニア)、マハラジャ(インド)、エスマ(マケドニア)…まさにジプシー音楽を代表するアーティストたちが一同に会したツアー。独自の世界をもつアーティスト同士ですから当然衝突もあります。
「この曲はローマ人は知っていてもスペイン人は知らない」
「知らないのなら歌って知らしめればいいのよ」
コンサートのフィナーレの演出についてのこんな会話を聞くと、ロマがいかに世界中に散らばっているか、ということを再確認させてくれます。



とはいえ、映像からはまるでファミリーのような一体感が醸し出されていて、それぞれ個別の演奏場面を見ていても、違う国のアーティストを見ている気がしない。ロマの音楽は、移動によってその土地の音楽を吸収しながら独自のものを作り上げていったといいますが、彼らの歌、踊りには根底に同じ血が流れていることがよく伝わってきます。
全員ツアーバスに乗り込んで移動する。その最中、ある時はロマについて語り合い、ある時は即興演奏会に早変わりする。彼らの故郷の家も映し出されますが、ハリウッド・スターのようにプール付きの豪邸などではもちろんなく、いわゆる普通の家です。ジプシー音楽がいかに生活に根ざしているものであるかがわかります。

参加ミュージシャンの中で、ひときわ大きな存在感を示しているのはマケドニアのエスマです。
「いいえ、ガジョ(非ロマ)に合せたりしません。だから私は1976年、ジプシー・クイーンの称号を捧げられたのです。」
マスコミからのインタビューと思われるものに、マネージャー?を通してこう答えるエスマの姿が映し出されます。4歳から歌い始め45年以上のキャリアをもつ大ベテラン。非ロマと結婚したのも彼女がはじめて。夫はマケドニア音楽界の巨匠であった作曲家ステヴォ・テオドシエフスキーで、エスマと結婚した当初は「マケドニアにはロマしかいないのか」という罵声を浴びたといいます。ステヴォはもう亡くなっていますが,「彼はロマじゃなかったけど、ロマの心を持った人だった」とエスマはしみじみ語ります。
エスマはロマであることを隠さず、ユーゴスラビアでヒット曲を出した。
「今のロマがあるのは、エスマのおかげ。ロマであることを恥じなくなった」と彼女を称えるコメントも紹介されています。その歌声は力強さと哀しみにあふれて聞き手の心を揺さぶります。自分に子供が出来ないことがわかってから、47人もの身寄りのない子供を引き取り育てていることにも驚かされました。この映画のメッセージの象徴みたいな人です。天童よしみみたいなオバハンだ〜とぼーと見てちゃいけませんよ(笑)



「ロマの肌はなぜ浅黒いの?」という質問に「私たちは太陽のふりそそぐ国から生まれてきた。だから黒いのよ」と答える場面が映画に登場します。ヨーロッパ各地に住んでいるロマのルーツについて言葉や身体的特徴からインドあたりにいた人たちが何らかの理由でヨーロッパにやってきたという説が有力ですが、実体はよくわかっていないというのが真相のようです。移動した理由については"西に理想郷を求めた”と主張する人もいます。ロマの外見については、長い年月の間に混血も進んだため、金髪や白い肌のロマもいるけれども多くは漆黒の髪、浅黒い肌、目が大きく鼻が高い等インド人に似ている要素が多い。ちなみにこの映画に登場するマハラジャは、ロマがインドからやってきた流浪の民であるというイメージを逆に利用する形でインドからパリに進出して、成功を収めたバンドです。ロマがヨーロッパで歴史上の史料に登場するのは15世紀に入ってからだそうです。ロマは、中世ヨーロッパの封建領主制の中で、奴隷的存在として社会の底辺に組み込まれ各地で差別を受け続けていました。最もひどい扱いをしたのがナチスドイツ。ユダヤ人と同様にホロコーストの対象とされました。このことはジョニー・デップもコメントの中で触れていましたね。このナチのホロコーストによる被害者の数は今でも正確に把握されていません。記録すら残されていないのですから。1939年当時の全ヨーロッパのロマ人口は推定88万5000人、そのうち25万人から50万人が殺されたとする説もあるようです。ロマ語ではこのナチスによる大量虐殺のことを「ポライモス」(食らい尽くす、絶滅させる)と呼びます。

参照
ロマ − Wikipedia
世界の紛争地ジョーク集 (中公新書ラクレ)



ジプシーという言葉はひと昔前、流浪のイメージで日本でも流行歌の歌詞などによく使われました。
山口百恵の「謝肉祭」とか中森明菜の「ジプシー・クイーン」(エスマとは関係ありませんのでご注意)など大物歌手の歌の歌詞にも出てきます。ただ、現在は定住しているロマも多い。かつ物乞い、盗人、麻薬売人の代名詞みたいな使い方をされることも多々あり、差別的表現であるとして現在ではあまり使われなくなっています。そのため彼ら自身の言葉(ロマニ)で”人間”を意味するロマという言葉を考え方がヨーロッパを中心に広まっていったそうです。ジプシーという言葉は日本のメディアではおそらく"自主規制”されていると思われます。もちろん歌の歌詞にも当分出てこないでしょう。

公演終了後、メンバーのひとりは「嫌われていないとわかったからうれしかった」と語ります。
「ロマはひたすら不当な扱いを受けてきた。どこにも戦争をしかけていないし、迫害などしていない。敬愛すべき民族なんだ」
映画の中でくりかえされるメッセージです。冒頭に「曲がりくねった道は、まっすぐには歩けない(You cannot walk straight when the road bends...)」というロマのことわざが紹介されています。差別され、迫害され、まっすぐ歩けない道。この映画『ジプシー・キャラバン』は曲がりくねった道をまっすぐ歩き続けた人たちの物語です。とてつもなく大きな悲しみを音楽で吹き飛ばしてしまうエネルギーが映像の隅々にまであふれています。

♪長い長い道のりを私は旅した
そして出会ったロマの輝くような顔を〜♪

エスマは力強く歌い上げます。
この歌詞こそがこの映画のテーマそのものでしょう。ロマの人たちが奏でるどこか懐かしく、そして力強い音楽とエネルギーをひたすら体感してほしい作品です。
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ジプシー・キャラバン@映画生活



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2018.09.16 Sunday | 00:09 | - | - | - |

コメント

moviepadさん、こんにちは。
まさに体感する映画ですよね〜。
エキサイティングな音楽の魅力はもちろんのこと、ひたむきに生きるミュージシャンの素顔にも胸が熱くなりますね。
中森明菜のジプシークィーンって単なる寂しいさまよう女のイメージでつけられた題なんでしょうか…。
差別、偏見、誤解がなくなるとよいなと思います。
2008/01/25 12:55 PM by かえる
かえるさん、こんばんわ!


>中森明菜のジプシークィーンって単なる寂しいさまよう女のイメージでつけられた題なんでしょうか…。

歌詞を読む限りそう思われますが...。
有名な曲なので例としてだしましたが
ジプシーを流浪のメタファーとして使う歌謡曲の歌詞は
(ひと昔前の曲なら)山ほどあると思いますよ。


ロマの人たちとその音楽から、
莫大なエネルギーとその裏にひそむ悲しみが同時に押し寄せてきて、
満腹弁当を食べておなかいっぱいって感じの映画でした!
2008/01/25 11:16 PM by moviepad
拙ブログには早々とトラコメいただっていたのにお邪魔するのが遅くなってしまってすみません。
この作品はもっともっとたくさんの人に見て欲しいなと思いました。
ロマの文化、音楽知れば知るほど彼らを好きになります。その国にも行って文字通り体感したいと思わせる力を持ってる。
かえるさんのようにね。
こんなに幸福で贅沢な2時間はないと思いました。堪能して満足感いっぱいですよね。
2008/01/27 8:22 PM by しゅぺる&こぼる
しゅべる&こぼるさん、こんばんわ

本当、多くの人に見てほしい作品ですね!

ジャスミン・デラル監督は
「音楽を楽しむだけでもいい。
でもロマとは何か、
生活者としてどう生きているかも見てほしい」
と語っています。
演奏シーンが思ったより短いのは
音楽だけに観客の興味が
集中しないようにするためかもしれませんね。

本当、多くの人に見てほしい作品です!
2008/01/27 10:33 PM by moviepad
こんにちは。
詳しく書かれてますね。いつも感心しちゃいます。記事を拝読させていただくと、細かいところを思い出してまた感動が蘇ります。
出来たら生演奏が聴きたいところです。昨年タラフの来日時に無理しても行っておけば良かったなぁと今更ながら思っていたり。。。
でも不思議とスクリーンからでも彼らの魂は感じることが出来るんですよね。
自分たちの音楽を誇りに思えるって、とても羨ましく思いました。
2008/01/31 3:59 PM by シャーロット
シャーロットさん、こんばんわ!

タラフは最近よく来日しているみたいですね。
一度聞きにいきたいですけど...
ちょっと厳しいかな。

音楽やその姿から彼らの感情・エネルギーがあふれていて、
パワーをいっぱいもらった映画です!
2008/01/31 7:46 PM by moviepad
こんばんは、moviepadさん。
>差別され、迫害され、まっすぐ歩けない道。この映画『ジプシー・キャラバン』は曲がりくねった道をまっすぐ歩き続けた人たちの物語です。
>とてつもなく大きな悲しみを音楽で吹き飛ばしてしまうエネルギーが映像の隅々にまであふれています。

この言葉、とっても素敵でした!!
この映画のthe road bendの部分にこめられたメッセージというものを、見事に捉えた記事で素晴らしいです。
2008/02/17 1:12 AM by とらねこ
とらねこさん、お早うございます。

彼らの音楽には裏に悲しみがはりついているからこそ、
嘘っぽさがなくいっそう心に迫ってくるんですよね。
喜びと悲しみが表裏一体のものであることがよくわかる。

ロマの人たちの体温を感じさせてくれる映画でした!
2008/02/17 11:08 AM by moviepad

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