映画のメモ帳+α

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FUCK

FUCK(2005 アメリカ)

「FUCK」公式サイトにリンク原題   FUCK   
監督   スティーヴ・アンダーソン   
撮影   アンドル・フォンタネッレ                  
音楽   カルヴィン・ノウルズ               
出演   アラニス・モリセット チャック・D アイス・T
      ハンター・S・トンプソン ケヴィン・スミス
      ロン・ジェレミー パット・ブーン
      ジャニーン・ガロファロー ビル・メイハー
      ビリー・コノリー スティーヴン・ボチコー
      ドリュー・ケリー デヴィッド・ミルチ
      (ドキュメンタリー映画)

英会話の本などをぼんやりと眺めていると、時折こんなコンテンツに出くわします。
“絶対に使ってはいけないおコトバ集” − これらの言葉を口にすれば、あなたは外国人から殴られるでしょう...いわゆる4文字言葉のご紹介がこの後続くというわけです。僕が目にした本ではご丁寧に袋とじになっていましたが(笑)。数ある4文字言葉の中での、究極の言葉がFUCK。今回ご紹介する映画『FUCK』は、ミュージシャンやコメディアン、言語学者など35名の人々へのインタビューや映像資料を交え、禁断の言葉FUCKを通してアメリカ合衆国憲法修正第1条に規定されている”言論の自由”について考察していこうという趣旨のドキュメンタリー映画です。

タイトルがずばり放送禁止用語であるため、アメリカのTVでは当然紹介されず、映画の看板も「FOUR LETTER WORD FILM」「4 LETTER WORD」「F?CK」「0000」…などバラエティあふれるタイトル。大手新聞でも映画のタイトルであるにもかかわらず、伏字で紹介するという奇妙な現象がおきました。例えば、NYタイムス、LAタイムスは"****”、ボストン・グローブは"F---”、オースティン・クロニクルは"F**K”といった具合です。LAタイムスは”印刷できない面白さ”と絶賛していますが...。なお、当ブログでもこの言葉を過去何回か使用しており、小心者の筆者は一部伏字で記してきました。今回はこの言葉そのものがテーマであり、伏字にしてしまっては映画紹介として成り立たなくなるため、そのものずばりFUCKと記載することにします。不快に思う方もその主旨をご理解いただければ、と思います。


※ Warning! 以下、全面的にネタバレしていますので未見の方は十分にご注意ください。

聖書には"初めに言葉ありき"とあります。かのシェイクスピア御大も"どんなに破廉恥な言葉でも観察と研究には意義がある"とのたまっておられます。さてアメリカでMAX破廉恥な言葉らしいFUCKとはどういう意味なのでしょう?こういう場合、英英辞書で調べたほうが簡潔でわかりやすかったりするのでコウビルド英英辞典をひいてみることにします。

Fuck is a rude and offensive word which you should avoid using.
1 Fuck is used to express anger or annoyance. (VERY RUDE)
2 To fuck someone means to have sex with them. (VERY RUDE)

・fuckとは失礼で無礼で攻撃的な言葉。使うのは避けたほうがよい。
・怒りやいら立ちの感情表現として使われる。
・誰かとfuckするとはセックスの意味で使われる。

何とわかりやすい表現なのでしょう。

肝心の映画の話にうつります。
ます最初に「慎みある表現を守る市民の会提供 商売のための下品」というタイトルのテレビ番組のような映像が流されます。この映画のためのフェイク映像かと思いきや1965年に実際に製作された『商売のための下品』(原題:Perversion for Profit)という映画の1シーンとか。あからさまな性描写は共産主義の陰謀で、アメリカの文明の滅亡につながると説くプロパガンダ映画で、司会は当時の人気TVニュースレポーター、ジョージ・パットナムだそうです。こういった風潮に嫌気がさした若者は"愛と平和と音楽の祭典”ウッドストック(1969)で"F"を叫んだりするわけですね(笑)。



最初のほうのインタビューを聞いているとFUCKとは"自分が使うときはスカっとするけど、他人に言われると不快極まる"という自己チューの塊のような言葉であることがよくわかります。

FUCKという語源はゲルマン語である"王の命による姦淫”(fornicate under command of the king)の頭文字をとったという説があるようですが、これはデタラメだと主張する人もいる。真相は今に至るまで謎のまま。どうでもいいことですけどね(笑)

文字での初登場は1475年。修道院を風刺する詩の中で出てきて、16世紀後半には辞書にも載ったそうです。もっとも『チャタレー夫人の恋人』や『ユリシーズ』はこの言葉の使用で発禁処分。'Fuck you'という記述のある『ライ麦畑でつかまえて』はしばらく禁書にされたとか。その言葉のある落書きを消そうとしたって話なのにね(^^;



50〜60年代に優等生のイメージで人気をはくした歌手パット・ブーンのコメントが笑えます。
「人を罵倒するときには(fuckではなくて)自分の名前を使う。boonだ!」...。
これ、この映画のためのリップ・サービスだとひそかに思っておりますが(笑)
もっともこのパット・ブーンさん。1997年に『In a Metal Mood: No More Mr. Nice Guy (邦題 メタルバカ一代)』と題したヘヴィ・メタルのカバー・アルバムを発表。ハードなレザーファッションで公の場に現れ、保守的なキリスト教徒からどヒンシュクを買った過去があります。ブーンの公式サイトではこのアルバムはディスコグラフィーから削除されてしまっているようです。



また”スポーツ編”と評したパートで、メジャー・リーグ、シカゴ・カブスのリー・エリア監督がFUCKだらけの言葉でファンを罵倒した言葉が紹介されている。これが面白い。この映画中、一番笑えるところです。エリア監督、よっぽどむかついていたんですね(笑)。

参考 Lee Elia Tirade - Chicago Cubs - 4/29/83
あくまで自己責任で聞いてください(笑)


その後、FUCKという言葉を使うことによって体制と戦い続けた2人のコメディアンが紹介されます。
まずはレニー・ブルース。9度の逮捕歴があり、ステージで卑猥語を発した罪で2度有罪になっている。1966年8月3日,薬物過剰摂取で死去。"言葉を刑務所に入れるな"と叫んだレニーがアメリカ文化に与えた影響は莫大で、彼ほど表現の自由に貢献した人はいないと評する人も多い。死後40年以上たった2003年、ロビン・ウイリアムズらの嘆願書により彼に対する有罪判決は恩赦扱いとなっています。いっそのこと彼の伝記映画を作ったほうが、映画のテーマがより伝わるのでは?と思っていたらすでにボブ・フォッシー監督、ダスティン・ホフマン主演で1975年にすでに製作されていたのですね(^^;



レニーの後を引き継いだのがジョージ・カーリン。絶対に使ってはいけない言葉として7語をあげたことはあまりにも有名です。彼がラジオ番組でいつものように"卑猥な言葉"をネタにしたところ、子供への影響を心配したある父親が、ラジオ局を運営するパシフィッカ財団を"FCC(連邦通信委員会)の規制に反する"として訴えました。そのときのニュース映像も映画に出てきます。
参考 Federal Communications Commission v. Pacifica Foundation(1978)

映画はスポーツ、戦争、音楽、映画、テレビと、文学いった題材からFUCKが使われているものを紹介、政治、戦争、宗教、正義、言論の自由、子供への影響、メイク・ラブ、戦争、宗教、正義、言論の自由といった側面、そして前述のFCCや保護者テレビ審議会といった団体にまでふれ、ありとあらゆる観点からFUCKという言葉を論じていきます。それぞれのパートはとても興味深く、時折挿入されるカルトアニメの巨匠ビル・プリンプトンのオリジナル・アニメなどはとても楽しいのですが、中盤あたりから正直言って飽きがきます。言葉についての考察はまさに書籍向きの題材であり、FUCKという言葉ひとつで90分の映像作品を作ること自体無理を感じざるを得ませんでした。ラスト近く、画面の下部でFUCKを使った熟語がこれでもか、とばかりに散りばめられるのですが、さすがにここまでFUCK攻撃をかけられると観ているほうもこの言葉に対して不感症になってしまいます。(笑)

2002年ブッシュ大統領が"Fuck Saddam, we're taking him out"といったことが戦士の士気高揚につながったなんて話を聞くとFUCKという言葉は(良くも悪くも)強いインパクトをもつ言葉なんだと再認識させられますが...。逆に反政府デモでよく見られる"fuck bush"というスローガンは、本当に怒っているんだそ!というニュアンスを強く感じますしね。また、映画ファンの方は「名作がリメイクされると、現代風アレンジと称して汚い言葉がやたら盛り込まれることが多い」という指摘にうなずくでしょう。

"ミス・お作法"で有名なコラムニストのジュディス・マーティン、保守派政治家のアラン・キーズ、ポルノ女優テラ・パトリック、コメディアンのビリー・コノリーなど多くの人をパーチャル対談させることにより、リベラルと保守の両方の意見が交互に述べられる形式となっています。ただこれが絶え間なく続くので、観客には考える”間”が与えられていないのが残念です。"もしFUCKという言葉を嫌う人がいなければFUCKという言葉は武器にはならない(インパクトをもたない)”という台詞が出てきますが、保守派は、お行儀の悪い人たちがいるからこそ存在意義があるわけだし、その逆もまさにしかり。この架空対談を観ていると、お互い持ちつ持たれつの関係だな、と感じます。敵が存在してくれていることが、ぶっちゃげていえばメシの種となっている。この映画で紹介されているFCC(連邦通信委員会)などは、公共テレビ放送で不適切な言葉を話してくれる人がいなくなってしまえば罰金が徴収できなくなり、財政的に苦しくなるのではないでしょうか?もし”FUCK”という言葉を使うことに対する感覚を突き詰めるのであれば、直接利害関係のない、一般市民を中心に取材をしたほうが有益な結果が出たのでは?と思ったりもします。

メディアで働いているアメリカ人ならこの映画は大いに参考になるのでしょうが、第3者には90分この題材に関心を持ち続けるのはやや難しいでしょう。言葉のもつニュアンスに人一倍関心がある人なら楽しめると思いますが...。実は自分もその中の一人だと思っていたのですが、どうも勝手が違ったようでございます(笑)

日本には放送禁止用語というものはないそうです。それがこの映画を余計なじみにくいものにしているのかもしれません。そのかわり、日本にはかなり幅広い範囲の"自主規制語"が存在するんですが。



ちなみに映画会社が日本の各放送局に、映画『FUCK』をTV放送することができるかというアンケートをしたところ、NHKは「放送できない」、民放各局は「放送できない可能性が高い」というご回答だったそうです。

最後に印象深かった台詞をひとつ。
法律が道徳によって決められるなら、一体誰の道徳を基準にするの?
映画ではこの後すぐジョージ・W・ブッシュの顔が映し出されるので「やめてくれー!」と叫びたくなるのですが(笑)。いわゆる"言葉狩り"よりも、全体的な内容で総合的に判断すべきだと思われる場合も多々あります。ただそれも一体誰の基準で...という問題が起こってしまう。
同じ言葉を耳にしても、気にしない人もいれば、傷ついてしまう人もいる。この辺りのバランス感覚をどう保つか?というのは、物事を表現しようとする人たちにとっては永遠のテーマなのでしょう。

スティーヴ・アンダーソン監督は「言論の自由というのは絶対的なものではなくて、常に議論し、語っていかなければ失われてしまう、いわば生き物のような存在なんです」とコメントしています。"言論の自由"についての論議を目にしたとき、この映画の中の台詞や1シーンを思い浮かべることも多々あるでしょう。言論の自由についての議論が活発に行われているうちはまだ"健全な表現社会"の範囲内なのかもしれません。ドキュメンタリー映画『FUCK』は、2度とお目にかかることはないだろう興味深い映画であります。TV放送される可能性はほとんどなさそうですし、DVD化の際には翻訳が思いっきり変わっているかもしれません(笑)。興味のある方は劇場でご覧になったほうがいいでしょう!ちなみにこの映画の中でFUCKという言葉は857回使用されており、アメリカのキーTV局で放送されれば2億6000万ドルの罰金が科されることになるそうです。
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2019.10.06 Sunday | 22:55 | - | - | - |

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F**K a documentary (FUCK)
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(表参道 high&low 2007/11/22 8:21 AM)

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