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第91回(2018年)アカデミー賞

第91回(2018年)アカデミー賞

第91回(2018年)アカデミー賞作品賞「グリーンブック」第91回アカデミー賞trivia
〜ストリーミング&外国語映画に作品賞はNo? 司会者不在の授賞式〜

2018月12月6日、アカデミー賞授賞式の司会者はコメディ俳優ケヴィン・ハートが務めると発表された。だがわずか48時間後にケヴィンは辞退を表明。2009〜2011年にかけてケヴィンが行った同性愛者を批判するツイートが掘り下げられ、炎上したことが原因。その後、2月4日、ノミニーランチョン(候補者たちの昼食会)でアカデミー会長が司会者不在で開催される旨を正式に認めた。司会者不在の授賞式は第61回(1988年)以来30年ぶりのこと。プレゼンターが登場するのみの構成になるという。ABCエンタテインメントのキャリー・バーク社長いわく「皮肉なことに、アカデミー賞の見通しが立たなかったおかげで、話題になり続けている。謎がみなさんの興味をかき立て続けている」アタマダイジョウブカシラ???と思ったが、授賞式テレビ視聴者数は2960万人。昨年の2650万人から11.5%増加した。司会者不在の授賞式は”進行が迅速になった"と予想外?の好評。全体の放送時間も(目標としていた3時間以内には収まらなかったものの)昨年の約4時間から40分ほど短縮、視聴率アップに一役買った。といっても昨年がひど過ぎただけで、今年の数字も歴代ワースト2なんですけどね。オープニングはクイーンのライブ。ボーカルにはTV番組「アメリカンアイドル」出身で、過去何度もクイーンと共演しているアダム・ランバートを迎えた。「ウィー・ウィル・ロック・ユー」、「伝説のチャンピオン」をメドレーで歌い、ラスト、フレディ・マーキュリーの動画がバックに映し出されると大きな歓声がわきあがった。クイーンの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』は監督の途中解雇や過去のスキャンダル、芳しくない批評を乗り越えて世界的大ヒットを記録。5ノミネートのうち、作品賞を除く4部門を制覇、最多受賞となり本年アカデミー賞の実質的主役となった。

視聴率アップの立役者!ハイライトはオープニングでした。


 助演女優賞、前哨戦トップは『ビール・ストリートの恋人たち』のレジーナ・キングだが、全米俳優組合賞、英国アカデミー賞でまさかの候補漏れ。『女王陛下のお気に入り』からはレイチェル・ワイズエマ・ストーンの2人が候補入りだが、2人とも受賞経験者であることがネック。なかでもエマ・ストーンは2年前に主演で受賞したばかりなので、13年前に受賞したレイチェル・ワイズのほうに分があるとみなされていた。
エイミー・アダムスは6度めのノミネートだが、今回も受賞できるほどの勢いがない。前哨戦でもほとんどが候補のみだったが、功労賞的受賞なるか?また、サプライズノミネートとなった『ROMA/ローマ』のマリーナ・デ・タビラも作品の勢いで受賞する可能性を指摘する声もあった。つまり、エマ・ストーン以外の4人に受賞可能性ありとみなされており、演技賞で最も予想が難しい部門であった。名前を呼ばれたのは"かつて大本命だった"レジーナ・キング。ステージにあがった彼女は「もっとも偉大なアーティストのひとり、ジェームズ・ボールドウィンの代理としてここに立っています。彼が生んだ子供をバリー・ジェンキンス監督が愛をもって育みました。だから私がここにいるのはおかしなことではありません。私の受賞は支えと愛を注がれれば良い結果が生まれるという見本なのです」と語り、母親と神に感謝してステージをあとにした。なかなか良いスピーチですね。ところで前哨戦で圧勝しながら、主要賞、とくにアカデミー賞と投票者層が重なる全米俳優組合賞、英国アカデミー賞で候補もれ...こういうことは時たまあるが、その場合、アカデミー賞でも候補漏れかノミネートはされても受賞には至らないというパターンが大半。結局、アカデミー賞はしっかり受賞するというケースは個人的に記憶がない。



 助演男優賞は『グリーンブック』で白人だけでなく黒人からもけむたがられる天才的ピアニストを演じたマハーシャラ・アリが絶対視されていた。彼は2年前に受賞したばかりだが、出演作の勢い、そして(助演女優賞と違って)対抗馬が弱かった。そして受賞も本命のアリ。自分が演じた役柄、共演のヴィゴ・モーテンセン、ピーター・ファレリー監督、妻や子供、そして"常にポジティブでいなさい"と教えてくれた祖母に感謝。その他、オクタビア・スペンサーにも感謝し、彼女は客席にいたが何故?『ドリーム』(2016)で共演したのは知っているけど...と思っていたら、オクタビア・スペンサーは『グリーンブック』の製作総指揮を手掛けていたのですね、なるほど。黒人俳優が演技賞を複数受賞したのは、デンゼル・ワシントンについで2人目。(シドニー・ポアチエは演技賞1回、名誉賞1回なので)。それにしてもマハーシャラ・アリ、2回目ノミネートで2回とも受賞。しかも出演作はいずれも作品賞...。福の神として今後も引っ張りだこでしょう。



 主演女優賞、前哨戦は『女王陛下のお気に入り』のオリヴィア・コールマンが(大本命というほどの強さではないが)トップの実績。だが、全米俳優組合賞受賞をきっかけに『天才作家の妻 40年目の真実』のグレン・クローズが浮上、7回めのノミネートということもあり功労賞の意味もかねてグレン・クローズが本命視されるようになっていた。だが、プレゼンターのフランシス・マクドーマンドとサム・ロックウェルが読み上げた名前はオリヴィア・コールマンだった。英国では演技派として確固たる地位を得ていたが、オスカーは初ノミネートだった。彼女は夫、ヨルゴス・ランティモス監督、エマ・ストーンから熱烈キスをあびたあと、壇上に上がりスピーチ。
「こういうのって精神的に疲れますね。オスカーを受賞したなんて!たくさんの人に感謝しなければいけません。もし忘れた人がいたら特大キスで許してね。まずは最高の作品で最高の監督、ヨルゴス・ランティモス!そして恋する相手、仕事相手として素晴らしいエマ・ストーンとレイチェル・ワイズ!皆さんわかるでしょ?とっても楽だった。グレン・クローズ、あなたは私のアイドルよ。こんな結果は私も望んでなかったの。あなたが大好きです。30年前に私を受け入れてくれたエージェントのリンディ・キングもありがとう!オリーヴとヒルディ、私が嫌がったことをやらせたブレナ。あなたは正しかったわ。お父さん、お母さん...(涙ぐみながら)もうわかるでしょう!そして子供たち、TV観てくれていることを願うわ。オスカー受賞するなんてもう2度とないのよ!25年間、私の親友、支持者として支えてくれた夫のエド、愛している。あら、彼は泣きそうよ。私は泣かないの!本当にありがとうございます。FOX、キャスト、クルー、(プレゼンターの)フランシス、サムありがとう。(最前列にレディー・ガガを見つけ)あら、レディー・ガガがいるわ、チュ(投げキッス)」
この人、天才じゃない?温かみがあって面白くて嫌味も全くない。このつまらない授賞式の中、冒頭のクイーン・ライブと並ぶハイライト場面でしょう。オリヴィアはスピーチを全く用意していなかったらしい。受賞可能性大いにありとみられていたのに...。



グレン・クローズは7回目のノミネートで受賞なし。これは最多記録にならぶ?過去、ジェラルディン・ペイジが8回目のノミネートでようやく受賞したことがあるが、グレン・クローズも次は...?

 主演男優賞は『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリー役を演じ、伝記映画としては異例の世界的大ヒットに導いたラミ・マレックが大本命。『バイス』で元米副大統領ディック・チェイニーを演じたクリスチャン・ベールを推す声もあったが、既に受賞済みであること、彼の場合、原型をとどめないほど極端な役作りは恒例行事。昨年、同様のパターンでゲイリー・オールドマンが受賞したばかりで新鮮味に乏しいのも不利に働いた。(壮絶な努力が当たり前とみなされるクリスチャン・ベール....)。プレゼンターのゲイリー・オールドマンとアリソン・ジャニーが読み上げたのは本命のラミ。プロデューサー、映画会社、そして"あなたたちの伝説の中のほんの一部に加えてくれた"クイーンのメンバーに、キャストやクルー、本作で共演し、恋人関係になったルーシー・ボーイントンに感謝した。また「悪びれることなく自分の人生を生きた、移民で、ゲイの男性についての映画を作りました。僕が今夜皆さんと一緒に、彼を祝福できたことは、このような物語を皆さんが切望しているということの証だと思います。僕はエジプトからの移民の子で、アメリカ人としては一世にあたります。僕の物語は、今描かれているところです」とスピーチした。ところでラミ君、授賞式終了後にステージから転倒。(大事には至らなかったようですが)蝶ネクタイがいつも曲がっており、いろんな人に直してもらい、発表直前にはレディー・ガガに直してもらったにもかかわらず、本番では....



曲がっていました。この人ってもしかして天然...?

 監督賞に関しては、遅すぎる初ノミネート、スパイク・リーの受賞を期待する声もあったが、前哨戦でぶっちぎりのトップ、主要映画賞を制覇していた『ROMA/ローマ』のアルフォンソ・キュアロンが大本命。プレゼンターは昨年の受賞者、ギレルモ・デル・トロ監督、監督賞のプレゼンターで昨年の受賞者(しかも華のない)が登場することはほとんどないため、もう結果を先に教えているようなもの、そう彼が読み上げた名前は、メキシコ人監督スリーアミーゴのひとり、アルフォンソ・キュアロンであった。第86回(2013年)『ゼロ・グラビティ』での受賞に続いて2度目となった。ヤリーツァ・アパリシオとマリーナ・デ・タビラに対し「あなたたちは作品そのものです」と述べ(5年前、サンドラ・ブロックにも同じようなことを言っていたという突っ込みはやめましょう)、キャストやスタッフへの謝辞を綴った。その後、「7000万人もの女性が移民として働いていますが、映画では主役になりえませんでした。他の人たちが観なかったものに着目するのがアーティストとして重要だと考えている」と語った。本年、アルフォンソ・キュアロン個人として作品、監督、脚本、撮影賞の4部門にノミネートされており、2部門で受賞。『ゼロ〜』でも監督、撮影賞を受賞しているし...キュアロンさん、オスカーいっぱい持ってんな〜。



スパイク・リー、監督賞は逃したものの脚色賞を受賞。誰もが認める黒人映画の巨匠がようやくオスカーを手にした。リーは2015年に名誉賞を受賞済だが、本選では第62回(1989年)に『ドゥ・ザ・ライト・シング』で脚本賞でノミネートされたことがあるだけだった。(作品としては第70回(1997年)で監督作「4 Little Girls」が長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたことがある)スパイク・リーは共同で脚色を手掛けたチャーリー・ワクテル、ケヴィン・ウィルモット、デヴィッド・ラビノウィッツとともにステージにあがり、400年前、アフリカからにバージニア州ジェームズタウンに連れてこられた奴隷の話からスタート、奴隷の娘だった自分の祖母が自力でカレッジを卒業し、卒業後は社会保障給付小切手を50年間貯め続け、自分をニューヨーク大学大学院の映画学科に入れてくれたことに感謝、祖先とわたしたちはつながっていると語った。その後、「2020年、大統領選があります。皆が結束し、歴史を正しい方向に導いていきましょう。愛と憎悪の間で、正しい道徳基準を選択しましょう。レッツ・ドゥ・ザ・ライト・シング」と締めくくった。やり玉にあがったトランプ大統領は「メモを読むことができたのなら、もっと礼儀正しくすべきだな。みんなの大統領を人種差別と一撃するなんて。この大統領はこれまでのどの大統領よりもアフリカ系アメリカ人のための政策を実現しているぞ」とtwitterで反論した。



 作品賞、前哨戦では『ROMA/ローマ』が圧勝し、アカデミー賞でも本命とみなされていた。だが、この作品が受賞するためには多くの問題があった。まず、本作はNetflixオリジナル作品で2018年12月14日よりストリーミング配信済。米国ではアカデミー賞受賞資格を得るためだけに少数の劇場で公開されただけだった。また、本作は外国語映画賞が確実視されており、ストリーミング済&外国語作品と過去、作品賞を受賞したことがない条件が2つ立ちふさがっていた。また、Netflixは『ROMA/ローマ』作品賞受賞のためド派手なキャンペーンを展開。LAの街は『ROMA/ローマ』の広告で溢れかえり、"ハーウェイ・ワインスタインでもここまではやらなかった"と評されるほどで、宣伝手法に対する反発も予想された。かつ『ROMA/ローマ』は劇場公開からわずか3週間でストリーミング配信。米国では劇場公開後90日間はストリーミング配信しないことが慣習となっており、掟破りに劇場側が猛反発していた。そのせいか米国では、大手映画館が作品賞にノミネートされた全作品を再上映するのが慣習となっているが『ROMA/ローマ』のみ外されてしまった。また『ROMA/ローマ』は先立って発表された英国アカデミー賞で作品賞を受賞したが、英国大手映画館チェーンは苦情を申し立てる公開状を送付。『ROMA/ローマ』がアカデミー賞作品賞を受賞すれば、映画館チェーンとのさらなる関係悪化も懸念された。

プレゼンターはジュリア・ロバーツ。彼女が読み上げた名前は何と『グリーンブック』だった。製作者のひとりとしてステージにあがったピーター・ファレリー監督は「この映画は愛を描いています。いろんな違いがあったとしてもお互いに愛し合える。私たちは同じ人間だからです。この映画はヴィゴ・モーテンセンなしでは作れませんでした。彼のおかげです」とスピーチした。

ステージは白人のおっさんだらけ...。黒人は3人?
最前列にいる『ブラック・パンサー』の主演男優チャドウィック・ボーズマンがうんざりしたような表情を浮かべています。



『グリーンブック』は、トロント国際映画祭観客賞(受賞作はほぼ毎年オスカーにからむ)、ゴールデン・グローブ作品賞(ミュージカル/コメディ)、全米製作者組合賞を受賞しておる。客観的にみれば決して意外な結果ではない。だが、『グリーンブック』の受賞が驚きをもって迎えられたのは、本作が公開後さまざまなバッシングに直面していたからだ。まず、一部の批評家からヴィゴ・モーテンセンが演じたトニー・リップが、黒人を差別から救う"白人の救世主"として強調されすぎており、マハーシャラ・アリが演じた黒人ピアニスト役もいわゆる"魔法の黒人"にすぎないという批判を浴びた。また、アリが演じたピアニストのドン・シャーリーの遺族から同作を「うその交響曲」と非難、トニー・リップはあくまで使用者にすぎず、友人のような関係ではなかったと主張した。映画が完成するまで製作側から全くコンタクトがなかったことに不快感も表明していた。

作品内容だけでなく、関係者個人も次々非難を浴びていた。まず、ヴィゴ・モーテンセンがとある上映後の質疑応答で"ニグロ”という差別用語を使ってしまった。(その後、謝罪)。また、監督のピーター・ファレリーは1990年代後半、映画撮影現場で自分の性器を露出するセクハラを繰り返していたことが暴露された。(本人は事実を認め、後悔の念を述べた)また、脚本を手掛けたニック・ヴァレロンガ(ヴィゴ演じたトニー・リップの実弟)がドナルド・トランプ氏の"9.11当日、何万人ものイスラム系住民がニュージャージーで歓声を上げて小躍りするのを見た"という主張"(事実ではないことが確認されている)が100%正しいと2015年にツイートしていたことが非難されていた。

『グリーンブック』に対する一連のバッシング内容は多様性を掲げる近年の傾向に相反する。だが、オスカーはその批判まみれの作品に渡った。スパイク・リーは激怒し会場を立ち去ろうとしたが、スタッフに止められしぶしぶ席に戻った。彼には第62回(1989年)『ドゥ・ザ・ライト・シング』が絶賛されながらも、作品、監督賞にノミネートされず脚本賞のみの候補で終わったという苦い思い出がある。その年の作品賞受賞作は『ドライビング Miss デイジー』。白人の老婦人と黒人運転手の友情を描いており、『グリーンブック』との類似性が指摘されている作品だ。「誰かが誰かを車に乗せると必ず私は負ける。今回座る位置は変わったけど。89年に私はノミネートすらされなかった。今回はされたからね」とリーは語り、『グリーンブック』の作品賞に不満を隠さなかった。

 『グリーンブック』の受賞について聞かれたスパイク・リー、「もう6杯目だよ」「次の質問!」とおどけたように答えている。


作品賞を受賞したことで、『グリーンブック』への批判はさらにヒートアップ!

米紙ロサンゼルス・タイムズのジャスティン・チャン「『クラッシュ』以来、最悪の作品賞」と切り捨てた。
Oscars 2019: ‘Green Book’ is the worst best picture winner since ‘Crash’

映画評論家リチャード・ブロディーはニューヨーカー誌への投稿で『グリーンブック』を「不愉快なほど鈍感な作品」(a repellently obtuse film)と評した。Oscars 2019: A Spike Lee Win Notwithstanding, Hollywood’s Dinosaurs Prevailed

英インディペンデント誌のクラリス・ロウリーは"アカデミー賞は進歩が遅く、以前とまったく変わらない(same old)"と嘆いた。Oscars 2019: Green Book's Best Picture win is an embarrassment for the Academy

英国ガーディアン紙のジョセフ・ハッカーは「こんな凡庸で、古臭くて白人中心のおとぎ話に作品賞?アカデミーはもはや人種差別など存在しないと人々に信じ込ませたいようだ」と苦言した。Green Book’s Oscar shows Hollywood still doesn’t get race

これらの批判の根っこにある考え方は、人種差別を過去のものとして扱おうとしている姿勢である。
舞台はあくまで過去。"白人の救世主"が現れて一件落着。白人がひどい人種差別をしていたのは過去のお話。今は違うんだよ、と言いたげ...。

無抵抗の黒人が白人警官に殺害される『フルートベール駅で』(2013)で描かれたような事件は現在もたびたび起こっている。米国国民は人種差別発言を平然とくりかえす男を大統領に選ぶ時代。そんな現状から目をそらし、人種差別をあくまで過去の物語として取り扱う。同様の批判をあびた『ドライビング Miss デイジー』から約30年、アカデミーは全く変わっていない、と。批判の根幹はこういうことであろう。

 個人的に『ドライビング Miss デイジー』は25年にわたる物語ということもありさほど気にならなかったのですが、『グリーンブック』は結構鼻につく。白人と黒人の立場が逆転しているからだろうか。本来、雇用主であり上の立場にあった黒人が白人によって守られ、短期間で人間らしい心を取り戻していく、白人救世主的要素がより強いからか?

醜悪極まるアカデミー事務局の対応

 2018年8月7日、アカデミー理事会は作品評価は大ヒット映画を対象とした「人気映画」部門の新設を発表した。"アカデミー賞は観客の好みを反映していない"という批判に対処したものと説明。"人気映画"の該当条件などは後日改めて発表するとした。しかし、同業者から批判が殺到、アカデミー分科会でもスティーヴン・スピルバーグやローラ・ダーンらが猛反対したこともあり、保留(第91回では実施しない)扱いとなった。まあ、事実上の棚上げでしょうね。アカデミー賞が"芸術的に優れた業績"に与えられるという建前大前提を完全無視した愚策。これじゃMTV映画賞と変わらない?もし人気映画賞が本年実施されていたら『ブラックパンサー』や『ボヘミアン・ラプソディ』は人気映画賞扱いだったでしょう。

 授賞式を3時間以内に収めるため歌曲賞候補曲の披露は"All the Stars"(『ブラックパンサー』)と"Shallow"(『アリー/スター誕生』)の2曲のみと報道されたが、厳しい批判を浴び5曲すべてが披露される方向で落ち着く。(結局、”All the Stars" (ブラックパンサー)だけ準備とタイミングの問題で歌唱されす。)ちなみに『メリー・ポピンズ リターンズ』。の”The Place Where Lost Things Go”はベット・ミドラーによって歌われた。受賞したのは下馬評どおり"Shallow"。授賞式のパフォーマンスをみてこんなに気持ち悪い曲だったんだと...。『バスターのバラード』のほうがずっと良い!少数派?

 アカデミー賞ノミネート発表直前、衝撃的な事実が伝えられた。映画芸術科学アカデミー(AMPAS)が俳優たちに他の映画賞への出席を自粛するよう圧力をかけていたという。俳優達は猛反発、米映画俳優組合はAMPASに対し「利己的な脅迫」であると抗議声明を発表。AMPASからは未だ回答がない。

また授賞式プレゼンターが少しずつ発表されているが、その中に昨年の演技賞受賞者の名前がなかった。ご存知の通り、演技賞は昨年の受賞者がプレゼンターをつとめるのが恒例...そのあと、昨年の助演女優賞アリソン・ジャニーが自身のインスタグラムで”プレゼンター依頼がなくて傷ついた"と書き込みをした。(現在は削除)。その後、昨年の受賞者4人のプレゼンター登場が正式にアナウンス。当初、視聴率対策のため依頼しなかったものの、批判を受けたための措置との見方が強い。

 授賞式放送時間を3時間内におさめるため、全24部門のうち、撮影賞、編集賞、短編実写映画賞、メイク・ヘアスタイリング賞の4部門結果はCM放送中に発表、受賞の様子は編集して番組内で紹介するとした。CM中に発表される賞は毎年4〜6部門の持ち回りとなり、今年省略された賞は来年は必ず放送されるという。もともと"人気映画賞"の発表と同時にアナウンスされていた内容で、生中継されないだけで編集されて放送はされる。にもかかわらずいざ具体的に発表されると、抗議が殺到。結局、撤回された。とほほ。

司会者→決められず
人気映画賞→保留(事実上の棚上げ)
歌曲賞→2曲の予定(公表はしていないものも)を5曲全部披露、でも1曲拒否?される。
俳優に他の映画賞へ出席するな警告→無視される
演技賞前年度の受賞者プレゼンター依頼せず→激怒され撤回
4部門の発表をCM放送中→大物映画人達に猛反対され撤回。

アカデミー事務局、ぼろぼろです。ここまでひどいと笑ってしまふ。失礼なことを平気で考えるくせに、ちょっと批判されるとすぐ撤回するチキンぶり。何なの、この事務局?

これらの愚策は視聴率対策以外の何物でもなく、中継TV局ABCから相当の突き上げがあったと言われている。でもアカデミー賞授賞式は"TV中継される"だけであって、TV番組じゃないんですよ。完全にTV番組と化した場合、賞の権威がどうなるかは日本のナントカ賞を見ればよ〜くわかるはず...。アカデミー事務局が過去、視聴率対策として打ち出したものは例外なく不評で、翌年元に戻すというパターンを繰り返している。作品賞5枠撤廃も、作品賞ノミネートの価値を暴落させただけ。効果をあげているとはいいがたい。

ストリーミング配信映画に作品賞?

本年度のアカデミー賞最大の焦点は劇場公開を前提としていないNetflix(ストリーミング配信)の映画が作品賞をとるかどうか、である。これまでamazonスタジオの作品が候補にあがったことはあるが、amazonは"ストリーミング配信は劇場公開後、90日間を置いたあとで認められる"という米国の暗黙の了解を守っていたので問題とされなかった。Netflixは劇場公開なし、もしくは劇場公開と同時(もしくは直後)にストリーミング配信することを前提としている。劇場側は(ルールを守っているAmazon以外に)批判的である。(ちなみにフランスは法律でその期間は3年と定められており、Netflixは本年よりカンヌ映画祭から撤退している)

Netflixなどのストリーミング配信作品を映画としてとらえるかという問題が今後確実に湧き上がってくる。アカデミーは今のところ、受賞資格さえみたせばOKというスタンス。『ROMA/ローマ』は題材的に興行的成功が望みにくいとしてNetflix配信に踏み切ったいきさつがある。コーエン兄弟監督作『バスターのバラード』もNetflix作品、『COLD WAR/あの歌、2つの心』はamazon,長編ドキュメンタリー映画賞ノミネート『Minding the Gap』はHulu配給だ。ストリーミング配信は"制約が少なく、予算も潤沢"とあって大物映画人の参入が相次いでいる。アカデミー会員はNetflixなどのストリーミング配信を歓迎する傾向が強いという。筆者も個人的にNetflixなどのストリーミング配信映画を支持しており、アカデミー賞候補資格は与えるべきだと考えている。大手映画スタジオが金を出したがらない良質な企画をきちんとフォローし続け、製作費がほしい大物映画人ばかりを優遇するようなことをしなければ、の話だが。

今後、"興行的に厳しい"と思われる題材を扱う映画はストリーミング配信での公開が増えることが予想される。賞レースにからむのは大体その手のタイプ。ゆえに今度アカデミー賞候補作がストリーミング配信の作品だらけになる可能性も十分考えられ、(アカデミー賞の対象となる)映画とは何か、という根本的な問題が浮かび上がってくる。人気映画賞なんてバカなこと考えている余裕はありません。ド派手な宣伝キャンペーン、セクハラなど候補作関係者の醜聞、そして何よりも司会者すらまともに決められず、そのくせ視聴率ほしさの安直な企画で会員たちを怒らせてばかりのアカデミー賞事務局の大迷走ぶり....。映画ジャーナリストたちは「近年にない醜悪な賞シーズン」と批判が起こっているという。

人種の多様化、ストリーミング配信映画の問題はしばらくの間、アカデミー賞をにぎわせ続けるでしょう。スティーヴン・スピルバーグは4月のアカデミー理事会でストリーミング配信映画は、長期劇場公開がない限り、アカデミー賞から除外する提案をする意向だと報じられている。(The Spielberg vs. Netflix Battle Could Mean Collateral Damage for Indies at the Oscars)。クリストファー・ノーランも同様の意見を持っているという(アカデミーの嫌われ者2人、ますます...)。これは映画会社の意向でもあると言われているが、既に相当反発が出ているという(いわゆる炎上ってやつですね)
Netflixもtwitterを通して声明を発表。

We love cinema. Here are some things we also love:(私たちは映画を愛している。それと同時に以下のことも愛している)

-Access for people who can't always afford, or live in towns without, theaters
(時間の余裕がない人、街に映画館がない人にも作品を届けること)
-Letting everyone, everywhere enjoy releases at the same time
(皆が同時に作品を楽しめること)
-Giving filmmakers more ways to share art
(映画製作者にアートを伝達するための手段を増やすこと)

These things are not mutually exclusive.(これらのことは矛盾しません)

スピルバーグって完全に老害と化してますなあ。あんたは劇場公開されるかどうかとか、予算がどうのこうのとか心配する必要ないかもしれないけど...。アルフォンソ・キュアロン監督は「映画にも多様性が必要。こういう議論が映画を傷づける」と語っている。

2019/5/2追記 スピルバーグはアカデミー役員会で出品条件の変更を提案したが、十分な賛同が得られず候補資格は従来通り"映画が選考適格であるためには、ロサンゼルスの商用劇場において7日間以上、1日の上映回数3回以上、有料入場者に対して上映されていなければならない。ただしその映画は劇場以外のメディアで同時に封切られてもよい"となった

映画館で公開したくないなどと考えている製作者はいないはずである。と同時に、少数の映画館で上映するよりストリーミング配信のほうが多くの人の目に触れると判断すれば、そちらを選択するのもごく自然な考え方。そもそもストリーミング配信映画が増えたのは、映画スタジオが"作家性の強い映画、商業的に厳しい題材の映画"に予算を出したがらないことが発端。ストリーミング配信映画は大物映画人だけがかかわっているわけではない。無名でも才能ある映画人が作った作品をストリーミング配信という理由でアカデミー賞の資格まではく奪しようとするのは強者によるいじめにすぎない。間違っても"ストリーミング配信映画賞"なんて創設するのはやめてね。
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第91回(2018年)アカデミー賞ノミネート一覧

※ ★マークは受賞作品。リンクは当サイト記事もしくはamazon

作品賞
  「グリーンブック
   「ブラックパンサー
   「ブラック・クランズマン
   「ボヘミアン・ラプソディ
   「女王陛下のお気に入り
   「ROMA/ローマ
   「アリー スター誕生
   「バイス

主演男優賞
  ラミ・マレック  「ボヘミアン・ラプソディ」
   クリスチャン・ベール  「バイス」
   ブラッドリー・クーパー 「アリー スター誕生」
   ウィレム・デフォー  「永遠の門 ゴッホの見た未来」
   ヴィゴ・モーテンセン  「グリーンブック」

主演女優賞
  オリヴィア・コールマン 「女王陛下のお気に入り」
   ヤリーツァ・アパリシオ 「ROMA/ローマ」
   グレン・クローズ 「天才作家の妻 -40年目の真実-」  
   レディー・ガガ 「アリー スター誕生」
   メリッサ・マッカーシー 「ある女流作家の罪と罰

助演男優賞
  マハーシャラ・アリ  「グリーンブック」
   アダム・ドライヴァー  「ブラック・クランズマン」
   サム・エリオット  「アリー スター誕生」
   リチャード・E・グラント  「ある女流作家の罪と罰」
   サム・ロックウェル  「バイス」

助演女優賞
  レジーナ・キング  「ビール・ストリートの恋人たち
   エイミー・アダムス 「バイス」
   マリーナ・デ・タビラ  「ROMA/ローマ」
   エマ・ストーン 「女王陛下のお気に入り」
   レイチェル・ワイズ  「女王陛下のお気に入り」

監督賞
  アルフォンソ・キュアロン  「ROMA/ローマ」
   スパイク・リー 「ブラック・クランズマン」
   パヴェウ・パヴリコフスキ  「COLD WAR あの歌、2つの心
   ヨルゴス・ランティモス   「女王陛下のお気に入り」
   アダム・マッケイ 「バイス」

オリジナル脚本賞
  「グリーンブック」
   「女王陛下のお気に入り」
   「魂のゆくえ」 
   「ROMA/ローマ」
   「バイス」

脚色賞
  「ブラック・クランズマン」
   「ある女流作家の罪と罰」
   「バスターのバラード
   「ビール・ストリートの恋人たち」
   「アリー スター誕生」

撮影賞
  「ROMA/ローマ」
   「COLD WAR あの歌、2つの心」
   「女王陛下のお気に入り」
   「Never Look Away」
   「アリー スター誕生」

美術賞
  「ブラックパンサー」
   「女王陛下のお気に入り」
   「ファースト・マン」
   「メリー・ポピンズ リターンズ
   「ROMA/ローマ」

音響賞(録音賞)
  「ボヘミアン・ラプソディ」
   「ブラックパンサー」   
   「ファースト・マン」
   「ROMA/ローマ」
   「アリー スター誕生」

編集賞
  「ボヘミアン・ラプソディ」
   「ブラック・クランズマン」   
   「女王陛下のお気に入り」
   「グリーンブック」
   「バイス」

作曲賞
  「ブラックパンサー」
   「ブラック・クランズマン」
   「ビール・ストリートの恋人たち」
   「犬ヶ島」
   「メリー・ポピンズ リターンズ」

歌曲賞
  "Shallow" (アリー スター誕生)
   "All the Stars" (ブラックパンサー)
   "I'll Fight" (RBG)
   "The Place Where Lost Things Go" (メリー・ポピンズ リターンズ)
   "When a Cowboy Trades His Spurs for Wings" (バスターのバラード)

衣装デザイン賞
  「ブラックパンサー」
   「バスターのバラード」   
   「女王陛下のお気に入り」
   「メリー・ポピンズ リターンズ」
   「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」

メイクアップ&ヘアスタイリング賞
  「バイス」
   「Border」
   「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」   

視覚効果賞
  「ファースト・マン」
   「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」
   「プーと大人になった僕」
   「レディ・プレイヤー1」
   「ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー」

音響編集賞
  「ボヘミアン・ラプソディ」
   「ファースト・マン」
   「ブラックパンサー」   
   「クワイエット・プレイス」
   「ROMA/ローマ」

短編賞
<アニメ>
  「Bao」
   「Animal Behaviour」   
   「Late Afternoon」
   「One Small Step」
   「Weekends」

<実写>
  「Skin」
   「Detainment」
   「Fauve」
   「Marguerite」
   「Mother」   

ドキュメンタリー映画賞
<短編>
  「ピリオド 羽ばたく女性たち」
   「Black Sheep」
   「End Game」
   「Lifeboat」
   「A Night at the Garden」   

<長編>
  「Free Solo」
   「Hale County This Morning, This Evening」
   「Minding the Gap」
   「Of Fathers and Sons」
   「RBG」

外国語映画賞
  「ROMA/ローマ」 (メキシコ)
   「Capernaum」 (レバノン)
   「COLD WAR あの歌、2つの心」 (ポーランド)
   「Never Look Away」 (ドイツ)   
   「万引き家族」 (日本)

長編アニメ賞
  「スパイダーマン:スパイダーバース」
   「インクレディブル・ファミリー」
   「犬ヶ島」
   「未来のミライ」
   「シュガー・ラッシュ:オンライン」   

アービング・G・タルバーグ賞
  フランク・マーシャル
  キャスリーン・ケネディ

名誉賞
  シシリー・タイソン
  ラロ・シフリン
  マーヴィン・レヴィ
2019.02.25 Monday | 14:00 | アカデミー賞の軌跡 | comments(0) | - |

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2019.09.05 Thursday | 14:00 | - | - | - |

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