映画のメモ帳+α

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ザ・スクエア 思いやりの聖域

ザ・スクエア 思いやりの聖域 (2017 スウェーデン・ドイツ・フランス・デンマーク)

ザ・スクエア 思いやりの聖域(2017)原題   THE SQUARE
監督   リューベン・オストルンド
脚本   リューベン・オストルンド
撮影   フレドリック・ウェンツェル
出演   クレス・バング エリザベス・モス
     ドミニク・ウェスト テリー・ノタリー

第90回(2017年)アカデミー賞外国語映画賞ノミネート。第70回カンヌ国際映画祭パルムドール、芸術貢献賞。第30回ヨーロッパ映画賞作品、コメディ作品、監督、主演男優(クレス・バング)、脚本、プロダクションデザイン賞受賞。



有名美術館のキュレーター、クリスティアンは次の展覧会に向けて、思いやりをテーマに掲げたインスタレーション"ザ・スクエア"を発表する。ある日、彼はトラブルに巻き込まれ、携帯と財布を盗まれてしまう。取り乱した彼は"思いやり"とはかけ離れた行動をとってしまう。また、"ザ・スクエア"の宣伝動画が炎上し、彼は窮地に追い込まれる。事件が起こっても自分以外の誰かがいるとき反応が遅くなる"傍観者効果"、内容の良し悪しより注目を浴びることを優先する"炎上商法"、スクエアの外にいる"助けられない人々"...日常生活において人々の中に潜む"思いやりに欠けた"感覚をえぐり出す異色作。カンヌ国際映画祭パルムドール受賞。
☆☆☆☆
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 この作品を見て思い出した個人的出来事があります。
かなり昔ですが、職場同期の結婚式に出席するため、某県に行きました。1日前に現地につき、観光をしていたのですが、その際、公園で中年の男性から声をかけられました。
「財布を落として交通費がないのでお金をめぐんでほしい」
怪訝に思わなくもなかったのですが、服装も小ぎれいで嘘とも思いにくく、何より面倒くさかったため1000円札を一枚手渡して立ち去ろうとした。そうしたらその男は「何も食べていない。食事代もくれないか」
これは単なるたかりだな...財布うんぬんも嘘かもしれないと思ったため「ふざけるな」と言い捨てその場を立ち去った。男は「交通費はくれても食事代はだめですが」とうらめしそうに言っていたが、僕は怒りでふるえていた。

本作においてファーストフード店で主人公に物乞いする女性が出てきます。実にふてぶてしく感謝の気持ちなど一かけらもにじんでいない。思いやりとは何なのでしょう?

本作には物乞いがひんぱんに登場します。「命に救いの手を」と訴えている女性の、すぐそばに物乞いが座っているという皮肉。彼女はその物乞いに救いの手は差し伸べていません。このような物乞いは2005年頃からみられるようになったそうです。そもそもスウェーデンって福祉大国じゃなかった?

参加型アートの"ザ・スクエア"には以下のようなルールがあります。

------------------------------------------------------
"ザ・スクエア"は〈信頼と思いやりの聖域〉です。
この中では誰もが平等の権利と義務を持っています。
この中にいる人が困っていたら それが誰であれ
あなたはその人の手助けをしなくてはなりません。
-----------------------------------------------------

その責任者であるクリスティンは個人としてその趣旨とはかけ離れた行動をとる。
GPS機能により携帯と財布を盗まれた犯人の居住地が貧困層のアパートだと知ると、そのアパートの一軒一軒に脅迫状をポストに投げ込むという原始的な行動をとります。もうこれ自体、差別意識まるだしですね。
また、女性ジャーナリストからなじられた彼は「権力がセクシーだとなぜ認めない?」笑った。
宣伝動画をろくにチェックせず炎上...それを自分はチェックしていなかったと言い逃れをする。思いやりどころがひたすら自己保身に終始...。理想と現実の激しいギャップを示します。"ザ・スクエア"の外にいる人間、聖域外の人間には何をしてもよい?これは思いやりではなく単なる差別です。

炎上商法、人々を傷つけても自分が注目を浴びればよい。現代社会の象徴のような行為です。結果としてそれが効果をあげることも多いという。それは発信者だけでなく、受信者も”思いやりがかけている"という証拠なのでしょう。

 本作で一番目に付くのは"傍観者効果"(公共の場において困っている人に対し、目撃者が多ければ多いほど、行動を起こすのに時間がかかる)が巧みに描かれていること。

・冒頭、街中で"男に殺される"と叫び逃げ回る女性、なかなか助けに入らない周囲の人々。まあ、これは罠だったんですが。
・展示会の説明の最中、女性に向かってセクハラ発言を繰り返す男性...。そのたび気まずい沈黙が流れるもしばらくは誰も注意せず...。
・そして、美術館主催のパーティでのモンキーマン登場場面。
彼の行動はどんどんエスカレートするが、女性が襲われ、倒されるまで誰も助けない。



この傍観者効果と表裏一体をなすような現象が行動経済学で語られています。

大きな災害や世界的な疫病に対し、被害者が多ければ多いほど寄付金が減り、被害者が少ないほど寄付金が多いという。30万人の被害より1人の被害を訴えたほうが寄付金が集まりやすいというのです。

困っている人の数が多すぎると、個人としては無力感に負けてしまうのでしょうか?

 時折挿入される音楽はYo-Yo Ma & Bobby McFerrin - Ave Maria

 蛇足ですが、本作の点数をつけるにあたり80点にするか75点にするかかなり迷いました。差別の意図を表現するためとはいえ、アパート全体に脅迫状を出す主人公の行動に抵抗を感じたし、ラストがやや弱い。また、女性記者と寝るエピソード(ここだけが創作で、あとは実際に見聞きしたエピソードに基づいているとか!)はいらないかな、と思ったり。

でもこのシュールなサルや


「人を信じますか、信じませんか」という展覧会のメッセージを象徴するようなこのおぞましい場面


を描くために必要だったんでしょう。クリスティンは人を信じていません。


冒頭"HPの説明がよくわからない"と問い詰める記者に対し、"あなたの持っているバッグが美術館に展示されたら、アート作品になるかという意味だ"とはぐらかしたのは面白かった。


アキレスと亀』のラスト場面を思い出しました。螺旋階段の場面はヒッチコックの『めまい』ですね。

結局80点にしたのは、カンヌ国際映画祭パルムドールというハロー効果に負けたわけではありません(笑)。本作は"ドラマティックな感情"ではなく、"日常生活に潜むほのかな感覚"を描いたもの。これは舞台でもTVドラマでも表現しにくい映画ならではのものだと思うのです。感情に訴えるというよりは、人々の潜在意識に気が付いたら忍び込んでいく。それが面白いと思ったので☆☆☆☆!
こんなに長く書くなら300字レビューではなく通常レビューに分類すべきなのでしょうが、ひとつの記事としてまとめにくくて...。

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2018.06.24 Sunday | 23:42 | - | - | - |

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