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ミリキタニの猫

ミリキタニの猫(2006 アメリカ)

「ミリキタニの猫」公式サイトにリンク原題   THE CATS OF MIRIKITANI   
監督   リンダ・ハッテンドーフ      
撮影   リンダ・ハッテンドーフ マサ・ヨシカワ                  
音楽   ジョエル・グッドマン                  
出演   ジミー・ツトム・ミリキタニ
      ジャニス・ミリキタニ ロジャー・シモムラ      

強制収容所、原爆、ホームレス...。大きなトラウマを抱えながら、その想いをアートとして吐き出し続けている男がいる。ニューヨークの路上画家、ジミー・ツトム・ミリキタニ氏だ。
"Make art not war"をモットーに絵を書き続けるこの日系アメリカ人画家が過去の戦争と人種差別による精神的後遺症に苦しみながらも、60年にわたる人々への不信感を少しづつ拭い去っていく姿を描いたのが、このドキュメンタリー映画『ミリキタニの猫』である。

ジミー・ツトム・ミリキタニ氏(以降ミリキタニと記す)は1920年6月15日、カリフォルニア州サクラメントで生まれた。3歳から18歳まで広島で暮らした。芸術で生きるため、そして当時の日本に台頭していた軍国主義から逃れるためにアメリカに戻る。だが1941年の真珠湾攻撃後太平洋戦争が勃発、その約2ヵ月後にフランクリン・D・ルーズベルト大統領が大統領行政令9066号(Executive Order 9066)を発令。約12万人もの「日本人を祖先に持つ者」が強制収容所いきとなり、ミリキタニはカリフォルニア州ツールレーク収容所に送られてしまう。ミリキタニは、そんなアメリカに抵抗するため市民権を捨てることを決意する。 参考 日系アメリカ人強制収容所のデータ

弁護士のウェイン・コリンズ氏が、ミリキタニ同様アメリカに抵抗し続けた約5000人の市民権を回復するため10年以上も活動を続け、1947年の8月までに人々は解放された。ジミーはアート活動を再開するため、1950年代の初めにニューヨークにたどりつく。ロングアイランドのレストランで働いていたが、1980年代後半に、雇用主が亡くなり、一気に住居も職も失うはめになる。その後は”ホームレス状態”でワシントンスクエア公園で暮らしながら、絵を売って生活していた。

アメリカでは市民権を持たないと、パスポートや運転免許取得もできず
教育も各種社会的給付も受けられないことになる。
「病気にならないから、社会保険などいらん」
「アメリカのパスポートなんていらない。日本のパスポートがあれば世界中から信用される」
ミリキタニははき捨てるようにいう。

2001年1月1日、この映画の監督リンダ・ハッテンドーフは、猫の絵を描いていたミリキタニに目を留める。リンダはミリキタニから絵を購入し、翌日からドキュメンタリー映画『ミリキタニの猫』の撮影がスタートする。そんな最中に起こったのが9.11事件。ミリキタニがいつも絵を描いている場所はワールドトレードセンターから20ブロックしか離れていない場所である。ミリキタニはいつもと変わらぬ様子で絵を描いていた。原爆によって多くの親しき人たちを失った彼にとっては、ワールドトレードセンターから吹き出る煙などたいしたことではなかったのかもしれない。
だが、その煙は有毒であるため、ミリキタニはやたらと咳き込むようになる。その姿を見かねたリンダは彼を自分の自宅に招きいれ、不思議な共同生活がスタートする。



9.11のニュース報道をじっと見つめるミリキタニ。
「アラブ系米国人が危険にさらされています...」
ミリキタニはこのニュースをみて
今も昔も変わらない」とぽつり。
自分の強制収容所での体験を重ね合わせながら、テレビ画面を見つめるミリキタニ。
その姿は彼の過去への想いが凝縮されている。映画前半のハイライト場面である。

ミリキタニの話す言葉はいわゆるBroken Englishだ。
しかも日本語に近い語順で単語を並べている。
海外生活が長い人は最初、英語で考えてから日本語に翻訳して話すことが多いと聞くが、ミリキタニは普段、日本語で物事を考えているのだろう。彼の話す英語を聞いているだけでも、彼の60年にわたる心の軌跡、そして人生を垣間見ることができる。

ミリキタニはなぜ猫の絵を好んで描くのか、離れ離れでくらす姉の存在、はたしてミリキタニは社会保障を受けられるようになるのか...。さまざまなエピソードを交えながらミリキタニの過去が綴られていく。

バスの中からツールレーク収容所を見つめるミリキタニの姿がとくに印象に残る。
遺骨の引き取り手がいなかったため、収容中に命を落としてしまった人たちがまとめて埋められている墓が映し出される。「SEKI baby」などbabyがやたら多い。名前すらつけられていない赤ん坊...。
ミリキタニの心の中には、過去に出会った人たちの顔が走馬灯のように蘇っただろう。
記憶力はいいんだ
小さい頃のことは、よく憶えている
健康診断を受けた際、ミリキタニはそう語っている。

この映画『ミリキタニの猫』はドキュメンタリーというよりはてしなく物語に近い
リンダ・ハッテンドーフ監督と出会ったことでミリキタニの生活は大きく変化したからだ。
リンダの尽力によりミリキタニの心の中に少しづつ希望の光が差し込んでいく。

映画の1シーンごとに繰り広げられる映像と声音と音楽の絶妙なハーモニーはまるで短編小説か、叙事詩のような重みを醸し出している。音楽はやや叙情的過ぎるきらいはあるが、くどさすれすれで抑えられているため、むしろ心地よいものとなっている。
74分の上映時間は決して短くは感じない。映画のラスト・クレジットが流れだしてさえ物語は続いているのだから。

最後に「映画が撮影されてから5年がたちましたが、ミリキタニさんには変化が訪れましたか?」
という質問に対する監督のリンダ・ハッテンドーフの答えを紹介しておく。

「彼は収容所の歴史が消されてしまわないようにと言う思いを込めて、絵を描き続けていたわけですが、収容所を巡礼してからの絵は確実に変わりました。以前なら遠目に映る山並みと、収容所、フェンスと固く閉ざした門があって、自分自身を収容所の中に描き込んでいたのが、最近の絵からはフェンスが消え、門も開かれ、彼の姿は描き込まれなくなりました。あれほど深い心の傷から、ジミーさんくらいの高齢になってから癒されることがあるんだという事実は、観客の皆さんにも希望を与えてくれるでしょう」 リンダ・ハッテンドーフ・インタビュー(映画秘法.com)より引用

80歳を超えてから、人生をそして人間を肯定的にとらえようとする姿はかなりカッコいい。どんな大きなトラウマであっても、それを乗り越える道は見つけることができるものなのだ。ドキュメンタリー映画として提示されている事実を追うよりは、あらゆる感情がにじみ出ている映像の固まりを物語として体感してほしいタイプの作品。映画ならではの魅力にあふれた、本当に映画らしい映画である。
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GALLAERY ART BY JIMMY TSUTOMU MIRIKITANI (アメリカ公式サイトより)


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2019.09.05 Thursday | 00:18 | - | - | - |

コメント

収容所では、結構小さい子供が亡くなったいるのに驚きました。劣悪な環境だったのかな?と初めて思いあたりました。
ともあれ、何も知らない事が多過ぎる私でした。
ミリキタニ氏のキャラとストーリーは、ドキュメンタリーとは思えないもので、観て良かったと思える映画でした。
2007/09/25 8:58 AM by あん
あんさん、こんばんわ

墓にきちんとした名前すら刻まれていないbabyがたくさんいたのが印象に残りました。
環境がよくなかったんでしょうね...。

無駄のない演出だったため、1シーン1シーンがどどーと迫ってきた映画でした。

ひとつのドキュメンタリー撮影が60年も苦しみ続けたトラウマを和らげ、
その後の人生まで大きく変えてしまう。
これはすごいことだと思います。
監督は「同居生活をすると決めた時点で観察者の立場を捨てた」とコメントしていますが
まさにドキュメンタリーというよりここからドラマを作り上げたといった感じですね。
本当にいい映画だと思います!
2007/09/25 8:22 PM by moviepad

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