映画のメモ帳+α

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シェルブールの雨傘

シェルブールの雨傘 (1964 フランス)

シェルブールの雨傘(1964)原題   LES PARAPLUIES DE CHERBOURG
監督   ジャック・ドゥミ
脚本   ジャック・ドゥミ
撮影   ジャン・ラビエ
作詞   ノーマン・ギンベル
音楽   ミシェル・ルグラン
出演   カトリーヌ・ドヌーヴ ニーノ・カステルヌオーヴォ
     マルク・ミシェル エレン・ファルナー アンヌ・ヴェルノン

第37回(1964年)アカデミー賞外国語映画賞ノミネート。第38回(1965年)アカデミー賞脚本、作曲、ミュージカル映画音楽、歌曲賞("I Will Wait for You")ノミネート。第17回(1964年)カンヌ国際映画祭パルムドール、国際カトリック映画事務局賞、フランス映画高等技術委員会賞

1964年に公開されたミュージカル映画『シェルブールの雨傘』は台詞なし、全編歌のみで構成する画期的な内容だった。監督はジャック・ドゥミ。音楽はミシェル・ルグラン。第17回(1964年)カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。ミュージカルはアメリカのもの、という既成概念を打ち破り、ミュージカル映画に新風を巻き起こした。カトリーヌ・ドヌーブの出世作としても知られている。



物語
第一部 出発 1957年11月〜
 フランスの港町シェルブールに住む20歳の自動車整備工ギィ(ニーノ・カステルヌオーヴォ)と17歳のジュヌヴィエーヴ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は恋人同士。ギィは病身の伯母エリーズ(ミレーユ・ペレー)と、ジュヌヴィエーヴは「シェルブールの雨傘」という店を経営している母エムリ夫人(アンヌ・ヴェルノン )と暮らしている。ギィとジュヌヴィエーヴは結婚を考えており、子供の名前まで話し合っているが、エムリ夫人は若すぎると結婚に反対していた。
ある日、エムリ夫人のもとに納税通知書が届く。破産を避けるためエムリ夫人は仕方なく大事にしていたネックレスを売りに宝石店に出向く。交渉はうまくいかなかったが、居合わせた宝石商カサール(マルク・ミシェル)がネックレスを購入し、難を免れる。
当時、アルジェリア戦争中のフランス。ギィに召集令状が届き、2年間戦場に出向くこととなる。2人は別れを惜しみ、その夜結ばれる。ギィは叔母の世話を幼馴染のマドレーヌ(エレン・ファルナー)に頼み、戦場へ出向く。

第二部 不在 1958年1月〜
ジュヌヴィエーヴはギィとの子を妊娠。だが、ギィからの手紙はほとんどなくジュヌヴィエーヴは不安にさいなまれる。そんなころ、カサールがエムリ夫人に対してジュヌヴィエーヴとの結婚を申し込む意向を告げる。彼は世界中を飛び回って仕事をしているため、また旅に出る。
カサールは結婚を申し込み、妊娠中の子も引き取ると告げる。ギィは一度、妊娠を喜ぶ手紙はよこしたものの、その後は相変わらず音沙汰なし。ジュヌヴィエーヴの心はカサールに傾いていく。
ジュヌヴィエーヴとカサールは結婚。エムリ夫人もその後店を閉め、娘の住むパリへ移住する。

第三部 帰還 1959年3月〜 
足を負傷し除隊となったギィは「シェルブールの雨傘」店を訪れるが、店の所有者が変わっていることを知る。ジュヌヴィエーヴの結婚とパリ移住を知り自暴自棄となり、復帰した整備工場も退職、酒と娼婦に溺れる日々。
叔母が死んだため、孤独にさいなまれたギィはマドレーヌに一緒に住んでくれるよう依頼。身寄りのない彼女はしぶしぶ承諾。1959年6月 叔母の遺産でガソリンスタンドをはじめ、立ち直った。ギィとマドレーヌは結婚する。

1963年12月。クリスマスイブ。ギィとマドレーヌは子供にも恵まれ幸せな日々。そこに一台の車がとまる。運転席にはジュヌヴィエーヴと小さな女の子がいた。久しぶりの再会。「娘はあなたに似ているわ。会っている?」とジュヌヴィエーヴは訪ねるがギィは無言。その後、さりげなく別れる。

この映画、初めて見たときは戸惑いました。これまで見てきたフレッド・アステアやジーン・ケリーが登場する脳天気ミュージカル、もしくは『ウエストサイド物語』のような躍動感のあるものとも違う。こんな辛気臭いメロドラマをミュージカルで見たくない!というのが正直な感想。名作なんだろうけど好みじゃねえや、そんな感じでした。本作がその後、何度かリマスターされてリバイバル上映されていることも知っていた。いつか見直してみよう...そう思いつつ〇年の時がすぎ、やっとその時がきたわけです。うーん、1回目ほど抵抗感はなかったですね。最初のガソリンスタンド場面では、"これをわざわざ歌にしなくても...”と思いましたが、10分くらいすると気にならなくなる不思議。

さて、本作最大の特徴は"台詞がなく全編歌のみ"で構成されていることですが、それに付随して従来のミュージカルとは全く異なることがあります。それは

・踊りがない
・曲がない

初鑑賞の際、戸惑ったのは"台詞を全部歌う"よりこっち。
歌うだけでほとんどダンスがない映画はシネ・オペレッタの頃など過去にもあったはずです。
でもまとまった曲がないというのは...台詞を全部歌にしてしまうとそうなるのもわかりますが、その後、同じように台詞も歌うように仕向けた『レ・ミゼラブル』(2012)だって曲で構成されてますからね。本作の中で曲といえるのは詩を変えて繰り返しくどいほど流されるテーマくらい。



音楽を手掛けたミシェル・ルグランは今やフランスの大御所作曲家。映画音楽を数多く手がけ、アカデミー賞も3度受賞。『愛のイエントル』 (1983)などもそうなんですが、非常にメランコリックな曲を書く人ですね。テーマ曲"Je ne pourrai jamais vivre sans toi”は作詞が監督のジャック・ドゥミ、作曲がミシェル・ルグラン。映画の中のドヌーヴは吹替えで実際はダニエル・リカーリが歌っている。ノーマン・ギンベルが"I Will Wait for You”というタイトルで英語詞をつけ第38回(1965年)アカデミー賞歌曲賞にノミネートされた。この曲は多くの歌手がカバーし、スタンダードナンバーとなっておりますが、個人的にはくどすぎて少々苦手...。

物語は典型的な"すれ違い"メロドラマ。とは言え、ここはミュージカル。登場人物の性格は怖いくらい類型的です。主人公2人の性格はとりたてて特徴なし。母親、叔母もありがちなタイプ。そしてそれぞれの結婚相手はありえないくらい良い人(笑)。冒頭は雨、ラストは雪。ミュージカル特有の明るさ、躍動感はなく湿った物語でございます。
ミュージカルは通常、歌、ダンス、映像美で勝負するため、物語の流れがどうしても悪くなる。本作はそれと逆に物語の流れを重視している。"××年××月"といったテロップは観客に時の流れを感じさせるためです。まとまった曲がないため、歌はくどいほど流れるテーマ曲の一点勝負。歌でもダンスでもなく物語と伴奏でいろどるミュージカル映画なんてあり?あえて好きなところを探すなら、ジュヌヴィエーヴが母親にギィと結婚したいと告げるシークエンス。うっとうしく退屈になりがちなところですが、台詞が歌のためどこか軽やかで楽しく?見ることができる。凡庸な場面をうまく彩ることができるのは"台詞を歌にする"最大の効用だと思います。

印象に残るのはやはりラスト。軽く挨拶をかわすだけでそれぞれの生活に戻る。大人の別れです。カトリーヌ・ドヌーブは若い頃であって本当にきれい。リカちゃん人形かバービーかって感じです。それがラストでは別人。もう過去は吹っ切ったといわんばかりに、冷たさすら感じる表情。男は動揺を隠し切れない。「もう行った方がいいよ」と言ったのは過去の思いがぶり返すのを防ぐためかそれとも単に予期せぬ客に戸惑っていただけなのか。ラストは男が子供と妻を迎え抱き合う場面。カメラがひく。この種のことは男のほうが引きずるとよく言われますが、ラスト、男の表情をあえて見せず観客の想像に委ねている。ここが巧い。ハリウッド映画ならどちらかが涙をためた表情のクローズアップでしょう。

『シェルブールの雨傘』の物語はどこか当時のドヌーブの私生活と重なる部分がある。本作の撮影に入る前のドヌーブは『大運河』(1957)、『危険な関係』などシネジャズの牽引者、かつ女性遍歴が華やかだったことで知られるロジェ・ヴァディム監督の子を妊娠中だったのです。本作においてドヌーブのフルショットが少ないのはお腹を目立たせないようにするため。ドヌーブは未婚のまま出産、かつロジェ・ヴァディム監督とは別れた。彼の心はジェーン・フォンダに移っていた...。ちなみにロジェ・ヴァディム監督には『我が妻バルドー、ドヌーヴ、J・フォンダ』なんて著書があります。とんでもねえ野郎だ(爆)。

シネ・ジャズの話が出たのでついでに記しておくと、音楽を手掛けたミシェル・ルグラン、本当はJazzをやりたかったけどそっちに行けなかった感のある人です。本作もところどころJazzの香りがします。そう、『シェルブールの雨傘』のテーマ曲だってJazz畑の人が手掛ければこんなにお洒落...。


フレッド・アステア、ジーン・ケリーなどのスターを軸に長年、隆盛をほこったミュージカル映画も1960年代に入りだんだんと下火になる。『ウエストサイド物語』(1961年)がミュージカルを変えたとよく言われます。他愛のない恋愛物ばかりだったこれまでと違い、物語を重視。人種差別などのテーマも盛り込んだ。ただし、これに関しては過去、『ショウ・ボート』(1936)があるため、決して『ウエスト〜』が最初というわけではない。『ウエスト〜』が画期的だったのは物語よりも、ロケ撮影でしょう。これまでのミュージカル映画は華やかなセット内に閉じ込められていたような印象があった。外に出て踊りまくる、その開放感、躍動感。ただし、歌とダンスで勝負するところは従来のミュージカルと同じであります。

この『シェルブールの雨傘』は台詞を全部歌に置き換えることにより、曲でもダンスでもなく物語全体の流れと音楽が彩るイメージを重視している。ミュージカル映画の根本をひっくり返したという意味では『ウエストサイド物語』以上に画期的な作品と言えるでしょう
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2018.02.24 Saturday | 20:09 | - | - | - |

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