映画のメモ帳+α

音楽映画、アカデミー賞関連の記事に力を入れています。
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メッセージ

メッセージ (2016 アメリカ)

メッセージ(2016)原題   ARRIVAL
監督   ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原作   テッド・チャン 『あなたの人生の物語』
脚本   エリック・ハイセラー
撮影   ブラッドフォード・ヤング
音楽   ヨハン・ヨハンソン
出演   エイミー・アダムス ジェレミー・レナー フォレスト・ウィテカー
     マイケル・スタールバーグ マーク・オブライエン ツィ・マー

第89回(2016年)アカデミー賞音響編集賞受賞。作品、監督、脚色、編集、撮影、美術、録音賞ノミネート

テッド・チャン
は独自の存在感をはなつSF作家だ。専業作家ではなく、本業はテクニカル・ライター。きわめて寡作であり25年以上の活動期間で発表作品は短編、中編のみの20作弱で長編はひとつもない。にもかかわらず、その作品の半数以上はネピュラ賞、ヒューゴー賞など多くの賞を獲得している。そんなテッド・チャン作品の中でも代表作と言われる『あなたの人生の物語』 (Story of Your life 1998)の映画化が『メッセージ』。突然宇宙からやってきた飛行物体。来訪目的を調べるため奮闘する女性言語学者の姿を描くという、SFとしては地味な設定にもかかわらず興行、批評ともに成功。SF映画に厳しいアカデミー賞にも作品、監督賞など8部門にノミネートされた。



久々、映画を観る前に原作を読んでおきました。文庫本で約100Pの中編なので、2回ほど駆け足で。にもかかわらず、この作品のメイン・テーマは何なのか、物語軸はどうなっているのか、もやもや感が残るばかり。映画をみたあと、小説の気になる箇所を確認し、やっと全体像が把握できた(汗)。

それにしても、久々にSFらしい、ハードな題材です。原作を読まずに、映画だけを見て意味が全部わかった人はいないのではないでしょうか?某有名映画サイトの物語紹介で"娘を亡くしたばかりの言語学者ルイーズ・バンクスのもとに、アメリカ軍の大佐が来訪し...”という物語紹介がされていました。時系列、思いっきり間違っています(笑)。でも、そうみえるんですね...。

じゃあ、原作を読めばスッキリ、クッキリかというとそーでもない。ここが文学作品とやらのイヤラシサであります。原作の冒頭部分を注意深く読めばカラクリはわかるはずなのですが、原作ではルイーズの調査過程と、ルイーズが亡き娘にあてた?手紙のようなものが交互に記述されているので戸惑っているうちに何かよくわからなくなってきます。後半を読み進めるにつれて、あ、そういうことかなと感づきはじめるのですが、何せいろいろいな言葉や概念が出てきているので頭が混乱。原作も"肝心なところ"はぼやかすか、あえてわかりにくい表現を選んでいる。何しろ、原作ですらルイーズの夫の名前は書かれていないのです。

原作を読んだとき、観念的な要素も多くこれを映画に全部盛り込むのは無理じゃね、と思いました。
フェルマーの原理、(変分原理のひとつ)
ノンゼロサムゲーム(両方とも勝てる試合)
・非音韻的言語(発話された言葉と違う言葉)で考える
・未来を知ることは可能なのか?自由意志がある限り、未来を知ることはできないのではないか?、
・人類は「逐次的認識様式」(事象をある順序で経験し、因果関係としてそれを知覚する)を発達させたが
ヘプタポッドは「同時的認識様式」(あらゆる事象を同時に経験し、その根源に潜む目的を知覚する。最小化と最大化という目的)を発達させた。ざっくりいうと因果論か目的論か...あ、これ最近注目をあびているアドラー心理学にも通じるものが...。
・ヘプタポッドにとって言葉は遂行文。彼らは伝達のために言語を用いるのではなく、現実化するために言語を用いる。
・物理的事象同様、言語的事象にも2通りの解釈を有する。ひとつは情報の伝達、もうひとつは計画の現実化。

なんかテーマに関係しそうなことがぞろぞろ。
わたくしめ、大昔はSF小説よく読みましたが、最近はさっぱり。かつ、元来の超文系人種であり、物理学など勉強したこともないのでひれはれほれ。さすがにフェルマーの原理については"光の速度は〜"の台詞を少し混ぜただけで映画は深入りしていません。ノンゼロサムゲームは絶対出てくるだろう、と思い、案の定出てきましたが、小説、映画ともこの概念が物語にどう結びついているのか、正直ぴんときませんでした。

ここまでの記述、映画もしくは小説未読の人は何のことだかわからないでしょう。
かつ、この記事、ここからは大ネタバレです。映画及び小説を読んでいない人は読まない方が無難。


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言葉はその人の考え方に影響を与える。(サピア=ウォーフの仮説)
主人公ルイーズは<ヘプタポッドB>という言語を習得するにつれて、過去と未来を同時に体験できるようになる。
映画後半で挿入されるルイーズと娘との場面は"未来を体験している"わけです。ルハンナと、物理学者イアンと結婚し、娘ハンナをもうけるのですが、"既に未来を体験していた"彼女は彼と結婚する時点で"娘は25歳で事故死する。そしてイアンとも別れる"未来が待っていることを知っていた。それでも"自由意志"によって運命に逆らうことなく、娘ハンナを生むことを決意。運命の範囲内で全力を尽くそうと決意するのです。"泣ける場面"なのですが、映画がそれをうまく伝えているとはいいがたい。

 だから前述の、”娘を失って孤独なルイーズのもとに調査依頼がきた"という説明は間違いなんですね。

映画のなかで"おとうさんにひどいことを言った。彼は怒って逃げていった"と語る場面がありますが(原作にはなかったような...)、その"ひどいこと"とはルイーズが知っていた未来(娘は死ぬこと)をついポロっとしゃべっちゃったんでしょうね。

ルイーズが見ていた(つまりフラッシュバックのように挿入される娘との場面)のは未来だった...これ、映画を観ただけで分かった人は天才!(笑)彼女が"過去と未来を同時に体験できる能力を身につけたこと"は、"彼等(ヘプタポッド)には時の流れという観念はない"という台詞くらいしか説明がない。前述のとおり、原作でもここは丁寧に読み進めてないとわかりづらい箇所です。

つまるところ、本作のテーマは(映画だけをみるとあまりわかりませんが)"人が未来を前もって知っていた場合、自由意志によりそれを変えようとするのか、それともその範囲内で最大、もしくは最小の力をめざそうとするのか?”という問いかけだと思う。ルイーズは決められた未来の中で最善をつくそうと決意したんですね。

ただし、人間は誰でもあるひとつの未来を知っている。それは"死"。
死というゴールを知ったうえで人間は生きていく。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が「死を祝福する映画でもある」と語ったのはそういうことでしょう。

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本作の成功の大きな原因はメインキャストに地味な(失礼!)実力派俳優エイミー・アダムスとジェレミー・レナーを起用したこと。2人とも善人も悪人もできる演技幅のひろい役者です。特にエイミー・アダムスはキャリア最高といえる演技。複数の情報がいっきになだれこみ、戸惑う感じが良く出ています。アカデミー賞に過去5回ノミネートされている彼女、ノミネート当落線上と言われる状況でも常に候補入りをはたしてきた彼女はアカデミー会員のお気に入りだったはずですが、キャリア最高の演技でノミネート漏れする不思議。今回は珍しく"ノミネート確実"と言われていたんですが...。SF映画だからかなあ。エイミーも未来を知っていたらこの役は受けなかった?そんなことないよね、脚本読んで即答OKだったらしいし。

本作、物語の大事なところがわかりにくいという欠点もありますが、これはこれでいいのではないでしょうか?想像力がかきたてられるし。それと音の使い方が抜群にいい。緊張と不安、臨場感にあふれています。アカデミー音響編集賞受賞も納得!あと、ヘプタポッドが言葉を発するときのあの文字。妙に惹かれます。

あえていちゃもんつけるなら、中国が独自に攻撃をしようとするくだり、3000年後の未来うんぬんは余計。原作にない箇所で、こーいうわかりやすいドラマも盛り込まないと"ハリウッド大作映画"として公開できないと判断したのでしょうか?中国からの反発を恐れて、そのあとフォローしてんの!かっこわりい〜。だったら最初からこんな設定加えるなよ(笑)名高い原作をわざわざ"ハリウッド大作凡庸物語"に改変する必要ないのに。

有名な小説が映画化されると、"原作のほうがいい"(多数派)、"いや映画のほうがいい"(少数派)となりがちですが、『メッセージ』は映画もそれなりに魅力的です。『第9地区』(2009)、『エクス・マキナ』(2015)に続く、近年SF映画の傑作!...と書きたかったのですが、"わかりにくい原作"に"わかりやすい脚色"を加えたために原作のもつ魅力が薄れ、名作になりそこなった感あり。SFはありふれたオチなどつけないほうが神秘的でいいのにね。
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2017.05.20 Saturday | 20:30 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0) |

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2017.06.24 Saturday | 20:30 | - | - | - |

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