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SEIKO JAZZ

松田聖子がJAZZに挑戦!この話題を聞いて...全く驚かなかった。聖子の代表曲「SWEET MEMORIES」はジャズっぽい雰囲気を醸し出している曲だし、日野皓正作曲の「夏服のイヴ」(超難曲!)という曲もある。最近の聖子の活動をみるとサントリーのCMで「Smile」や「when you wish upon a star」、「Close to you」などを落ち着いた雰囲気で披露したり、クインシー・ジョーンズのコンサートにゲスト出演したり、 Fourplayのアルバムで「Put Our Hearts Together」を歌ってみたり...。予兆がありすぎたからだ。海外進出に積極的な聖子、2011年11月2日、由紀さおりがピンク・マルティーニとコラボしたアルバム『1969』がアメリカのiTunesジャズチャートで1位を獲得したというニュースに刺激を受けないはずがない!

自分が松田聖子を初めて知ったきっかけは"可愛らしいアイドル"ではなく、"声"であった。資生堂の「エクボ洗顔フォーム」のCMで流れていた”エクボの〜、秘密あげたいわ♪"という声に魅了されたのだ。この伸びやかな声、誰が歌っているんだろう、と。その後、声の持ち主は松田聖子というアイドル歌手で、"エクボの〜"は彼女のデビュー曲「裸足の季節」であることを知った。この娘はかわいいし、歌も上手い。絶対売れる!子供ながら直感でそう思った。2曲目「青い珊瑚礁」が大ヒットして以降、トップアイドルとして今なお活躍し続けている。松田聖子のアイドル時代は呉田軽穂(松任谷由実)、財津和夫、大瀧詠一、細野晴臣など当時のポップスで最高レベルのソングライターから曲提供を受け、シングルだけでなくアルバムも売れるアイドルだったのは周知のとおり。

 松田聖子は海外アーティストとのコラボ達人
その一方、松田聖子ほど海外の大物アーティストとコラボしている歌手もいないだろう。まず結婚休業直前にリリースされた『SOUND OF MY HEART』はシカゴ、ビリー・ジョエルをはじめ多くの大物アーティストを手掛けたフィル・ラモーンがプロデュース。『SOUND OF MY HEART』は当初4曲程度のミニ・アルバムの予定だったが、聖子の声にひかれたフィル・ラモーンがフルアルバムにすることを提案したのだとか。「DANCING SHOES」(シャウトがいいんだな、これ)がシングルカットされ、日本のオリコンでNo.1を獲得。だが、結婚休業の時期と重なったため、アルバムは発売しただけでプロモーションはほとんどされなかった。続いて1988年のアルバム『Citron』(「抱いて…」が収録されている)は何とデイヴィッド・フォスターがプロデュース!1989年のミュージカル・アルバム『ゴヤ…歌でつづる生涯』に参加し、テノール歌手プラシゴ・ドミンゴと "TILL I LOVED YOU"をデュエット。これ、ダビデとゴリアテのデュエットみたいですが、聖子さんのデュエット曲の中で(今にいたるまで)一番良質な仕上がり。また"TILL I LOVED YOU"もいろんな人が歌っていますが、これがドミンゴ&聖子版がbestだと思います。



そして本格的全米デビューとなった1990年のアルバム『SEIKO』ではソングライターの中にグロリア・エステファンやジョルジオ・モロダーの名も見られ、当時人気絶頂のアイドルグループNEW KIDS ON THE BLOCKのDonnie Wahlbergとのデュエット曲「THE RIGHT COMBINATION」はBillboard Hot 100に13週間ランクイン、最高54位を記録した。(この当時、聖子はCBSソニーレコードのトミー・モトーラからアプローチを受けていたが、拒否したためラジオのオンエアをとめられたと言われる。トミー・モトーラは聖子だけでなく当時売り出し中だったマライア・キャリーにも接近しておりそれを受け入れたマライアは...)。1996年の全米進出第2弾『WAS IT THE FUTURE』は“C'est la vie”のヒット曲を持つロビー・ネヴィルがプロデュース。2000年に発売されたベストアルバムに収録された新曲"December Morn"と"Christmas Turned Blue”の作曲はリチャード・カーペンターである。2002年の全米進出第3弾『area62』では再びロビー・ネヴィルが製作に参加している。そ
して2012年、ジャズ・グループ、フォープレイの『Espirit De Four』収録の「Put Our Hearts Together」でゲスト・ボーカルとして参加...。この経歴をみると、今回『SEIKO JAZZ』でデビッド・マシューズと組んだこともさほど驚くことではないのかもしれぬ。

 ポップス歌手がジャズに"挑戦"
スイング全盛期の名残か、昔はポップス歌手がJAZZのスタンダードを歌うことはさほど珍しいことではなかった。
美空ひばりや弘田三枝子はあまりに有名だが、雪村いづみ、江利チエミ、朝丘雪路、ザ・ピーナッツ...みんなJAZZをフツーに歌っています。だが、時は流れ、JAZZが大衆音楽からかけ離れ、ごく一部の趣味的な人が聞く音楽になってしまってからポップス歌手がJAZZを歌うのはある種の"挑戦"、または企画物としてみなされるようになる。最近では前述の由紀さおりや八代亜紀が話題となった。

専業のJAZZ歌手に目を向ければ、日本において阿川泰子のような美人歌手が人気を博した時期もあったが今、JAZZ歌手としてある程度知名度があるのは綾戸智恵と小林桂くらいか。マリーンはフュージョン、ポップ色が強い。

日本人歌手において、JAZZ歌手ではないが、JAZZに本気で取り組めばかなりイケたのではないか、と思える歌手はいる。まずは何を歌っても上手いちあきなおみ。彼女が今も歌い続けていれば、おそらくJAZZアルバムも何枚か出たのではないか...残念。
東京の花売娘 / ちあきなおみ

あとは「真夜中のドア〜Stay With Me」、「ニートな午後3時 」のヒットで知られる松原みき。母親がJAZZ歌手であった松原は声質、歌唱法ともまさにJAZZ向き、『BLUE EYES』(1984)というJAZZアルバムも発表している。松原みきは周囲がその素材の良さを生かしきれなかったきらいがあり、2004年、44歳という若さで死去している。『BLUE EYES』はjazzのスタンダード曲集。1曲目の"Love for sale"はかなりお洒落な仕上がり。だが、曲が進むにつれてポップ色が強くなり、ラストの"When you wish upon a star"あたりになるとありゃ〜、jazzアルバムを聴いていたつもりだったのに...という感じ。日本のポップス歌手がJAZZアルバムを製作するとjazzyなpopsアルバムにせざるをえないのかな、と思った。

洋楽に目を向けてみます。jazzアーティストではないjazzyな(ジャズ風の、華やかな)アルバムとしてまず思い浮かぶのがドナルド・フェイゲンの『THE NIGHT FLY』(1982)。名盤としての評価が定着している作品で、今聞いても全く古くない。聞くたびにどーしてこんなものがつくれるのかと感嘆してしまいます。あと、JBごとジェームス・ブラウンの『Soul On Top 』(1970) JBのボーカルはいつもと一緒なのにファンク・ジャズとでもいうか、激しすぎるスウィングというか、聞くとかなり気分があがる作品です。ジャズのスタンダードや自身のヒット曲をビッグバンドアレンジで歌う。"Papa's Got a Brand New Bag"の再録音はめっちゃかっこいい。

ただ、ジャズのスタンダード曲を並べてアルバムを作るとなると相当の覚悟が必要となる模様。
JAZZファンという人種は、素直に音楽を楽しむという観点で見ると悪い意味で厳しいので。
アニタ・ベイカーはアルバム『Rapture』(1986)を大ヒットさせ、グラミー賞を何度も受賞している歌手。ヒット曲"Giving You the Best That I Got”(1988)などはjazzyな雰囲気にあふれる曲だが、そんな彼女が過去jazzアルバムを制作するもまるまるボツになったという記事をみたことがある。また、フランク・シナトラとの仕事で知られるネルソン・リドルと組み『What's New』(1983)ほか2枚のスタンダード・アルバムを作ったリンダ・ロンシュタットも『What's New』の前に、ジャズアルバムを一枚作ったがこれもまるまるボツになったとか...。リンダの『What's New』は全米で300万枚を超える売り上げとなり、この手のアルバムとしては異例の大ヒットとなった。だが、ロック歌手から転身したリンダに対し、ジャズファンは辛辣な言葉を浴びせ続けた。(検索してみてください。jazzファンからの悪口、今でもいっぱい見かけますよ)
確かにリンダのボーカルは潔いくらい、普通のポップス歌唱。たどたどしさも残り、"ここは声を張り上げて歌う箇所じゃないだろ!"といいたくなることも多々あります。ただ、このアルバム、ネルソン・リドルの優雅なアレンジとリンダの厚みのある声でBGMとして聞くとかなり心地よい。個人的にお気に入りでネルソン・リドルと組んだ3部作をまとめた『Round Midnight 』(1986)を今でも時々聞きます。リンダはあくまでオーケストラをバックにスタンダード曲を歌っただけ。ネルソン・リドルと組んだというだけでjazzと決めつけ、”こんな歌い方、jazzじゃない!”と酷評するのはいかがなものでしょう?『What's New』は僕がjazzに関心をもったきっかけとなったアルバムのひとつ。このアルバムを酷評するjazzファンを目にするたびに不快な気分になります。じゃあ、jazzボーカルの手本とやらをおめえ、歌ってみせろよ。ちなみにシナトラはリンダを絶賛。自分のアルバムの中でデュエット相手のひとりに抜擢しています。おめえら、シナトラより耳がいいのかよ(笑)。

 SEIKO JAZZ
さて、長すぎる前置きを終え、ようやく本題に入ります。
でも、まだ前置きがあるんです。(汗)『SEIKO JAZZ』発売のニュースを聞いて不安に思ったことが2つある。

まず、ひとつめは...これ以前に聖子が歌ったジャズ曲の歌唱にはjazzの香りがひとかけらも漂っていなかったこと。
前述の「Put Our Hearts Together」、うーん、美しくファルセットを響かせ、熱唱していますが...。
そして3年ほど前からyoutubeにアップされている謎のMV"One Of These Days”。
クインシー・ジョーンズが出演し、デューク・エリントンの幽霊も出てきます(笑)。
『SEIKO JAZZ』のアルバムジャケットと同じ衣装なので、今回のアルバムに収録されているかど思いきや、入っていない。何なの、このMV。



うーん、これも歌い方、あんまりjazzっぽくないし、ちょっと苦しそうなんだよなあ。
こんな歌い方でアルバム一枚作ったら、jazzファンとやらに叩かれるだろうな...と。

もうひとつは選曲。
バート・バカラックの作品、ボサノヴァ、ポップス..あれ、jazzスタンダードの定番がほとんどない!?
選曲は聖子とプロデューサーの川島重行氏が話し合って決めたそうだ。「マシュ・ケ・ナダ」「星に願いを」他1曲(どれ?)を川島氏が選び、あとの7曲は聖子が選曲したという。聖子にとってのjazzボーカルはエラ、サラ、ビリー、カーメンといった大御所たちではなく、ダイアナ・クラールとかノラ・ジョーンズとか、『Love Is The Answer』のバーブラ・ストライサンドをイメージしているんだろうな、と。この選曲はスタンダードとカバーの中間というイメージ。

カバーとスタンダード...どこが違うんだと思う人もいるかもしれない。
カバーとは、オリジナルは誰でも知っている大ヒット。当然、オリジナルを歌っている歌手のイメージが強い。
『SEIKO JAZZ』の中では「追憶 / The way we were」(バーブラ・ストライザンド)、「恋の面影 / The look of love」(ダスティ・スプリングフィールド)、はオリジナルがあまりにも有名。厳密にいうとオリジナルではないが、「ドント・ノー・ホワイ/Don't know why」はノラ・ジョーンズ、「遥かなる影 / (They long to be) Close to you」もカーペンターズのバージョンがよく知られている。

スタンダード、特にジャズ・スタンダードにおいてオリジナルはさほど有名でないことが多い。
多くは地味なミュージカルの舞台や映画がオリジナルだったりする。
それを多くの歌手やミュージシャンが録音することで徐々に曲の認知度があがっていく。
”My Funny Valentine”や"You'd be so nice to come home to"のオリジナルは誰?と聞かれて、即答できる人はあまりいないだろう。ジャズ・ミュージシャンに好まれるタイプの曲って確かにある。

『SEIKO JAZZ』の曲目は以下のとおり
1.スマイル/Smile
『モダン・タイムス』(1936)で使われたチャップリン作曲のテーマ曲。
のちに歌詞がつくられ、ナット・キング・コールがヒットさせた。Nat King Cole ft Nelson Riddle's Orchestra - Smile (Capitol Records 1954) Video マイケル・ジャクソンのアルバム『HIStory』(1995)にも収録。
2.追憶/The way we were
映画『追憶』(1973)のテーマ曲。大ヒットし、アカデミー賞主題歌賞受賞。泣く子も黙るバーブラ・ストライザンドの代表曲。「songs」見たけど聖子がバーブラに憧れているなんて初めて聞いたぞ。何はともあれ聖子の憧れがマドンナからバーブラに変わったのは喜ばしい(笑)。
Barbra Streisand - The Way We Were (Movie Version)
3.イパネマの娘/The girl from Ipanema
アントニオ・カルロス・ジョビンが1962年作曲したボサノバ曲。アストラッド・ジルベルトの英語バージョンが有名。
Astrud Gilberto & Stan Getz ◊ The Girl From Ipanema ◊ 1964
4.遥かなる影/(They long to be) Close to you
バート・バカラック作曲。オリジナルはリチャード・チェンバレン。
Richard Chamberlain sings Close To You
その後、ディオンヌ・ワーウィックやダスティ・スプリングフィールド、バート・バカラック自身もレコーディングしているが、この曲を有名にしたのはカーペンターズ。They Long To Be (Close To You) - Carpenters HD_HQ 1970
5.マシュ・ケ・ナダ/Mas que nada
『SEIKO JAZZ』唯一のアップテンポ曲。オリジナルは1963年、ジョルジ・ベンのボサノバ曲。Mais Que Nada(Original)1963
1966年に、セルジオ・メンデスが大ヒットさせた。Sergio Mendes & Brasil 66 - Mas que nada (introduced by Eartha Kitt / Something Special 1967)。由紀さおりのバージョンは結構新鮮でした。Pink Martini&Saori Yuki - マシュ・ケ・ナダ / Mas que nada 「マシュ・ケ・ナダ(Mas Que Nada)」は当時のサンパウロのスラングで「まさか」「なんてこった」「やなこった」だそうです。聖子チャンが"やなこちゃ"と歌っているんですね。
6.アルフィー/Alfie
映画『アルフィー』(1966)の主題歌。作曲はバート・バカラック。
オリジナルはシラ・ブラック。Cilla Black - Alfie
でもゴタゴタがあったようで、アメリカ公開時にはシェールの歌が使われている。
CHER - ALFIE- Vintage DIVA!
バラカックが自作で一番好きなのはこれだそうです。
Burt Bacharach - Alfie Amazing version
7.静かな夜/Corcovado(Quiet nights of quiet stars)
アントニオ・カルロス・ジョビン作曲のボサノバ。のちに英語詞(Quiet Nights of Quiet Stars)がつけられ、アンディ・ウイリアムズが歌った。Andy Williams - Quiet Nights of Quiet Stars うー、アンディ・ウィリアムズにボサノバ歌わせちゃいけません。お耳直し!Stan Getz / Astrud Gilberto - Corcovado
8.ドント・ノー・ホワイ/Don’t know why
ジェシー・ハリスのアルバム『Jesse Harris and the Ferdinandos』(1999)に収録されていた曲。
Jesse Harris - Don't Know Why - The New York Songwriters Circle
2002年、ノラ・ジョーンズに提供し、グラミー賞を獲得している。Norah Jones - Don't Know Why
原田知世は本家ジェシー・ハリスと共演しています。原田知世 - ドント・ノー・ホワイ feat. ジェシー・ハリス
9.恋の面影/The look of love
007シリーズの番外編「007/カジノ・ロワイヤル」(1967)でダスティ・スプリングフィールドが歌った。作曲はバート・バカラック。彼は本作に出演している初代ボンドガール、ウルスラ・アンドレスをイメージしてこの曲を作った。
Dusty Springfield - The Look of Love
10.星に願いを/When you wish upon a star
ディズニーアニメ『ピノキオ』(1940)でクリフ・エドワーズが歌った。
Jiminy Cricket (Cliff Edwards) Sings When You Wish Upon A Star
ジャズ歌手も多く取り上げているが、これはポップススタンダードといったほうがよいか。

かなり考えられた曲の並びですね。1曲目とラストは、聖子がCMで披露済みの「スマイル」と「星に願いを」ではさむ。どちらも聖子バラードの王道ともいえる歌い方。特に「星に願いを」はヘッドフォンのボリュームをあげてきくと声の質感がすごい!熟成されたワインのような安定感とコク。こーいう、オーソドックスなバラード曲は個人的に好みじゃないのだが、聖子の声だけに集中して聞いていると十分楽しめます。



そして2曲目は「追憶」、9曲目は「恋の面影」と究極の名曲でさらにはさみこみます。
この2曲、JAZZ風にアレンジするのはキツイんじゃないか、と思っていました。(「恋の面影」はダイアナ・クラールも歌っていますけどね...。)
なぜかというと、曲の完成度が高すぎるから。下手にアレンジして歌ったりすると曲が本来もっている良さをぶち壊すのではないか、と危惧していました。

まず、「追憶」はバーブラの暑苦しいドヤ歌唱のイメージがあまりに強い。
それをふまえて、聖子は闘いを避けたのか?想像以上に抑えて歌っています。これはこれで良い。



そして「恋の面影」、本当に良い曲ですね。『SEIKO JAZZ』の中でこの曲が一番好きという人も多いのではないでしょうか。オリジナルのダスティ・スプリングフィールドは独特のハスキーな声で比較的さらっと歌っているのですが、音の高低の起伏が激しく歌うのはかなり難しい曲。『SEIKO JAZZ』の中で聖子はJAZZを意識してかいつもとは微妙に歌い方を変えているのですが、この曲だけは余裕がないのか、ほぼ100%"松田聖子"の歌い方ですね。音の上がり下がりの激しい曲はユーミン曲で慣れているはずの聖子でも「恋の面影」は少し苦しそう。いくら良い曲でもJAZZにこだわるのならこの曲は外したほうが良かったのでは?と思いましたが、何回か聞いていくうちに気にならなくなってきました。JAZZ歌手のSEIKO MATSUDAだろうと、ポップス歌手の松田聖子だろうと魅惑的な声であることには変わりないので。

「恋の面影」のほか、「遥かなる影」、「アルフィー」とバート・バラカックの曲が3つも!
「遥かなる影」は声の良い人が歌えば、誰が歌ってもある程度はまる曲。あまり歌い手を選ばない曲であります。
もちろん聖子が歌ってもはまっています。ただ、原曲よりかなりテンポを落としており、歌いにくくなるはずなんだけど...そこは見事ですね。「アルフィー」はね...これも松田聖子モード強い歌い方。聖子は実に繊細に歌っていますが、曲がおセンチすぎて好みでない。本作中、唯一先送りしたくなる(笑)。バート・バラカックの曲はジャズ歌手もとりあげることが多いですが、メロディがしっかりしているので基本的にはjazz向きでないと思います。ちなみに、「ドント・ノー・ホワイ」もJAZZを感じない曲です。聖子のボーカルは抜群に良いけれど。高音部の力の抜き方とか。

さて、残りはボサノバの超有名曲です。
聖子の声とボサノバの相性が良いであろうことは聞く前から想像できました。
まずは「イパネマの娘」肩の力がぬけたような聖子の歌声が心地よい。"smile"だけがんばりすぎです。オリジナルも似た感じですが...。
「イパネマの娘」は世界中でもっとも多くカヴァーされた曲のひとつと言われる。選曲ベタすぎ(笑)。

「静かな夜」は「遥かなる影」同様、声で勝負できる曲。聖子はNHKの歌番組『songs』でこの曲を披露していましたが、今の聖子の声にjust fit! 『SEIKO JAZZ』の中でこれが一番良い出来ではないか、と個人的に思います。

ちょうど真ん中にある「マシュ・ケ・ナダ」。曲名は知らなくても、"あ、これ聞いたことある"と思った人も多いのではないでしょう。本作中、唯一のアップテンポ曲。聖子ファンだけどJAZZは苦手...という人はおそらくこの曲だけをヘビロテしているでしょう(笑)。「マシュ・ケ・ナダ」は聖子の声がいい。サビに入る前までの、ウィスパーボイスに近い歌声。ぞくぞくします。原曲よりキーを下げて歌っているので、この曲のもつバタ臭さが薄れ、coolなイメージを醸し出す。あと、間奏でトロンボーンがフューチャーされているのが印象的。([イパネマの娘」も同様) プロデューサーの川島氏によると"男性の声に一番近いのがトロンボーン"とのことで、男性コーラスが入るイメージでトロンボーンを使ったそうです。この音はオトコの声の代わりなんだ、と思いながら聞くと結構楽しい。

さて、この記事においてもJAZZ的とかJAZZっぽくないとかそういう表現を使っていますが、
JAZZボーカルと普通のボーカルはどこが違うのでしょうか。
本や雑誌をひもとくと、”譜面どおりに唄わないのがJAZZ”、"スキャットやアドリブを聞かせるのがJAZZボーカル”とか書かれているのを見かけます。”ポップスは楽曲が大事だが、JAZZは楽曲よりも歌手の個性を重視する"というもの。これが一番わかりやすい区別の仕方だと思います。

JAZZボーカルとは何か?人の数だけ答えがあり、正解はない。
個人的に思うのは、(譜面どおりに歌わないとかスキャット、アドリブうんぬんとか関係なく)歌声にスウィング感があること、譜面をたどる以上の何かが漂っていることだと考える。それはまさに"歌手の個性"を重視することにつながる。そもそも、自分の歌手としての個性に自信がなければ、他の人が山ほど歌っているスタンダードなんか歌いません。(笑)

『SEIKO JAZZ』はアイドル時代以降、松田聖子の年齢相応、等身大の声を聞くことができる初めてのアルバムといってよい。前半5曲ぐらいまでは、JAZZを意識し今までの聖子とは一味違う、肩の力が抜けた自然な歌声に魅了されます。ただし、6曲めあたりから、これまでの"松田聖子"的歌唱が目立ち始めている。

はじめて聞いた時には、ああ、小うるさいJAZZファンから”これはJAZZではない"とか言われたりするんだろうな、と危惧しました。でも2、3回聞いていくうちにそんなことどーでもよくなった。楽曲は申し分ないし、歌声は極めて心地よい。演奏もgood。それ以上何を望む?確固たる個性をもつ"松田聖子"の歌声に対し、JAZZだJAZZじゃないなど狭い範囲に閉じ込めて考えるのは無意味。JAZZボーカルは歌手の個性が一番大事、その考え方にもとづくならば、十分すぎるほどJAZZです。

『JAZZ JAPAN』誌の川島重行氏へのインタビューによると
『SEIKO JAZZ』は"JAZZをやりたいなら川島重行氏とデビッド・マシューズのコンビにお願いするとよい"とアドバイスを受けた聖子が、直々に川島氏に会いにゆき、プロデュースを依頼したことから始まった。聖子は川島氏に、"エレガントなJAZZをやりたい。1回限りの企画ものでなく、ずっと続けていきたい"と語ったそうです。

デビット・マシューズとは30年前!の『SOUND OF MY HEART』で一緒に仕事をしており、初タッグではない。ちなみに『SOUND OF MY HEART』の翌年、デビッド・マシューズがマンハッタン・ジャズ・クインテッドのコンサートで来日した際、聖子は表敬訪問している。そこで川島氏とも会っているそうです。それから30年...人の縁って不思議ですね。川島氏はもともと聖子のファンで(JAZZファンに聖子ファンは多いらしい。なんとなくわかる気がする)「SWEET MEMORIES」を聞いたとき、"聖子さん、JAZZやればいいのに"と密かに思っていたとか。

川島氏はプロデュースしたギル・エバンス&ザ・マンデイ・ナイト・オーケストラの『バド・アンド・バード』(1987)が1988年度、第31回グラミー賞最優秀ジャズ・ビッグ・バンド部門を受賞。日本製作のアルバムとしては初のグラミー受賞となりました。他、300作品以上のジャズアルバムを制作、多数の賞を受賞している名プロデューサーです。

一方、デビット・マシューズも ホーン・アレンジを担当したポールサイモン『時の流れに』が第18回グラミー賞最優秀アルバム賞受賞、ランク・シナトラ、ビリー・ジョエル、ポール・マッカートニー、ジョージ・ベンソンらのアレンジも手掛けています。川島氏とデビット・マシューズは1984年にマンハッタン・ジャズ・クインテッド(MJQ)(筆者、モダン・ジャズ・カルテッド(MJQ)が好きなので、コレとっても紛らわしいw)1989年にマンハッタン・ジャズ・オーケストラ(MJO)などでコラボしています。

川島氏は聖子について「楽しくスウィングして歌ってくれた。特に表現力は見事で申し上げることは何もなかった」
「ボーカルアルバムは何度も取り直すのが常だが、今回はほぼ一発でOKだった」(美空ひばりか!)
「譜面にも強い。40年間プロデュースをやっていてこんなに素晴らしいシンガーははじめて」
「邦楽のほとんどはタテノリだが、聖子さんの曲は横にゆれていてそれが今回のジャズに反映されている」
「300作品以上作ってきて、100%満足したことがなかったが、今回ははじめての100%といえる作品。感動しました」と手放しの賞賛ぶり。
川島氏の評価を裏付けるように、『SEIKO JAZZ』はアメリカの名門ジャズレーベル「ヴァーヴ・レコーズ」から5月12日、全米リリースされることが決定。ここまでくると小うるさいJAZZファンも沈黙せざるをえません(笑)。今までの聖子の全米進出アルバムはセールスポイントがよくわからない作りだったが、今回は正真正銘、歌声で勝負!楽しみです。でも聖子の歌声はアメリカよりヨーロッパで受けそうな気がする。

『SEIKO JAZZ』はまさに"聖子風のジャズ"。ボサノバとの相性の良さは特筆もので、今後も同系統の路線が続くのではないでしょうか。本当に聞き心地のよいアルバム、最近個人的に超ヘビロテ中。良質な楽曲とサウンドに聖子の歌声!一日2回は通して聞いています。最初はやや戸惑いましたが、何回か聞くともう中毒状態(笑)。いや〜、これ本当に気に入りました。構想6年ということですが、まだ10曲しか録音していないとは考えにくい。既にアルバム2〜3枚くらいのストックはあるんじゃないかな。『SEIKO JAZZ』シリーズ、どんどん出してください!
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SEIKO JAZZ(amazon)

 2019年2月20日追記 『SEIKO JAZZ 2』を聞きました。記事も準備していて半分くらい書き終えていたのですが、結局没にすることにしました。既に何回かリピートしていますが、どうしてもこのアルバムが好きになれそうもない。川島&デビット・マシューズ続投でよかったのにマーヴィン・ウォーレンなんて人にプロデューサーを変えたばっかりに...こーいう言い方好きじゃないけど、これはjazzというより"映画音楽風のjazzypops”。jazzと銘打っていなければ悪いアルバムではないと思いますが...一般的には好評のようです。→2/23ミュージック・フェア、聖子のボーカルもCDよりよかったしちゃんとjazzが感じられた。ミュージシャンが今までと同じなのがよかった?音もちゃんと温かみがあったし。聖子のjazzコンもいきましたが、すごくよかった。ということはマーヴィン・ウォーレンの音作りが××だっただけ?。プロデューサーを変えた一番の理由はアメリカでの発売を意識してのことでしょうけど...。jazzとタイトルでうたっておいてこの音作りでは全米での発売は厳しいのではないでしょうか。verveはブランドイメージにこだわる会社なので。→itune,amazonなどでの配信は決まったようです。 7/26追記。HMVとtower recordからverveから発売される輸入盤の告知が出ましたが...アメリカでは今のところなし。マーヴィン・ウォーレンのツイッターで告知なし。これ何でしょう?日本onlyの輸入盤?(笑)。→アメリカでのCD発売日は8/2。アメリカamazonにもようやく登録されました。ひと安心。前作同様、verve版のほうが音がいいような...。

 2024年2月18日追記 『SEIKO JAZZ 3』を聞きました。まず、世界最高峰のベーシスト、ネイザン・イーストをプロデュースに迎えたことに驚き。松田聖子の人脈力畏るべし!結論だけ先に言うと『SEIKO JAZZ 2』より遥かにいい出来です。ネイザン・イーストのアレンジは抑制がきいていて、かつオシャレ。ただ、選曲を見ればわかるとおり、これはjazzアルバムというよりjazzyアレンジのポップス名曲カバーアルバムと割り切って聞いたほうがよいでしょう。選曲は見事なほどポップスの名曲のオンパレード。これは長所でもありますが、短所とも言えなくもない。まず、耳馴染みのある曲ばかりなので聞きやすい。ただ名曲ばかりなので通して聞くと少し胃もたれします。この選曲でjazz vocalとして表現するのは難しいかな。jazzを求める人はSEIKO JAZZ 3(初回限定盤B)(2枚組)(DVD付)のインスト版を聞いたほうがいいでしょう。(このインスト版、すごく良いのだけどしいていればバックコーラスの歌声を外してほしかった。これが入ると一気にカラオケっぽくなるので)。個人的には話題性先行の前半よりも7〜9、11曲目がおすすめ。SADEを2曲とりあげていますが、正直"何と無謀な!やめとけばいいのに”と思いました。(筆者はSADEのファンであり、オリジナルアルバムは全部聞いております)。案の定、オリジナルの良さを再確認する結果となってしまいました。無駄をそぎ落としたアレンジ、シャーデー・アデュの声質の良さ、歌のうまさ....SADEはカバーしてはいけないアーティスト。聖子に限らず他の歌手がやっても自爆すると思います。聖子ボーカルのjazz tasteは1>2>3と進むにつれてどんどん薄くなっている感。jazzでラララと歌うのはやめたほうがいいと思うんだけど...。

SEIKO JAZZ 3』、前作が明らかに失敗作だったため不安でしたが、巻き返してとりあえずひと安心。ポップス名曲カバーアルバムと割り切って聞けば良い出来です。ただ、jazzアルバムとして総合的に見た場合、『SEIKO JAZZ』の洗練された心地よさ、優雅さには及ばなかったというのが正直な感想。あと、最後の"How Deep Is Your Love"のデュエットverはいらない。出来は悪くないけど究極の名曲 "Love... Thy Will Be Done"ですっきり締めてほしかった。 "Love... Thy Will Be Done"のオリジナルは「トイ・ソルジャー」のヒットで知られるマルティカ。プリンスがマルティカの創作ノートのメモを見て感銘を受け仕上げた作品。エロ歌詞ばかりがフィーチャーされがちなプリンスですが、プリンスがソングライターとしても超一流であることを証明した作品。 彼曰く"愛についてのラブソング"。通常、神に向けて語られるような内容を愛に置き換えて綴られています。プリンス自身もこの曲がお気に入りでLIVEで何度も披露。自身でもレコーディングしようと試みたのですが諸事情で実現しなかった。プリンスの死後に発表された、他アーティストへの提供曲のデモver集「ORIGINALS」の中に収録されています。
2017.04.02 Sunday | 12:12 | 音楽 | comments(2) | - |

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2024.03.19 Tuesday | 12:12 | - | - | - |

コメント

JAZZって高尚なイメージがあって、よくわからないのですが、昔はもう少し身近だったような気がします。私ですら、聞きに行ってましたから。
ちあきなおみさん。もっと歌ってほしかったです。

私の方がmoviepad様より、だいぶ年齢が上だと思われますが、松田聖子、好きでした。「夏服のイブ」!上手いなと思っていました。
このところ、ちょっと歌い方が好みではなかったのですが、この記事を読ませていただき、“聖子風のジャズ”、聞いてみたいくなりました。
2017/04/02 1:46 PM by パール
パールさん、こんばんわ。

自分は3年ぐらい前からjazzを聴き始めました。
といっても、じっくり聞くわけではなくBGMとして。
ウンチクを語れるレベルには未だ程遠く、ミーハーでライトなリスナーです。いろいろ試してみましたが、結局のところボーカルが一番良いという結論に落ち着き、サラ・ヴォーンやカーメン・マクレエなどをよく聞いています。

JAZZとポップスの違いは...JAZZは1回聞いただけでは良さがわかりにくい。何回か聞いていくうちにいいんじゃない、コレ?となることが多いです。

『SEIKO JAZZ』,本当に良いですよ、これ。
聖子の歌は熱唱というより囁きに近いイメージ。それが心地よい。
曲の良さは折り紙つきだし(ベタすぎるほど名曲ばかり選んでますから)聞いて損はない作品です。
2017/04/02 6:22 PM by moviepad

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