映画のメモ帳+α

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ヒッチコック/トリュフォー

ヒッチコック/トリュフォー (2015 アメリカ・フランス)

ヒッチコック/トリュフォー(2015)原題   HITCHCOCK/TRUFFAUT
監督   ケント・ジョーンズ
脚本   ケント・ジョーンズ セルジュ・トゥビアナ
撮影   ジェレマイア・ボーンフィールド
ナレーション マチュー・アマルリック
出演   マーティン・スコセッシ デヴィッド・フィンチャー
     アルノー・デプレシャン 黒沢清 ウェス・アンダーソン
     ジェームズ・グレイ オリヴィエ・アサイヤス リチャード・リンクレイター
     ピーター・ボグダノヴィッチ ポール・シュレイダー

あるとき、boxofficemojoの映画興行ランキングをぼんやり見ていたら奇妙な文字が目に入った。"HITCHCOCK/TRUFFAUT"。...は?そう、あの有名な、とっても有名な『定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』をドキュメンタリー映画にしたのです。『ヒッチコック/トリュフォー』は1962年8月13日、ヒッチコック63歳の誕生日に、ユニバーサル・スタジオの会議室で、フランソワ・トリュフォーが通訳者ヘレン・スコットを伴い1週間にわたって行われたインタビュー音源をもとにヒッチコックの名作シーンの数々、そしてマーティン・スコセッシ、デヴィッド・フィンチャーら10人の映画監督のコメントを交えながらつくりあげたドキュメンタリー映画です。



前半、『定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』を夢中で読んだという監督たちのコメントが映し出される。
まあ、映画監督を目指す人ならこの本は読んでいるでしょう。
あとは映画マニア(笑)。うん、この本読むと映画を観る目、というより映画に対する考え方が変わるんですね。
当サイトでもヒッチコックの映画記事を書くときにこの本は目いっぱい参照させてもらいました。

今のヒッチコックの評価は本書がつくったといっても過言じゃないです。
映画の中でも
"トリュフォーは映画一本つくるエネルギーで本書にのぞんだ"、"トリュフォーの映画作品のひとつ"と語られる。
個人的にフランソワ・トリュフォー監督作品は10本くらい観ていると思いますが、正直言って苦手。
よってトリュフォーのどんな映画よりもこの本のほうが...(以下省略)

インタビューの音源をもとにヒッチコックの映画の各場面、そして現役映画監督のコメントを交えながら作品は展開していきます。ただ...この映画監督の顔ぶれに違和感をおぼえませんでしたか?この手の企画、どこにでも登場するマーティン・スコセッシおじさん、サスペンス作品の多いデヴィッド・フィンチャー、評論家としての仕事が多いピーター・ボグダノヴィッチ(出演時間わずかでたいしたこと言ってません)...このあたりはわかる。だけど他は...ヒッチコックとは作風が似ても似つかぬヒトのオンパレード。リチャード・リンクレイターなんて悪い冗談。映画監督のみならず脚本家、映画評論家としても活動しているケント・ジョーンズ監督が自分の過去の仕事がらみで面識のある人に頼んだという印象デス。この点について監督は「作風が似ているから選んだわけではない。映画作りに情熱を持ち、映画史をよく研究しているであろうという人を選んだ」と語っている。こういえば聞こえはいいけれど、一流の映画監督は、映画作りに情熱を持ち、映画史をよく研究してますよ!

何せヒッチコックですからそれぞれの監督、かなり長い時間語ったと思われるんですが、出演時間は知名度の高いスコセッシとフィンチャーが圧倒的。あとはジェームズ・グレイオリヴィエ・アサイヤスが比較的多い印象。他は数合わせですね。ウェス・アンダーソンですらそう。まして黒沢清なんてイラネ。まあ、それを言ってしまえばインタビュアーのトリュフォーだって作風は似ても似つかないんですけどね。ヒッチコックを意識したと思われる作品はありますが。結局のところヒッチコックの作風は誰も真似ができない。

ヒッチコック独特の、もごもごとゆったりとした話し方に誘われ、前半少し眠りについた箇所もあったため記憶が定かでない部分もありますが、記憶に残った部分をいくつか箇条書き。

・ヒッチコックの映画には"無実の罪をきせられ、逃亡する一般人"というシチュエーションが多々あるのですが、それを"罪の転移"があると...。言葉、粉飾しすぎじゃね?

・ヒッチコック映画には上からのショットが多いけど、それを"神の視点"...。登場人物が嘘をついているときは上から写し、目を見せないようにしていた、という分析とかトリュフォーが「あなたはカトリック信者ですか」と質問したとき、ヒッチコックが声音を変え「ここは録音とめて」と語るところ面白かった。

・ヒッチコックには直接関係ないのですが、デヴィッド・フィンチャーが「今の映画はクライマックスだらけ」と嘆く場面。確かにそうですね...。そういう作り方ってCMに入ってチャンネルを変えられないように15分ごとに山場をつくるようなTVドラマ的発想なんですね。それと関連することなんですが、ラスト近く、ヒッチコックが"物語が大事"という台詞を語っているんですが、これは物語そのものではなく、あくまで物語の語り方、流れという意味だと思われる。『定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』の本のなかでヒッチコックは(『めまい』の撮影中)いろいろなアイデアを語るキム・ノヴァクに対し「できあがった作品では、ストーリーなんかより、スクリーンの俳優の肉体的存在感や視覚的な全体的効果のほうがずっと重要」と悟したというエピソードが出てくる。(本作では紹介されていない)ヒッチコックが映画の流れをつくる物語設定にはこだわっても、ストーリーそのものをそれほど重視していたと思えない。誤解を招きかねない引用、翻訳だと感じた。

・ヒッチコックが「一人の観客でなく、2000人の観客を想定して映画を作っている」というエピソードを紹介し、多くの観客がどう感じるかを第一に考えていることを示したのはよかった。あと、サイレント映画が一番いいと考えていることも。

・ただねえ、本の内容から離れ、独自展開に近い部分もあるんですね。あまりよくない意味で。
作品としてピックアップされているのは『間違えられた男』(1956)、『めまい』(1958)、『サイコ』(1960)の3つ。後2作は代表作だからわかるけれども、なぜに『間違えられた男』?『三十九夜』(1936)、『レベッカ』(1940)、『裏窓』(1954)などほとんど触れられていない有名作も多々あるのに!『間違えられた男』はヒッチコック唯一の社会派映画なのですが、そこには全く触れず、撮影技法のことばかり。"罪の転移"とか"神の視点"とかを語りたかったから出したのか?

・『めまい』、『サイコ』のパートとなると本の内容よりも現役監督たちのコメントが主体となってくる。デヴィッド・フィンチャーが「『めまい』は変態の映画」と語ったのはごもっとも。(あのジェームズ・スチュワートを変態役に据え、あんないかがわしい目線をずっとさせてたんですね。)
スコセッシが"『サイコ』の一番良い場面はジャネット・リーが車を運転する場面"と語ったのはさすがプロ目の付け所が違う!と感じた。


ドキュメンタリー映画『ヒッチコック/トリュフォー』は、ヒッチコック映画の名場面を一気に観ることができるし、ヒッチコックの映画に対する考え方も随所紹介してくれるのはうれしい。ただ、現役監督のコメントやらが随所にはさみこまれるため、全体的には散乱した印象を受ける。この映画を観るのは映画製作者と映画マニアだけ、そう"2000人の観客ではなく、一人の観客が観る"作品なのである。あの分厚い本を頭から終わりまで全部読み通そうとする人は少ないだろう。であれば、ヒッチコックの映画観が理解しやすいようにもう少しコンパクトに編集してほしかった。そんなことしたら本が売れなくなるのでやめてくださいと出版社からから脅されたのだろうか(笑)。

ラスト、晩年のヒッチコックがトリュフォーにあてた手紙で"私は今の映画(フリーシネマ?)に合わせるべきかどうか迷っている"と綴ったエピソードが紹介される。映画独自の解釈をあてこむのはこの部分だと思う。『めまい』や『サイコ』の分析ではなく!

デヴィッド・フィンチャーが「観客によって映画も変わる」と語っていたが、今後ヒッチコックのような映画作家は出てくる余地があるのか?出てきたとしてもヒッチコック的映画作法が、クライマックスだらけの映画が散乱する今、きちんと認められる映画環境にあるのか?微妙なところだ。そのあたりを分析して作品テーマを現代の問題につなげるのがドキュメンタリー映画としての仕事ではないだろうか。ヒッチコックのような映画作家は今いない。名著『ヒッチコック/トリュフォー』をあえて今映画にするのであれば、過去作品の解説はほどほどにしてしっかり現代の映画環境と向き合った分析を施してほしかった。
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2017.03.12 Sunday | 00:09 | - | - | - |

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